まだ日が昇る前に古びた木造校舎を抜け出した俺は、コテモンと共に周りに広がる森を南にまっすぐ進み、海が見えるあたりまでやってきた。すぐ下は崖、そして打ち付ける波飛沫が見える。潮風にあおられながら下をのぞいた。
「よっしゃ、あたりだ。やっと見つけた」
「やりましたね、旦那。思った通りだ。早起きした甲斐ありやしたね」
俺はうなずくと、崖に手をかけた。崖を這うように人工的につくられたと思われる階段があり、鎖が手すりがわりに一定の感覚で打ち付けられている。その先には洞窟らしきものがあった。落ちないように慎重に歩みを進めていくと、シェンウーモンと配下のクンビラモンたちを祀る祠によく似た構造の史跡をみつけた。しかも中に入ると何かが住んでいる形跡を見つけた。
「ミノルのいう通りだな、やっぱここは南を守護するケモノガミのお膝元なんだ。だから霧がこねえわけだ」
さっそく石室の壁画を撮影する。三体の配下は見回りに出かけたのか、いないようだ。
「あの4体のケモノガミのひとつか、ここは真っ赤な鳥のケモノガミだな。配下は蛇と馬と羊......対応するケモノガミ文字と一致するとなると、やっぱ見回りしてるだけでタクマたちは会えてねえだけか」
用が済んだ俺はさっさと校舎に戻ることにする。きをつかって『主』の配下と鉢合わせしないようにしてくれてる彼らの好意を無碍にすることはできない。
校舎に戻るとようやく起きてきた面々がちらほら見えた。
「おー、いたいた。黒板に書きおきあってびっくりしたぜ。お目当てのものはあったのか?」
「おはよう、ミノル。あったぜ、見るか?」
iPhoneを差し出すと興味津々でミノルとファルコモンが画面を覗きこむ。
「おー、すげえ!これは火の鳥みたいなケモノガミなんだな!配下もシェンウーモンと全然違う奴らっぽい?」
「どこで見つけたんだ、2人とも。我々は全く見つけられなかったんだが」
「そりゃ無理ねえや、南の崖の真ん中へんに入り口があるんだからよぉ。しかもiPhoneねえと入り口すらわかんねえんだから」
「ってことは降りたのかよ、2人とも!?こんな朝早く!?すげえな」
「タクマたち、情報無くて困ってたからな。少しでも判断材料あった方がいいと思ってよ」
「ありがとーな、絶対俺たち見つけられなかったと思う!」
iPhoneを返してもらい、ポケットにしまう。もう朝ごはんの時間だからはやくいこうぜとミノルに手を引かれて、俺たちは給食室に向かったのだった。
俺たちが最後だったみたいで、みんな、ほとんど終わりかけだった。iPhoneをシュウジあたりに渡しておいて、さっさと朝食を食べることにする。
ご飯に味噌汁、煮付けにあげのおひたし、リンゴによく似たきのみまでついたご機嫌な朝食だ。まさか遭難5日目にしてサバイバルにあるまじきラインナップにお目に掛かれるとは思わなかった俺はしばし固まっていた。アオイの料理スキルが高すぎるのか、リョウとか意外と料理ができる男子が多いからなのかはわからないがありがたいことである。完食したのはいうまでもない。
「北に亀、南に火の鳥となると、キトラ古墳を思い出すね」
教室に戻った俺たちは、黒板でこの世界を形成している大きな島を東西南北に区切り、今までいったエリアをだいたい書き出していた。俺とコテモンがもってかえってきた情報が多すぎて整理しきれないと言われたからだ。
「なんだっけ、国宝の?」
「そうそう、藤原京の南に広がる古代の皇族・貴族などの墓域に所在する小さな円墳のことさ。7世紀末~8世紀初頭頃に造られたっていわれてるんだ」
さすがは史跡研究の校外キャンプにスタッフとして参加してたシュウジだ。ちょっと聞いただけで教科書レベルの情報が出てくる。
シュウジ曰く、キトラ古墳の石室内には、四神、十二支、天文図、日月の壁画があるそうだ。四神は天の四方を司る神獣で、壁画は対応する方位に合わせて、東壁に青龍、南壁に朱雀、西壁に白虎、北壁に玄武が描かれている。
四神の下には、獣頭人身の十二支が描かれており、北壁中央の子から時計回りに、方位に合わせて各壁に3体ずつ配置されている。
天井には天文図と、東に金箔で太陽が、西に銀箔で月が描かれており、この天文図は、赤道や黄道を示す円を備えており、本格的な中国式星図としては、現存する世界最古の例。ゆえに国宝。
「干支?じゃあ、三体のケモノガミは干支由来のケモノガミとか?」
「ありえそう!」
「完璧に一致してるわけじゃなさそうだけど、クンビラモンたちが強い理由がはっきりしたわけだね」
「そうなんだ。そんなケモノガミでも手を焼くような敵がいて、私たちから遠ざけてくれているのだとしたら、感謝しないと」
「そうだねー!守ってもらってたんだ、ウチら!」
「案外、ここを拠点にしてよかったわけだ」
なにもわからない、どう調べていいかもわからないという状況から、一転。情報を整理しないと頭がパンクしかねないくらい沢山の証拠と情報が入ってきたおかげか、昨日より明らかにみんなの表情が明るい。会話も弾んでいる。余裕がでてきた証だろう。
「どんなもんよ、へっへーい」
得意げなコテモンにつられて俺は笑った。
「じゃあ、『主』ってなんだろう?」
タクマがふとつぶやいた。みんなの視線が向く。
「四神が霧に封じてるのが『主』って話だけど、おかしくないかな。普通、主って呼び方は一番強くてえらいのを呼ぶと思うんだ。四神の上が主じゃないかな、普通に考えたら」
「そう言われてみりゃ、そうだな」
「ジジモンがいうには、この世界を作った神と管理してるやつは別って話だったけど......」
「主は管理者の方なのか、神の方なのかって話?」
「どっちかが、あるいはどっちもおかしいから、四神が封じることになったんじゃないかな」
「筋は通っているけれど、証拠がないね」
「証拠はなくても、知ってそうなやつらが12はいるわけだろ。聞いたらいいんじゃないか」
「そもそも、まだ東と西で史跡はまだ見つかってないわけだし、封じてある場所はたぶん四方からみて中央あたりだろうから、『主』に殴り込みかけるにしても場所を調べなきゃならないな」
「えっ、倒しに行くの?」
「そもそも『主』が神様なのかすらわかってないのに?」
「つうか倒せるのか、『主』って?」
「俺たち殺しに来てんだから、逃げ回るわけにはいかねえだろうが」
「それはそーだけど、まだ全然わかんないことだらけじゃん」
「答え出すのはやすぎー!」
わいわい好き勝手いってるものの、そこに緊迫感はなかった。わからないことだらけではあるが、だいたいの状況が把握できた今、やらなきゃいけないことが輪郭として現れていることはみんな大体察しているようだ。
昨日まで少しでも情報を求めて敵の本拠地に乗り込むつもりだったが、今は東と西の史跡を探して『主』が封じてあるだろう場所を特定することに目的がシフトしている。たまたまジジモンからもらった敵の落とした地下水路の入り口は、閉ざされていた方角への入り口でもあるのだ。
行く場所はかわらないが、やるべきことは全然違う。みんな、タクマがいうには大荒れだったらしいが、明らかにやる気をだしていた。
「スバルとコテモンのおかげだよ、ほんとにありがとう」
「役に立ったみたいでよかったぜ」
「うん、とっても」
話し合いはだいたいまとまった。1時間後に出発することになった俺たちは、一回解散することになったのだった。