「ーーーー次の航海に連れて行って欲しいだあ?」
翌日の昼間。相も変わらず酒場に入り浸っているシャンクスさんにそんなお願いをすれば、返ってきたのは“何を言ってるんだこいつは”というような表情だった。
「何を言うかと思えば.........駄目だ駄目だ。お前までルフィみたいなこと言ってんじゃねえよ」
「そこをなんとか、お願いします」
話は終わりだというように手を振るシャンクスさんにしつこくお願いすれば、シャンクスさんの顔が驚愕一色になる。無理もない。俺がここまでこの人に我儘を貫くのは初めてだからな。
「お前がそこまで頑なになるのも珍しいな。どういう風の吹き回しだ?」
「この村での生活になんか不満でもあんのか?」
煙草を吹かす副船長のベックさんと訝しげに眉を顰める狙撃手の“ヤソップ”さんがシャンクスさんの代わりに尋ねてくる。そんな二人に俺は肩を竦める。
「この村の人達は余所者の俺に良くしてくれました。不満どころか感謝しかありませんよ」
「だとしたら尚更分かんねえな。なんで船に乗りたいなんて言うんだ?」
この村に不満があるなんてとんでもない。むしろこんな得体の知れない奴を、信頼関係のあるシャンクスさんの紹介とはいえ村に置いてくれた挙句、住む場所まで与えてくれたのだ。マキノさんはいきなり押しかける形になった俺を嫌な顔せず面倒見てくれるし、ルフィだってこんな俺の事を兄のように慕ってくれている。これほど安心できる場所は他にないだろう。
そんなかけがえのない居場所を離れることになってまで俺が船に乗りたい理由。それはーーーーー
「.........故郷を探すためです」
俺は結局元居た世界を、血の繋がった家族の居るあの場所を選んだ。戻りたいと強く願ってしまったのだ。
「そうは言っても、故郷の情報は何もないんだろ?」
「どのみちここに留まったところで情報が得られるとは思えません。藁にもすがる思いってやつですよ」
シャンクスさんの言う通り今のところ元の世界に帰るための方法は何一つ分からない。こっちの世界に来たのは死にかけた(というか多分死んだ)のが原因だろうから、もう一度死ねば戻れるかもしれないがリスクが大きすぎる。これはあくまで苦肉の策として残しておくのが正解だろう。
とにかく言えるのは、いつまでもこの村に滞在していたところでめぼしい情報が得られる可能性は低いということ。この村でじっとしていたところで状況が進展する見込みは限りなく薄いと言える。
「とは言ってもなあ.........俺達はまだしばらくこの村を拠点にするつもりだし、情報を得るにも限界があるぞ?」
「それに俺達は海賊だ。他の海賊や海軍、賞金稼ぎ........俺達の旅には危険がつきものだ。はっきり言うが、お前がそれについてこれるとは思えない」
シャンクスさんの言うことはごもっともだ。赤髪海賊団には赤髪海賊団の冒険がある。それを捻じ曲げてまで俺の私情に合わせるわけにはいかないだろうし、それは俺の望むところでもないのだ。
そしてベックさんの言うこともまた然り。彼らの旅についていくと言うことは、俺も海賊の仲間入りをするということ。例え俺や赤髪海賊団にその気がなくても、海賊船に乗って一緒に旅をすれば周りは俺を海賊として扱うだろう。そうなれば戦闘などの荒事に巻き込まれるだろうし、当然の如く俺は戦力どころか足手まとい確定。実際拾われてからこの村までの航海でもそれを痛感している。
「もちろん分かってますよ。俺はシャンクスさん達の冒険の邪魔をする気も、海賊になる気も毛頭ありません。なので、もう一つお願いがあります。俺を近くの島に置いていって欲しいんです」
俺が告げた追加のお願いに驚きを露わにするシャンクスさん達。何このデジャブ。
「........お前まさか、自分一人で故郷を探すつもりか?」
「まあ、そうなりますね」
赤髪海賊団の負担になることなく元の世界への帰り方を探るためにはこれしかない。元々俺はぼっちだ。誰かの手を借りて何か成し遂げようとすること自体が間違っているんだ。
「正気かお前。この海を一人で渡っていくつもりか?」
「ベックの言う通りだ。正直俺らの船に乗るより危険だぞ」
「大丈夫ですよ。俺ってばこう見えて世渡り上手なとこありますし。自分から争い事に首突っ込まない限りどうにかなりますよ。多分、おそらく、知らんけど」
「最後ので一気に不安になったぞ..........」
本当に優しい人達だ。今だって本気で俺の事を心配してくれているのがよく分かる。俺は知っている。彼らは航海の度に密かに俺の故郷に関する情報を集めてくれていることに。こんな知り合って間もない奴のためにここまでしてくれるこの人達は、とても海賊だとは思えない。
「........俺はどうしても故郷に帰りたい。どうしても家族に会いたいんです。だから、どうかお願いします」
だからこそ、そんな彼らの厚意を無下にすることになるからこそ、俺は最大の誠意と決意を見せなければならない。両足の膝と両手を地面についた俺は、そのままゆっくりと額を地面へと近づけていく。
「やめろ。男がそう簡単に頭を下げるな」
もう少しで額が地面につきそうになった時、何かがそれを阻んだ。その何かが他でもないシャンクスさんの手であるということを理解するのにそう時間はかからなかった。下げかけた頭に落ちる声に頭を上げる。
「お前の本気は十分に伝わった。どうしても心配は拭えないが、そこまで頼み込まれちゃしかたがない」
「ということは.........」
「次の航海、お前を近くの島まで送り届けてやる」
そう言ったシャンクスさんは呆れたような、しかしながら優しい笑みをこちらに向けている。その後ろではベックさんが“やれやれ”といったように額に手を当てて首を横に振っている。なんだか何処ぞの部長様を思い出すな。
「........ありがとうございます」
「なあに、
ニコッと笑うシャンクスさん。こんな俺を友人だと言ってくれた事実に嬉しさと気恥ずかしさを感じ、思わず顔を逸らしてしまう。とんだ人たらしだことで。
「次の出航は一週間後だ。それまでにこの村でやり残したことがないようにな」
「.........うっす」
こうして俺の新たな船出が決定したのであった。