ただし賢者の石は尻から出る   作:こまつな

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099 マリア・ロス

 どうしてこうなった。

 マリア・ロス少尉は声を大にして言いたかった。

 

 だがその言葉を口にしたとして、無常にもかき消されるだろうことは容易に想像できた。

 

 何故なら。

 

「みんなー!今日はあたしたちの為に集まってくれてー!ありがとーーーーーーーーーーっ!!」

「「「「「「うおおぉぉライザああぁぁぁぁ!!!」」」」」」

 

 大舞台を用意した輩も、それに群がっている野郎共も、そんな呟きなど耳に入らないくらい大騒ぎしているからである。

 

 

 

「アル!しっかりしろ!アルフォンス!」

 

 彼女が目を覚ましたときには事態は進行していた。

 一体何が起きたのかは、覚醒したばかりでは分からない。

 

 だが、誰に起きたのかはその悲鳴で理解出来て。

 誰が行ったのかという推測も、現状においてはそう難しいものではなかったのだ。

 

「動かないでください。……原因は貴女ですか?」

「ちちち違いますよ!?本当にあたしなにもやってないです!」

 

 それは近代アメストリスにおけるエロスの権化。

 大きくさらけ出した二の腕におなか、トレードマークのむちむちのふともも。

 十人が十人振り返り、そのうち五人は二度見するような瑞々しい美少女は、あわあわと身振り手振りで無罪を主張していた。

 

「鋼の、何があった?」

「わからねえ、だけどさっき意識を失ってから目覚めないんだ」

「他に異常が出ている者はいないか?……いないな。であれば、彼にしかない特性が原因と考えるべきだろう」

 

 アルフォンスの秘密を、鎧の中に肉体が存在しないことを知っている者は少ない。

 この場でそれを理解しているのは僅かに三人だけ。

 

「あ、あの、よかったらあたしが診ましょうか……?」

 

 そしてそれを知らない、最も疑われているはずの人間が、名乗りを上げる。

 

 そういえばこの人こんな格好だけど医者だったっけと、脳裏によぎる者もいた。

 マリア・ロス少尉もその一人だった。

 

「……頼む!」

「アルフォンスにはかなり特殊な事情がある。ここだけの話に留めて欲しい」

 

 国家錬金術師の二人は視線を交わし、ある意味で彼らより先を往く術者の意見を聞くことを選択した。

 

「守秘義務は守りますよ!それじゃ失礼して…………からっぽ?」

 

 その格好でお医者さんは無理でしょと言いたくなる少女は治療のために苦戦しつつも鎧を外し。

 

 そこには空の鎧が横たわっているという事実に目を瞬かせる。

 

「……聞きたくないけど、すっごく聞きたくないけど!……事情をお願いします」

 

 引きつった笑みを頬に貼り付け、冷や汗をだらだらと流しながら。

 それでも医師としての仕事を全うすべく、少女は現状の理解に努める。

 

 語られるのはエドワード・エルリックの真実。

 死んだ母を練成しようとしたこと。リバウンドで弟と片足を失ったこと。

 そして、片腕を対価に弟の魂を鎧に定着させることに成功したこと。

 

 聞くんじゃなかったと頭を抱えながら、むちむち錬金術師は見解を告げる。

 

「……魂を引っ張ってくるだけじゃダメだね。多少無茶してでも完全に復活させないと取り返しが付かなくなるよ」

「……っ!詳しく教えてくれ!」

「空っぽの鎧が動いてた理屈とか、魂の定着理論とかツッコミどころはいっぱいあるけど!……鎧を動かしてた運動エネルギーってどこから持ってきてるの?弟さんの魂から直接搾り出してるでもないと説明が付かない」

 

 その言葉に、エドワードの背筋が凍る。

 

 人間の魂を錬金術に用いることが出来る。

 それはマルコーの暴露した軍の実験で既に証明されてしまっている。

 

 アルフォンスが鎧の身体になって何年経った?どれほど消耗した?

 そもそも、人間の魂などと言うものは、磨耗してしまえば元に戻るのか?

 

「鋼のは自分の腕を対価にアルフォンスの魂のみを引っ張り出した。全身となると、どれほどの対価を要求されるか……」

「んー魂の質量が21gで、子供の腕一本ならだいたい2kgちょっとかな?ざっくり全身で42kgなら4トンくらい用意すればいいんじゃないの?」

 

 気の抜けた声で応えたのは、この地へと同行していた黒髪の少女だった。

 彼らに保護され、だがそれ以前は、錬金術師ライザに直接師事していた人物。

 

「魂の、質量だって……!?」

「まってまって、アメストリスに魂の測量に関する学術書は出回ってないよ。……軍の暗部を漁れば出てくるかもしれないけど」

「あれ、そうなん?まあレートが分かってるなら単純計算でいいでしょ。10000人も集めれば一人400gで献血の範囲内、十分いけるって。ライザの握手会やるって言ったらそんくらい集まるんじゃない?」

「あたしが表に出ちゃっていいのかなぁ……」

 

 あまりにもあっさりと国家錬金術師さえ把握していない知見を語り合う師弟。

 周囲が絶句する中で、二人は粛々と理論を積み上げてゆく。

 

「エドワード君も知らなかったっぽいし、たぶんゼロからの再構築じゃないよね。引っ張り出したってことは量子テレポートの類かな?……そういえば口寄せの術ってどこまで研究進んだの?」

「量子テレポート理論とか仮組みも仮組みなんだけど……てか魂だけ持ってくるとか逆に難易度高くない???」

「あ、仮にでも出来てるんだ。相手側の座標指定は成立してるみたいだし、理解が深まればリバウンドも軽くなるから参考程度に見てもらえばいいと思うよ?」

 

 今更ライザの能力を疑うものなどこの場には居ない。

 

 だが、これほどなのか。

 この国の最高峰をして理解が及ばないほどに、彼女の能力は隔絶しているというのか。

 

「ま、待ってくれ!関係ない人たちを巻き込むわけにはいかない!」

「え、知り合いにお願いするだけじゃん。それの何がいけないんだ?」

 

 あるいはそれが、軍属である彼らと、民間に根を張る彼女達との一番の違いなのかもしれない。

 

「エドワード君。誰かに助けを求めるのは、別に悪いことじゃないんだよ?」

 

 一は全(ひとりはみんなのために)全は一(みんなはひとりのために)

 錬金術師よ、大衆の為にあれ。

 

 たとえそれが錬金術師であったとしても、大衆のひとりに過ぎないのだから。

 

 

 

 かくして、むちむち錬禁術師ライザの握手券付きライブチケットは飛ぶように売り切れることとなったのだった。

 




Q・なんかそれっぽいこと言ってるけど対価足りるの?
A・エドが練成したとき、アルの魂は人体練成の生成物の中にいました。
  なので扉から引っ張り出したというよりは別の場所に移しただけと考えることもできます。
  その場合エドの腕は通行料として徴収されただけであり、魂を移設するコストは明示されていないことになります。
  アルが練成したときも通行料+エドの腕が魂の重さと吊り合った形になるでしょう。

  真理は自分で何でも出来ると思い上がった奴に制裁、と言う感じなので
  誰かに助けを求めるのもアリなのではないでしょうか。


  原作の表現通りに考えても一番重い魂がエドの腕一本なので10000人も集めたらむしろ過剰かと。
  多少の怪我ならエロ本ネキが治療するため参加者はちゃんと握手もできます。




Q・つまり?
A・(対価にするのは)錬金術がなくてもみんな(ライザファン)がいるさ!
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