「だあああああぁぁ!!やってらんねえええぇぇぇ!!」
国の中枢たるセントラル、軍の保有する宿泊施設に、少年の叫び声が響き渡っていた。
少年の名はエドワード・エルリック。
史上最年少国家錬金術師。またの名を、鋼の錬金術師。
そんな彼を悩ませているのは……エロ本の山だった。
ティム・マルコーによる暴露騒動からしばし。
国家錬金術師である彼は他の者たちと同様に大総統府から召集を受けた。
軍に所属するというのがどういうことか、分かっていたはずだ。
人間兵器として、いつか戦場に立つことになる。
ただそれが、今日になっただけのこと。
弟を巻き込まないように別れを告げ、ひとり覚悟を決めて中央に乗り込んだ。
そしてエロ本の解読に駆り出されることとなる。
いくら天才少年でもこの流れは予測できなかった。
いや理屈は分かる。
ティム・マルコーとやらが暴露本だと話していた以上、同一作者の出版している他の書物にも何かしら意味があるのではないかと考えるのはごく自然な発想だろう。
だからと言って常にエロ本と向き合い微に入り細を穿つ日々を送るのは色々な意味で厳しいものがある。
彼はまだ15才。エロ本を読んでいれば当然の如く悶々としてくるし、集中力が落ちれば思考能力も低下する。
あるいはそれを狙ってえっちな本として描かれているのではないか。そんな考えまで出てくる始末。
一発抜いとけば頭もすっきりするかもしれないが、彼にとってライザは賢者の石の重要な手がかりをもたらしてくれた恩人である。
確かにムチムチで刺激的な格好をした人だったのは否定しない。
だが別の意味でお世話になることは色んな意味で避けたかった。
資料を放り出してベッドに横になる。
股間が膨らんでいるのも今は意識しないでおきたかった。
「鋼の。進捗はどうかね?」
ドア越しに掛けられたその声に、彼は即座に臨戦態勢に入った。
机いっぱいに広がる艶やかな光景、元気になった下半身。
ヤツにだけはこの様を見られるわけにはいかなかった。
錬金術すら駆使して即座に散らばった資料を片付け、数式を唱えていきり立った相棒を落ち着かせる。
「開いてるぜ」
「ふむ、失礼する」
現れたのは、便宜上直属の上司となっているロイ・マスタング大佐と、その補佐リザ・ホークアイ中尉だ。
別の意味でも見られなくてよかったと安堵の息を吐いた。
「やけに小奇麗に片付いてるじゃないか」
「うっせ、何の用だよ。大佐も解読を頼まれてるんじゃねえのか?」
「早々に不可能だと見切りを付けた。閣下は解けないのもひとつの成果と仰せだからな」
やれやれと首を振る大佐の姿にマジかよと思いつつ隣に視線を動かしても、どうやら中尉もそれには同意している様子であった。
真面目に取り掛かっていたのは何だったのかと声を大にして言いたかった。
「そんなんでいいのかよ?」
「そもそも君が数年がかりで取り掛かっている暗号を用意できる人物だぞ?一月程度で解読出来るはずがあるまい」
「……あっ」
確かに、言われてみればその通り。
本の著者と彼女がどのような関係かは不明だが、こうも堂々と姿が描かれているのなら無関係ではないはずだ。
少なくとも暗号化の際に手を貸しているのならば、あのレベルを想定するのが当然だと言える。
「端的に言おう、彼女の拠点から密造兵器の山が出た」
「なんだって!?」
彼女の住所を把握しているのだから、調査の手を向かわせないはずがない。
そして現地で発見されたのは、量産、規格化された携行兵器の数々。
全てが彼女の掌の上だとするのなら、忘れたまま出て行ったなどということはありえない。
それらが持っていけなかった余り物だと仮定した場合、軽視できる相手などでは決してないだろう。
「その上で確認したい。君は彼女から何を聞いた?」
場の空気が引き締まる。
賢者の石に関する暗号を手に入れたとは過去に大佐にも伝えたことがある。
その際、彼が名刺を持っていたという縁で再度彼女の元を訪れることになった。
……おそらく公的に彼女の元を最後に訪問した軍人は、自分だ。
「あの人が何を考えてたかなんてわかんねえよ。ただ、あの暗号のことを聞きに行っただけだ」
「ではその暗号とやらを見せたまえ。この状況で嫌とは言わせん」
「ちっ……おらよ」
竜のつの二本。ドンケルハイト。エリキシル剤。
それは荒唐無稽な材料ばかりが記された、あまりにも簡素な暗号文。
「……君は本当にこんなものを頼りに研究していたのかね?」
「あんだよ文句あんのか?仕方ねーだろ、元から伝説上の遺物なんだぜ?」
数年に渡りさまざまな伝承や文献を調査した結果、一番信憑性が高かったのがこのレシピなのだ。
彼女の言葉を信じるのなら、作ったことがないというのに弟子にまで伝えている代物。
しかも叩けば埃が出るように当人からぽろぽろ情報が出る始末。
少なくとも何の方針もなしに探し回るより遥かにマシだろう。
そもそもが賢者の石なんてのは伝説上の物品だ。
軍で紛い物が研究されるような、不老不死さえもたらす伝説の――
「大佐」
「――何に気付いた?」
「大佐もあの人と顔を合わせてるんだよな……何歳に見えた?」
「ふむ?……17か18と言ったところか、20を超えているようには……」
そこまで呟いて言葉が切れる。
気付いたからだ。自身の発した言葉に明らかな違和感が含まれていると。
「……個人医院を開設している医師が17かそこらだと?いくらなんでも若過ぎる」
「正規の医師として働けるのは最短でも26歳。大佐に名刺を渡したんなら無免許ってわけでもないはずだ」
ここにいる彼らは国家錬金術師。国内有数の頭脳を持つものたち。
奇妙な符合がパズルのピースのように組み上がっていく。
そして次に違和感を持ったのは大佐の方だ。
自分とエドワードが、同じ違和感を感じたという、飛び切りの違和感。
「鋼の、こちらからも確認させろ。君の目から見て、彼女はいくつだった?」
「大佐と同じだぜ。俺より少し上くらいじゃないか?」
「ありえん……私が彼女と会ったのは8年前だぞ!?」
「ってことはあのナリで最低でも34……本当に年を取ってないってのか……っ!」
二人の脳裏に浮かぶのはあまりにも若々しいむっちりとした美少女の姿。
誰がどう見ても情欲を掻き立てられるはずのその様は、だが、情報を整理する毎に得体の知れない何かとして浮き彫りになってくる。
「賢者の石は大抵の場合不老不死とセットで語られてる。だけど伝承を読み解く限り、石は錬金術の増幅装置ってのが通説だ。……なら、そんな道具を使って不老不死を実現するためには、どうすりゃいいと思う?」
「傷を負ったのなら治せばいい、老化による体組織の劣化も同様に。……医療系の錬金術というわけか」
「あぁ、それにあの人が言ってたこともある。『この賢者の石はパイの具材として作られたものだ』ってな」
「パイの具材?……なるほど、確かにそれならば理屈が通る。体内に取り込んだのだな、石の力を使い続けるために……!」
天才たちの理論に破綻はない。
もはやここまで来れば否定できる要素など、何もない。
錬金術師ライザは年を取らない。
その身に賢者の石を納めた不死なる存在であるのだと。
Q・密造兵器作ってたってマジ?
A・遊びで作ってたアトリエ再現アイテムのことです(18話参照)
・捕捉
アメストリスで医師免許に年齢制限があるのかは謎です。
原作のお医者さんはウィンリィ以外おっさんばっかなのでたぶんあるんじゃないでしょうか。
この作品では日本の26歳(医学部の卒業+臨床研修)とさせていただいています。
仮になかったとしてもライザの外見年齢で個人医院は無理があります。
あとエロ本ネキは全力で若作りしてるだけなので別に不老不死とかじゃないです。