ただし賢者の石は尻から出る   作:こまつな

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071 ダリウス

 ダリウスは黙々と本を読み進めていた。

 

 その視線の先にあるのは女性の裸。

 ライザと呼ばれる少女が庭でキノコを育て始め、特製の肥料を与え始めた時点でなんとなく先は読めた。

 今開いているページでは急成長してアレっぽい姿と化した元キノコとなんやかんや元気に励んでいた。

 

 おっぱいの躍動感が実にエロかった。

 本当にもうむっちりとした肉付きの表現が絶妙に上手いのだ。

 作者はこの国にエロマンガという文化を広げた偉人であり、この国一番のエロ漫画家であるのだ。

 

 暗号とかよく分からんけど軍費(タダ)でこんなんもらっちゃっていいの?マジで?

 

 それは、彼が抱いた率直な感想であった。

 

 

 ティム・マルコーに暴露された軍の暗部のひとつに、人間を材料にした合成獣の研究がある。

 もはや助からないだろう兵士を原料に、その不足を補うようにヒト以外の生物の要素を追加する。

 

 今なお生きている成功作は両手の指で数えられるほど、脱走して闇に消えた者を本気になって追うこともせず。

 軍にとって、その程度の価値しかない研究だった。

 

 キメラ兵について知っている者はそれほど多くはない。

 関係者は既に逮捕され、捜査の手は完成品である彼等の元に及んでいた。

 

 そこまではいい。軍として調べなければならないのは理解できる。

 聞かれたことには素直に応えるし、来るときが来たかという諦観の念も湧いてくる。

 

 自分たちはたまたま成功しただけなのだと、他の実験体の末路を見てきた彼らは誰よりも知っている。

 幸運の女神に与えられたロスタイムが終わりを迎える時が来たのだと、静かに覚悟を決めていた。

 

 そして、彼らに沙汰を告げに来たのは、こともあろうにキング・ブラッドレイ大総統その人であった。

 

 彼は告げる。

 被害者である彼らまで切り捨てるほど、軍は愚かではないのだと。

 裏に通じているが、深過ぎない位置にいた彼らは使いでがあるのだと。

 

 何よりも、マルコーに暴露された情報で、人間を使った合成獣の存在が世の錬金術師たちに知れ渡ってしまった。

 詳細な製法こそ拡散していないが、それが不可能でないことが周知されてしまったのだ。

 

 今後、愚かなことを考える錬金術師がいないとも限らない。

 他国の諜報員が情報を持ち帰ることもあるだろう。

 

 であるのなら、それへの対抗手段と、被害者の受け皿となる場所は残しておかねばならないのだと。

 

 その結果が軍の管理する建物での軟禁という措置であり、国軍が挑んでいる暗号解読への参入なのである。

 

 

 人でなしな研究であることには同意するが、実際にそれで命を拾ったダリウスにしてみれば、文句がないとは言わないが感謝をしていないわけでもない。

 瀕死の重症を負った兵士を再び立ち上がらせるために、などと言えばお題目だって満たせただろう。

 

 今の身体になってから、後ろ暗い仕事に触れる機会は確かに増えた。

 しかし肉体は元より頑強になっているし、危険度自体も前線で戦火に塗れていた頃と比べたらずいぶんと温い。

 危険手当や口止めも入っているのだろうが給料だって悪くない。

 何より変身能力とかカッコいい。

 

 ただ、施術を受けた彼らの中でもスタンスは割れている。

 ダリウス、ハインケルはまあ便利だしこのままで構わないと。

 ザンパノとジェルソは元の身体に戻りたいと。

 

 ちらりと同僚の姿を視界に納める。

 彼はネコミミ少女のつくりかたを学んでいる最中であった。

 

「お前そういうの好きなの?」

「ネコミミには正直惹かれる。ライオンも猫科だからとか関係あるのかね」

 

 真面目な表情で紙面を見つめるメガネだが、その実体はむさ苦しいおっさんがエロ本を読んでいるだけである。

 

 ちなみに彼自身はティムコーシリーズはいまいちピンと来なかった。

 やはりゴリラも類人猿だからなのだろうか。基本のライザが一番である。

 

「俺たち、これからどうなっちまうんだろうな……」

 

 不安の声を漏らしたのはジェルソだった。

 

 これから彼らがどうなるのか。

 色んな意味で予測が付かない事態が進行していた。

 

 いい年したおっさんたちが額をつき合わせてエロ本を嗜んでいる。

 控えめに言ってこの世の地獄のひとつであった。

 

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