ヒロアカみたいな世界に生まれたキーブレード使いはどうすればいいですか? 作:露人
「はい、おつかれ様〜」
ゼェ…ゼェ……ハァ………
全員が魔獣の森を抜けたとき、既に空はオレンジに染まっていた。
泥だらけで息も絶え絶えの生徒たちは宿舎の広場についた瞬間に倒れ込む。
「只今の時間は、午後5時20分!……お昼を抜くまでもなかったわね〜」
「な、何が3時間なんですか……」
倒れ込んだ瀬呂がため息混じりの声でプッシーキャッツに尋ねる。
それにピクシーボブがケタケタ笑いながら答えた。
「あーあれ?”私達なら”って意味よ、アレ」
その答えを聞いた空海は天を仰ぎ、芝居じみた大げさな演技で不満を漏らした。
「う〜わ、マウント取られた。そんなんだから婚期をn……」
あ?
「ヴェ!?マリモ!」
……言葉には気をつけよう。間違っても悪態をついてはいけない。
空海はピクシーボブの鋭い眼光にビビりながらそう思った。
「あ〜、でも私の土魔神が思ったより簡単に攻略されちゃったのが意外だったわ。
特にそこの4人!躊躇の無さは経験値によるものかしらん?」
そう言ってビシッと空海……の反対側に座り込んでいる緑谷、轟、飯田、爆豪の4人を指さした。それを見て隣に座っていた峰田が空海を煽る。
「プッ……可愛そうだな〜空海よぉ〜。仮にも保須市でヴィランと戦ったのになぁ〜?」
「は?うるせぇよスケベ葡萄。俺のコレはあんなバケモン用じゃないんだ!
対人用だよ、対人用!」
そう言って空海はキーブレードを取り出した。
「これみろよ、なぁ?こんな刃渡りであんなクッソでかい奴らなんて倒せるわけねーだろ!」
「まぁ、そりゃそうだけどよ」
ーーソラはコレでドラゴンやらヒュドラやらを倒していましたが?
「うるせぇ」
「あ?なんか言ったか?」
「いーや、何も。それよりも……いつに女子寮に侵入するんだ?」
空海が峰田の耳元でそう囁く。それを聞いて峰田は一瞬驚き、眉間にシワを寄せて顎に手を当てて少しの間考えを巡らせた。
「……今日はやめようぜ。もうオイラ疲れちまった」
「まぁ、そうだな。明日にするか」
よーしお前ら、バスから荷物降ろせ!
部屋に荷物を運んだら食堂にて夜ごはん!そのあとでお風呂だよ〜!
本格的なスタートは明日からだ、さァ早くしろ!
・・・
いただきます!
「疲れてしぼんだ体に、上質な食材を突うずるっ込んでやると胃袋が食べ物と多幸感で
ずるずるして気持ちが良い。あぁ^〜たまらねぇぜ」
「うっせえなぁ……もうちょい静かに食えないのかよ?」
「あ、さ、ちょ、ビール買ってきて?」
「いや無理に決まってんだろ!?」
空海は並んだ料理をドンドン平らげ、空の皿が山積みになっていく。
多少腹が膨らみ、冷静になったところで、空海はあることを思い出した。
「そういえばよ、プッシー…キャッツ?の隣に子供いたよな?ありゃ誰だ?」
「さぁ?なぁ緑谷、おめぇなんか知ってるだろ?」
「え!?あーえっとね、洸汰くんって名前で、マンダレイさんの
「え、マジ!?このタイミングで親戚の子供預かるのか……(困惑)」
「急に決まったんじゃねーの?林間合宿の話が」
「どうなんだろうね」
・・・
「まぁまぁ……飯とかはね、ぶっちゃけど〜でもいいんスよ。求められてるのは、
そう、真に求められているのは……この壁の向こう側なんスよ」
皆が湯船に浸かって今日の疲れを癒やす中、峰田と空海は遠い目をしながら壁を見つめていた。
「……なぁ、ピオーネ。この壁の向こうには、何があるんだろうな?」
「峰田だ」
「二人共何言ってんの……?」
緑谷が外風呂の壁を見つめている峰田と空海に呟く。
だがそれはガヤガヤとした喧騒の中に吸い込まれて消えてしまった。
ぅお前ら静かにしろォ!!
壁に耳を当てている峰田が叫ぶ。
シーンと静まり返った男子風呂に、うっすらと声が聞こえてきた。
はぁ〜気持ちいいねぇ〜 ホントホント!疲れ取れるぅ〜〜!
温泉あるなんてサイコーだわ
ヒャ!?ちょ、ちょっと耳郎さん!? なんで…そんなに……?
うっすらと聞こえる声、それは女子風呂からの声だった。
湯船に浸かっている男子陣の体温が更に上がった。
「ホラ…聞こえる……。いるんすよ…
……そう、これは悲しい事故なんスよ……」
恍惚の表情で壁に耳を当ててそう呟く峰田。ゴクリとつばを飲み込む音が木霊し、
今から峰田が起こす行動が全員の頭に浮かんだ。
「み、峰田くんやめたまえ!君のしようとしていることは己も女性陣も貶める最も恥ずべきk」
「やかましいんスよ……(静かな怒り)」
!?
飯田の言葉を遮った峰田のその一言で全員の動きが止まる。声も出さない。
そんな呼吸すら止まったかのような静寂を破ったのはこの空気を作り出した峰田本人だった。
”Plus Ultra”!!!
そう言って峰田は自分のモギモギを器用に使って壁を登り始めた。
呆気にとられた男子たちだったが、すぐに正気に戻り、峰田を止めようとする。が、
「な、あいつもうあそこまで!?」
「速っ!!?」
「コラ!校訓を汚すんじゃないよ!!」
6メートルはあろうという壁をもう峰田は半分以上登っていた。
その姿に『今日は動かないって言ってたじゃないか…』と思う空海であったが、
峰田を止めに行ったといえば罪に問われないとも思った。……そこからの行動は早かった。
これを逃せば桃源郷を見る将来など、永遠に訪れない!心臓を捧げよ!!
「あ、おい!ドサクサに紛れて空海も壁を登り始めたぞ!」
「しかも駆け上ってる!?どうなってんだよ!?」
空海はキーブレードを振りかざしながら女子風呂と男子風呂を隔てる壁を駆け登った。
すぐに先行する峰田に空海は並んだ。
「空海!?」
「峰田、俺も行くぞ!」
「!? おう!」
最後に二人は目配せをして、空海は峰田と並んで壁を駆け登っていく。
そびえ立つ壁の頂点はもう二人の前には見えていた。
__この時の為!!この時為にオイラは……!!
__長年の……前世からの夢の一つが……!!
心に眠る感情を噛み締めながら二人は遂に壁の縁を掴んだ。
後は体を引きあげるだけの所まで来た。
疲労の溜まった体は、腕は、筋肉は、全て悲鳴を上げている。
だが、溢れる高揚感と膨らみ続ける期待だけが満身創痍の彼らを突き動かしていた。
だが非情にも、阻止するが如く壁の上から人が現れた。
な!?
突如として現れた行く手を阻む人影。それは峰田と同じぐらいの身長の帽子を被った少年
……そう、マンダレイの従甥、洸汰だった。絶望する二人。少年は冷めた目で二人を睨んでいた。
ヒーロー以前にヒトとしてのアレコレを見直せ
そう吐き捨てられた言葉と同時に二人は洸汰に頭をグイッと押されてバランスを崩し、
真っ逆さまに落ちていった。峰田の捨て台詞と空海の絶叫があたりに響く。
そして鯨のような豪快な着水音。
空海の意識はそこで途絶えたのだった。