泥棒はヒガンバナに酔いしれて   作:俺っちは勝者の味方ー!

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※この物語はフィクションなので後述の建物は実在致しません。
※連載中のクロス作品『Assault Lily with GODZILLA』ことリリゴジはちょっとお休みさせて貰いますん。



大胆不敵に宣戦布告

 

東京都品川区で最も広い敷地面積を誇る物件といえば?そう問われた時、同区在住の人々は揃って天見広大氏の邸宅だと即答する。

 

総面積10.5ha(ヘクタール)の敷地内には、クラシカルな雰囲気の御屋敷と日本庭園の主流…池泉庭園が造られており、それらは天見の侘び寂びが見事に反映された景観と言えよう。そして、地下まで設計された四階建ての屋敷の延床面積は、約50,000㎡と下手な美術館並みに駄々っ(ぴろ)い。ここ天見広大の自宅兼職場は古き良きロマンで溢れている。

 

…その最上階のバルコニーに彼はいた。ポニーテールの白い髪と黒い手袋がトレードマークのこの男こそが天見広大…アラン機関きっての支援者にして秘密主義者。つい最近自らのコレクションに金色(こんじき)の錫杖を加えた彼の楽しみの一つは、夜景を眺めながら一人静かに酒を酌むことだ。

 

「ーーーーーーーイタリアから取り寄せたヴィンテージもののワインはやはり格別だな。後味残るこの香りも素晴らしい」

 

誰にも邪魔をされない。なんと気分の良いことか。アルコールが程よく回り、うっすら見える星々を見上げると、この世界の中心に自分が立っているように錯覚する。

それからずっと酒をちびちびと呑み進めていたが、いよいよボトルの中身が底をつき、余興は終いに差し掛かった。これが最後の一杯、残り惜しいが再び現世に戻る時が来たようだ…。しかし、

 

「? 全く騒々しい、何事だ」

 

突如として屋敷中の警報が鳴り響き、心地良い夢がシャボン玉のようにパチンと弾けてしまう。じっくり時間をかけて酔いから覚めてゆくのが一興だったというのに、楽しみを潰されて甚く不愉快な気分になる。取り出した私用のスマホもうるさく警報を鳴らしていた。

 

Code(コード)04(ゼロ ヨン)…よもや私の庭に鼠が紛れ込むとはな」

 

天見が忌々しげに呟くと、その後ろからどたどたとはしたなく足音を立てて執事が入室して来る。

 

「大変です!敷地内に黒ずくめの侵入者が!」

 

「分かっているとも。それで?その鼠は捕らえられたのか?」

 

「い、いえ。彼奴はただ警備員らをおちょくるように園内を逃走しただけでして…その、取り逃してしまいました…」

 

「ふん、軟弱者どもめ。奴等それでもーーーーーー?おい、その背に付けている紙は何だ?」

 

「…!こっ、これは、いつの間に!?」

 

一瞬ちらりと、執事の背中に紙きれが貼っ付けられているのが見えた。気付いていなかったのか、それを指摘すると彼は慌てながら後ろを探る。ようやく紙を手にした彼は、そこに書かれた文面を見て言葉を失った。

 

「どうした?私には見せられんのか?」

 

「え?…ですが、これはっ…」

 

「構わん」

 

その一文を本当に見せて良いのかと躊躇する男だったが、主人がそれをお望みならば断る理由は……いや、権利は無い。

 

「どうぞ」

 

「…『明日(あす)の午後9時、天照大御神の錫杖を頂戴致します。ルパン三世』

 …………くっ、ふふ、ふはははははは!」

 

「! いかがなされましたか?」

 

「くくく、なに。鴨が葱背負って来るとは正にこのことだなぁ。笑いが止まらんよ。……よし、すぐに警察に通報しろ。知り合いにワイドショー番組のプロデューサーもいたはずだ。そっちにも話を通しておけ」

 

「は、はい!只今」

 

男が立ち去り、一人自室に残った天見は下卑た笑みを浮かべながら、ある番号に電話を掛ける。

 

「私だ。たった今丁度いいネタが舞い込んできたものでね。これはまたとない絶好の機会だぞ。………ああ、金はいくらでも払う。そちらからも何人かをよろしく頼むよ。それじゃ」

 

最初は錫杖に含まれる未知の希少金属(レアメタル)を研究し、機関の更なる発展に貢献しようと目論んでいたが、少々事情が変わった。ルパンのお陰で、今やあの国宝は金の生る木も同然よ。あぁ、明日が楽しみだ…。

 

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 

ヴー…ヴー…ヴー…

 

朝。お天道様が一日の始まりを告げてくれるが、だらしなくパジャマを着崩しソファで爆睡中の千束はなかなか起きず。たきなとの共同生活が終わってから、洋画を夜遅くまで見過ぎる等…また生活リズムに支障を来しているようだ。目覚ましのアラームもかけ忘れていたため、彼女は着信を知らせるスマホのバイブ音でようやくお目覚めになる。

 

「ふあぁ〜っ。んん〜…おはようごぜえますよ、っと」

 

欠伸が漏れるが眠気を吹き飛ばすべく、大きく背中を伸ばす。首が若干寝違えてるかな?そう思いながら未だ振動しているスマホを手に取り、電話の相手を確認する。およ、先生じゃないか。

 

「おっはよ、先生。朝からどしたの?また何か緊急のトラブル?」

 

『おはよう、千束。折角の定休日に悪いな。その…まあ、何だ…。急ぎの用件って訳じゃないが、かなり重大な任務を受けた』

 

「DAから?」

 

『そうだ。詳細はリコリコに着いてから話そう。……適当なニュース番組を見てみろ。どんな任務かがすぐに想像がつく。これからたきなにも電話するから、じゃあな』

 

「はーい」

 

ん?今ナチュラルに寝起きだって見抜かれた?まるで『お前ニュース見てないだろ』みたいな物言いだったし。…ま、いっか。

私はおもむろにリモコンを手に取り、電源を点ける。ニュースって言ってもどうせ大したことやってる訳がーーーーーー

 

 

 

 

 

昨日(さくじつ)深夜、世界的な大泥棒であるあのルパン三世からの予告状がアラン機関幹部の天見広大氏の元に送られてきました。今夜9時丁度に東京都品川区にある天見氏の邸宅から天照大御神の錫杖を盗み出すというのです』

 

「へ?」

 

……あっちゃった。とんでもない爆弾が投下されて、私の寝ぼけ眼はすっかり覚醒したようです(笑)

 

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 

井ノ上たきなは怒っていた。ものすごく怒っていた。今朝のニュースを見て絶句したのは言うまでもないが、ミカに喫茶リコリコに呼び出された(のち)遂行予定の任務を聞いて…ついに我慢の限界に達した。

 

「巫山戯ているんですか…!」

 

「落ち着けって、たきな」

 

「いいえ、無理です。天見広大の思考が全く解せません…。彼が犯行予告をメディアにひけらかすような真似をしたせいで、今回の任務がより難航することになるかもしれないんですよ!本を正せば、予告状を送ったルパン三世が元凶だというのは承知ですが…それでも。天見(かれ)は何故あんなことをしたのでしょう?」

 

「……さあな」

 

ルパン三世はそこらの犯罪者やテロリストと違い、(基本は)堂々と予告状を送りつけ盗みを実行する。そうすれば警察は必ず動き出すし、場合によっては観衆が大量に湧き、メディアが大々的に取り上げてしまう。だからこそ、決して一般市民に気付かれることなく犯罪者を抹消しなくてはならないDAがルパン三世を相手取るというのは、この上なく難しい。

さらに間の悪いことに、予告状が送り付けられた天見による愚行が、今回の()()()()()()()()()の難度底上げに拍車を掛けている。

 

「犯罪や事件が起きる前にそれらを無かったことにする。っていうのがリコリスの役目だけど…今回ばかりは流石にお手上げかな」

 

「そうねぇ。もう屋敷の周りはサツのガードで固いし、野次馬もすし詰め状態…あんた達が動くにはちょっと危な過ぎるわ」

 

「たきな、ボクもミズキの意見に同意だ。今回ばかりは、ルパンが犯行に及んでから捕らえるなり殺すなりした方が良い。DAの存在を明るみに出さないためにはな」

 

「っ…分かりました」

 

ミカ曰く、状況を分析し早々に踏ん切りをつけたDA本部(楠木)は、ルパン暗殺に課す時間の上限を設けないと言っていたらしい。つまるところ、予告時間より前に殺すを絶対とせず、ルパンが犯行に及んでもそれに目を瞑るつもりなのだ。

これから犯されるだろう罪を看過し切れず渋っていたたきなも、クルミに諭されてようやくその指針を受け入れる。

 

「背に腹は代えられまい。八年間犯罪ゼロの大義なんて安いものさ」

 

「それにルパンは不必要に人の命を奪いやしない。そこは安心して良いと思うぞ」

 

「……何でクルミさんが断言出来るんですか」

 

「ふっふっふ…ボクを誰だと思っているのかね。ルパンに関する情報を集めるくらい朝飯前なのだよ」

 

仏頂面のたきなにそうクルミが得意げに返していると…

 

 

 

『それではこれより、本日特別ゲストとして当番組にお越し下さいましたアラン機関所属の天見広大氏からお話を聞いてみましょう。まず、ルパン三世からの犯行予告についてどうお考えになられていますか?』

 

カウンターの上の小型テレビから何とも耳寄りな話が聞こえてくる。一同の視線と注目の的は、一気に画面内に移された。

 

『天照大御神の錫杖は、莫大な私財を投じてようやく保全に漕ぎ着けた大事な宝です。それがまさか…名の知れた大泥棒に狙われることになってしまって、心配で夜も眠れませんでしたよ。ここは我らが日本警察に、是非ともルパンめを捕らえて頂きたいものですな』

 

「…っち!そんなところで油売ってる暇があるなら、愛しのお宝ちゃんにずっとくっついてなさいってのよ」

 

「また僻みなのか?ミズキ」

 

白髪の好々爺が不安な表情で己の胸中を語れば、周りのキャストもそれに同情するように相槌を打つ。この受け答えたった一つで、天見という人物の他人を自分のペースに巻き込む処世術がいかに達者であるかが伺える。その後も、いくつかの質問と応答とが繰り返し続き、お昼のワイドショーは程よい盛り上がりを見せていくのであった。

 

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 

「さて、そろそろ終了のお時間が迫って参りましたがーーーーーーー」

 

 

 

 

 

『おおっと。まだこの特別コーナーをお開きさせる訳にはいかねぇな。宣伝料は後でちゃ〜んと支払うから、ちぃとばかし邪魔させて貰うぜ』

 

『!?』

 

これにて独占インタビューは終了。ーーーーーーと思われた矢先…スタジオに響く何者かの声により、その場は一時騒然となる。天見やキャスト、スタッフの間に広まるどよめきも露知らず、声の主はけらけらと笑う。

次の瞬間、スタジオ中心のどでかいモニターが暗転…画面が切り替わると()()()()()()()()に袖を通し()()()()()()()を着けた猿顔の男が現れる。

 

『お初にお目にかかるねぇ、天見広大さん。そして、日本中の皆様方。俺様こそが世界中を股に掛かる大泥棒、ルパン三世でございま〜す』

 

「なっ!ルパン!?」

 

番組をジャックした者の正体に、萎みかけたスタジオの盛り上がりは一転し最高潮にまで到達する。僥倖とも呼べる思わぬハプニング発生に動揺は何処へやら…カメラマンはこの状況を楽しみつつカメラを回し続けた。

 

『さぁて、広大のオジ様よ。盛大なお祭り騒ぎをプロデュースしてくれたことに心から感謝を。…お陰でこっちも俄然燃えてくるってもんさ。()()()()()()()お宝を本気で盗みに行ってやるから、覚悟しておくんだな』

 

ルパンの言葉の端々には大袈裟に予告を流布されたことへの静かな怒りが込められており、天見は内心たじろぐが、余裕を感じさせる表情はあくまでも崩さなかった。

 

「……やれるものなら、な。私もこの日本国に来たことを後悔させてやろう。貴殿の矜持…完膚なきまでにへし折ってくれるわ」

 

『おー怖。ま、せいぜい今日は楽しもうや。…ってことで俺様はそろそろお暇させて貰うけど、みんなはまだこのチャンネルを変えちゃあダメよ。ほんじゃ、さいなら〜!』

 

…っ

 

ちゃらけた挨拶を言い残してルパンが消えると、天見は小さく舌を打つ。しかし、それは幸いにも興奮冷めやまぬスタジオの喧騒に溶け込み、誰の耳にも届くことは無かった…。

 

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 

一方ーーーーーーーー

 

「ほい、終了っと。さ、俺様もそろそろ………ってあらぁ〜!?」

 

ワイドショー番組への横槍を入れ終えたルパンが、ジャケットを脱ぎ腕を捲って、いざ昼飯!と意気込んだのも束の間…特大のプレートに作っておいたもんじゃ焼きはほとんど次元と五ェ門に食べ尽くされていた。頬にもんじゃをたんまり溜め込む二人に、ルパンはすかさず苦言を呈す。

 

「オメェら日本人だろぉ!ちったあ俺の分も残しておこうとは思わなかったのかよ!?」

 

「する必要も無ぇことをしてたお前が悪い」

 

「同感」

 

自分への散々な扱いにがっくりと肩が落ちる。僅かな量だが、生地を残してくれたのはせめてもの救いだった。常に危険(スリル)と隣り合わせの泥棒稼業は体が資本。腹が減っては何とやら…である。

 

「ちっくしょう、覚えとけよ。食べ物の恨みはこの世で一番でけぇんだかんな」

 

「そういや、さっきテレビに失敬した反響かは分からんが、Twitterで俺達のことがトレンド入りしてた。ルパン・ゲームのアーカイブやお前さんの上げた動画にまた熱が篭り出してきたみたいだぜ」

 

「あるえ〜…マルコポーロの(あん)ちゃんらを絞めてからアカウント消したはずなのになぁ。情報化社会ってのはホント末恐ろしいねぇ」

 

今まさに、世界一治安の良い国として知れ渡る日本を舞台に世紀の大泥棒が脚光を浴びているのだから、観衆(オーディエンス)の胸が踊るのは分からんでもない。しかし、余興を楽しむためにわざわざ四年前の遺産をも掘り返してくるとは思わなんだ。

 

「けどよルパン、今更あんなブラフ張って何の意味があるってんだ?今日中にケリをつければ、二度と会うことも無ぇ相手だろうに」

 

「いいや、しっかり意味はあったさ。(やっ)さんの目を見て確信したよ。ありゃ、何かデカい秘密を隠してる奴のする顔だ」

 

ルパンは食事の手を止め語り出す。

 

「日本で改めて天見広大の交友関係を洗ってたら、随分興味深い名前が挙がってな。こいつが清廉潔白とも言い切れない訳なのよ」

 

「至って普通の御仁のように見受けられたが?」

 

「ところがどっこい、次元や五ェ門も知ってるはずだぜ。…かつて暗黒街一とまで謳われた暗殺者にして、引退した今では超優秀な人材育成者として名を揚げた『殺し屋屋』をな」

 

「! 『地獄の徘徊者(ヘル・クロウラー)』か…」

 

「サイラス・マクフェイル。傍若無人が人の形を成したあの異常者か」

 

()()は次元や五ェ門も既知の男であった。特に、殺し屋やガルベスの雇われ用心棒として長いことニューヨークに腰を据えていた次元は、彼奴の噂を耳にしない日など無かったので、嫌でもその名を覚えている。

人伝に聞いた話によると、九割五分の鞭とたった五分の飴を与える常軌を逸した彼の英才教育は短期間で有能な殺し屋を生み出しているが、他方では精神に異常を来した者…才能無しと見放された者達が、多くニューヨークのスラム街に実在するのだとか。とにかく五ェ門が言った通り、サイラスという男を一言で表すならば、狂人や異常者以外にありえない訳だ。とすれば、なおさら…

 

「なんでったって、あの天見って奴はサイラスとつるんでやがる…」

 

「そいつを明らかにするのも今日の仕事さ。錫杖と一緒に、あの爺さんが腹の底に隠してる秘密も頂くんだよ」

 

そう堂々と宣言しつつ出来上がったもんじゃをぱくり。はふはふ……しかし、ルパン一族の夢を追って遥々日本へ来てみれば、今度のターゲットは裏の世界のご意見番と繋がりがあるときた。事件の匂いがぷんぷん漂うが、手がかりも無しに深く考えても仕方がない。今はただ腹拵えに勤しみ、英気を養うのみだ。

 




今作のルパンのジャケット諸々を含めた衣装は『血煙の石川五ェ門』の冒頭、賭博船潜入時の格好と同じです。
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