タクマたちがアルケニモンの部下を返り討ちにした瞬間、俺たちは合流するついでに追い討ちにかかった。だが、目眩しの霧が噴き出してきて取り逃す羽目になり、『主』の霧とはまた違うなにかが迫り来る圧迫感に怯えたアグモンたちが逃げようとした。たぶん、青龍たちが自分のナワバリから出ていけと警告したんだろう。とりあえず逃げようということになり、そんな俺たちを助けてくれたのは、なんと水無瀬教授だった。
初日にシュウジとサキを庇ってダムから転落して行方不明だと聞いていたから正直生きているとは思ってなかった俺は、『主』の部下の変装じゃないかと疑ったが、コテモンがいうにはそういう気配はしないらしい。じゃあミユキとハルはと聞いたら不自然に目を逸らされて口笛を吹きやがった。バレバレだぞ相棒。戒厳令でもひかれてるんだろうか。とにかく、ほんとに人間だとしたら、相当生命力と悪運が強い人ってことになる。さすがは50年前に神隠しから唯一生還できた人だけはある。もしかしたら、パートナーのケモノガミが人知れず助けてくれたのかもしれなかった。
水無瀬教授がいうには、ダムから転落して水路に流されて出口まで出てしまい、初めは神社に戻ろうとしたが見当たらない。島を回るうちに初めにいた島とは違うと気がついた。あわてて流されてきた水路を逆走していたら俺たちに運良く遭遇したらしい。この新しい島にあるエリアをだいたい教えてくれたので、その見取り図も写メにとりつつ、俺たちは海岸に出た。
みんな、地下水道から脱出できたことで緊張の糸が切れたのか、疲れてしまったのだ。人間疲れている時に考えることはだいたい良くない方向に転がっていくもので。
シュウジがアルケニモンの幻覚が引き金となり、とうとうロップモンに暴行を加えたとき、ロップモンから黒い靄が出たのを誰もが目撃していたのだ。
俺はコテモンから悪いことにはならないといいきってもらえたから、靄が晴れたんだからいいんじゃねーかと思ったんだがそうでもないらしい。シュウジがリョウにぶん殴られながら説教されて改心したからめでたしめでたしじゃダメなんだろうか。
たしかにあの黒いモヤは心の中でざわざわするものがあったし、本能的にやばいと感じるものはあったがシュウジの自業自得なとこがあるから俺はあんまり怖くなかった。俺がきたときには、リョウがシュウジぶん殴ったとこだったからかもしれない。
あの黒いモヤがロップモンから出たのがタクマ達には衝撃だったようだ。ケモノガミがなんなのかコテモンから散々説明してもらったのになんでまたと思うが、実際に見るのと説明だけはやっぱり勝手が違うらしかった。
特に動揺が激しかったのはミノルだ。パートナーのファルコモンがしっかり者でミノルの憧れるヒーローみたいな側面があるから、なおのこと動揺したらしい。詰問されたコテモンは困ったように頭をかいた。
「ケモノガミがパートナーの精神状態に左右されるのは、だいたいわかってるだろう?ミノルの兄ちゃん。オレらが進化するのは、いつだってパートナーを守りたいとかポジティブだったり、前向きだったりしたときだ。その逆はどうなるか、想像したことくらいあんだろう?その最悪なパターンがまさにあの黒いモヤの先にある進化だ」
「あれも進化なのか!?」
「進化できなくなるパターンもあっけど、ロップモンは進化するパターンみてえだな。相互不理解による怒り、悲しみ、憎しみ、とりわけシュウジの旦那は自分で自分が許せない側面がかなりあったからな、ロップモンは無意識に叶えようとしちまうだろうよ。いわゆる自殺だな」
「自分で自分を攻撃するようなものだからか......なるほど。リョウがいなかったら、手遅れになるところだったのか」
「シュウジは手遅れになる前に気づいてくれたよ。だからもう大丈夫だよ、きっと」
「ありがとう、ロップモン」
「ご丁寧にオレとスバルの旦那だけ隔離した上にギュウキモン差し向けてぶっ殺そうとしやがって」
「......あれも進化かあ......俺、ファルコモンをちゃんとタクマやスバルみたいにさらに進化させてやれんのかなァ。なんか自信なくなってきた......だって偽物と本物区別がつかなかったんだぜ?あんだけ一緒にいるのにさあ......」
「み、ミノル、わからなかったのか?!嘘だろう!?」
「ほんとにわかんなかったんだよ......んな嘘つけるかよ......」
「そう落ち込むなよ、ミノル。沢山のパートナーから本物探せって俺みてーなのじゃなくて、なんか幻覚のファルコモンに辛辣なこと言われまくってパニック状態だったじゃねえか」
「幻覚の?」
「そうだ、そうだよ、ファルコモン。みんな、パートナーにトラウマとか刺激されるようなこと言われる精神攻撃されてたんだ。ミノル、ファルコモンと合流できたと思ったら酷いこといわれたと思ったんだよ、きっと。僕だってアグモンに言われたと思って怖くなったんだ」
「い、いったいどんなひどいことを......?」
「......」
「ミノル?」
「ごめん、ファルコモン。ちょっとそういう気分じゃないや......偽物見抜けないほどの状態になったせいだろ、さっきのアルケニモンの戦いで進化出来なかったの。やっぱ俺のせいだ。ちょっと一人にさせてくれ」
「ミノル......」
「みんな、さっきの戦いで疲れてるみたいだし、ちょっと休憩しようよ。こんな状態で考え事しても怖くなるだけだしさ」
「......ありがとう、タクマ。俺もお前みたいだったら、ファルコモンに迷惑かけなかったのにな」
「ミノル......」
ミノルとファルコモンほどではないにしろ、パートナーのケモノガミとの関係について、あまりにも自分に課せられた負担が大きいことを自覚してしまったせいでみんな怖くなってしまったらしい。
意識してしまうと出来なくなることもあるようで、いつもどんなふうにパートナーに接していたのかわからなくなってしまった仲間たちの動揺に、どうしたもんかと俺とコテモンは顔を見合わせた。
ミウとシャコモンは気にしていない様子だ。ちょっとコテモンが驚いてる。ジジモンがいってた後継者にふさわしいってのは案外当たっているのかもしれない。
リョウとクネモン、シュウジとロップモンは一度死にかけたり、関係が拗れに拗れたことがあったりしたために、この程度で揺らぐ絆ではなさそうだ。
タクマとアグモンは相変わらずみんなのフォローに回ってるから余裕がありそうだ。
俺はというと......。
「あーはいったがね、ああいう進化は誰しもが経験しうるもんでさあ。シュウジの旦那のパターンはなかなかねえがね。人間とケモノガミの在り方を見つめ直す一種の通過儀礼のようなもんだ。深刻に考えなくても大丈夫でさあ」
コテモンがあっけらかんと笑うもんだから、俺はあんまり気にしてなかった。
「スバルの旦那は誰にも期待しないで生きようって決めたんだ、裏を返せば信じられるのは自分だけ。オレがスバルの旦那のもうひとりの自分だっていった時点で無条件に信じられるわけだもんな。そこは全く気にしてねえや。むしろ、まわりを見捨てないでいられるかのがヒヤヒヤしやすがね」
グサグサいわれた俺はちょっと凹みながら、新しいエリアを探索していた。みんな休憩がてら散策しているのだ。
東の方角を守護するケモノガミは、青龍によく似た姿をしており、他の四神と同じく伝説の存在であり、その強さは神にも匹敵する。簡単に人間や弱者に協力をするようなものではなく、よほどの事が無い限り味方にすることはできない。配下は寅、卯、辰の3体である。
ケモノガミ文字を翻訳するとだいたいこういう意味になるだろうか。
iPhoneで撮影した画像を確認した俺は石室から外に出た。この祠は地下水道から抜けた先にあるもうひとつの島の出口のすぐ近くにあった。
「やっぱ四神によく似たケモノガミと配下はいるんだ。あと一箇所わかれば『主』の封じられてる場所がわかるな」
「そうですねい。さあ、スバルの旦那も行きやしょう。みんながどう立ち治っていくのか、見に行きやしょうや」