「牛鬼」と書かれているズタズタの雑面をつけた茶色の牛型の獣人の上半身と、ドクグモンに似た蜘蛛の下半身が繋ぎ合わさった様な姿を持つ魔獣のケモノガミ。それが5日に渡って俺たちに幾度も襲撃してきたギュウキモンの正体だった。
「さっさと殺したかったのに邪魔ばっかしやがって」
「テメェの執念深さはよく知ってらァ、獲物を追い回し、夜になると背後から襲う怪異、残忍なケモノガミ、文字通りじゃねえかい。テメーみてえなケモノガミからも忌み嫌われている危険な存在が一番『主』んとこから離れなきゃいけねえんだ。『主』を穢した怨念そのものじゃねえか。スバルの旦那に近づけるわけねえだろうがよ」
ギュウキモンは巨体に似合わず、蜘蛛の足を器用に使い音も無く静かに、すばやく移動するもんだから霧で視界不良な俺はすぐ見失ってしまう。見つけた時には牛の獣人のケモノガミが攻撃を防いでくれて、ギュウキモンのツノの先にぶら下げた鈴が音を発するときばかりだ。
「耳を塞いでな、スバルの旦那」
「無茶いうなよ、動けねえんだから!」
「あー、そういやそうか。ま、動けねえなら鈴が放つ不協和音で感覚狂っても一緒だな。じゃあそのままで」
「いきなり雑だな、オイ。助けてくれよ」
「真っ二つになりたきゃ自由にするぜ?」
「冗談よしてくれ」
「ならいいこにしてな」
「......怖っ」
ギュウキモンが蜘蛛の下半身にある口部から蜘蛛の糸を吐き出すが、牛の獣人は難なくかわす。猛毒液を吐きかけようとした口に切っ先を突き立てて豪快に薙ぎ払う。内側からあらゆるものが破れる音がして、腹部に備わったシリンダーが吹き飛び、毒ガスが振りまかれるが、振り回された巨大な刀が全てを薙ぎ払った。
また2本の巨大な剣がギュウキモンの四肢を最も簡単に切断し、禍々しい液体を垂れながさせながら肉体を貫いていく。2枚下ろし、3枚下ろし、と綺麗に両断、解体されていくギュウキモンはなすすべなく肉塊に姿を変えていったのだった。
へたり込んで呆然としたままその一部始終を見ていた俺は、牛の獣人に糸を切断してもらった。
「やべえ、完全に腰が抜けて立てねえや」
「そりゃそうだ。あーあ、出来りゃあスバルの旦那のピンチに颯爽と現れて進化と行きたいとこだったが、ギュウキモンにああまで啖呵を切られちゃ我慢できるわけねーわな、あっはっは」
「お前、ヤシャモンの進化先でいいんだよな?」
「そうだぜ、スバルの旦那。そしてオレの正体でもある。この世界の北を守護するシェンウーモン様の配下にして丑の方角を司るヴァジラモンたぁ、オレのことよ」
「ヴァジラモン......まじか、クンビラモンたちと同じ......?しんじらんねえ......。あれ、なら俺いなくても進化できるんじゃねえか。俺いらなくね?」
「バカ言っちゃいけねえや。生まれた時からこの姿とスバルの旦那の力を借りて、進化と退化繰り返して今の姿になった場合とじゃ強さは雲泥の差なんでさぁ。ま、時間制限ねえ利点はあっからは一長一短ではあるがね。『主』に勝つには前者じゃダメなんでさァ、なにせシェンウーモン様より強くならねえとダメなんだから」
「そういやそうか......シェンウーモンたち4柱いてようやく封じてるくらい強いんだもんな......。え、ヴァジラモンのさらに先があんのかよ」
「あるね、ちなみに進化したことねえから、よくは知らんが」
「そっか......あれ、じゃあお前、ほんとは十二神将の仕事あんのに俺のパートナーしてていいのかよ!?」
「んなのシェンウーモン様からの直々の指令に決まってんだろ。優先順位はアンタだよ、旦那」
「あ、そっか。俺死んだらヴァジラモンも死ぬから」
「それにだ、パートナーがどんなに大事かなんてシェンウーモン様から耳がタコになるほど聴いてるっての」
「だからあんなにこの世界のことに詳しかったのか」
「おうよ。いったろ?俺はこの世界じゃ古参だってな」
「あれ、でも俺が生まれたときに生まれたんだろ、お前」
「そりゃあ、単にずーっと前のことも覚えたまま卵になっただけでさァ。『主』の手下に負けて死んでは転生繰り返してはヴァジラモンやってんだから」
「な、なるほど......なるほど?つまり俺のパートナーになったのは現状打破になるかもしれねえってこと?え、そんな大事な大役任されてんの、俺!?」
「大丈夫、心配しなくてもスバルの旦那はうまくやってくれてまさァ。あとはタクマの兄ちゃんたち......特にシュウジの旦那とロップモンがどう持ち直すかにかかってやす。そうじゃなきゃ、東を守護するケモノガミのお膝元たるこの場所で、配下たちが『主』の部下どもにやすやすと侵入を許し、好き勝手させるわけがねえ。アンタらは試されてんでさァ、この世界に来てからずーっと、ずっと。下手したら、この世界に迷い込む前からずっと」
なんだかとんでもないことを聞かされている気がするのは気のせいだろうか。俺は乾いた笑いしかでない。
ヴァジラモンは笑いながら光に包まれていき、コテモンに戻ってしまった。
助け起こされた俺は頷くしかない。
「さあ、シュウジの旦那とロップモンがどうなったか、見に行きやしょう。大丈夫、きっと悪いことにはなってないはずでさァ。他ならぬスバルの旦那の仲間なんだから。そうでしょ?」
「そうだな......もしそうだったら」
「そうだったら?」
「また誰か信じてみるのも、期待してみるのも、悪くねえかもしれねえな」
「だったら嬉しいねえ、きっとオレら、きっと今よりずーっと強くなれるぜ」
コテモンと一緒に俺はシュウジたちがいるであろう先を急いだ。何度も水路を右に左に奥に突き進んでいった先では、アルケニモンの配下とタクマたちがすでに戦闘状態だった。
そして。
「シュウジの馬鹿野郎!!なにしようとしたのかわかってんのか、てめぇ!!ロップモンはずっとテメーのこと心配してついてきてんだぞ!なんでそいつに平然と手を挙げられんだ、てめーは!!コテモンがいってたろうが、ロップモンはもう一人のテメーだって!!なら進化できねえのも臆病で寂しがりやなのも全部お前が認めたくねえお前そのものだからだろ!!自分で自分を受け入れられない分際で、進化できねえのがてめーのせいだとわからねえ分際で、人にやられたからってその腹いせにロップモンのせいにして自分で自分痛めつけてんじゃねーよ!!」
リョウがマジギレして、シュウジをぶん殴っているところに、俺たちは遭遇することになったのだった。
リョウはシュウジは一人じゃないし、ロップモンがいるし、仲間がいるんだから一人で何でもかんでも背負い込むなと続ける。勢い任せに色々並べ立ててこそいるが、いくら俺たちがいってもダメだったのに、パートナーと上手いこと関係を構築できない時期があったリョウの言葉は、シュウジに届いたようだった。
「......すまない、ロップモン。リョウのいうとおりだ。コテモンのいうことが理解できていながら、納得できなくてやつあたりばかりしていた。今更許して欲しいとはいわない、ただ、リョウたちを助けてくれないか」
ボソボソといいながら、憑きものが落ちたかのように、シュウジが沈黙する。どうやらアルケニモンの幻覚はシュウジに牙を向けていたようで、正気にかえったらしかった。ロップモンの周りに浮かんでいた真っ黒で不気味な気配が散見する。霧のようななにかは晴れて、代わりに眩い光がロップモンをつ積み込む。
「......やればできんじゃねえかよ」
「......ロップモン」
「ずっと、まってた。ずーっとずっと、待ってたよ、シュウジ。ぼく、やっとみんなを守れる。まかせて、ぼく、がんばるから!」
トゥルイエモンと名乗ったウサギのケモノガミは爛漫な笑みを浮かべたのだった。