特定の性癖を貶める意図はなく、むしろ作者はめっちゃ好きなシチュです
ケイン・フュリーは通信機器を弄ることを趣味としている。
あまり軍人に向いているとは言えないような小柄な体格と穏やかな性格。
しかしその趣味が高じての技術力は、上司が引き抜きの理由とするほどに優れた代物だ。
そんなちぐはぐな青年も以前は東部司令部に所属していた経歴があり、当然の如くライザの存在も既知のものであった。
彼もまた独身の若い男性。えっちな本は右手の友であり、それを責められる謂れはどこにもないと言える。
なんならやたらとライザを推してくる上官に誘われて俺ライザ品評会に顔を出した経験だってある。
思い出すのは半年ほど前、今や伝説と化した本物のライザが現れた回。
サプライズで登場して新刊を販売していたライザの集団は今でも語り草になっていた。
増刷分も一般に出回っているが、ライザに直接手渡された初版本がとんでもない額で裏取引されていると耳にしたことすらあるくらいだ。
なお彼を誘った上官とは少し距離が開いた。
会場でもめっちゃ浮いていたというかドン引きされていたんだから仕方ない。
むしろ仲良さそうな友人も目撃されているので自分が深く踏み込まずとも幸せな人生を送ることだろう。
そして、現在。
彼の手元にはライザの新刊が届けられていた。
本のタイトルは【むちむち錬禁術師ライザと変態錬禁術師ティムコー】。
前巻において、重大発表があると告知されていた一冊。
人気シリーズ二本の合作であり、しかしながら微妙に客層が違う路線であるため発売前からファンの間では不安の声も上がっている、と件の上官が訳知り顔で語っていたのを聞き流した覚えがあった。
部屋の鍵を確認し、ちり紙を用意し、服装を整え、ベッドに腰掛ける。
いざその本を使おうとして、しかし、彼の脳裏に浮かんだのは情欲ではなく困惑だった。
エロマンガという文化が世に出て既に十年に近い。
変態錬禁術師ティムコーのシリーズは毎度新しい方向に走っているものの、内容は常にえっちなものであったはずだ。
今更絵柄に関して違和感を覚えることなどなく、いつも通りであればそういうのもあったのかと新しい知見とエロスを獲得できるはずなのだ。
だが……これは何だ?
これは本当に、えっちな本と呼んでいいものなのか?
彼は静かにパンツとズボンを履いた。ジュニアは既に静まっている。
薄い冊子を荷物に詰め、向かう先はただひとつ。
同じ寮生活であるのなら彼もまたこれを手に入れているはず。
そして同じことを考えてたらしい多数の同僚たちと共にハイマンス・ブレタ中尉の元を訪ねたのだ。
だが、それは適わなかった。
『私の名はティム・マルコー。世の男性諸君には、変態錬禁術師ティムコー、そのモデルとなった人物と言ったほうが通りがよいかもしれないな』
ラジオからそんな言葉が聞こえてきたのだから。
ざわめきが広がる。
それは以前から囁かれていた都市伝説のひとつだった。
ライザの目撃証言は以前から度々上がっており、ついには品評会に姿を現したことでその実在は証明された。
であるのなら、ティムコーもどこかにいるのではないか。いるとすればソレはどんな変態なのか。
そんな噂話だ。
そしてそれは、今日、ラジオで証明されようとしている。
各々顔を見合わせながら、だがケイン・フュリーは次第に自分に視線が集まっているのに気付く。
察した彼は大急ぎで自室に戻ると寮のラジオというラジオをジャックし、ひとつの番組にチャンネルを合わせた。
もしものための仕込みがこんなことで役に立つとは彼も思っていなかった。
独身寮はここひとつではなく、セントラルの各地に点在している。
そこに存在する全てのラジオが同じ番組を流し始めた。
ティムコー、もとい、ティム・マルコーの独白が、中央に響き渡る。
『何故今更、どうして表に出てきたのか、そんな声もあるだろう。だが、私が語りたいことは、ただひとつ』
重々しく、苦渋に満ちた宣言が搾り出される。
『【むちむち錬禁術師ライザと変態錬禁術師ティムコー】という、最新の本があるだろう?それはあまりにも異質ではなかったかな?これは本当に艶本なのかと、疑問を覚えた者はいなかったかな?』
誰もが疑問に思ったであろうそれを、彼は肯定する。
『そこに記されているのは……軍の暗部だ。私はかつて軍主導の元、人間の魂を抜き取り兵器に造り変える。そんな研究に携わっていた』
そして告げられるのは、誰もが予想だにしない……いや、あって欲しくないと望んだ事実だった。
ティムコーの所業がただの創作ではなく、エロという塗装に隠された、非人道的な実験の数々なのだと。
ネコミミ少女は可愛かった。
――人間を原料としたキメラの生成は現実に行われていた。
生やされたOCHINCHINから写生する女の子はいいものであった。
――錬金術の成果に関する暗喩であり、人を原料にしたおぞましいモノであった。
痛いのが気持ちよくなっちゃう少女の姿に興奮を覚えることもあった。
――苦痛が人に与える影響を観察する実験がイシュヴァールの裏側で行われていた。
ライザの魂を尻から抜き取り悦に浸るティムコーの姿には困惑を覚えた。
――それは、本当に行われていた悲劇だった。
アメストリス全土で鬨の声が上がる。
――かわいそうなのは抜けない。
皆既日食まで、あと一ヶ月。
誰一人として想定していなかったタイミングで、全ての事態は動き出した。