今日だけでいろんなことがありすぎたからだろうか。明日、四聖獣たちの祠があるもうひとつの島の西側を探索することだけを確認してからは、食事とシャワーとトイレをながれ作業的にこなして、俺たちはそのまま教室で就寝した。毛布を被ったらまぶたが落ちてきて、ほぼノータイムで寝たらしく、気づいたらあたりは真っ暗だった。手探りでiPhoneを探すと真夜中をさしている。他のみんなを起こさないように抜き足差し足忍び足で教室を出て、男子トイレに向かった。何度起きても真っ暗な木造校舎は不気味すぎてならない。なるべく余計なものをみないようにしながら、まっすぐ教室に向かっていた俺は、階段あたりで足をとめた。ピアノの音がする。背筋が凍る。
「......ハルのやつ、まーたいやがらせか......?」
頼むからやめてくれとミノルからお願いされてもお姉ちゃんが喜ぶから、と素知らぬ顔をしていたのを思い出す。正体がバレてもハルはレナモンと呼ばれるより、ハルでいいといっていた。一万年以上ハルの姿でいたせいでこれが一番体力を消費しないように体が適応したせいで、レナモンになる方が気合いがいるんだとも。それはそれとして、やっぱり謝罪はしても据えかねるものはあるらしい。明らかにハルは饒舌になったが毒舌も増えた。
階段を上がり、音楽室をのぞいてみる。やっぱりハルがピアノをひいて、ミユキが歌っていた。中に入ろうとしたら手を引かれた。ギョッとして振り返るとサキがいた。しー、と指をあてられる。びっくりした、ガチでなんか出たのかと思った。うなずいた俺は階段あたりにひきかえした。
「だめだよ、スバルさん。ハルたちの大事な時間を邪魔しちゃ」
「あー......ダメだな、まだ寝ぼけてた。そこまで頭まわってなかったわ。ありがとう、とめてくれて」
「だと思ったー。いつものスバルさんなら絶対入らないのに2階あがるからびっくりしちゃった。さすがに『主』の霧はでないだろうし大丈夫だよ。あ、もしかして怖いの?」
「さすがに怖いだろ、出る世界なんだぞ、ここ。四聖獣のパートナーはそうやって世界守ってんだから」
「......い、いわれてみればそーかも......」
「おいおい、もしかしてサキ気づいてなかったのか?」
「きづきたくなかった......」
サキは自分でいってることが怖くなってしまったようで一人でうろうろするのが嫌なのか俺についてくる。
「あの歌、『主』にささげる歌らしいけどさ、歌詞聞いてるとあれだよね。世界がまたひとつになりますように的なニュアンスを感じるよね。やっぱり門を開いたほうがいいのかな。いつかひとつにするからそれまで待っててっていうお願いに感じるんだよね」
「へー、サキはそう聞こえるのか......」
「まあね。昔の歌だから意味は全然わかんないけど。これが『主』を鎮める歌なんだから、私たちを守るために歌ってくれているのかもしれないよ、ミユキちゃん......さん?」
「ミユキはミユキだから今まで通りでいいんじゃねーかな、たぶん」
「だ、だよね!」
ほっとしたようにサキが笑う。
「今だから聞けるんだけど......ぶっちゃけ校外学習って生贄探す意味もあるの?神隠しを隠してたよね、鹿野岸市」
「爺さんみてーに昔から住んでる人らはそう言ってるけど、そこまで考えてねーと思う。ぶっちゃけあーでもして観光客呼ばないとやばいレベルなんだよ、鹿野岸って。炭鉱閉山してから財政的にやべーらしいし。夕張一歩手前だって何回も市長が民営化のたびに説明会してるし」
「な、なんか想像以上に世知辛い......なんか幻滅しちゃったかも」
「おいおい、ホラーじゃねえんだから街ぐるみの陰謀論はやめてくれ。そもそもあのカリキュラム通りにいったら、あの史跡は行かねえだろ。パンフとか全部のってねえし、観光神社はゆかりもクソもないとこに建てたんだから。元はと言えばうちの爺さんがたまたま見つけちまったミウに、絶対近づくなって言ったせいだからなァ」
「え、そうなの?」
「あんときはまだミウの性格わかってなかったからな.....」
「あー......逆効果だったんだねぇ」
「そうなんだよ」
「でもまあ、おかげでフローラモンたちに逢えたし、私は気にしてないよ。むしろ貴重な体験ありがとうって感じ」
「そう言ってくれるとミウも安心すると思うぜ、なんか気にしてたみてーだし」
「それをいっちゃったらさあ、元はと言えばミウちゃんについてっちゃった私たちにも責任あるしね」
「お互いさまってやつだな」
「ていうかリョウが言ってたみたいに、土砂崩れの時点でキャンプ自体中止にした方がよかったって話になっちゃわない?やっぱ鹿野岸市が悪いよね」
「あー......それについては擁護できねえわ、数日前から土砂崩れは起きてたしな」
「ウッソでしょ......」
「シュウジが言ってだけど、ボランティアスタッフ集まらなくてグダグダだったみてーだしな」
「うわあ......でも、そっかあ......よく考えたらスタッフさんって鹿野岸の人がやるもんね、普通」
「そーいうこと」
話しているうちに男女でわかれて寝ている教室前まできたが、サキはすっかり目が冴えてしまったようでまだ寝る気はないらしい。でもひとりぼっちになるとそれはそれで幽霊がでるかもしれない現実を直視したくないらしく、わざとらしく教室を素通りした。体育館にでも行くつもりらしい。七不思議でよく舞台になるだろうにこわくないんだろうか。まあいいか、指摘したらどのみち女の子ひとりにするなんてサイテーって明日糾弾されかねん。
「コテモンはあーいってたけどさ、あれってスバルさんも同じ気持ちなの?この世界のこと」
「消えたほうがいいってあれか?」
「うん」
「あんとき初めて聞いたからビビったよ。主をなんとか正気に戻してミユキ助けて帰ればいいってぼんやり考えてたからな。門とじたら神隠しも終わるからそれでいいって。そしたらあれだろ、はあっ!?てなるだろ、普通」
「だよね、だよね!スバルさんもう決めてたらどうしようかと思っちゃった。だってコテモンはあー言ってくれてだけど、実際はケモノガミが消えちゃうかどうか決めてくれってことじゃない?」
「土壇場でいうには重すぎると思ったんじゃねえかな。あんだけ死にたくない死にたくない言ってたくせにサラッというからさ......」
「コテモンもそうだけど、スバルさんもわりとそういうとこあるよね」
「......は?」
「だってそうでしょ?コテモンがスバルさんのもうひとりの自分なら、言わないだけで自分にも周りにも結構厳しいこと色々考えてるみたいだし。だから先回りしてくれてるのかなあって」
「あー......はいはい、そういう解釈になるのか」
「そうそう、気を遣って面と向かっては絶対言わないでしょ、スバルさん。だから、いつかスバルさんの考えと合わなくなったら、私たちの前からスパッといなくなっちゃいそうでなんか怖いんだよね。見切られるというか」
「心配しなくても大丈夫だって、そこまで薄情じゃねえよ。心外だなあ」
「ほんとかなあ......?」
「やけに食い下がるな」
「だってなんか怖いんだもん、朝起きたらいなくなってそうで」
「あのさあ......俺はどんなイメージなんだよ、サキん中で」
「スバルさんとコテモンがいなくなったら、とんでもないことになるなあってことくらいはわかるよ。タクマとかすごい頼りにしてるもん」
「大丈夫、大丈夫。今んとこはな」
「ほらあ!」
「おっと口が滑った」
「スバルさんの冗談は冗談に聞こえないからね、やめてね、ほんとね」