ヒロアカみたいな世界に生まれたキーブレード使いはどうすればいいですか? 作:露人
昼飯も食べ終わって頼まれてた部屋の掃除も終わって、俺は昨日と同じように海岸に
向かっている。だけど磁石は先に行ってしまって、今日は俺一人。綿は「暑いし潮風がやだ〜」
とか言って家で待っている。インドアなやつめ。……まぁ夜中にゲームやってるところを
彗星に撃ち抜かれた俺が言えたようなことじゃないけども。そんな事を思いながら到着した海岸は白い砂浜に青い海って感じでまさに絵に書いたような景色。
…でもそんな見渡す限りの砂浜に人はまばら。まぁ近所の人にとっては見慣れた景色だから
当然か。でも人が少ないからこの景色を独り占め出来ているような気がしていいな!
漂流して良かったかもしれないな!……いや、やっぱそれはねーわ。
「はぁ……」
人々の喧騒はなく、ただ引いては寄せ、寄せては引いてを繰り返す波の音だけが聞こえる場所。
そんな海岸の波打ち際で座り込み、足先だけを濡らしてボーッと地平線を眺めてる人影がいた。
その手には齧りかけのシーソルトアイスが握られている。
……やっぱ人が少ないから見つけやすいな。
「お・ま・た・せ・☆」
「うわ!?あ、空海くん」
「どうしたんだ?溜息なんかついちまって?」
「い、いや……なんでもないよ!あ、アイス買ってきてあげるね!」
「マジ!?サンキュー!いつか恩返しすっぜ!」
シーソルトアイス片手に溜息を付いていた磁石。溜息の理由を聞くと慌ててアイスを買いに行ってしまった。後ろ姿しか見えなかったが、溜息をつくその姿はいつもの綿や爺さんたちといるときの明るい感じではなく、なにか悩んで、思い詰めたかのようなそんな感じだった。溜息をつく彼女の悩みのタネはなんだろうと考えているところに彼女がちょうど帰ってきて俺にアイスを手渡してきた。
「はい、どうぞ!」
「お、アザッす!……あぁ〜やっぱ美味しぃなぁ、コレ」
「気に入ってくれてよかった!…あ、見てコレ!」
そう言って磁石が拾い上げたのは小さな貝殻だった。見た感じ二枚貝の貝殻に見える。だが、
その形はアサリでもツメタガイでもタカラガイでもない、今までの人生で見たことのない
形のものだった。
「え?何だ、その貝?」
「これはね〜〜………あれ?何ていう名前の貝だったっけ?」
「なんじゃそりゃ!?」
「い、いや、結構珍しいやつなんだよ、コレ。名前忘れちゃったけど、コレ今までで3枚しか
見つけたことないやつなんだよ?」
「え?マジ!?すげぇじゃん!」
思わぬ拾い物に思わず顔がほころぶ磁石。それにつられて俺も笑う。それから昨日と同じように他愛もない雑談が始まった。あたりに静かに響く波の音と二人の笑いの混じった話し声が聞こえ、
緩やかに時間は流れていく。そうしていく内に空の一番上に登っていた太陽は段々と落ちていき、空と海が雀色に染まっていった。波の音と話し声にひぐらしの輪唱が混じってきた。
「ねぇ、空海くん」
「んぁ?なんだ?」
「空海くんってすごいよね。」
「いや〜それほどでも〜〜」
「まさにヒーローって感じの力があって、空だって飛べる。羨ましいな。私もそんな個性、
欲しかった」
そう呟く磁石の方に顔を向けると、彼女はどこか遠くの海を見つめ、夕日に照らされたその横顔は茜色に染まっていたが、表情には諦めと悲しみが混ざりあったようなのが浮かんでいた。
「いやいや、磁石のその個性だってスゲーと思うぞ?」
「……もしかして皮肉?」
「え?そんなわけねぇって!」
「じゃあお世辞?」
「いや……」
「私の夢はね、ヒーローになること”だった。”でもさ、私の個性は砂浜から砂鉄を集める程度しか出来ないんだ」
「まぁ……今はそれぐらいかも知れないけど…」
「”今”は?……これでもヒーローになるために個性を伸ばそうと努力したんだよ、私は。
長時間電磁波出せるように毎日限界まで電磁波を絞り出したり、パワーを上げるために全力で
何セットもしたり、体力をつけるために毎日ランニングしたり……」
磁石の口から滝のようにとめどなく流れ出る言葉の数々。それは彼女の魂の叫びにも思える程熱く、それでいて暗く鋭い言葉が大半を締めていた。そんな言葉の数々に俺はどう声をかけたら良いのかわからなくなってしまった。
「__そんな感じで色々やった。でも”今”この程度。だから、ね。私は…空海くんが憎くて……
羨ましい」
「………」
言葉が出ない。人に話したことなんてないだろう心の底に眠った悩みを自分だけが聞けていることに少しの仄暗い喜びを感じたが、それ以上にいつも明るい彼女の中にこれ程までの混沌とした感情が眠っていたのかと俺は信じられなかった。
「助けてもらったから空海くんの強さはよーく知ってる。無力な私を颯爽と助けに来てくれた君の強さを。だからより強く思うんだ。私にも空海くんみたいな凄い力があったらな……って。
そうしたら私はヒーローになる夢ってのをまだ追いかけられてたんじゃないかな……って」
「磁石……」
「……ごめんね。こんな話しちゃって。……先に帰るね」
足早に砂を踏みしめる音。それはすぐに波の音に飲み込まれてもう聞こえない。
海岸には
男の耳にはひとり寂しく鳴くひぐらしの声だけが響いていた。
7月14日(金)
今日、私はひどいことを言った。
なんでそんな言葉が出たのだろうと不思議でたまらないけど、もうどうしようもない。
羨ましかったのは本当。憧れもあった。彼のようになりたい、それも本当のこと。
でも私の言ったことはただの妬みでしかない。気づいたときにはもう遅かった。珍しい貝殻を拾えたけど、今そんなことはどうでもいい。
……明日、謝れるといいな。