地下水道を抜け、もうひとつの島の西側を目指して移動した俺たちを待ち受けていたのは、巨大な炭坑だった。坑道は緩傾斜で海底に続いていて、工場全体が海底地下で機械掘削を用いていて今なお稼働しているのか動いている音で溢れていた。
登山通路の左側に3列の積込機、ベルトコンベア、坑内から出る岩石をトロッコが積み上げてて山ができている。右側に選炭工場を配置し、当時の技術体系を今に伝えている。近代化鉱と異なり、選炭工場と積込機を分けてつくり、ベルコン斜路で結合していたのが特色のようだ。
ひときわ目を引くのは立坑やぐらだ。海底まで鉱員を送る一方、採掘した石炭を引き揚げるのにも用いられたらしい。その施設の構造、機械、電気系統などが閉山時のまま完全に残されている。
鉱員が入坑する際に使われたエレベータは稼働中なのか会社名が夜間ネオンが光っている。
炭鉱が現役で稼働していた当時はたくさんの人々でにぎわっていたであろう工場は、人がいないにもかかわらず稼働しており、独特の不気味さと静けさをたたえていた。
「明らかにここだけ鹿野岸の炭鉱ではないね......ここまでの規模ではなかったし、そもそもあの街には海はない。それに50年前はすでに閉山していたはずだ。こんな工場ではなくて、全てが一体化していたはずだよ」
当時を振り返り断言する水無瀬教授に俺たちはあらためて工場をみる。明らかにこの場所だけ水無瀬ミユキの記憶から構築されたあとに何者かの介入があって作り替えられた形跡があるということだ。
「どこかに四聖獣の祠があるはずだよね。手分けして探そうか」
「昨日のことを考えると、また『主』の配下が襲撃してきそうだから、あんまりバラけないようにすること。霧が出たらすぐ知らせてくれ。今日からスマホ、使えるみたいだからね」
「マナーモードにしといたほうがいいよな......メールと着信がやべーわ」
「充電減らねえけど気を取られてるうちに襲撃されましたじゃやべーもんな」
「でもみんなの連絡まで届かないとまずいわ、今のうちに設定しておかないと」
「たしかにそうかも」
「どうやるんだっけ」
「ググれば出るだろ、ネットに繋がるぜ」
「まじ!?ほんとだ!すげえ......なんか変な感じ!」
「現在地はあの史跡から動いてないみたいだな」
「こうなるとあれだよな、電波塔万歳」
「アルケニモンとの戦闘でぶっ壊れたはずなんだけどな」
「また謎原理かあ、ほんとよくわかんねえ世界だなあ」
ここにくるまでに俺たちはLINEを交換しているので、それぞれ振動なり目立たない音楽なり、自分が気づけそうな設定を個別でしておくことにする。今まで連絡手段としての機能を失っていたから、電波がたっているだけでも安心感が段違いだ。やっぱり俺たちは現代人なんだと実感する。
「そういえば昨日のうちにワーガルルモンに『主』の配下のアジト聞いとけばよかったね」
「教えてくれるタマかよ、すぐいなくなっちまったじゃねえか」
「ミユキのこと知ってるだろうに、ひとりで過ごしてたんだよな、あいつ。どういう気持ちだったんだろ」
「おそらく、ワーガルルモンは誤解しているんだ」
「誤解?」
「あのときワーガルルモンはガブモンという姿から一度も進化が出来なかった。ガルルモンに進化できたのは、アキハルが帰還する直前だ。私たちはすでにぼろぼろに追い詰められ、ミユキがみんなを守ると歌い出した。ようやく進化できたガルルモンは敵を倒すことができたんだが、アキハルに合流したときにはミユキが開いた門が閉じてしまったんだ。ミユキは『主』の霧に飲まれて行方不明になり、私たちだけが残された」
「何度聞いてもすごい話だなあ......」
「なんつータイミングだ」
「......」
「教授......」
「私はミユキが『主』に連れ去られてしまったことに気が動転して探しに向かってしまってな。ガルルモンに状況を説明する余裕がなかった。あとから合流できて、私はミユキを見つけたあとだったから、すぐにでもアキハルが助けを呼びに来るだろうといってしまったんだ」
「だが、来なかった。いつまで経ってもこなかった。そういうわけだね、レナモン」
「アキハル......いや、すまない。そちらの世界でケモノガミがそこまで忘れ去られた存在に成り下がっているとは知らなかったんだ。時間の流れが違うことも。子供がどれだけ立場が弱いかも。そもそもアキハルが門を開くには偶然を待つしかないことを忘れていた」
「だが、迎えに来れなかったのは事実だよ。それも一万年以上も。それは途方もない地獄だ。何年待っても姉さんを迎えにこない私にガルルモンは絶望したんだろう。自分だけ逃げて帰ってこない。姉さんを見捨てた。姉さんだけじゃない、レナモンやガブモンまで『主』の霧に追われ続けるのをわかっていながら見殺しにしたと、そう思っても仕方がない」
「でもさ、ワーガルルモンは教授を助けてくれたじゃないっすか。ほんとはわかってるんじゃないんですか?」
「素直になれないだけな気がしますよ」
「教授との絆が全くないなら、そもそもワーガルルモンまで進化できないんじゃないかしら?だってガルルモンに退化してたし」
「あ、ほんとだ」
「許してくれるといい、なんて虫が良すぎるからとてもいえないがね......。ただ、『主』のところに戻ったのだとしたら、なにか酷い目に遭わされていないか。それだけが心配だよ」
教授は不安そうに炭鉱をみつめる。
「とりあえず、あたりを調べてみようか。あれだけ強いケモノガミたちがいるとわかったんだ、どこに潜んでいてもおかしくはないからね」
俺たちはうなずいた。そして、3つほどのグループにわかれてあたりを探すことにしたのだった。
「......不気味なほどいねえな」
「嵐の前の静けさってわけじゃあ、なさそうだねえ」
俺はiPhoneのカメラモードを起動してあたりを見渡す。いつもよりノイズが激しい。ぐるっとあたりを見渡してみてもノイズがずっと走っている。
「これってあれだな。クンビラモンたちがドクグモン全滅させたときにみたやつと一緒だ」
「まえに話してくれたやつ?」
「そうそう、赤い粒子が散って、見えなくなってもノイズが残って、消えたあとは遊園地にっていうあれ」
「ほんとだ。ってことは、このあたりにいた野生のケモノガミはみんな殺されたってこと?」
「それか、昨日みてーな激しい戦闘があったか」
タクマは不安そうにあたりを見渡している。
「誘われてるのかな」
「さあ......?ただ、やべーのはたしかだよな」
「気をつけよう」
「だな。まずは入口を見つけねえと話にならねえんだけどさ」
一抹の不安を胸に抱きつつ、俺たちはぐるりと炭鉱のエリアを回ってみたのだが。3つのグループと分かれた場所でまた合流してしまった。
「あ、アオイさん。なにかあった?」
「いいえ、ダメだったわ。ケモノガミもなにもいないの」
「入口すらないってどーいうことなんだろ?」
「遊園地みたいに隠し扉があるとかかなあ?」
「じゃあ、カメラモードでひたすら回ってみるか」
「私が空から見てみるか。上からなにかわかるかもしれん」
「なら、私が海から見てみましょうか。もしかしたら、海から入らないと行けないのかも」
「歩きスマホだといざというとき危ないから、僕たちは警戒してるね」
「りょーかい。もっかいいくか」
「おー!」
炭鉱のまだみぬ入口を求めて、俺たちは目を皿にしながらもう一周してみることにしたのだった。