ただし賢者の石は尻から出る   作:こまつな

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尾を食む蛇の足
101 グロリア・ハボック


「そういえばエロ本さんから絵葉書届いてたよ」

「その呼び方を口に出すのって地味に勇気がいるよね」

「んじゃライザの人」

「もうライザでよくない???」

「戸籍でもライザってなってるらしいぞ、ライザリンじゃなくて」

「あれ、そうなんだ」

「コスプレするには別人じゃなきゃいけないとか?」

「素で間違えたんじゃない?」

「ありえる」

「なんかかんだポンコツだもんなぁあの人」

 

「で、なんて書いてあったん?」

「彼氏が出来ましたーだって」

「マジで???」

「え、いや、本気で言ってんの?」

「まあ知名度が異常域なのは間違いないけどさぁ」

「大丈夫?変な相手に騙されてない?」

「お相手は?うちらの知ってる人?」

「ほら、なんか前の騒動でグリードさんって居たじゃん」

「ワイルド系イケメン!ずるい!」

「言われたいわー顎クイされながら俺のモノになれとか言われてみたいわー」

「一本筋の通った裏社会のボスだからなぁ」

「そんな人を女の子だと思ってた連中が居るらしい」

「うちらじゃん」

「作画班もエロ本さんと一緒に裏街道だっけ?」

「闇ライザ(真)」

「これが闇堕ち……!」

「違う、そうじゃない」

 

「てかエドワード君の再生治療してるんじゃなかったっけ?」

「軍の監視が入ってるはずだよね、どうなってんの?」

「なんかエドワード君の師匠がダブリスに住んでるから療養とスキルアップのためにそっちに移ったんだって」

「何その都合のいい偶然」

「あと暴露ラジオで言ってたキメラ人間?をグリードさんが保護してたとかで軍も強く出れないらしい」

「マジで捨てられた子犬とか拾ってたのか」

「ほんとに仁義を通すタイプのマフィアなのかもしれない」

「相当でっかい組織築いてそう」

「あとリアルネコミミ少女を守護るスレの面々が全面的にバックアップしてる」

「なにそれ楽しそう」

「絶対エロ本さんが立てたスレでしょ」

「最近エロ本スレで見かけないと思ったら何やってんだあの人」

「でも裏社会に堕ちたのって実際大問題なのでは???」

「今はコスプレ喫茶の開発に全力を注いでるらしい」

「またアメストリスに新たな文化が誕生してしまう」

「ネコミミちゃんたちが大手振って働ける職場を準備してんのか……」

「相変わらず堅実なのか突飛なのか分からん行動力だなぁ」

 

「そういえばアルフォンス君って結局どうなったん?」

「ライザの握手会で復活してたぞ」

「言い方」

「間違ってないけど間違ってる」

「あの子って男の娘メイドさんじゃなかったのか……」

「それだけは無念で仕方がない」

「いいやまだだ、今からでも遅くはない」

「女装沼に落とそう、そうしよう」

「流石に他所様に迷惑かけたら減給するぞ?」

「わるいのはこの人です!」

「いや違います、悪いのはこいつです!」

「二人とも三ヶ月でいい?」

「ごめんなさーい!」

「すみませんっしたー!」

 

「今更過ぎるかもしれないんだけどさー」

「なんぞ」

「結局スレってなんなん?」

「わたしにもわからん」

「なんか事情を知ってそうなグリードさんでもよく分かんないらしい」

「システムが謎過ぎる」

「でも新規っぽい子は最近見なくなったよね」

「まさかとは思うけど解体された軍の暗部がスレに関わってたとか?」

「うちらって壮絶な人体実験の末に生まれたの……?」

「普通に両親も幼馴染もいるんだけど」

「ですよねー」

「仲が良さそうで何より」

「支店長の周りでうろちょろしてるからなぁ」

「ホント猫みたいだよねこの子」

「やめれ」

 

 

「あ、お客さん来た」

「休憩おわりー」

「んんっ……よしっと」

 

「いらっしゃいませ、ハボック雑貨店にようこそ!」

 




これにて完結となります!
最後までご覧いただきありがとうございました!















・蛇足

原作ハガレンには存在していないとおかしいのに描写されていないものがいくつかあります。

一つ目は量産型の人柱。
軍がキング・ブラッドレイを作ったように。
洗脳教育を施した錬金術師に門を開けさせていないのはあまりにも不自然です。

二つ目は赤子を使った賢者の石の製法。
賢者の石にされた人間は生前の自我が残ります。
にもかかわらず、人形兵の大半はおぎゃあおぎゃあと泣き喚いています。

三つ目はお父様自身の複製。
劣化品のプライドではなく、偶然造られたというフラスコの中の小人そのものの再現。

この作品でのスレ民はこれらが原因で誕生しました。



ひとつめは人柱量産計画。
お父様の悲願を考えると人柱を確保する手段を全く用意してないとは考えられません。
ならば用意できない、あるいはできなかった明確な理由があるはずです。

キング・ブラッドレイ候補生には男性しか居ませんでした。
余っているはずの女性の孤児は何に利用されたのか、原作では描写されていません。
同様に、洗脳教育を施した錬金術師に扉を開けさせる人柱量産計画も原作にはありませんでした。
そこを結び付けて考えるのは不自然な発想ではないと思います。

思い上がった者に正しい絶望を。
真理を得ること自体を目的に扉を開けたのなら、確実に失敗するのではないでしょうか?

忠誠を持って開いたのなら、その忠誠を。
真理を求めて開いたのなら、その知識を。
持っていかれるのが記憶や、人格の類であるのなら。

漂白された頭脳に真理の知識が流れ込み、新たな人格が形成されることになります。

一は全、全は一。
ホーエンハイムは核融合の知識を持っていました。
時代にそぐわない知識でも、真理の中には確かに存在しています。

つまり人格排泄やドラゴンカーセックスを真理から得る可能性はゼロではないのです。
まして真理を知ろうとして扉を開けた者たち、全く関係ないサブカル知識が流れ込む可能性は十分にあります。

要するにオタク女子に生まれ変わりました。

お父様が欲しているのは真理の扉と接続している人間であり、別に中身がサブカル知識であってもおそらく問題はありません。
が、知識の欠損により錬金術が使えなくなってしまえば扉を開いたと証明する方法も消滅します。
何度施行しても思い通りにならなかったため、計画は数十年にわたり試行回数をひたすら重ねることになります。
被験者は証拠隠滅のため賢者の石として処理され、その一部は国土の地下に張り巡らされることに。

ですが腐っても扉を開いて戻ってきた存在です。
一部の天才的なアホの子がアメストリス地下の賢者の石の中にスレという名の隔離領域を形成。
わいのわいのと皆で集まり、これ生前の記憶を取り戻した直後に切り捨てられるアレじゃね?
というあんま間違ってない認識がスレ全体に広まります。

その上で、スレ回しなんてしてるうちにNGで蹴られる輩も少なからず発生します。
賢者の石がどのように魂を固着しているのかは不明ですが、内側から弾き出されれば恐らく身体に戻ることでしょう。
わざわざ止めを刺すとは思えませんし、バリーの例を見るに衰弱死するまでは肉体も生きているはず。

もっと言えば、逃げ出した失敗作への対応はかなり杜撰です。
まして死んでいるはずの相手、警戒が外れていれば容易に逃げ果せるでしょう。

そして賢者の石が複数名の魂を捏ね合わせて作られている以上、残りの部分とは混線が続いたままになります。
その混線を通じて賢者の石内部との対話を行っているのが、この作品でスレ民と呼ばれている存在です。
スレ民たちのデフォ名が名無しの錬金術師なのも、女性ばかりなのもこれが理由です。

そのうちの一人がエロ本ネキだったりします。

なおスレ民達はその実験施設が軍のものだとは知りません。
裏でなんかやってる孤児院みたいのがある、程度の認識です。
エロ本ネキは顔を変えた上でライザとして戸籍を取得してるのもあって軍側も気付きません。

ちなみに逆転の練成陣が発動するとスレは機能を停止します。
スカー兄の研究書は解読されてないのでまだセーフです。



ふたつめ、彼女達は死産というカバーストーリーで赤子から精製されていた賢者の石の一部です。

賢者の石にされた魂は生前の人格を保有しています。
にも関わらず、人形兵はおぎゃあおぎゃあと泣き喚く。
収穫された魂に加工が施されたか、人形兵自体にギミックがあるか、あるいは。

原作のジャン・ハボックに女の子の幼馴染なんていませんでしたからね。

それらは人形に入れるためのストックだけでなく、新たな国土に埋め込む賢者の石としても利用されました。
つまりはスレへの乱入、その結果発生する荒らし誤認からNGでの強制排出。

ひとつめと同様に内側から弾き出されれば身体に戻ることでしょう。
そして葬儀の最中の赤子が息を吹き返したとしても、軍が全てを把握できるとは思いません。

が、肉体に戻れるのは偶然スレに紛れ込んだごく一部の魂のみ。
残りの部分とは混線が続いたままになります。

つまりはスレに接続できる機能を獲得した現地民が育つわけです。

印刷機ちゃんやダブリス出身のニート組の子など、親類の存在が明言されてる子達はこの枠です。
正確に言えば彼女達は転生前の知識など持たず、スレ民は転生者だとスレで言われてるので自分を転生者だと思ってしまった現地民。
印刷機ちゃんが妙に個人情報への危機感が足りないのも話に聞いただけで実感がないからです。



みっつめ、本物の前世の記憶を持った転生者。
上二つとは異なりスレ内だけに存在しており、肉体は保有していません。
スレに広まっているサブカルの中でもライザを持ち込んだのはこいつらです。

88話のあとがきでも書きましたが、この世界では肉体と魂の齟齬には拒否反応が発生すると明言されています。

では、0歳で肉体から引き剥がされ賢者の石に加工された魂は、拒否反応を示すのでしょうか。
赤子から賢者の石が精製されていた場合、そんな連中がアメストリス地下の賢者の石の海に紛れ込むことになります。

未来において発生し得る性癖が真理の中にあったとしても、錬金術がひとつの技術として確立された世界で、アトリエシリーズという固有の世界感がそのまま誕生するとは考えづらいです。

錬金術師ライザのむちむちのふとももだけは、異世界からやってきたと考えなければ説明が付かないのです。











最後に【虚飾】。お父様のサブプラン。

まず前提としてお父様は結構勤勉です。
描画されるときは常に机に向かって何かしら作業しています。
擬似真理の扉のグラトニーを造っていたり、7人のホムンクルスは全て違う能力を持たせていたりと試行錯誤も繰り返している様子。

であれば本命の人柱が集まらなかったときのサブプランも恐らく用意されていたはず。

虚飾計画はそのひとつ。
擬似真理の扉ならぬ擬似フラスコの中の小人の作製。

自分自身、真理の断片であるフラスコの中の小人の再現。
部分的にでも同質の存在を精製し、プライドの同化能力で集約することでもう一人のフラスコの中の小人を精製する計画。
あるいは年月をかけて集約を続け、塵の山で神を築き上げることも可能かもしれません。

あくまでも計画達成のための餌であり、傲慢と同一化させるための生成物の研究、故に虚飾。

が、これは失敗します。
あるいは、成功し過ぎてしまいました。

何故ならフラスコの中の小人が造られたのは理論立った錬金術が広まる以前であり、お父様自身もただの偶然だと言っています。
一度成功している以上は理論上不可能ではないはずですが、お父様には人間の愚かさによる奇跡的な偶然を再現できませんでした。

精製されたのは精々人間一人分程度の人格。
それも理論立ったものではない架空の錬金術の知識しか持たない、集積する価値もないナニカ。
当然ながら一度ではなく複数回施行されますが、その全てが同じような結果に終わります。

そして何もかも理解できないままこの世界に下ろされた人格はそのまま破棄されました。
お父様の最期のように、この世界の真理に引きずり込まれる形で。

この実験により、パッケージングされた異質な知識を持つ人格()がこの世界に紛れ込みました。






・補足
 グロリア (ラテン語:gloria)
 多くの場合栄光を意味するが、しばしば自慢などの否定的な意味合いで使われていた

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
【虚飾】 関連用語より





解説は以上になります。
長々とした蛇足にお付き合いいただき、ありがとうございました。

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