(完結)鹿野岸奇譚(デジモンサヴァイブ)   作:アズマケイ

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鹿野岸奇譚

 

「スバル、そういやハルは?ハルはどうした?なんかあったのか」

 

「ハルは教授を追いかけて集合団地の棟にのぼってくのを見たきりだ。襲撃があったから、ミユキだけでもと思って逃げてきたら、あの広場に出たんだよ」

 

「なんだって!?じゃあ......」

 

「今から戻るのは無理すぎだろ、カイト。ハルは大丈夫だよ、たぶん。ミユキが死ななきゃな」

 

「それってやっぱりあれか。前にいってた......」

 

「俺がコテモンと探してるの見てたろ、カイト」

 

「でもなんか実感わかねえな......」

 

「何いってんだ、アルケニモンとか『主』の霧とか人間に化けるやつは散々会ってきたんだろカイト。なにをいまさら」

 

釈然としないながらもカイトはミユキをおぶったまま走る。俺もミユキを庇ったときに全身ぶつけた痛みを堪えながら走った。

 

「この世界に迷い込んだ人間には、かならず対になるケモノガミがいるってコテモンいってたろ?例外はやっぱなかったんだよ。レナモンていうらしいぜ、何処にもいないって寂しそうにいってたから間違いない」

 

「レナモン......。なんでミユキが人間で断定できるんだよ」

 

「それは」

 

「カイト!スバル!こっちだよ、こっち!はやく!!」

 

商店街の脇道からタクマ達の声が聞こえてきて、なんとか合流することができてホッとした俺はそのまま地下水道に続くマンホールの中に入ったのだった。

 

俺たちが最後だったようでパートナーのケモノガミたちはみんな交戦中なのかここには人しかいないようだ。

 

「きいて、きいてよ、お兄ちゃん!遊園地襲ってきたのに途中で帰っちゃったガルルモンてケモノガミいたでしょ?あれ、教授のケモノガミなんだって!!ウチらたすけてくれたんだよ!」

 

「それでね、教授のことなんていったと思う!?」

 

「「助けてやるのは今回だけだ、だってー!!」」

 

よほど劇的な救出劇だったのか、興奮冷めやらぬという様子でミウとサキが声を合わせてカイトにつめよる。不慣れなテンションで詰め寄られ、ミユキを下ろしたばかりのカイトはちょっとたじろいだ。よっぽどかっこよかったらしい。

 

「あれはいわゆるツンデレってやつだな、あの調子だと教授がダムに落ちたとき絶対たすけてるって。おかしいと思ってたんだよなー、普通あんな高いところから落ちたら助からないって」

 

「ワーガルルモンだったかしら、強そうだったわね」

 

「でも、どうして教授のパートナーが『主』の配下なんかに......」

 

「なんかあれだよな、今思えば人間よりパートナーといる人間が許せないみたいないいかただったよな」

 

「教授、そろそろ話してもらえませんか?これ、教授ですよね?水無瀬アキハル教授」

 

タクマがポケットから一枚の写真を取り出して水無瀬教授に突きつけた。その写真の裏には水無瀬ミユキとアキハルの名前、撮影した50年前の日付が書いてあり、今と何ら変わらないミユキとハルが写っていた。もっといえばもっと子供らしい笑顔とピースサインの2人が。この表情を映せるのは両親だけだろう。

 

教授は観念したように肩をすくめる。水無瀬がケモノガミ信仰の中心を担っていた一族だとシュウジとアオイが指摘すると、教授はようやく重い口をひらいた。

 

あの史跡にあった壁画や水無瀬家に遺されている古文書、水無瀬教授の研究成果から導き出された憶測と前置きがあったが。

 

現実世界で1000年前、ケモノガミ世界において244603年前、主も神はいなかった。かつて世界はひとつだった。人間とケモノガミは共存しており、ケモノガミには必ず対となる人間がいた。人間が争うようになると、その影響を受けたケモノガミは暗黒進化しやすくなり、人間は力の強いケモノガミを求めるようになる一方で、暗黒進化したケモノガミを対になる人間ごと崇め祭るようになる。

 

その人間とケモノガミの繋がりに目をつけた時の権力者は、ケモノガミの頂点たる神を作り上げ、その対となる人間を配下にしようと考えた。選ばれたのは5人の童、頭領はケモノガミ信仰において中心的役割を担っていた水無瀬家の当主たる巫女の弟、彼に従う4人の従者だった。

 

水無瀬家にとって失敗はお家断絶を意味する一世一代の一大事業である。ケモノガミの頂点に君臨する主をつくる一大事業の集大成たる儀式にて事件は起こった。四神は無事降臨したが、主たる神を降臨させるはずだった頭領は、永遠に神と対になるために精神体になる儀式のときにその不合理さと理不尽さにどうしても自我を捨てきれず、それが神にまで伝播し、神がけがされて乱心してしまったのだ。世は戦国時代の下地が出来つつあったために人々の心は乱れており、神として直視したことで発狂したともいう。  

 

従者たちは今まで過酷な旅を共にしてきた頭領を討つことがどうしても出来ず、四神と共に頭領と神を封じるために世界をふたつに隔てることにした。そして門を作ったのだ。

 

朝廷の怒りをかった水無瀬家はお家断絶こそ免れたが、水無瀬家の当主たる巫女はケモノガミの神を鎮める歌を生涯ささげること。その地から生贄となる童子をケモノガミの世界への封印が施された祠に捧げることが定められた。

 

黄竜を封じている四聖獣は、ケモノガミの世界の四方の方角を守護し、安定を保つこととなった。

 

北方を守護するは水の力を操る玄武、シェンウーモン。東方を守護するは雷の力を操る青龍、チンロンモン。南方を守護するは炎の力を操る朱雀、スーツェーモン。西方を守護するは鋼の力を操る、バイフーモン。

 

 

ケモノガミの神を封印するための楔となった四聖獣は、いつしか方角を司る存在として崇められるようになる。それは一体でも欠けるとパワーバランスが崩れる状態になってしまったともいえた。そのためか四聖獣はケモノガミの世界の最深部に存在して、ほとんどの内部の事象にかかわってこようとしない。

 

そのためそれぞれに十二神将と呼ばれる使者を生み出した。デーヴァとは、十二支の姿をした完全体のケモノガミ達のことであり、四聖獣1体につきそれぞれ3匹のケモノガミが仕えている。デーヴァは、四聖獣の代わりに声となり、耳となり、目となってケモノガミの世界の方角を司っている。

 

しかし、封じられているケモノガミの神と頭領の怒りは収まるどころか日に日に強大さを増し、人間世界とケモノガミの世界を隔てる壁を破壊せんと暗躍するようになる。

 

眷属を生み出し、四聖獣の手足であるデーヴァを襲い、四聖獣の封印を解こうとした。

 

神が狂乱した瞬間にケモノガミの世界は汚され、ケモノガミも繋がりを持つ人間も顕現する糧として眷属たちに襲われるようになり、息のかかったケモノガミがケモノガミを襲うようになった。汚された領域は深い霧に覆われるようになり、ケモノガミの世界の生息域は狭められ、世界は終わりに向かい始めた。

 

四聖獣と4人の童子が作り出したはずのケモノガミの世界を管理する機構までもがケモノガミの神に侵食され、ふたつの世界を隔てる壁の境界があいまいになりはじめた。

 

人間世界側の時代が流れ、ケモノガミ伝承も信仰も断絶し、封印の要だった認知の力がなくなってしまったためだ。

 

世界がふたつにわかれても、人間とケモノガミは本来ふたつでひとつの存在だ。写し身だ。ケモノガミの世界からケモノガミが減り、汚れを溜め込み始め終わりに向かい始めたことで現実世界にも悪影響が出始めた。片割れが汚されれば、片割れの精神にも悪影響をもたらす。人災から始まった環境汚染は全世界に波及し加速し、不可逆となる。あらゆる災禍をアトランダムに起こしはじめた。

 

そして1980年代のある日のこと、悲劇が起きる。形骸化していた水無瀬家の巫女の儀式を行なうはずだった水無瀬ミユキと弟のアキハルが封印が解けかかっていた壁を越えて、ケモノガミの世界に迷い込んでしまったのである。

 

ケモノガミの神、そして片割れたる頭領は執拗に水無瀬ミユキを狙って眷属を放った。自らを封印した水無瀬家の姉たる巫女の子孫であり、自らを贄に差し出した人々への憎悪が噴出したのだ。水無瀬ミユキは唯一ケモノガミの神を鎮める歌を歌うために壁を越える力を持つため、手中に収めれば封印から解放されると考えたのだ。執拗な追跡の果てにミユキはアキハルだけを現実世界に帰還させ、なんらかの理由で今のような状況に陥り、ミユキと繋がっているケモノガミたるレナモンは懸命にミユキを守るためにケモノガミの世界を逃げ惑っていた。

 

現実世界で封印を強固にするはずの巫女の儀式は断絶し、ミユキが神隠しにあったことで水無瀬家はその地を離れてしまう。帰還できたアキハルは大人に神隠しの真相を話しても誰にも相手にされない絶望感と罪悪感に押しつぶされ、忘却した。いよいよ封印が解けるのを待つばかりとなってしまったケモノガミ世界には、ますます人間が迷い込むようになってしまう。

 

どちらにも終わりは着実に近づいていた。

 

「数年前から私はあの史跡を調査してきたんだ、どうして今頃になって......」

 

みんな、あまりにも壮大な話に沈黙してしまったのだった。

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