バカと仲間と異世界冒険記!   作:mos

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エピローグ

 ――とある休日

 

 それは青空の広がるよく晴れた日だった。この日、僕は美波と共に家でのんびりと遊んでいた。

 

 彼女と過ごす(とき)は心地よい。一緒に勉強するのも悪くないが、やはりこうして遊んでいる時が一番楽しい。

 

 ……

 

 けど……。

 

「どうしたのアキ? 浮かない顔しちゃって」

「ん。いや、なんでもないよ」

「嘘ね」

 

 ……彼女には僕の頭の中が見えるんだろうか。

 

「はは……やっぱりバレちゃうか」

「そりゃそうよ。だってアンタってすぐ顔に出るんだもの。それで何を悩んでるの?」

「んー。悩んでいるというかなんというか……」

「相談に乗るわよ? 言ってみなさいよ」

 

 まぁ、誤魔化してもまたすぐにバレるか。

 

「それじゃ正直に話すよ。実は今日ずっと思ってたことがあってさ。聞くべきか迷ってたんだ」

「ウチに遠慮なんかしなくていいのに。いいから言いなさいよ」

「うん。それじゃ聞くけどさ、せっかく補習もないっていうのに、出掛けたりしなくて良かったの?」

「出掛ける? どこに?」

「いや、美波は買い物とかに行きたかったんじゃないのかなって思ってたんだけど……」

「別にいいわよ。一緒に出掛けるだけがデートってわけでもないでしょ?」

「そんなもんかな?」

「そんなものよ。それにアンタ買い物するお金なんてないでしょ?」

「まぁそうなんだけどね」

 

 今週末は補習もないので一緒に遊ぶ約束をしていた。言い出したのは美波だった。つまりデートの約束だ。

 

 例の事件――召喚システムが携帯ゲーム機と融合し、召喚獣の世界に閉じ込められてしまったあの事件から2週間が経とうとしている。あの日以来、登校時の持ち物検査は続けられている。おかげで教科書やノート、筆記用具以外を学校に持ち込めなくなってしまった。

 

 このことにより、HR(ホームルーム)後のFクラス教室は一瞬で無人になる。最初は学年全体から酷く恨まれたが、この頃にはほとぼりも冷め、落ち着いた生活を送れるようになっていた。

 

「そうそう、聞いてアキ。土屋ったらまだ愛子に答えてないらしいのよ」

「答えるって、何を?」

「決まってるじゃない。告白の答えよ」

「へぇ~。そうなんだ」

「あんまり感心なさそうね」

「いや、そんなことないよ? ただあいつが女の子と付き合うとか想像できなくてさ」

 

 まぁ僕もこうして女の子と付き合う日が来るなんて思わなかったけどね。

 

「そうね。土屋ってばすぐに鼻血吹いて倒れちゃうものね」

「そうなんだよね。だから工藤さんに抱きつかれたりしたら耐えられないんじゃないかなって思ってさ」

「ふふ……そうね。愛子にはほどほどにするように言っておくわ」

 

 そういえば以前は美波もよく抱きついてきたなぁ。チョークスリーパー。四の字固め。卍固め。コブラツイスト。腕ひしぎ逆十字固め。ベアハッグなんかもやられたな。

 

 ……

 

 あれ? これって抱きつかれたって言うんだっけ? むしろ痛かった記憶しかないんだけど。

 

「ねぇアキ、この武器ってどうなの?」

「ん? どれ?」

 

 実は今、僕たちは2人でゲームで遊んでいる。ゲームのタイトルは〔ハンターズフロンティア〕。そう、例の事件を引き起こした引き金になったゲームだ。とはいえ、このゲームが悪いわけじゃない。召喚システムに直結していたあのコンセントに繋いだのがいけなかったのだ。それさえ注意していれば問題無いのだ。そもそも、もう学校に持ち込めないのでその注意も必要ないのだけど。

 

「そうだなぁ。悪くはないんだけどオプション性能がちょっと微妙だね」

「ふ~ん。じゃあ売っちゃっていいかしら」

「うん。いいと思うよ」

「じゃ売っちゃうわね。……売却っと」

 

 小さなテーブルを隔てた向かい側で美波がボタンをカチカチと押している。押しているのはもちろん携帯ゲーム機のボタンだ。

 

 言われて僕も驚いたのだけど、なんと先週末に美波もゲーム機を買ったと言うのだ。それもハンターズフロンティアをセットで。

 

 彼女は今までこういったゲームにはあまり興味を示さなかったから、これを言われた時は何か裏があるのではないかと思ってしまったくらいだ。でも理由は単純で、僕と一緒に遊びたかったかららしい。

 

「それにしてもこのゲーム、結構思った通りに動いてくれるのね」

「へっへ~。でしょ~? こうして剣を振るモーションもかっこいいんだよね」

「ウチはこの二刀流が好き。素早くて扱いやすいのよね」

「あ、でもその武器は防御できないから気をつけてね」

「攻撃を受ける前に避ければいんでしょ?」

「うんまぁ、そうなんだけどね」

 

 さすが美波だ。風のように舞い、蝶のように刺す攻撃はお手の物ってわけか。いや、嵐のような怒濤の攻撃かな。あれ? 蝶って刺すんだっけ? なんか違うような気もするけど……ま、いいか。

 

「よし、そろそろレベルも上がってきたし、次の狩り場に行ってみようか」

「はいっアキ先生」

「せ、先生ぃ? 僕が?」

「だってそうでしょ? ゲームに関する知識はウチよりアンタの方がずっと上だもの」

「そうかもしれないけど……それにしたって先生ってのはなぁ」

「ふふ……冗談よ。それより次の狩り場でしょ? どうやって行くの?」

「あ、うん。それじゃまず乗り物を借りて――」

 

 

 冬の休日。彼女を自宅に招いてゲームで遊ぶ。まさかこんな日が来るなんて思わなかった。

 

 

 2週間前、僕たちは召喚獣の世界に閉じ込められてしまった。

 

 

 原因は僕が携帯ゲーム機を召喚システムに繋いでしまったことによる、システムの暴走。最初は何が起きているのかさっぱり分からず、ただ途方に暮れるだけだった。けれど様々な人の助けを借り、僕は――いや、僕たちは全員無事に帰ることができた。

 

 ルミナさん。マルコさん。ウォーレンさん。レナード王。クレアさん。

 

 色々な人に力を貸してもらった。今思えば彼らの協力なしに生還することはできなかったかもしれない。こうして幸せな時間を過ごせるのも、彼らのおかげなのかもしれない。そう思うとあの40日間は僕にとってとても貴重な経験だったように思う。雄二は学園(ババァ)長の策にまんまと乗せられたと面白くなさそうな顔をしていたけどね。

 

「そうだ。ついでに僕の武器も取りに行っていいかな?」

「いいわよ。一緒に行きましょ」

「サンキュー」

 

 このゲームでは長い距離は馬で移動する。馬と言っても馬車ではなく、またがって乗るタイプの馬だ。この馬がなかなかよく出来ていて、たてがみが風になびく様子もリアルに再現しているのだ。と言っても僕は本物の馬に乗ったことなんてないから、あの異世界での馬と比べてるんだけどね。

 

 ……

 

 それにしても……。

 

「この馬の尻尾、美波の髪に似てるよね」

「そうなの?」

「このふわふわってなびく感じが特にね」

「自分では後ろは見えないから分からないのよね」

「あ、そっか」

「ふ~ん。ウチの髪って後ろから見るとこんな感じなのね」

「うん。そんな感じだよ」

「ふぅん……って、何? それ」

「ん? それって?」

「その箸みたいな物のことよ」

「あぁこれ?」

 

 美波が言っているのは僕が手に持っている”トング”のことのようだ。

 

「お菓子を食べながらゲームするとコントローラーが汚れちゃうだろ? 特にポテトチップスなんかだと油でベタベタになっちゃうじゃん?」

「あ、そういうこと。だから箸でつまんでるのね」

「箸というかトングなんだけどね」

 

 実はこれは雄二が持っているのを見て良いと思ったので買ったものだ。最初は面倒かと思ったのだけど、よく考えると指についた油をティッシュで拭きながら遊ぶより断然楽なのだ。

 

「ねぇアキ、ウチにもポテチちょうだい」

「ん。いいよ」

 

 テーブルに置いたポテチの袋をスィと美波の方に寄せる。すると彼女は「違う」と言い出した。

 

「ウチに素手で食べろって言うの?」

「へ? あー。そっか、それもそうだね」

 

 とトングを渡そうとすると、彼女はそれも違うと言う。

 

「ウチは両手が塞がってるの。分かるわよね?」

「うん。そだね」

「じゃあどうしたらいいか分かるわよね?」

 

 にっこりと何かを求める笑顔を見せる美波。この表情。彼女が言いたいのは……そういうことか。

 

「へいへい。それじゃお口を開けていただけますか。姫」

「うむ。くるしゅうないぞ」

 

 嬉しそうな美波。僕はトングでポテチを1枚つまみ、彼女の口元へと差し出す。

 

「はい、ではどーぞ」

「あーん」

 

 差し出したポテチをパクッと口に咥える美波。それをひょいっと口に放り込み、もきゅもきゅと食べる。

 

「ん~おいしっ」

「ではもうひとついかがですか? 姫」

「んむ。くるしゅうないぞ」

「何言ってんのさ。美波にそんな言葉遣いは似合わないよ?」

「そうかしら。あ~ん」

「いいからよこせってことね。はいはい」

 

 もう1枚ポテチをつまみ、差し出す。彼女はそれを美味しそうに食べていた。

 

 こんなに落ち着いた時間も久しぶりだ。よし、今日は2人の時間を満喫するぞ!

 

 

 

 ――そんなこんなで1時間後

 

 

 

 美波のキャラクターレベルも上がり、僕と同じくらいの狩り場にも行けるようになってきた。そこで次は僕の武器を手に入れるクエストに着手した。クエストは魔竜の討伐。なかなか強いモンスターだけど、2人がかりならば倒せないレベルではない。

 

「ブレスに気をつけて。喉が光ったら左から右に向かって撃ってくるよ」

「喉が光るのね。分かったわ」

「その後煙に紛れて突進してくる。ブレスが止まったら右に大きく回り込むんだ」

 

 今までの経験から得た戦略を伝え、2人で戦いを挑む。あの異世界でもこうして美波と共に戦ってきた。そのためか、今の僕には彼女の動きがなんとなく想像できる。そういう意味ではあの世界の経験も役に立っていると言える。

 

「よっしゃぁ! 倒した!」

「やったぁ!」

「サンキュー美波! これで僕の武器も更新だ!」

「それじゃ早速もらいに行きましょ」

「うん!」

 

 こうして討伐クエストは無事完了。町に報告に戻り、報酬として新たな武器を得ることができた。

 

「新武器ゲットぉ!」

「伝説級の武器にしては結構あっさり取れるものなのね」

「2人がかりで片方が囮になると楽なんだよね。ありがとう美波。おかげで楽に取れたよ」

「どういたしまして」

「よ~し、早速試し斬りだ」

「ちょっと待ってアキ。村長さんの話だとその武器はまだ完全じゃないみたいよ?」

 

 村長とは今武器をくれた町のNPC(ノンプレイヤーキャラクター)のことだ。僕は読み飛ばしていたけど、美波はしっかり台詞を読んでいたようだ。

 

「このままでいいんだ。僕にはね」

「でもそれじゃ最高の威力が出ないわよ?」

「かまわないさ。だってこれを完全にするためには人の命が必要なんだ」

「え……そうなの?」

「うん。人の命と引き替えに強い武器を手に入れるなんてこと、したくないからね」

 

 ”命”はかけがえのない大切なもの。あの異世界で僕はそれを思い知った。それまではこうして生きていることは当たり前だと思っていた。何の疑問も抱かなかった。

 

 けれどあの異世界の度重なる魔獣との戦いを経験し、それが当たり前でないことを思い知った。だから今、僕は誰かの命を引き替えに何かを得るなんてことはしなくないんだ。たとえそれがゲームの世界だとしても。

 

「ふぅん……」

「やっぱり変かな?」

「ううん。そういうトコ、アンタらしいなって思うわ」

「まぁどうせ今は中盤だし、もう少し先に行けば次のランクの武器があるからね」

「それもそうね。それじゃ次はウチの武器も新調したいな。付き合ってくれる?」

「……う、うん。いいよ」

「? どうしたの?」

「ううん。なんでもない」

 

 

 美波の「付き合って」という言葉には、やはりドキッとさせられる。こうして恋人同士として付き合っている今でも。それは僕の心がまだ成長していないのが原因なんだろうか。

 

 

 ……あれ? そういえば告白される前にも美波に「付き合って」と言われたことがあるような? う~ん……いつだったか忘れちゃったな。なんだか体育の時間だった気がするけど……。

 

 

  Prrrrrr

 

 

「あ。ウチの電話みたい。ちょっと待ってて」

 

 美波がポシェットの中から携帯電話を取り出して耳に当てる。美波の家からの電話かな?

 

「お母さん? どうしたの?」

 

 予想通り美波のお母さんからの電話のようだ。

 

「うん。うん。そう、分かった。えっ? 葉月を? うん、いいけど……」

 

 美波の表情が次第に曇っていく。この様子。あまり好ましくない事態が起きているのだろう。

 

「分かった。じゃあ……」

 

 そう締めくくって美波は通話を切る。そして彼女は申し訳なさそうな顔をして言ってきた。

 

「あのね、お母さんが今から仕事に出るんだって。それで葉月を独りにできないからって……」

「そっか。それじゃ帰ってあげないといけないね」

「ううん。そうじゃなくてね」

「ん? 違うの?」

「うん。それがね……葉月がそっちに向かったから、って……」

「んん? つまり葉月ちゃんが今からここに来るってこと?」

「うん。そうみたい……」

 

 なんだそんなことか。でもなんでそんなに暗い顔をしてるんだろう?

 

「それじゃ迎えに行こうよ。葉月ちゃんこの家の場所をちゃんと覚えてないかもしれないし」

「えっ……? いいの?」

「ほぇ? いいもなにも、もうこっちに向かってるんでしょ?」

「うん。そうなんだけど……」

「だったら行こうよ。迷子になっちゃったら大変だよ?」

「アキはそれでいいの?」

「んん? どういうこと?」

「だって、せっかく二人きりだったのに、葉月も一緒になっちゃうのよ?」

 

 美波が真面目な目をして言う。確かに2人だけの時間は楽しかった。でもだからといって葉月ちゃんに寂しい思いはさせたくはない。

 

「僕だって美波と遊ぶのは楽しいさ。でも葉月ちゃんをほっとくわけにいかないよ」

「でも……」

「そんなに気にしないでよ。葉月ちゃんなら大歓迎さ。それにもう向かって来ちゃってるんだし」

「そう? ゴメンねアキ」

「別に謝る必要なんてないさ。さ、迎えに行こう」

「うんっ」

 

 

 

      ☆

 

 

 

 

 歩き出して10分ほどすると、ツインテールの女の子が道を歩いているのが見えてきた。

 

『あっ! お姉ちゃんですっ!』

 

 その女の子はこちらに気付くとタタッと駆け寄ってきた。葉月ちゃんだ。

 

「こんにちは。バカなお兄ちゃんっ。葉月、来ちゃいましたっ」

 

 満面の笑顔で挨拶をする葉月ちゃん。この笑顔も久しぶりに見る。

 

「こんにちは葉月ちゃん。ここまで道に迷わなかった?」

「葉月もうすぐ5年生です。迷子になったりしないですっ」

 

 天真爛漫(てんしんらんまん)。まさに太陽のような子だ。そういえば今日は鳩尾(みぞおち)に突撃してこないんだな。

 

「葉月、お母さんはもう仕事に行ったの?」

「はいですっ。葉月、お母さんと一緒にお家を出たですっ!」

「そう。ホントお母さんの仕事っていつになったら楽になるのかしらね……」

「ところでお姉ちゃん、バカなお兄ちゃんと何してたですか?」

「えっ? な、何って、その……」

 

 なぜそこで口ごもる。

 

「葉月ちゃん、今日は僕の家でゲームをして遊んでたんだよ」

 

 しゃがんで目線を合わせ、頭を撫でてやる。サラサラの絹のような髪。髪質は美波にそっくりだ。

 

「そうなんですか。じゃあ葉月、お邪魔ですか……?」

 

 僕が説明すると葉月ちゃんは急にしゅんとしてしまった。そんなこと気にしなくていいのに。

 

「そんなことないよ。今日はもう美波と沢山遊んだからね」

「そうですか。安心しましたっ」

 

 ぱぁっと花が咲くように笑顔になる葉月ちゃん。やはりこの子にも笑顔が似合う。

 

「ねぇ葉月、今日お母さん帰ってくるの遅いの?」

「はいです。お姉ちゃんと2人でご飯食べなさいって言ってたです」

「そう。ねぇアキ、玲さんは?」

「ん。もうすぐ帰ってくるんじゃないかな」

「ふぅん……」

 

 思案顔の美波。姉さんに何か用があるんだろうか。

 

「ねぇアキ、ウチらで晩ご飯を作って玲さんにごちそうするっていうのはどうかしら」

「姉さんに?」

「うん。いつもお世話になってるからそのお礼ってことで」

「なるほど。そういうことか。いいんじゃないかな」

「じゃあ決まりね。葉月にも手伝ってもらうわよ?」

「もちろんですっ! 葉月、卵焼きを作るですっ!」

「まだメニュー決まってないわよ? ふふ……」

「そうでしたっ」

「じゃあこれから買い出しに行こうか。うちの冷蔵庫ほとんどからっぽだからさ」

「いいわよ。葉月もいいわね?」

「はいですっ!」

 

 そんなわけで僕たち3人はスーパーに買い出しに行くことになった。

 

「んふふ~」

 

 葉月ちゃんが僕と美波の間に入り、手を繋いでくる。

 

 いつもの日常。姉さんも葉月ちゃんもいる、いつもの日常。

 

 だというのに、どこか違和感を覚えてしまう。何故なのだろう。その理由はなんとなく分かってはいる。それはあの異世界での生活。

 

 僕たちは40日間をあの世界で生活してきた。携帯どころか電気もなく、魔石と呼ばれる不思議な石を使った生活。魔獣や魔人。人類の脅威と隣り合わせの生活。何もかもが異常だった。けれどそこでは多くの人々が生活していた。沢山の人が知恵を絞って生活していた。

 

 確かにあれは召喚システムと携帯ゲームのデータが融合してできた仮装世界。雄二も「作られた空想の世界だ」と言う。けれど僕たちは40日間をそこで暮らしてきた。この経験は架空のものではない。今もこうしてしっかりと記憶に残っているのだから。

 

 今感じている違和感はきっとこの記憶のせいだろう。命のやりとりをしてきたあの世界での記憶のせいなのだ。

 

「そういえばアキ、お金持ってきてるの?」

「あ。持ってきてなかった」

「それじゃ買い物どうするのよ」

「う~ん。どうしよう?」

「どうしよう? じゃないわよ、まったく……一旦ウチの家に戻るしかないわね」

「お金なら葉月が出すですよ?」

「へ? 葉月ちゃんお金なんて持ってるの?」

「はいです。お母さんにもらったです。これでお夕食の準備をしてお兄ちゃんを落としなさいって。バカなお兄ちゃん、お夕食で落とすってどういう意味ですか?」

「……僕にもわかんない」

「お母さんったら……」

 

 でもこうして元の生活に戻れたのだ。この違和感もいずれ消えていくだろう。

 

「お姉ちゃん、どこで買い物するですか?」

「そこのスーパーがいいわね」

「それじゃ葉月が一番乗りですっ!」

「あっこら葉月! 走ったら危ないわよ!」

 

『平気ですっ! ちゃんと車には気をつけてるですっ』

 

「こらっ! 待ちなさいってば葉月っ!」

 

 ただ、この言葉だけは胸に刻んでおこうと思う。

 

 

 ―― 後悔だけはすんなよ ――

 

 

「まったく。葉月ったらすぐ調子に乗るんだから」

「ねぇ美波。ちょっと聞いてくれる?」

「なぁに?」

 

 もしもの時、後悔しないために。

 

 将来、彼女に後悔させないために。

 

 

 

「僕は――――」

 




ようやくエピローグを書くことができました。最後に設定集のようなものを掲載して完結にしようと思っています。

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