炭鉱の入り口は巧妙に隠されていた。廃材が山積みになった場所に埋まっていたのだ。それをシュウジたちから連絡してもらった俺たちは早速そちらに向かった。到着した時にはロップモンたちが進化して撤去したあとだった。
坑道内部は稼働時に使用されていた線路や照明等がそのまま残されており、この世界特有の電気が生きている特性ゆえか正常に稼働しているようにみえた。薄暗くはあるが照明はちゃんとついており、奥まで続いている。横にある線路がトロッコで石炭や炭坑夫たちを運んだことを物語っている。海底に続く坑道なのに中は山の坑道と同じ構造だとあまりのチグハグさに不気味ですらあった。
「なんか落ちてら」
コテモンが拾ったのは鳥の羽だ。渡してくれたそれをマジマジとみると綺麗な色をしている。
「なんかいっぱいあるなあ」
たくさんの鳥の羽が落ちていた。なんか不気味である。
「炭鉱のカナリアだね」
「なんですか、それ」
「鹿野岸の鉱山が閉山したのは65年くらいだったかな。だからやっていたんだろう」
水無瀬教授は簡単に教えてくれた。
『炭鉱のカナリア』とは何らかの危険が迫っていることを知らせる前兆を指す慣用句の1つで、炭鉱等で有毒ガスが発生した際に、人間よりも先にカナリアが察知して鳴き声が止むことに由来する。
鹿野岸も例外に漏れず炭鉱労働者がカナリアを籠にいれて坑道に入った。炭鉱夫たちはガラスの容器の中に入れたカナリアと共に地下へ潜って作業をしていた。地下の鉱床では、火事や爆発のような事故があった場合、一酸化炭素のような致死性ガスが発生することがある。
この無色無臭のガスは、人間にもカナリアにも致命的だが、とくにカナリアのほうがその影響を受けやすく、人間よりも早くはっきりとその影響が現われる。だから、炭鉱夫に毒ガスの存在を知らせる警報の役目を果たすというわけだ。
これが転じて、何らかの危険が迫っていることを知らせてくれる前兆を意味する『炭鉱のカナリア』という言葉が生まれた。
炭鉱内で惨事が起こったとき、救助隊はこの蘇生器にカナリアを入れて坑内に降りる。ガラスと金属でできた容器の正面には丸い扉がついていて、ここから空気を取り入れることができるが、網がついていてカナリアが逃げられないようになっている。
空気中に一酸化炭素が存在すれば、カナリアの元気がなくなってくる。止まり木の上で目に見えて体がぐらつくようになり、ついには落ちてしまう。
カナリアの意識がなくなったら、容器の扉を閉めて、ボンベのバルブを開け、酸素を送り込んでカナリアを蘇生させる。炭鉱夫たちはカナリアのおかげで危険なエリアから避難することができるのだ。
「日本では、そうだね。オウム真理教の宗教施設に突入する時にカナリアが使われて、それから有名になったはずだよ」
名前だけなら聞いたことがある俺たちは、どれだけここがやばい場所だと水無瀬教授がいいたいのか気づいて気分が悪くなってきた。
「......カナリアの羽がたくさん落ちてるってことは、そういうことですか」
「そうだね。この先にそれだけの危険があるということでもある。気をつけていこうか」
緊迫した空気の中、とうとう俺たちは坑道の最奥に到達する。最奥はドーム状になっており、中央に鳥籠が安置されている。中のカナリアは死んでいた。近づくのも怖いが調べるしかない。iPhoneのカメラモードであたりを見渡してみると、不自然なノイズが走った。近づいてみると石室が現れた。
「あった」
白虎によくにたケモノガミ、バイフーモンが描かれた石室だ。配下のケモノガミもしっかり描かれている。ほかの石室と違うのは、中央に横長の石畳があり、その左右に巨大な拘束具があることだろうか。逃げることを許さないほど強固で大きい。そして、この世界に入り込むきっかけになった史跡の奥にあったなにかを祀る小さな祠がバイフーモンの壁画の真下にある。
「今思えば、あの祠は5人の子供たちを祀るために作られたものだったんだろうね」
「同じものがあるってことは......」
ミノルはあわてた様子のタクマに肩をたたかれて口をつぐんだ。想像力豊かな小学生が真横にいるのだ。案の定ミウは真っ青になっている。 カイトはジト目だ。ミノルは慌ててミウに謝り始める。
「幽霊になるための儀式の場所ってこと?」
「や、やだ、変なこといわないでよ、アオイさんっ!」
「ご、ごめんなさい、サキさん。つい......」
「せっかくタクマが止めたのによ」
「うう......」
リョウにまで皮肉をいわれてしまったアオイは小さくなっている。コテモンはその石畳によじ登った。
「こりゃまだ使えるな。よかったな、ミユキの嬢ちゃん。拉致されたらここでお陀仏だったぜ。ほらみろよ、血だ」
コテモンは拘束具がたくさん引っ掻いたり、削ったりしてなんとか逃げ出そうとした誰かの痕跡があるとみせてくれた。
シュウジはさっきから顔色が悪い。
「生贄の歴史があったのは知ってたけど、こうも生々しいのを見せられるときついね」
「無理してみなくても大丈夫だぜ、シュウジの旦那。バイフーモン様の祠があったっつー事実のが大事なんだからよ」
「そうそう、これで四聖獣のテリトリーが確定したんだ。あとはこの4つのエリアとピッタリ重なる中央をさがしゃいいんだよ。そこが『主』が封じられてる場所なんだから」
「うーん、どこにも『主』の配下がいないってことは、そこがアジトなのかな?ここかと思ったのに誰もいないね」
「うーん、わからん」
「そもそもここがバイフーモンの縄張りなら『主』の配下は入れないんじゃない?」
「そういやそうか」
みんなが好き勝手いってるのを横目に俺は壁画や祠を撮影していく。これで四聖獣の祠が全て判明した。適当な石を見つけてガリガリこの世界の簡易なマップを書いていく。
「いよいよだねえ、スバルの旦那」
「そうだな......。あ、タクマ、タクマ。俺、電波塔とかダムいってねえんだけど、どこらへん?」
「あ、ごめんごめん。貸してくれる?」
「ほらよ」
「ありがとう」
俺はタクマに場所を譲った。石を手にタクマが俺の知らないエリアを書きこんでいく。
「なあ、コテモン」
口を開こうとしたら真剣な眼差しのコテモンに先を制されてしまった。
「みなまで言わなくてもいいぜ。よく考えな、スバルの旦那。まだ結論でてねえんだろう?オレはアンタの決断がアンタの信念に沿ってんなら、なんだって従うつもりだからよ」
「なら、参考に聞かせてくれよ、コテモン。あの消えたほうがいいってのは本心か?あんだけ死にたくないっていってたくせにさ。それともシェンウーモンか十二神将の意向?」
「んなわけあるかい。他の連中がどうかは知りませんがねぇ……オレほどスバルの旦那のこと思ってるやつはいねーと思うんだよな。スバルの旦那が死んだら今世のヴァジラモンは死ぬ。十二神将に空きは許されねえから、たぶん次のヴァジラモンはシェンウーモンさまに作られる。でもねえ、記憶を引き継ぎってのは勘弁してほしいなあって思うのよ。スバルの旦那のパートナーはオレだけだが、そんときアンタは死んでるワケだ。その記憶をずーっとってのはえぐいぜ。ケモノガミもあの世にいけるのかはしらねえが、どうせならついてけるとこまでついて行きたいじゃねえか。それが叶わねえなら死んだほうがマシだな。まあ、そりゃあオレが十二神将っつー特殊な立ち位置ゆえともいうがね」
「......そっか」
「そらそうよ」
「できたよ、スバル」
「よっしゃ、じゃあ貸してくれ」
「うん」
俺は4つのエリアの対角線をひき、真ん中をぐるりと取り囲んだ。
「......ここは」
「うそだよね?」
「いや、ここが真ん中のはず......」
俺たちが固まっているのに気付いたのか、教授たちがよってきた。
「んな馬鹿な......あの史跡じゃねえか」