ただし賢者の石は尻から出る   作:こまつな

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006 ジャン・ハボック

 ジャン・ハボックには幼馴染がいる。

 

 どんな相手かと聞かれれば、自分とは正反対のヤツだと応えるだろう。

 

 大柄で体力馬鹿の自分とは違い、小柄で子供のように貧弱なヤツで。

 友人も多く社交的な自分とは違い、引きこもりがちなせいで交友関係も狭いヤツで。

 自他共に認める程度には頭の弱い自分とは違い、錬金術師を志すような頭脳明晰なヤツで。

 

 そして出来ることをこつこつ行う自分とは違い、たまにとんでもない奇行に走るヤツで。

 

「なあ、印刷機って用意できないか?」

「印刷機だぁ?」

 

 何言ってんだこいつ、というのが彼が最初に思ったことだ。

 

 どこから仕入れてきたのかも分からないような謎知識を披露するのは別段珍しい事でもない。

 「もうそんな時期か」という感想が出る程度には定期的に発生するイベントである。

 彼の実家であるハボック雑貨屋に必要なものを購入しに来るのも、また同様に。

 

「そんなもん何に使うんだよ」

「エロ本を刷るんだ」

「何言ってんだこいつ」

 

 今度は口を衝いて出た。

 

 いや分かる、言っていること自体はジャンの頭でも理解が出来た。

 なんたってエロ本だ。エロ本である。エロ本なのである。

 エロ本が何を意味するのか理解できないほど、彼も男を捨ててはいない。

 実家の仕入れに紛れ込ませたのも一度や二度ではなく、なんならベッドの下にも隠してる。

 

 エロ本ということは、つまりエロ本ということである。

 

「お前、性欲とかあったんだなぁ……」

「お前こそ何言ってんだ???」

 

 お互いに心の底から出て来た呟きであった。

 

 ジャンは幼少期からの相手の奇行を走馬灯のように振り返りながら。

 幼馴染は単純に訳がわからんと言わんばかりに。

 

 両親が居ないときでよかったと安堵しながら注文の準備を進めるが、改めて考えるととんでもない話である。

 そもそも印刷機などというものは個人で用意するような代物ではない。

 新聞社か、あるいは出版社か、大量印刷が必要な職場で用いられる工業機械なのだ。

 業務用のカタログを探せば物自体は見つかりはするが、やはり一般の家庭で手が出せるような金額でないのは明らかだ。

 

「まあ一応発注は掛けれるし納入も出来る。んで金額がこれだ」

「あ、スマン、欲しがってるのは知り合いなんだよ。まあ納品できるって分かれば十分だ」

「どこの誰だよそいつ。金払いがいいってレベルじゃねえぞ?」

「錬金術師だってさ。新しい事業の設備投資って話だぞ」

 

 そういやこいつはこいつで謎の人脈築いてるんだよなぁと益体のないことを考える。

 

 まあこれでオンオフの激しいヤツである。

 動かないときはひたすらに引きこもっているが、動くときには予想も付かないアクティブさを見せる。

 前触れなく奇行に走るのは見ていて飽きないのだが、目を離したらどうなるのか予想が付かないのもある意味恐ろしい。

 いつか痛い目を見るのではと心配になることもなくはない。

 

 エロ本刷るために印刷機から用意したがる錬金術師ってなんだよとか、そもそもどこで知り合ったんだとか、言いたいことは色々ある。

 あるのだが、こうなったら最後、アンカハゼッタイと謎の呪文をつぶやきながら意地でも強行するのが目に見えている。

 結局のところ、彼に出来るのは諦めたように苦笑を浮かべるくらいなのだ。

 

「撫でんな」

「お前の頭ってちょうどいい高さにあるんだよなぁ」

「お前がでかいだけだろうが」

 

 子供のような体躯に違わず中身も似たようなものであるが、これでも自分のひとつ上。

 文句を口にしながらも満更でもなさそうに頬を緩めるのはまるで猫かなにかのようで。

 

 

 ジャン・ハボックには幼馴染がいる。

 

 どんな相手かと聞かれれば、自分とは正反対のヤツだと応えるだろう。

 

 大柄で体力馬鹿の自分とは違い、小柄で子供のように貧弱なヤツで。

 友人も多く社交的な自分とは違い、引きこもりがちなせいで交友関係も狭いヤツで。

 自他共に認める程度には頭の弱い自分とは違い、錬金術師を志すような頭脳明晰なヤツで。

 出来ることをこつこつ行う自分とは違い、たまにとんでもない奇行に走るヤツで。

 

 アメストリスでは一般的な金髪である自分とは違い、黒の長髪を一纏めに結い上げているヤツで。

 

 色々と間逆ではあるが、だからこそ何かと気が合う幼馴染の奇行にももはや慣れたもの。

 顔も名前も知らない相手とセントラルで待ち合わせするという話は彼にとっても寝耳に水で。

 目の離せない妹分が騙されているのではないかと同行を決めたのは、あまりにも自然な流れだった。

 

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