ただし賢者の石は尻から出る   作:こまつな

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100 ウィンリィ・ロックベル

「デン!ボクだよっ!」

 

 ウィンリィ・ロックベルは幼馴染の声を聞き、顔を上げた。

 

 しばらく前の謎の集団失神事件。

 キング・ブラッドレイ大総統による国内放送によれば、それは軍に蔓延っていた者達による最後の悪足掻き。

 アメストリス全土を巻き込んだ悪しき錬金術によるものだったのだそうだ。

 

 詳しいことは分からない。

 放送で語られていないことだってあるのだろう。

 

 だから彼女に分かることは、幼馴染の兄弟が、無事に戻ってきてくれたこと。

 鎧の身体だったその弟は、デンが一瞬困惑するような姿で帰ってきたこと。

 

 まさかとは思う。

 けれど、同時に期待もしてしまう。

 ようやく、やっと。彼らの望みは叶えられたのだと。

 

 帰ってくるときは電話の一本でも入れろと、悪態でも口を吐くのだろうか。

 それとも涙が溢れて言葉も出ないのだろうか。

 

 どちらにしても、扉を開ければ分かることだ。

 

 そして勢いよく開け放たれた先には、夢にまで見た光景が広がっているはずなのだ。

 

「もう!帰ってくるときには……」

 

 悪態を吐こうとした口はやはり止まってしまった。

 だがその理由は、彼女自身が想定していたものとは大きく違っていた。

 

 彼女の目に入ったのは、三人で歩いてくる姿。

 

 ひとりは未だに小柄なエドワード・エルリック。

 これはまあいい。実に見慣れた光景だ。

 

 もうひとりは懐かしい、あぁ、本当に、懐かしい顔であった。

 小柄ながらに引き締まっているエドワードとは対照的に、ひょろりと伸びて今にも倒れそうに杖を突いている。

 だが、その顔はしっかりと覚えている。

 

 こんなにやつれてはいなかった。

 最後に見たときはもっと幼い顔立ちだった。

 でも、だけど。彼女が大切な幼馴染を見間違えることなんて、決してない。

 鎧の姿ではないアルフォンス・エルリックが、自分の足で、帰ってきたのだ。

 

 

 そんで最後はむっちむちな格好をしたお姉さんである。

 自分と似たような露出度にもかかわらず、異様なまでに色気に溢れている。

 歩くたびにこう、ムチッムチッっと音が聞こえるようなとんでもねーエロスなのだ。

 しかもラジオで話題になっていたエロ本のライザと非常によく似ている。

 

 あれだけの騒動になったのだ。

 田舎街とはいえおっさん共が隠し持っているエロ本を精査しないわけにはいかなかったのだ。

 故に彼女にもライザという概念は浸透しつつあった。

 

「……誰っ!!?」

 

 半ば予想は付いてしまったが、思わず口をついたのがその言葉だったのは、誰にも責められはしないだろう。

 

 

 

「…………治るの?エドの、手足が?」

「時間はかかっちゃうけどね。ざっと5年ってところかな?」

 

 信じられないことに、件のライザは医者であった。

 それも錬金術の使える、失った手足すら治療できると嘯く、優れた医者らしかった。

 

 そんなことを告げられても、理解が追いつかない。

 だが少なくとも、エドもアルも、彼女の言葉を疑ったりはしていない。

 

 であれば、本当に?

 

「なあ、そのことなんだけど」

 

 治療の際に機械義肢を外すため、技師に話を通しに来たという彼女の言葉を、肝心要のエドワードがさえぎった。

 

 曰く、治すのは腕だけでいい。

 自戒のために、足はそのままにしておきたいと。

 

「そうすりゃ時間は半分で済むし、自分ひとりじゃここまで歩けなかったことも忘れたくないんだ。……それにここに顔出す口実にもなんだろ」

 

 そっぽを向きながら取って付けたようにぼやくあたり、相変わらず素直ではない。

 

「兄さんもウィンリィのこと心配してるんだよ。……今回の件で、ボクたちは何も出来なかったからね」

 

 日蝕の日に起きた事件は確かに解決されたのだろう。

 

 だが、アルフォンスは知っている。

 彼らの父、ヴァン・ホーエンハイムがそれを成した事を。

 

「父さんと話し合ってみたいんだ。ここで待っていれば、きっと帰ってくると思うから」

 

 父が出て行ったのがアメストリスを救う為であったのなら、全てが終わればきっと母の眠るこの街に戻ってくる。

 兄のように糾弾するのか、母の死を共に嘆くのか。全く恨んでいないと言ってしまえば嘘になる。

 

 だけど、信じている。

 

 本当は、刺し違えてでも信念を貫き通すつもりだったのだろう。

 だが文字通りの意味でクソみたいなドミノ倒しが、それを影ながら支援することとなった。

 ライザのエロ本を取り巻く騒動は偶然の結果に過ぎなくとも、それだけは彼が目にした紛れもない事実なのだ。

 

 あまりにもあんまり過ぎて後者に関しては兄も大佐たちも信じようとはしなかったが。

 

「おーい、ピナコ。不安を煽るようなこと言ってすまなかった」

 

 かくして、扉は開かれる。

 英雄の凱旋か、不良オヤジの帰宅なのか。

 

 

 ただひとつ確かなのは、その光景に混ざってしまったむちむち錬金術師が気まずそうな表情を浮かべていることくらいである。

 





あと一話、蛇足を追加して〆とさせていただきます。
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