ただし賢者の石は尻から出る   作:こまつな

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034 グリード

「ライザを見かけたぁ……?」

 

 内陸国であるアメストリスにおいて希少な水産資源と、それを齎すカウロイ湖を名所とした観光地、ダブリス。

 人や物、そして情報さえも集まる南部の都市は、しかしながらそれに相応する闇も抱えている。

 

 その闇を根城にする男、グリード。

 観光名所の闇を一抱えに懐に入れる男は今、部下からの報告に怪訝な表情を浮かべていた。

 

「ホントなんですって!ライザがいたんです!」

「しかもライザだけじゃねぇ、他の女も下着姿で水浴びしてたんっすよ!」

 

 裏には裏の情報網がある。

 セントラルの闇すらも引き寄せるその糸は、拠点であるこの地にも当然の如く張り巡らされている。

 

 この地の闇は時として都合のいい観光客を食い物にすることも珍しくない。

 当然下着姿の痴女の群れが湖の浜辺で男共の目を楽しませていたことは彼の耳にも届いている。

 

 だがライザだ。

 ライザと言われれば彼の脳裏にはあのライザが浮かぶし、街のチンピラ共が知っているライザもあのライザくらいだろう。

 

 爆発的に広まったエロ本、その名も【むちむち錬禁術師ライザとえっちな錬禁術】。

 このすげー頭悪いエロ本は、東部士官学校に大量に卸されているという情報を元に、裏を勘ぐってグリード自身がこの地に取り寄せたものだった。

 

 そしたら、めっちゃ流行った。

 

 無理もない。一部を除き、彼を慕う者は学もない場末のチンピラがほとんどだ。

 エロ本に釣られるのは別に何もおかしくないと言える。

 

 更に言ってしまえば『見れば分かる』エロ本だったのも大きいだろう。

 

 今までのエロい印刷物と言えば官能小説かアダルティなグラビア雑誌が精々。

 識字も怪しいようなチンピラに前者はあまりにも難しく、後者を高度に発展させたに等しいエロマンガが流行らないわけがなかったのだ。

 なお副産物として野郎共の識字率も上がった。グリードは首をかしげた。

 

 ともあれ、よく似た女がこの地を訪れ、件の痴女集団を統率しているのは彼も把握している。

 だが同時に、中央から流れてきたとある噂が頭によぎるのだ。

 

 それはライザが軍服を着た男とお茶をしていた、というもの。

 

 ライザの目撃証言は以前から度々耳にすることがあった。

 しかし創作の人物が現実にいるわけがなく、どこぞの夜の店がライザ風衣装を始めたとでも考えるのが道理である。

 何より本物のライザだと仮定した場合、当人をモデルにしたエロ本と何の関わりもないとは思えない。

 少なくとも流通に乗せることを許容していることになってしまうだろう。

 

 「ありえない」なんて事はありえない。

 それを座右の銘にしている彼にとっても、これは流石にないわーと判断せざるを得ない状況であった。

 

 チンピラ共は遠からず件のライザに絡みに行くだろう。

 どうやって声をかけようなど、乙女かと突っ込みたくなる妄言を吐いているアホどもだが、それは間違いない。

 

 そして、こうなってしまった以上、問題はひとつだ。

 欲に浮かされたチンピラたちがどこまで行動を起こすか分からない、これに尽きる。

 

 別に個人的なナンパを止める理由なんてないのだ。

 自分の主義もあり、女相手に乱暴なマネはすんなと言い含めるくらいするが、その程度。

 

 金も女も、地位も名誉も、この世の全てが欲しい。

 それが彼の抱える大罪であり、【父】の元から脱走してまで叶えたい欲望だ。

 時機を見るという選択こそあれ、欲しいモノを前に諦めることなど、それこそありえない。

 

 彼らはこのダブリスの闇に棲む者。

 観光客を食い物にすることなどライフワークであり、それを躊躇う理由もありはしない。

 

 だが良くも悪くもライザの知名度が上がり過ぎている。

 人口5000万のアメストリスで1万冊を売り上げる化け物コンテンツだ。

 

 しかも中心となって購読しているのは軍属の若者たち。

 ライザがこの地で害されたなどと噂が広まれば、クッソくだらない一身上の都合でこちらの懐にまで手を突っ込まれかねない。

 彼の性格上、そんなことは絶対に許容出来るものではない。

 

 更に予想通りであれば件のライザはセントラルで水商売に関わっている者だろう。

 周囲の女性陣も含め肌を晒すことに躊躇いがないのだからおそらく間違いないはずだ。

 となればそちらの上役が出張ってくることも想定せねばなるまい。

 

 だからと言ってナンパの自由すら取り上げるというのなら、曲がりなりにも纏まっている裏の結束に皹が入るだろう。

 

「どうしたもんかね……」

 

 彼はグリード。その強欲はこの世の全てを手にするまで止まることはない。

 だが、彼は強欲過ぎるが故に、手に入れたものを自身の手から零すことを是とはしない。

 

 いずれ全てを手に入れる。それは彼にとって確定事項だ。

 しかしながら彼の掌が未だ有限である以上、手中に収める順番や優先順位というものは確かに存在する。

 

 ここは彼の城、彼を頂点として、この地に根を張っている勢力だ。

 そして彼を慕う者はその強欲を残らず知っている。

 

 グリードが自分のものにすると言い出せばチンピラどもの暴走は止まるだろう。

 彼の所有物に手を出すのが何を意味するのか、知らないものなどいないのだ。

 

 だからって痴女はちょっとなぁ……。

 

 金は欲しいし女も欲しい。だがどんな女かはちゃんと選ぶ。ぶっちゃけ食指が働かない。

 素人童貞の(生殖能力がない)彼にとって、オープン痴女という性癖は流石にちょっと早かった。

 

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