ティム・マルコーによる暴露劇。
それは表舞台だけでなく、この国の裏に潜む者たちにも届いていた。
なにせラジオで全国に放送されているのだ。
もはや知らないでいるほうが難しい情報である。
人と犬との合成人間、ドルチェットはざまーみろと笑みを浮かべていた。
デビルズネストに集まっている連中の反応はだいたい似たようなものだ。
ゲラゲラと声を上げながら酒を煽っている奴も少なくはない。
この場にいるのは正道から外れたチンピラがほとんどだ。
軍という組織に好意的な者などいるはずもない。
自分のように直接的な被害者もいれば、単に反社会的な性質のせいで嫌っている者もいる。
なんなら国が荒れれば荒れるほど彼らにとっては住みやすい環境となる。
治安が乱れるのなら書き入れ時だといっても過言ではないくらいだ。
彼らのボスにしてこの街の闇を束ねる男、グリードもまた上機嫌に肩を震わせていた。
「賢者の石がウンコ……ウンコってお前……クッソ……腹イテェ……!!」
むしろ笑い過ぎて悶えていた。思いっきりツボに入っていた。
革張りのソファーに横たわり喉の奥から引きつった声を漏らしていた。
気のせいでなければ蘇生するときの光さえ見えていた気がする。
「ヒィ……ヒィ……あー笑った笑った!ったく、こいつは傑作じゃねえか!」
それはそうだろう。
ただのエロ本だと思っていたものが軍に大打撃を与えるような代物だったのだから。
流石にネコミミ少女のつくりかたには引きつった笑いが出たが、そこまでの話。
初期の初期から目を付けていたにもかかわらず自分達だって気付いてはいなかった。
だがこちらには何の被害もなく、打撃を受けたのは国軍のみ。
公表の仕方もエロ本をばら撒いてラジオでトドメと中々にトチ狂っている。
もう笑うしかないだろう。
「うーん惜しいな。こんな面白れー女だってんなら、あん時手に入れとくべきだったよなぁ」
上司の呟きに彼もまた過去に思いを馳せる。
めっちゃムチエロな美少女が惜しげもなく肌を晒して水遊びをしていたのは鮮明に脳裏に焼きついている。
それがライザそっくりな少女であったことも拍車を掛けたのだろう。
地味にエロ本でも水着シチュというのは今のところ登場していない。
ダブリスの野郎共にとっては今でも語り草になっている伝説の一幕である。
あの頃は情報も少なく、まさかアレがライザ本人だとはグリードさえも考えていなかったのだが。
まあそれはそれとして。
「グリードさん、予定に変更は?」
一ヵ月後にデカイ祭りがあると話には聞いていた。
それに軍部が関わっていることも。
で、あれば。状況が激変した現在はどう動くのが最適なのか。
「あー……ドルチェット、お前ライザを追えるか?」
「仲間に引き入れるつもりなんすか?」
「あんだけ派手にやらかしたなら日の当たる場所にはいられねーだろ。何より気に入った」
たとえライザ自身に拒否されようが、こうなったグリードはもう止まらないだろう。
本人曰く、強欲の虫が疼いた状態。
側近として何度も見てきた彼にして見れば、この上司の数少ない短所であり、だがあまりにも人間らしい欲しがりの強欲。
そんな彼に頼られるのも、存外悪くない気分であるものだ。
「なら人数が要りますね、非戦闘員を何人かこっちに回してください」
「おう、連れてけ連れてけ。だが軍の連中と鉢合わせないようにだけは注意しろ。お前らみんな俺の物だ、勝手に零れ落ちるんじゃねえぞ?」
彼は強欲ゆえに、自分の所有物を失うことを是とはしない。
元々の性格か、はたまた犬と合成されたからであるからなのか。
ドルチェットは忠誠心の高い男である。
決して自分達を見捨てない上司というのは理想の一言。
上層部の腐り具合でこんな身体、こんな場所に堕ちた身にしてみれば、本当に人生何が起こるか分かったものではない。
「おうてめぇら!祭りが終わったらライザもここに連れてくる!気合入れて生き延びろ!」
一瞬の静寂、そして歓声が上がる。
本人の気質もあるのか、我らがボスはチンピラの取り扱いを実に心得ているものだ。
グリードのお気に入りとなれば早々手出しなどできないが、いるだけで目の保養になるのは間違いない。
そうでなくても現実のライザが痴女集団を纏め上げていたのは周知の事実だ。
となればおこぼれをあずかるにはあまりにも十分過ぎる。
思考が下半身に直結しているお馬鹿な連中も、死ぬ気で帰ってくるに違いない。
地獄の底にも神はいなかったが、なんでも拾い上げる強欲な男は案外いるものなのだろう。