だが、彼は完璧になどなれなかったのだ。
寝起きの重たい体を起こす。
枕元の時計は午前6:50を指している。
早く起きて学校に行く準備をしなければ。
ヒロヒデ
俺の名前は公英。
勉強も運動も、天才って訳ではないがそれなりにできる方だと思っている。
小学校の頃からテストは90点以上を安定して取れていたし、中学に入ってからも75点以上は当たり前だった。
体育だって成績2以下をとったことはないし、一度だけだが部活でやってるバスケで大会のチームのメンバーになったこともある。
親だって褒めてくれてたし、それなりに幸せだと思っていた。
妹が生まれるまでは。
ユリ
妹…友梨は、文字通り天才だった。
テストは小学から中学まで90〜100点だけ。
小学校の頃たまたま興味を引かれて初めたらしいバレーボールでは、初めて1年も経たずに全国大会のメンバーに選ばれるほどだった。
そして人当たりがいい上に美形。
人脈にも才能にも恵まれた友梨は、俺への親の興味を根こそぎ奪い去っていった。
お小遣いは友梨の方が上。
クリスマスも誕生日も、リクエストが通るのは友梨だけ。
友梨が食卓で「アレが欲しい」といえば、1週間以内にソレが買い与えられる。
親は、出来損ないの俺と比べるにも失礼なほど輝く妹にだけ愛情を注ぐようになった。
逆に俺に対しては冷たくなる一方だった。
なにをするにしても友梨と比べ、嘲笑する。
俺が「アレが欲しい」と何度も懇願しようと、「兄だから我慢しろ」と言われる。
妹が俺にした結構重大なイタズラは笑って見過ごすのに、俺が妹にした些細なイタズラには過度なほどに怒鳴り散らかす。
やがて、俺は存在価値を失っていった。
友梨が嫌いなわけではない。
友梨は俺にも普通に話しかけるし、いつだって笑いかけてくれる。
時々ケンカをしたりすることもあるけど、次の日には謝ってきてくれる。
面白いことを見つけた時は、共有してくれる。
本当に、理想の妹なんだろう。
だが、俺はそんな友梨を受け入れなかった。
友梨を見るたびに、親のあの怒鳴り声が頭に響く。
友梨さえいなければ、俺は今まで通り幸せだったのに。
そんな、嫉妬という言葉すら勿体無いほどの小さな憎悪を、俺は妹に向けてしまった。
話しかけられても極力無視。
視界に入ってくるようなら手で押し退ける。
何かを渡そうとしてきても、拒否する。
そういうことをするたびに、胸の奥が少し痛む。
でも俺は友梨の残念そうな、泣いてしまいそうな顔をチラリと見て自分に言い聞かせた。
「俺は妹なんか大嫌いなんだ」と。
ある日、親に呼び出された。
ゲームを無理矢理中断させられた俺は、ため息をつきながらリビングに向かう。
座る椅子も用意されないまま、母が話を切り出した。
「アンタ、友梨ちゃんの物取ってないでしょうね」
「は?何言ってんだよ母さん。取るわけないだろ」
「友梨ちゃんが、大切にしてたボールペンが無い、って言うのよ。アンタが取ったってことしか有り得ないわ」
「いや、本当に意味わかんないんだけど。第一俺が友梨のボールペン取る理由なんてないだろ」
「うるさい!アンタ、兄のくせに可愛い妹に優しくしないどころか、物まで取るなんて!最低ね!6ヶ月お小遣いは無しだからね!」
「……どうせあっても端金程度だろ…はいはい、分かりました」
「ちゃんと返しなさいよ!」
失意と苛つきを抱えて部屋に戻る。
再びゲーム機の電源をつけ、中断していたデータを再開した。
しばらくすると、部屋のドアが開く。
「…お兄ちゃん?」
友梨らしい。
「……何?」
「…お兄ちゃん、ごめんね、さっきは。ボールペン、筆箱の奥の方にあったの」
「は?」
「いや、お兄ちゃんが取ったなんて思ってないよ!…ただ、無くしたってお母さんに言ったら話が膨らんじゃって…」
「…お前さ…」
「私からお母さんにちゃんと話したよ!お兄ちゃんは人の物取るような性格じゃないって!…でも、聞いてくれなくて」
「……無駄じゃねえかよ。俺がゲームできなかった時間も、無駄に怒鳴られた時間も全部」
「ご、ごめん…」
「ごめんじゃ済まされねーよ。さっさと失せろ」
「………」
友梨は、そっとドアを閉じて部屋を出ていった。
気分がすっとした気がする。
なのに、何故こんなに胸が苦しいのだろうか。
苛つきのせいだと決めつけ、再びゲームを続けた。
ある日の食卓。
「友梨ちゃん、今日テストだったでしょ?どうだった?」
「うーん…正直あんま調子良くなかったかも」
「ホントー?友梨ちゃんはそうやって、いつも高得点取っちゃうんだから!本当に、公英とはえらい違いねぇ…」
「……」
「…アンタも今日テストでしょ?」
「…そうだよ。調子はいい感じだった。どうなるかは返されるまで知らんけど…」
「別にアンタに期待はしてないの。せいぜいいつも通り平均点の10点上とかでも取ってれば?」
「……」
「ちょっと、言い過ぎだよお母さん。お兄ちゃんだって頭いいんだから!それに、時々だけどお勉強とか教えてもらってるし…」
「友梨ちゃんの頭の良さは元からでしょ?こんな兄なんかの教えなんてタメになるどころか、毒よ毒!あ、そうだ、せっかくだし、あの有名な○○塾にでも通ってみる?ねぇ、父さん」
「あぁ、そうだな。公英に使うよりよっぽどいい」
「…いいって、そんなことしなくてもお兄ちゃんがいるし」
「ま、塾なんて行かなくても友梨は天才だろうがな!はっはっはっ…」
「……ご馳走様」
「あ、アンタ!食器洗っときなさいよ!」
「はいはい」
さっさと食器を洗って、足早に部屋に戻る。
妹に勉強を教えてたのは事実だ。
時々、優越感を少しでも得るためにと自分の学年レベルでも難しい問題を教えてやってる。
解説してやるためにわざわざ自分もできるようにしなきゃいけないのが手間ではあるが、唯一と言っていい友梨に勝てる手段である。
といっても、友梨は少し教えればすぐに解いてしまうが。
そう、これは優越感を得るため。
自分のためなんだ。
決して、友梨が教えてほしいと押しかけてくるから教えてやってる訳ではない…
「アンタ!65点ってどういうことよ!」
「………」
「こんっっな、ひっくい点数出して!恥ずかしいと思わないの!?」
「…だってさ、今回のテストそもそも平均が低いんだよ。平均43点だよ!それに比べたら全然たか…」
「そういうことじゃないの!アンタは友梨ちゃんの兄でしょ!?兄として友梨ちゃんのレベルまで達しようとは思わないの!?友梨ちゃんだったら、こんなテスト余裕で100点取るわよ!」
「俺だって頑張ってんだよ!…でも、どうやったってできないんだよ!友梨は天才なんだ!俺なんかよりよっぽど…!」
涙が浮かび上がってくる。
「…ほんっと、アンタは出来損ないね。もういいわ、もうアンタなんかに金なんて一銭も出さないから」
「…………は?」
「高校だって中退させるし、何も買わせない。別に家出てっても構わないから。賃貸料なんて渡さないから、自分で働きなさい」
「………何、言って…」
「ま、アンタなんかにそんな器用なことできないでしょうけど」
「……………」
突然言い渡された、育児放棄宣言。
理解が追いつかない。涙すら引っ込んでいった。
部屋に戻る。
「出来損ない」
…分かってはいた。そんなこと。
俺は出来損ないで、何もできないただのゴミだってことくらい。
でも、こうして突きつけられるとやはり辛い。
俺は、これからどうして生きていけばいいのだろうか。
考える気力すら起きず、ベッドに横たわって眠りに就いた。
扉をノックされる。
「……お兄ちゃん」
友梨だ。
「…大丈夫?」
「………大丈夫に見えるか」
悲哀に満ちた重い体を起こす。
枕元の時計は午後7:53を指している。
「……ご飯、来なかったから心配しちゃって。お腹空いてるでしょ?」
「………いい」
「ダメ、死んじゃうよ」
「………どうせ追い払われるだけだろ。それに、俺の分なんて作ってないだろ?」
「…………そう、だね…でも、私の分、分けてあげるから。だから、一緒に…」
「うるせぇよっ!」
「ひっ…」
「お前さえっ…お前さえいなけりゃこんなことにもならなかったんだよ!」
「…」
「お前がいなけりゃ、俺は今頃いつも通りお前みたいに机囲んで飯食って、今回のテストは良かったね、なんて他愛もない話しながら幸せに過ごしてたんだよ!」
「……ご、ごめ…」
「お前さえいなけりゃ!俺が高校中退することも!飯食えないことも!金すら出してもらえないことも無かった!それなのにっ…!お前の、せいでっ…」
「……高校…辞める…?な、なんで…」
「………失望されたんだよ」
「…何で」
「テストの点数。65点だった。それだけだよ」
「…で、でも!65点って、上出来だよ!赤点…?…っていうのも、回避できてるんでしょ!?それにっ、言ってたでしょ!今回のテスト、すごい難しかったって!そんなテストで65点なんて…!すごいことだよっ…!」
「……でも、お前のせいで低いことにされたんだよ。お前なら90点だって余裕だって。俺は兄のくせに妹に追いつけすらしないクズだって」
「そんなっ…そんなこと…ないのにっ…!」
「………出てけ。お前なんか見たくもないし声も聞きたくない」
「……………ごめん、ね…」
ドアが閉じた。
その日を境に、俺の生活は変わった。
飯は作られないから、貯めてた金でガスコンロを買ってお湯を沸かし、カップラーメンで日を凌ぐようになった。
俺が深夜に家を出ようと、親は何も言わない。それだけは好都合だ。
どうせ部屋を出ても何もすることはないので、ずっと部屋でゲームをし続ける日々になった。
いわゆる引きこもりというやつだ。
邪魔が入らない分、前よりは快適かもしれない。
ただ、一つ変わったことがあるとしたら、妹のことだ。
あれから友梨は、毎日のように部屋を訪ねてくる。
別に入ってきて何かするわけでもなく、ただ今日の出来事だとか、何の変哲もない相談事とかを話にくるだけだ。
「今日は学校でドッヂボール大会があった」だとか「部活ですごく高いボールをブロックできた」だとか「お兄ちゃんの事をクラスメイトに言ったら羨ましいって言ってた」だとか。
ゲームの邪魔だし、大して面白くもないのでいつもは聴き流している。
今日も重い体を奮い立たせ、画面へ向かう。
今日はMMOのレイドイベントの開始日だ、気合いを入れて取り組まねば。
そんな時に、ドアを叩く音がした。
「…お兄ちゃ〜ん」
「……」
「ねね、今日は一緒にゲームしようよ」
「あっそ」
「じゃじゃ〜ん!コツコツお小遣い貯めて買ったんだ!スプラトゥーン 3!」
「あっそ」
「せっかくだし、一緒に遊ぼ!発売したばっかなんだし!」
「…配信開始は明後日からだぞ」
「えっ…ホント?じゃあ、遊べないの?」
「…あぁ」
「そんな〜…楽しみにしてたんだけどなぁ〜…」
「……じゃあ、明後日やってやるから。その日持ってきて」
「…!うんっ!」
時々、嬉しそうな友梨の顔を見ると少しだけ心が埋まるような気分になる。
…いや、違う。
友梨なんかが、俺の生活の癒しなんかになってる訳ないだろう。
人と話す事自体が一種のセラピーのようになってるだけに違いない。ああ、そうだ。
今日も友梨が部屋を訪ねてきた。
「やっほ〜、お兄ちゃん」
「また来たのか…」
「だって心配だもん、頼むから死んじゃわないでよね?」
「……」
「…お兄ちゃん?」
「……友梨」
「…?」
でも、その日はいつもと違った。
「もしも俺が死んだり…いなくなったりしたら」
「……え?」
「頼むから、忘れてくれ」
…私は、久しぶりに「お願い」をした。
「………何、言ってるの?忘れるわけないじゃん…!死なせもしないしっ…!いなくなったりもさせないよっ…!」
「頼む、家族としてのお願いだ」
「………っ…」
友梨は相変わらず泣きそうな顔をしている。
「……よろしくな」
「…」
そして、そのまま何も言わずに部屋を出ていった。
自分の体の限界は、すでによく分かっていた。
こんな不健康な生活を送っていて、長生きできるはずもない。
俺が死んで、友梨の心に深い傷が残ったらそれこそ一族の恥だ。
こんな俺が、優秀な友梨の足枷になってはいけないのだ。
これは、一族のため。
俺のため。
決して…友梨のためでは、ないのだ。
______________
今日もお日様にキスをされる。
時計は午前6:50を指してた。
リビングに向かうと、親が笑顔でこう言う。
「あらおはよう、友梨ちゃん。朝ごはんできてるわよ」
「はーい」
とてもいい親だ。
少なくとも、私には。
私には、2個上のお兄ちゃんがいる。
だが、そのお兄ちゃんは今「いなかったこと」にされてる。
つまるところ、育児放棄だ。
でも、私はそれを認めていない。
親が何と言おうと、お兄ちゃんは私の憧れなんだ。
そんなこんなで、今のお兄ちゃんは部屋に引きこもってる。
とはいえ、そんな状態だと精神衛生が不安なので、私はほぼ毎日お兄ちゃんの部屋を訪ねる。
少しでも会話してあげた方が精神的に楽だとネットで見たからだ。
実際、引きこもりたての頃に比べて今はかなり楽そうな表情をしている。
このまま私が自立できるくらいまで成長して、一緒に家を出て一緒に暮らす。
それが私の目標であり夢であった。
だから、それまで生きてられるように。
私は今日もお兄ちゃんのところに足を運んだ。
「お兄ちゃ〜ん、朝だよ〜」
扉をノックし、開けながら言う。
「お兄ちゃ〜ん?起きてる〜?」
返事がない。
「…入るよ」
部屋に入る。
椅子にお兄ちゃんが座ったまま机に突っ伏していた。
…きっと寝てるだけ。
だらしないなぁ。
起こしてあげよう。
「おーい、お兄ちゃ〜ん」
返事はない。
不安が喉に詰まる。
「…お兄ちゃん、起きてよ」
不安が目まで昇ってきた。
「起きてっ…!」
体をゆする。
それでもお兄ちゃんは起きない。
「起きてよっ…!」
涙でガラガラの声で、叫ぶ。
それでもお兄ちゃんは起きない。
まだ、まだだ。
まだ希望はある。
とりあえず119だ。
助からないと決まったわけではない。まだお兄ちゃんは生きてる。
「……119番、消防署です。火事ですか?救急ですか?」
「きゅ、救急ですっ!」
「あなたのお名前と住所を…」
「友梨っ!神楽坂友梨ですっ!住所はっ………!」
「近くに目印になるようなものは?」
「えっと、えっと…!赤色!赤色の屋根です!3階建てです!」
「今のお使いの番号は?」
「………………!」
「分かりました。どなたがどうされたんですか?」
「お兄ちゃんが…!朝起こしにいったら机に突っ伏したまま起きないんです!えっと…!年齢!年齢は17歳で…」
「分かりました。ではその方を安静な姿勢にしておいてください。すぐに救急車を向かわせます」
「はいっ!よろしくお願いしますっ…!」
まだまだ脳がパニック状態だが、なんとか間違わずに言えた。
とりあえずお兄ちゃんを椅子から下ろしてベッドに寝させる。
ふと、昨日話されたことを思い出す。
「頼むから、忘れてくれ」
嫌だ。忘れるものか。
見捨てたりなんてするものか。
泣き喚きたくなる衝動を抑えながら、お兄ちゃんを見守る。
「友梨ちゃん〜?どうしたの〜?」
母がリビングから声を張り上げる。
血族が意識不明だと言うのに呑気だと呆れ返った。
「うるさいっ!とにかく玄関のドア開けてっ!救急車来るからっ!」
できるだけ声を張り上げて言う。
「救急車!?友梨ちゃん、どこか具合悪いのっ!?」
「私じゃないっ!お兄ちゃんがっ!!とにかく指示に従って!」
「…お兄ちゃん?友梨ちゃんに兄なんか…」
「いいから早くっっ!!!」
強い威圧をかけると、流石に母も勘弁したらしい。
「……う、うん」
数分すると、救急車のサイレンが聞こえた。
「…お兄ちゃん、もう少し頑張ってっ…」
耳元で囁いた後、玄関に向かう。
ちょうど到着したらしい。
「救急隊です!あなたのお兄様はどちらに?」
「2階の部屋です!案内するのでついてきてください!」
「はい!」
小走りで部屋に向かう。
途中にすれ違った母の目はまるで蛇のようだった。
「ここですっ!」
部屋に着く。
お兄ちゃんが担架に乗せられ、運ばれる。
とりあえず一安心だ。
「できればあなた、ご同行願いますか?」
「もちろんです、むしろさせてください」
救急車に一緒に乗り込んだ後、扉が閉められて発車した。
「お兄様がこのような状態になった心当たり等はありますか?」
救急隊員が聞いてくる。
「…とある事情があって、お兄ちゃん引きこもりになったんです。それで、カップラーメンしか食べなくなっちゃって…それが原因なんですかね?」
「なるほど…他には?」
「……ストレス、ですかね」
「はいはいはい…ありがとうございます」
……病室で、お兄ちゃんは静かに寝ている。
その後、手術によってお兄ちゃんは一命を取り留めた。
いわゆる生活習慣病の一つである心筋梗塞を発症したらしい。
原因はやはり塩分糖分の摂りすぎとストレス。
幸い、このままリハビリを続ければ退院して普通の生活には戻れるとのことだ。
遅くても3年ぐらい、とのこと。
あの後、親の慌て無さを不審に思った救急隊員が警察に通報をしたらしい。
そして、取り調べが行われ両親には逮捕状が出された。
近々判決が下るらしい。
そうなると困るのが、我々の生活場所だ。
警察の人は「保護施設という手がある」と提案してくれた。
だが、私たちは二人だけであの家に住むことに決めた。
あの親から解放され二人で生きていくことができるようになったのだ。
幸い、二人とも大人の手助けなしに生きることができるくらいの年齢だ。
きっと、大丈夫だろう。
私やお兄ちゃんの学費やリハビリ費などは保険や生活保護などで負担してくれるらしい。
めでたく、ハッピーエンドというわけだ。
______________
見知らぬ天井を見ながら、重い体を起こす。
枕元の時計がないが、壁掛けの時計はあった。午後21:13らしい。
周りを見渡すと、最初に誰かが目についた。
あれは…友梨。
「……友梨?」
「……!お兄ちゃんっっ!!」
名前を呼ぶと、犬みたいに飛びついてきた。
「うわっ!ビックリしたっ…こ、ここはどこなんだ?」
「……ここね、病室。お兄ちゃん、この前意識無くなってたんだよ?」
「…え、マジ?」
「マジマジのマジだよ。危うく死んじゃうところだったんだから」
「…誰が、ここに連れてきてくれたんだ?」
「……ふふ、何を隠そう、この私こそがお兄ちゃんの命を救ったヒーローなのだよ」
「…友梨」
「…なぁに?」
「ありがとう」
「……初めて、心からのお礼貰ったかも」
「…うるさい、親のせいで素直になれなかったんだし…」
「私、知ってたよ?お兄ちゃんが本当は私のこと嫌いじゃないってこと」
「…………バレてた、か」
「バレバレだよ。だってお兄ちゃん、勉強も教えてくれたし手助けだってたまにしてくれたし、言葉には出てなくても行動でバレバレだったよ」
「…ああ、そうだよ。お前のことは嫌いじゃない、むしろ妹としては最高だって思ってた」
「じゃあ最初っから素直でいてくれたらよかったのに〜!」
「あんな境遇で素直でいられるかよ…あ、そういえば親はどうなったんだ?」
「親?どっちも逮捕されたよ、育児放棄と虐待でね」
「…じゃあ、つまり俺たちは…どうなるんだ?」
「…えへへ、二人暮らしだよ!」
「…二人暮らし?」
「うん!あの家でいつも通り二人で暮らすの!お兄ちゃんはリハビリがあるけど、そういう費用は負担してくれるって」
「…でも、俺何もできないぞ?」
「何もできない?勉強もできて運動もできて、なによりも優しいお兄ちゃんが何もできない訳、ないじゃん!」
「……そう、か」
「だから、これからは胸張って生きよ?」
「…ありがとう…うん、そうだな。俺は…」
「「出来損ない、なんかじゃない」」
「…んだな」
「…うん。お兄ちゃんは、私の憧れのお兄ちゃん、なんだから」