地下水道に向かうまでは、と腕時計に目をやった俺は一瞬固まった。
「あれ?」
「どうしたんでぃ、スバルの旦那」
「おっかしいなあ、俺の時計しらねえか?」
「時計ってあのいつもつけてるやつ?」
「そうそう、爺さんが高校入学祝いに買ってくれたやつなんだ、テストん時とか使うだろって。おっかしいな、外した覚えねーんだが」
「外すとしたらシャワーん時ぐらいじゃねえかい?」
「あん時はまだあった。最後に見たのは寝る時くらいだな」
「じゃあ教室に戻りやすか?」
「おっかしいな、なんで気づかなかったんだろ」
iPhoneをみたらまだ地下水道に行くには時間がある。急いで当直室や教室に引き返し、私物を探ってみたが見当たらない。
「無意識のうちにはずしちまったんじゃないかい?」
「じゃあ職員室か?うーん、わからん」
ダメもとで職員室に行ってみるとカイトとドラクモンがなにやら言い合いをしているのが目に入る。ミウの好きな缶詰を確保するためにちゃっかり隠していたら、なくなっていたそうだ。
「ここに隠してたの知ってるの、俺とお前だけだぞ!?勝手に食べただろ、ドラクモン!」
「食べてないって!信じてくれよ、俺がそんなことするわけないだろ!?」
「状況的にお前しか犯人いないだろーが!!」
俺とコテモンは顔を見合わせた。
「どうしたよ、カイト」
「スバル、いいとこに来た。こいつとっちめてくれ!俺の分の缶詰、ミウが好きだからって保管してるの知ってるくせに食いやがったんだ、こいつ!!」
「えっ、ほんとか?」
「そりゃいけねーな、いけねーよドラクモン」
「だーかーらー!あの缶詰別に好きじゃねーし、カイトが大事にしてるモンに手をつけるわけねーだろ!!」
「じゃあ誰が盗んだんだよ!」
「しらねーけど、泥棒が現れたかもしれないだろ!そもそもここは何処も鍵なんてかかんねーんだから!!アリバイがねーのはみんな同じだ!」
「......言われてみればそれもそうか」
「だろー?ちょっと落ち着けよ、な?な?整理してる時に別のとこにおいたとかあるんじゃねーか?」
「そういうことなら、探そうか?まだ時間あるし」
「手伝いやすぜ、カイトの兄ちゃん」
「ああ、悪い。ごめんな、ドラクモン」
「疑いがはれたんならよかったぜ」
俺たちはとりあえずカイトたちと手分けして、ミウの好物が入ってるという缶詰を探すことにしたのだった。
15分ほど探したころ、いきなりドアが開いた。
「あ、いたいた。カイト、スバル、きみたちもなにか無くしてない?」
「え?」
「なんだって?」
タクマが入ってきたことで、俺たちの缶詰探しは一時中断となった。
「俺は腕時計が見当たらないんだ、外した覚えねーのにさ」
「えっ、スバル、お前もなんかなくしてたのかよ、時間あるっていってたから頼んだのに」
「どこで無くしたか覚えてねえからさ、実はここも候補のひとつなんだ。そのうち出てくるかと思ってな。缶詰の方が見つけやすいだろ?」
「ならいいけど......。俺はスバルのいう通り缶詰だ、○○ってパッケージのやつ。ミウが好物だから、アオイに頼んで1個とっといたんだが見当たらねえ」
「やっぱり......」
「やっぱり?」
「なんだ、やっぱりって」
「実は......」
タクマがいうには、大事なものを無くした仲間がたくさんいるらしい。アオイは料理中に外しておいた指輪。リョウは亡き母からもらったパスケース。ミウはカイトからもらったお守り(このあたりでカイトがマジギレしたがいつものことだし、話がややこしくなるから、誰も見ないふりをした)。ミノルはお気に入りの靴下。シュウジは財布。そしてサキは着替えていたらお尻を触られたとかいうとんでもないセクハラ被害。みんな無くした場所がバラバラで、状況的についさっき。思った以上に深刻だった。
「やっぱ泥棒でたんじゃねーか、タクマ。ドラクモンがいってだけど、鍵かかるとこねーんだろ、この校舎」
「白昼堂々なんつー恥知らずなやつだ、とっちめてやらねーとな、スバルの旦那」
「まだ遠くにはいってないはずだ、探そうぜ」
「よしきた、手分けして探そうぜタクマ。俺とスバルは校舎前の森だ。あっちのほうが広いしな」
「うん、わかった。僕は校舎裏あたりを探してくるよ。アグモンたちが話してるの見かけたから、なにか見てないか聞いてくる」
俺たちは一目散に目的地に散っていったのだった。校庭をつっきり、森が一望できるあたりに入る。木漏れ日がまだ入るあたりかやiPhoneのカメラ機能をつけて、あたりを見渡す。変なノイズが走るのを見た。
「カイト、あっちだ!
「足跡があるぜ、スバル」
「ファングモンほどデカくねーから、俺たちくらいの大きさだな」
「なら進化しなくても大丈夫そうか」
「おうよ!」
がさがさ茂みをかきわけながら前に進んでいくと、影がみえた。
「カイト、ドラクモン止まれ!なんかあるぞ、横からまわりこんだ方がいい!」
「ちょこざいなトラップなんざ仕込みやがって!!」
俺が声を張り上げるのと、コテモンが竹刀から雷撃を放つのはほぼ同時だった。炎上した草木がまたたくまに崩落し、大きな落とし穴が現れる。
「げえっ!?なんでバレたんだぁ!?」
手にたくさんの戦果品をかかえたまま青いうさぎみたいなケモノガミが叫ぶのがみえた。
「あっ、しまった。つい......」
カイトたちの怒りが一気にそちらに向けられるのがわかった。ひい、とケモノガミが後ずさる。だらだら汗をかいているのがわかる。どこをどうみても怪しい。明らかにコテモンたちくらいの大きさのケモノガミだ。
もっと強いやつが泥棒したんだと思っていた俺は拍子抜けした。あーあ、やめときゃよかったのにバカだ、こいつ。明らかにこっちの方が過剰戦力じゃねえか、ご愁傷様。
「泥棒はてめーかぁッ!!」
「オメーのせいでカイトに泥棒扱いされたんだぞ、絶対許さねえ!!」
「スバルの旦那の宝モンに手を出すたぁ、いい度胸だ!明日の朝日は拝ませねえからなぁ、覚悟しやがれぇ!!」
俺がなにかいう前にコテモンがヤシャモンに進化して、傀儡になる呪いをかける。手足の自由をうばわれたケモノガミは、自分で自分を攻撃してしまい、足元がふらついて転んだ。あたりには缶詰と腕時計が転がった。
そして、ドラクモンがサングルゥモンに進化して、ヤシャモンが追いついた。怒り心頭の2体は容赦なく泥棒に襲いかかったのだった。
ケモノガミの断末魔がひびきわたった。
「ごめ゛ん゛な゛ざい゛ごめ゛ん゛な゛ざい゛ごめ゛ん゛な゛ざい゛ごめ゛ん゛な゛ざい゛ごろ゛ざな゛い゛でぐだざい゛ぃぃぃぃぃぃ」
たんこぶとアザでぼっこぼこになったケモノガミ改め、ガジモンは俺たちの前で土下座していた。さしだされたのは盗まれたものだけじゃなく、旧校舎内の見取り図だった。俺たちがどうやって暮らしているのか調査も兼ねていたらしい。尋問したらあっさりアルケニモンの手下だと吐いた。アルケニモンのところに帰ったら殺されると泣かれたので、コテモンがクンビラモンを頼るよう告げて逃してやった。
「アルケニモンの野郎、散々負けてる癖に懲りないやつだな」
またアルケニモンの差金かとカイトがうんざりしている。リョウがあやうく死にかけたからか、カイトもドラクモンも機嫌が悪い。
「探しものが見つかったのと地図があっちに行かなくてよかったな、カイト」
「まあな」
俺たちは戦利品をかかえて校舎に戻ることにした。タクマたちの捕まえた泥棒はギュウキモンの手下だと知らされて、俺とコテモンがゲンナリするのはまた別の話である。