ヒロアカみたいな世界に生まれたキーブレード使いはどうすればいいですか? 作:露人
遅くなってごめんね。許し亭許して。
ep32 どこに宿があるのか
「もう、アレは本当にビビったよな〜!」
「本当本当!いっや〜まさかIアイランドがヴィランに襲われるなんてな!」
「あの事件のせいでオイラの出会いはなかったし……マジで最悪だったぜ!」
「まぁ、峰田ちゃんに出会いがあるとは思えなかったケロね」
「おい!」
あちこちから聞こえる話し声や笑い声、夏を演出させる音楽で賑やかな車内。
そう、今日は待ちに待った林間学校、その初日である。ちなみにこのバスの行き先を知っている
生徒は一人もいない。なぜ行き先がわからないのかと言うと、なんでもヴィランの動きを警戒するとのことで行き先は当日まで明かさない運びとなったから、らしい。
おーい!静かにしろー!……ハァ…まァいいか。わいわいできるのも今のうちだけだ。
「そーいえばよ、なんで空海はバイトに来なかったんだ?」
ふと峰田が空海に尋ねる。それを空海は口をへの字に曲げて聞き、苦々しく言葉を口を開いた。
「…船に乗り遅れたから」
「はぁ?でもIアイランド行きの船は何便かあったはずじゃなかったk……」
「自力で泳いでいけると思った」
「ええ……」
「いや、途中までは順調だったんだぜ?空飛んでな。でも途中で高波に飲まれて、な?」
「……空海ちゃんは何で死ななかったのかしら?」
話を聞いていた梅雨。彼女は呆れ顔で至極真っ当な疑問を口にした。
「私にもわからん。本当に、申し訳ない」
「で、それで終わりじゃないよな、空海?」
「まぁ、そう。波に飲まれて漂流して、海岸に漂着して。そんで拾われて一週間ぐらい
泊めてもらったってわけよ」
「マジか!優しい人もいるもんだなぁ〜!」
「本当ね。まさにヒーローね」
「ちなみに峰田、その家には俺と同じくらいの女の子がいたぜ」
テメェ゛ェ゛!!!!許ざん、許さんぞォォ!!!!
突然のカミングアウト。峰田は激怒した。必ず、かの邪智暴虐の空海を除かなければならぬと
決意した。峰田には恋愛がわからぬ。峰田は、ただの性欲の魔神である。
縦笛を舐め、パンティーを追いかけて暮らして来た。だからギャルゲに対しては、
人一倍に敏感であった。長年見てきたギャルゲの展開に則れば空海はよろしくやったのだろう。
峰田は空海の首を掴んで離さなかった。
うるせぇ・・・お〜いお前ら、休憩だ。降りろ!
「チッ……命拾いしたな、空海」
「頼むよ〜許してくれよ〜〜」
「オイラはお前を許さん」
「無償で手伝いするからさ……な、それで機嫌直してくれって」
「……やっぱお前はオイラの親友だぜ!!」
(現金な奴め)
・・・
・・
・
「と言われたけど……」
「え?パーキングじゃなくね?」
バスから降りた一行が見たのは一面に広がる青空と若草色に染まった山々だった。
そして後ろについていたはずのB組のバスはこつ然と消えており、近くには乗ってきたバス以外には一台の車があるだけ。バスが停まった場所は山の中腹にあるちょっとした駐車場だった。
「相澤先生?これは一体どういう……」
「よぉ、イレイザー!この子達が雄英高校1ーA組の生徒たちかい?」
「え?」
空海の声を遮ってどこからか女性の声が聞こえてきた。驚きあたりを見渡す一同。すると突然、
止まっていた車のドアが開き、二人の女性と小さな男の子が現れた。
きらめく眼でロックオン!
キュートにキャットにスティンガー!
ワイルド・ワイルド・プッシーキャッツ!
口上が終わり、決めポーズも決まったところで相澤先生から紹介が入った。
……と言ってもクラスで約1名以外の全員が知っている有名人なのだが。
「と、いうわけで今回お世話になるプロヒーロー、プッシーキャッツのみなさんだ」
「いや、温度差すごくない?」
「え?プッシーキャッツってあの連名事務所を構える4人1チームのあの!?」
「そうなのか?……え、もしかして知らないのって俺だけ?」
そう言ってあたりを見渡すと鼻息を荒くしながらこのヒーローについて語る緑谷と
よだれを垂らしながら彼女らを見つめる峰田以外は全員首を縦に振った。
「え?空海くん知らないの?ワイルド・ワイルド・プッシーキャッツはね、
山岳救助などを得意とする”ベテラン”チームだよ!」
「お゛い゛!言葉を慎めよ……!」
「それでね!今目の前にいる人はそのうちのマンダレイとピクシーボブ!マンダレイの個性は
『テレパス』で、その個性でプッシーキャッツをまとめあげる司令塔なんだ!
で、ピクシーボブは……」
「すげぇな……脳みそのその知識領域、俺に移植してくれねぇか?」
「なんとそのキャリアは今年で実に12年にもなるんd……」
ゴン!
「心は18ィ!」
「キャリアが12年なのに若くね?25ぐらい?」
「おっ、あなた、名前は?」
「あ、空海ッス」
「いい眼してるじゃん。評価プラス1ね」
「マジすか?よっしゃあ!」
お前ら、まずは挨拶しろ〜!
あ、よろしくおねがいしま〜す!
「はい、よろしく!んで、早速なんだけど、ここら一帯は私らの所有地なんだけどね、
あんたらの宿泊施設はあの山のふもと、OK?」
「???」
あの山のふもと、そう言って遥か遠くの山を指さされた。ハイキングにしてはかなりの距離が
あるし、登山にしては装備が足りない。皆の中に困惑が広がっていく。
「え?じゃあ、何でこんな半端なとこn……」
「今はAM9:30、早ければぁ、12時前後ってところかしらん?」
麗日の言葉を遮ってマンダレイが意味深な発言をする。空海を含め全員ははこれから起こる
ろくでもないことの雰囲気を感じ、一目散にバスに向かって駆け戻ろうとする。
が、それを遮るかのように地面が揺れ始め、同時に山の上の方からゴゴゴゴ…と何かが流れ落ちる音があたりに響き、全員の足が止まる。
「な、何だよこれ!?」
地響きの鳴る方向を見るとなんと山の上から土、いや、もはや地面ごと液体のようにこちらに
向かってすごい勢いで流れてきていた。
しかもそれらは明らかにまっすぐに自分たちの方向に向かって降りてきている。
「あ、12時半までに辿り着けなかったキティはお昼抜きね〜!」
焦る生徒たちとは対象的にマンダレイは揺れと土砂崩れを気にせずに注意事項を伝える。相澤先生もだ。まるでなんてことないという風に落ち着き払っている。
わるいね諸君、合宿はもう始まってる。
突然の揺れと襲ってきた目を疑うような光景に慌てふためく生徒たちを見て、
相澤先生はニンマリと笑みを浮かべ、こう言い放った。その言葉の最後が聞こえる頃には、
生徒たちは皆、既に濁流のように流れてきた大地に飲み込まれ、崖下に押し流されていた。
……ただ一人を除いては。
「いやーしかし、無茶苦茶なスケジュールだね、イレイザー」
ほぼ生徒全員が崖下に落とされた後、マンダレイにそう言われ、相澤先生は苦笑いを浮かべる。
「まァ、通常2年前期から修得予定のモノを前倒しで取らせるつもりで来たので
どうしても無茶は出ます」
「……やっぱり最近ヴィランが目立ってきたからだよね。USJの時とか」
少しの沈黙。相澤先生は少し顔を強張らせた。
「そうですね。やはり何かあってからじゃ遅い。ヴィラン連合とか言うろくでもない連中も
活性化している」
「だから俺たちにもそいつらに対する自衛の術が必要なわけだ、ということっすね?」
「そうだ。だから緊急時における個性行使の限定許可証、ヒーロー活動認可資格、
その仮免を早期に取得する必要がある……って、ちょっと待て」
相澤先生が隣に視線を向ける。するとそこには押し流されたはずの生徒の一人である空海が
立っていた。
「おい、なんでここにいるんだ?」
「きっと先生たちは押し流されないと思ったから、です」
「避けたのか……」
「あらー、なかなかやるじゃない、この子!」
「へへへ…もっと褒めて、褒めて」
「ああ、素直に褒めよう。素晴らしい。だが……それとこれは話が別だ」
そう言うと相澤先生は瞬きの一瞬の隙で捕縛布で空海をぐるぐる巻きにして拘束した。
「え!?ちょ、ちょっと!なんで!?」
「確かにあの土砂崩れを回避したのは評価に値する。…だがその後の行動が駄目だ。
俺たちを信用しすぎたな。無理矢理にでも崖に突き落とされる可能性をお前は考えてなかった」
「…つまり?」
「要するに詰めが甘いってこった」
「そう簡単にプログラムを回避されるわけにはいかないもんね、イレイザー?」
「そういう事」
そう言いながら相澤先生は捕まえた空海をズルズルと引きずりながら崖際まで運ぶ。
そして空海は崖際ギリギリに雑に投げられた。空海の視線の先は柵もない断崖絶壁。
吹き上がる風の冷たさに震えていると、背中に靴底の硬い感触が。
……どうやら相澤先生は横たわる空海に片足をかけたらしい。
「……え、まさか先生?俺を火曜サスペンスみたいに突き落とすんじゃあないっすよね?」
「ああ、流石にそれは俺の良心が痛む。だから……」
相澤先生の顔を見なくてもわかる。彼は今、限りなく悪役じみた笑顔を浮かべているだろう。
空海は死を覚悟した。
「今回は西部劇の処刑シーンだ」
いや処刑ってぅぁあ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!゛!゛!゛
相澤先生に蹴り落とされ、空海は加速度を維持しながら崖下の地面に向かって降下する。
もはや何度目かわからない死を感じていると、不意に崖が泥のように流動的になって
空海を包んだ。そのまま崖に包まれ、減速した空海はなんとか地面に擦り傷一つ、
体のどこも欠けずに降り立つことができた。
「あ!?いたー!」
空海が地面に降り立ったとき、芦戸が空海を指さして叫ぶ。
その声の方向を見渡すとA組の面々の姿があった。どうやら全員、
一人見つからない空海を探していたらしい。なんと素晴らしいクラスなのだろうか。
「空海くん、大丈夫?何かあった?」
緑谷が泥だらけの空海に心配そうに声をかける。それに半笑いで答える空海。
「あ〜いやいや、何も。土砂崩れは避けられたんだけどな〜、
まさか先生が直々に突き落としてくるとか予想できないって」
「えぇ?それってどういう・・・」
カロロロ……
「!?な、何だこいつ!?」
緑谷の言葉を遮って木々の間から現れた謎の生き物に全員戦闘態勢を取る。
現れたそれは軽くワゴン車を超えてしまうほどの大きさで、4足歩行。犬のように見えるが、体毛はなく、その足は人間の手を無理やり貼り付けたようなアンバランス具合。
くわえて目玉はえぐり取られたように凹みがあるだけで、耳も鼻も削ぎ落とされたようにない。禍々しいその姿は地の獄から這い出てきたかのような、正に魔獣、
そう呼べるような威圧感を持っていた。
はーい、皆さん注目〜!
と、そこに崖の上から言葉が降ってきた。目の前に対峙する魔獣の存在から、女神からの天啓かとほんの一瞬だけ考えた一同だったが、よくよく聞くと、その声は最近聞いた声であった。
私有地につき個性の使用は自由だよ!
今から三時間、自分の足で施設までおいでませ!
「3時間!?いや、ちょっと待て!目の前のこいつは!?」
この、魔獣の森を抜けて、ね?
「…あぁ、そういう事」
”魔獣の森を抜けて”そう言われた一同は相澤先生の言葉を思い出す。
__わるいね諸君、合宿はもう始まってる。__
ヒーローの卵たちは持てる力すべてを使い、我先にとゴールである宿に向かって走り出した。