ただし賢者の石は尻から出る   作:こまつな

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098 リザ・ホークアイ

「あっ、よかった!目が覚めたんですね!」

 

 顔を覗き込んできたのは事態の中心にいたはずの少女だった。

 

 軽く見回せば、共にこの地に訪れた仲間達も、ライザの確保に動いていたらしい他の陣営の者も、意識を失っていた自身と同様に、周囲の様子を窺いながら身を起こしているのが目に映った。

 

 焔の錬金術師、ロイ・マスタングも。

 鋼の錬金術師、エドワード・エルリックも。

 豪腕の錬金術師、アレックス・ルイ・アームストロングも。

 まして一般人であるハボック夫妻や非錬金術師の自分達軍人も。

 

 誰一人として理解が及ばず、何の対処も出来なかった謎の現象は、目の前の少女に何の影響も及ぼさなかったのだろうか。

 

 錬金術師ライザ。

 実年齢を考えれば少女と呼んでよいのかも悩む、ある種異形の存在。

 

「貴女は知っていたのですか?今のが何なのか、何故起こったのか、誰が起こしたのかを」

 

 気を失う寸前、彼女が口にした言葉を思い返す。

 

 【ちくわ大明神】

 

 それはこの国の言葉ではなく、何かの名を指すものだったのだろう。

 おそらくそれが、彼女が辿り着いた黒幕の正体。

 軍に所属する自分達が暴かなければならなかったはずの、この国の裏側にいた何か。

 

「何も知らなかった。全部ただの偶然だ。……そう言ったとして、信じてもらえますか?」

「まさか。そうであれば貴女はこの場に居なかったでしょう」

「ですよねー……他の人も診ないとなので、その話はまたあとで」

 

 苦笑を浮かべながら逃げるように去っていく先には、小柄な黒髪の少女の姿。

 結局ハボック夫妻は巻き込まれただけだったのか、それさえも今の情報量では足りていないのだ。

 

「正直頭が痛いな」

「大佐、ご無事でしたか」

「検査でもせねば本当に無事かは分からんがね。……なんだったんだ、さっきのは」

 

 まるで苦しみの渦の中にいるようだった。

 信頼する上司もまた、自身と同じような感想を抱いていたのか。

 

「彼女が引き起こしたものなのか、はたまたアレから人々を救うために活動していたのか。……我々は彼女のことを何も知りません」

「犯人ならとうに逃げていたのかもしれんが……事実上、アメストリスという国は彼女一人に敗北したのだろう。表はもちろん、裏側もな」

「推定不老不死の在野の錬金術師ですか。国軍に勧誘してはいかがです?」

「無茶を言うな。そんなものどう考えても持て余すだろうに」

 

 肩を竦めてやれやれと首を振るその姿に焦りは見られない。

 流石に得体の知れない部外者も居る以上、警戒を解くわけにはいかないが。

 

「……もう危険はないのでしょうか」

「次にアレが起こるのなら数百年後だ。過剰に警戒しても疲れるだけだろう」

 

 錬金術の観点から見て、絶大な力を発揮する皆既日食。そんなものを利用した超大規模な練成。

 それが先ほど起きた、意識を失うほどの何かだろうと、大佐は語る。

 

 共に意識を失い、共に似たような夢を見る。

 そのタイミングで起こった不可解な現象をただの偶然と呼ぶわけにはいかないだろう。

 

「問題は山積みだな。今回の件でブラッドレイ政権に皹が入った以上、政変は避けられん」

「忙しくなりますね」

「我々は軍の中でも飛び抜けて有利な状況にある。折角上の席も空いたのだ、精々利用させてもらおうじゃないか」

 

 焔の点いた目で先を見つめる上司は歩みを止めないだろう。

 視線の先がムチエロ錬金術師に向いているのを注意すべきか否かは現状だと微妙に判断に困る。

 

 

 リザ(Liza)・ホークアイ個人として、ただひとつだけ不満を挙げさせてもらえるのならば。

 ライザ(Liza)というタイトルのエロ本をばら撒いた輩はいささか以上に許容しづらい相手であるのだが。

 

 偶然の一致とは恐ろしいものであると。

 心の底からそう思うのであった。

 

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