普通なんてこんなもんだ   作:黒金剛

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寂しさは消えなくて

「野郎共ォォォォ!乾杯だァァァァァ!!」

 

『ウォォォォォォォ!!』

 

 

声高く響く乾杯の音頭と共に激しくぶつかるジョッキ。勢いで中身が零れるのもお構いなしに騒ぎ散らかす様子は、幾度となく見てきた宴の様子と異なることはない。要するにいつもの光景ってわけ。

 

 

「ハチマン!酒持ってこい酒!」

 

「はいはい」

 

 

別に何か特別なことがあったわけでもない。強いて言うなら恒例の勝負でウタが勝った祝い酒なんて理由をつけていたが、この人達は別に理由なんてなくても飲んでるし。

 

 

「もうっ!シャンクスも皆もお酒飲みすぎ!程々にしなさい!」

 

「堅いこと言うなよウタ〜。海賊が酒飲まなくてどーする」

 

 

愛娘の可愛いお叱りにも耳を貸さず、酒臭い息を撒き散らしながら何がおかしいのか大笑い。純粋な子供に変なこと吹き込まんで欲しい。ウタが将来あんた達みたいな呑兵衛になったらどうしてくれるんだ。

 

 

「なあ、シャンクス!おれも次の航海に連れてってくれよ!」

 

「やなこった!お前みたいな子供(ガキ)が海に出るなんて無理無理!」

 

「おれはガキじゃねえ!!おれのパンチは(ピストル)みたいに強いんだぞ!」

 

 

そしてまあ、これもよく見慣れた光景。ルフィは毎日のようにシャンクスさんの船に乗りたがっているが、その度に軽くあしらわれている。まあ、ウタが特例ってだけで子供を船に乗せる気はないのだろう。海って危険だからな、うん。

 

 

「.........私は、シャンクスのこと心配して言ってるのに........」

 

「ウ、ウタ?」

 

「うえっ...........うえぇぇぇぇぇぇん!!!」

 

 

言うことを聞いてくれないシャンクスさんに我慢の限界がきたのか、俯いてプルプル震えたかと思うといきなり大声で泣き喚くウタ。

 

 

「ウ、ウタ!?」

 

「あーあ、お頭がウタのこと泣かせた~」

 

「お、俺のせいか!?」

 

 

どう考えてもあんたのせいだろうに。泣き出してしまった娘にさっきまでの威勢はどうしたことやら、オロオロと焦り始めるシャンクスさん。大丈夫か船長がこれで。

 

 

だがまあ、妹が居た俺には分かる。ウタのあれは間違いなく嘘泣きだ。小町も小さい頃嘘泣きをよく多用していたものだ。まったく何度騙されたものか。まっ、これはこれで面白いから黙っとくけど。

 

 

「ウタ、俺が悪かった。酒は程々にするから泣き止んでくれ。なっ?」

 

「.........ほんと?」

 

「もちろんだ。男に二言はない」

 

 

そうとは知らないシャンクスさんはウタを泣き止ませようとついにそんな約束をする。ウタがシャンクスさんに見えないところでほくそ笑んだように見えた。悪いやっちゃな。

 

 

「分かった!そこまで言うなら許してあげる!」

 

「ウ、ウタ........?お前、泣いてたんじゃ.........」

 

「嘘泣きに決まってるじゃん」

 

「なにぃ!?」

 

 

“べえっ”と舌を出すウタに絶叫するシャンクスさん。まんまと手玉に取られたシャンクスさんに思わず吹き出してしまう。

 

 

「ハチマン!お前分かってたな!?」

 

「そりゃあ、あんな分かりやすい嘘泣きだったらねえ」

 

「分かってたんなら教えてくれよ!」

 

「悪いですが、俺はウタの味方なんで。それより約束通りお酒は程々にしてくださいよ。男に二言はないんでしょ?」

 

 

俺の指摘に「うぐっ........」と唸るシャンクスさん。してやったりというようにドヤ顔のウタ。その光景を肴に酒を飲む赤髪海賊団の面々。

 

 

そこにあったのは一つの海賊団というよりは、まるで一つの大家族のような光景。娘に頭の上がらない父親とその様子を笑い飛ばす仲間達。そんななんとも微笑ましい光景に苦笑しながら、俺は自分の心にぽっかりと穴の空いたような感覚に襲われるのだった。

 

 

 

 

***

 

 

 

 

その夜、俺は布団に寝転がりながら静かに天井を見上げていた。

 

 

(家族、か.........)

 

 

先程酒場で見た家族の一幕。それは船に乗っていた間もこの村で過ごしている間も何度か見た光景。それを見る度に微笑ましさを感じると共に、俺の心の中にはとある人達の顔が浮かぶ。

 

 

(父ちゃん........母ちゃん.........小町.........)

 

 

浮かぶのは元いた世界の家族の顔。いつも仕事ばかりでまともに家に居ることも少ない両親と、生意気で俺に対していつも塩対応ながらも、何処までも可愛くて一番俺の近くで支えてくれていた大切な妹。

 

 

両親は小町が産まれてからは基本小町にかまってばかりで、親子らしいことなんてほとんどしてこなかった。小町は小町で人をパシリにしたり、俺の知らないところで別に頼んでいないお節介を焼かれたりもした。それでもやはり血の繋がった親子であり兄妹。顔を思い出してしまえばどうしても会いたいという気持ちが強くなってしまう。

 

 

我ながら達観している方だと自負していたが、所詮はまだ十七歳のガキ。家族と会えないことで寂しさはもちろん感じている。

 

 

「どうしたもんかなあ........」

 

 

別に今の生活が嫌なわけではない。赤髪海賊団の皆やマキノさんをはじめとした村の人達はそれはもう良くしてくれるし、生意気でやんちゃだが可愛い妹分と弟分もできた。元の世界より数倍血の気が多いのは考えものだが、自ら面倒事に首を突っ込まなければ問題なく生きていけるだろう。

 

 

かと言って、元の世界に帰らなくていいのかと聞かれればそれは違う。先程も言ったように家族に会えない寂しさを感じ、一種のホームシックのようになっている自覚はある。この世界に来て既に数ヶ月経ったんだから当然と言えば当然だろうが。

 

 

今の生活か元の世界への帰還か。散々悩んだ末に出した俺の答えは........

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