ヒロアカみたいな世界に生まれたキーブレード使いはどうすればいいですか? 作:露人
「いや〜一週間って早いなぁ、おい!」
「ホントそうっすよね〜まさかもう帰る日になるなんて」
「別にもう少しいたっていいのよ?」
「いや、流石に申し訳ないんで……」
「別に大丈夫なんだけどねぇ……」
今日、空海は家に帰る。つまり今日が空海がここにいる最後の日。最初は朝一番に帰ろうと
思っていたのだが、ここで過ごしていく内にこの場所に愛着が湧き、もう少しだけここに居たいと思ったので夕方近くになってから帰ることにした。
「つーか磁石はどうしたんですかね?全っ然起きてこないけど……」
「まぁ〜イルちゃんったら何してるのかしらねぇ?」
「夜ふかしでもしてたんじゃねーか?」
おじさんはガハハと漁師らしい豪快な笑い声を上げた。よく見ると机の上にビール缶が
1・2本置かれている。……流石に漁師は
立ち上がり歩き出す。
「ちょっと俺が起こしてきm…」
「あ、おはぁ〜〜」
戸を開けて廊下に出ようとしたとき、ちょうどよく綿があくびをしながら扉を開けて居間に
入ってきた。目をこすりながら今まで寝てましたというような様子で座布団にストンと
腰を下ろす。
「おぉ、綿ちゃん!おはよう。磁石はどうした?」
「あ、え〜とね……起きてるよ」
「ええ?じゃあ何で降りてこないのかねぇ?」
起きてるけど降りてこない。どうやら寝坊ではないということは確かなようだが
なぜ降りてこないのか。こんな事今までなかったのにねぇとおばさんは首をひねりながら
味噌汁をよそっている。
「磁石はなんか言ってたのか?」
「う〜んとね〜『私が出てくるまで、決して覗かないでください』って言ってたよ〜」
「おいおい、イルは鶴にでもなったんかァ!?」
「何を作ってるのでしょうかねぇ……?」
「やっべぇ、覗きたくなってきた……!」
「だめだよリっくん!覗きは犯罪なんだぞ〜!」
「……それ言われたら絶対いけねーよ」
結局朝ごはんの時も磁石は降りてこなかった。朝ごはんを食べ進むにつれて綿はだんだんと
目が覚めてきて、なにか面白いことを思い出したのか、ご飯が美味しいのか口角が上がっていた。不思議に思って空海はその理由を聞くが、何も話してはくれなかった。
綿の微笑みと一向に降りてこない磁石。少し引っかかるがまぁ流石に磁石はお昼には降りてくる
だろうと空海は考えた。だが、部屋の掃除が終わっても、おつかいに行っても、昼ごはんの時間になっても降りてこなかった。だんだん心配になってきて『もしかして死んでる?』と思い部屋に
入ろうとするが、綿に止められて入れない。なぜこんなにも部屋に入れさせてもらえてもらえないのか不思議に思いながら時間は過ぎていった。
・・・
・・
・
「リク、忘れ物は……あるわけねえか!」
「そうっすよ船長!俺、一文無しなんすから!」
「そうだよな!ガハハ!」
お昼ごはんを食べ終わって少しして。天高く登った陽が段々と落ちていく中、
空海は帰り支度を済ませ、お世話になった家の玄関前に立って最後のお別れをする。
おじさんもおばさんも綿もその場にいるが、ただ一人、磁石は空海が家から出るときになっても
出てこなかった。
「はぁ…イルはもう降りてこないんだろうねぇ……最後の見送りになるのにねぇ」
「別れがつらすぎて見送れないって感じだったりしてな!」
「それだったら光栄なんスけどね……ちょっとショック」
「ね、ねぇリっくん!最後に海岸見に行こうよ!」
「えぇ?さっき見終わったぜ?」
「また違う景色が見れるかも知れないじゃん!」
綿はなぜか焦りながらそう空海に提案する。いままでの間延びした声が嘘のように
早口でまくし立てられた空海は驚いたが、最後に意外なものを見れたと思い笑みを浮かべた。
「そうかもな。よし!じゃあ海に沈む夕日でも見てから帰るとするか!」
「うん!それがいいと思うよ!」
「うっし!……それじゃあみんな!またいつか!」
「おーよ!またいつか来て漁を手伝ってくれや!」
「いつでも待ってるからねぇ。次は家族やら友達やらと泊まりに来るんだよ!」
「じゃ〜ぁねぇ〜またいつか〜!」
こうして俺はみんなと別れ、あの家を出て海岸へ向かった。最後の最後に磁石の顔が見れなかったのが残念だがしょうがない。砂浜に座り、少しの心残りを胸に秘めながら沈みゆく夕日をただ呆然と眺める。俗に言うノスタルジーな気分というものに浸っていると、波の音に混じってどこから
ともなくこちらに呼びかける声が小さく聞こえてきた。
待って〜!!くーかいくーん!!!
「え?っておぉ!良かった!最後まで見れないと思ってたぜ!」
遠くからこちらに近づいてくる影。それと共に聞き馴染みのある声も近づいてきた。
その影と声の持ち主はなんと昼までずっと顔を見せていなかった磁石だった。
「ハァ…ハァ…ご、ごめん。ちょっと手こずっちゃって……」
「え?手こずるって何に?」
そういいながら磁石の姿を眺め、違いがないか確かめる空海。見たところ服装はいつものとおり
だし、髪型もバチバチに決めてるわけでもない。なんなら小さな寝癖がついている。
一体何に手こずったのか疑問に思っていると磁石は頬を膨らませて不満を述べた。
「ちょっと!何ジロジロ見てんの?」
「あ、すまんすまん!」
「別に服装に手こずったわけじゃないわ。これを作るのに手こずったってワケ。
ほら、目つぶって!」
「え?なんで?」
「いいから!ほら!ついでに手、出して」
「お、おう」
言われるがままに目をつぶり手を差し出す空海。するとガサゴソと何かを探す音が聞こえてきた。それはほんの少しの間だけ聞こえ、それからすぐに空海の手の平は暖かで柔らかい感触と
固い感触を感じた。……どうやら『作るのに手こずったモノ』というのは
手のひら大の大きさの物のようだ。
「目、開けていいよ」
「はいはい、んで何をくれたのか……って、え?」
目を開けた空海は自分の手に握られているものを見て驚きの声を上げる。磁石が渡してきたもの、それは前に磁石が言っていた珍しい貝殻を5枚つなぎ合わせて出来た空海にとって
『どこか見覚えのある』星型のアクセサリーだった。
「すげぇ良く出来てるな……」
「そう、凄いでしょ?これはね、ここで古くから伝わる由緒あるお守り!
ここの昔の船乗りたちが仲間にまた会えるようにって作ったのが始まりなんだって!
初めて作ったけどよく出来てるって思わない?」
「ああ!本当に…よく出来てる。あとこの貝殻って……」
「そう、前言ってた珍しい貝殻!名前はね、サラサ貝って言うんだ!サラサだよ?
いかにも珍しいものって感じするよね。それを贅沢に5枚、足りない分の貝殻は綿ちゃんに
アイスと交換してもらったんだ」
「へー……ちなみにアイス何本と交換したんだ?」
「2枚もらうためにアイス10本。ありえなくない!?あの子絶対私の足元見てた!!」
「アハハ!……でもいいのか?そんな珍しいもの、俺にあげちゃって?」
「え?当たり前じゃん!また会えるようにっていうお守りなのに私が持ってちゃ
しょうがないでしょ?」
「まぁ、それはそうだけど……」
「なに?いらないの?」
「いや!全然!めっちゃ欲しい!」
「なら良かった」
空と海は黄昏色に染まりきり、二人を照らす夕日はもう半分近くまで海に沈んでしまった。二人は沈みゆく夕日をただ見つめ、その間を静かな波の音だけが通り過ぎている。
「ねぇ、リクくん」
「!?…なんだい、イルちゃん?」
「ちょ、ちょっとちゃん付けはやめてよ!」
「ええ?じゃあ…磁場子?」
「………イルちゃんでいいわよ」
「オッケー!」
「フフッ……ありがとね。リクくんが来てくれなかったら私、夢が消えてなくなってたかも」
「め、面と向かって言われるとなんか照れるな〜///」
「まぁ漂着してくるとは思わなかったけどね」
「……そりゃーね」
「…でさ、その……もし、私がヒーローアイテムの研究者になったらさ……
私のアイテム、使ってくれる?」
「おお!俺専属のサポーターってこと?いいねぇ!でも……俺は贔屓はしないぞ?」
「うん、わかってる。……私のこと、忘れないでね、リクくん」
「大丈夫さ。俺にはお前がくれた約束のお守りがある。だから、もう忘れない。
……じゃあな、また会おうぜ」
ザッザッザッ・・・
7月16日 (日)
今日、リクくんが家に帰りました。
彼と過ごした日々はあっという間に終わり、私は彼が漂着した日が昨日のことだと思ってしまう
ほどです。
リクくんは帰ってしまったけど、彼との思い出と彼の言葉。そして約束は絶対に忘れません。
彼との約束を守れるように、私は今まで躊躇していた始めの一歩を恐れずに踏み出し、
挑戦していくことにします。
「悩むより行動だ!」……そう言ってたからね。