俺たちがケモノガミ世界にやってくるきっかけとなったあの史跡のどこかに『主』が封じられている。衝撃の事実にみんな呆然と立ち尽くしていた。
「史跡に封じられてるなら、帰る時絶対通るんじゃん......どのみち『主』をどうにかしないと帰れないってこと?」
「うそでしょ......門と同じところに封じられてるなんて」
「よ、よりによって校舎と目と鼻の先じゃねえか」
「やっぱりスーツェーモンが守ってくれてたんだ」
「配下の十二神将たちが校舎に配下たちがこないようにしてくれていたのね」
「今思えば祠のすぐ近くのはずなのに『主』の霧が出るのはおかしいじゃないか......一番穢されている場所だったわけか」
「もしかさて彼岸花が史跡を中心に咲いてだのってそういうことなの!?やだ怖くなってきたー!!」
「な、なあ、お前ら......このニュースやばくね?」
リョウがスマホの画面をみせてくる。俺たちが土砂崩れにまきこまれて行方不明というニュースの記事だ。よくみると史跡のすぐそばにあった祠が倒壊した写真がニュースアプリに掲載されている。真っ先に反応したのは水無瀬教授だった。
「これは......まずい、非常にまずいことになったぞ。ただでさえ史跡のあたりは穢されて『主』の霧が出やすくなっているのに、あちらの世界とこちらの世界が連動しているなら、こちらの世界の祠は......」
「思ったより封印が解けるのがはえーな、おい!?あと10日はもつって話じゃなかったのかよ!!」
コテモンが絶叫する。
「海岸とこの祠で確認とった意味ねーじゃねえか、クソッタレェ!!なんのためにアイテム献上したと思ってんだよ、マジラモンー!!」
「あん時の用事ってそれだったのか」
「スーツェーモン様んとこの祠いくにゃ遠すぎるから頼りにしたのにこのザマかよー!!もー!!」
「......な、なんか同じ十二神将でもいろんなやつがいるみたいだね、スバル」
「み、みてーだな......あはは」
「十二神将って大変なんだね」
「『主』の配下と何万年と戦い続けているみたいだからなあ」
「たしかに......」
ちょっとコテモンに同情していると、すうはあ深呼吸したあとにコテモンがこちらを見上げてきた。
「あてがハズレやした。ほんとに申し訳ない。四聖獣様ん中で一番神格が高いお方の配下のはずなんだが......おっかしいなあ」
「もしかして、これのせいか?」
リョウがニュースアプリをスライドさせて、別のニュースを見せてきた。そこにはケモノガミのタイトルがある。あちらの祠や史跡から霧が噴出しており、そこからケモノガミたちが迷い込んできているのがわかった。さいわい、まだアグモンたちくらいの小さなケモノガミだけのようだから門は少ししかあいていないようだ。
「あっちにもケモノガミが!?」
「『主』の封印が門と連動してんのか、もしかして!?」
嫌な予感がしてみんな一斉にスマホをみた。俺もTwitterやYouTubeでケモノガミと検索してみると小さなケモノガミを目撃した人の投稿がどんどん広がっているのがわかる。バズったアカウントが呑気におすすめの廃墟を紹介している。
さいわいまだフェイクニュース扱いのようで、もともと土砂崩れで警察があたりを封鎖して立ち入り禁止にしていたから追加の目撃情報はないようだ。ただケモノガミ信仰をググる人がたくさんいたようで、水無瀬教授の異端視されている論文へのアクセス数が跳ね上がり、トレンドやサジェストが汚染されている。
「世界の境界があいまいになるってそういうことか、コテモン」
「そうだけど予想外すぎるぜ、スバルの旦那。まさかたった10分でケモノガミの認知度がここまで跳ね上がるなんてよォ。おかげで門の封印は強固になったが『主』んとこにもあっちの世界の情報が流れ込んでくるから、今の人間に対する怒りが増幅してやがる」
「『主』の封印より怒りが上回ったらどうなるんだ?」
「『主』の霧の出る範囲が広がって、四聖獣様の加護がとどかなくなっちまう。しかも手だけじゃねえ、『主』の一部から生まれた気味の悪い眷属が出てきやがるんだ」
「あの気持ち悪い手の正体か?やばすぎんだろ」
「眷属?配下じゃなくてか?」
「眷属はケモノガミですらねえ。意識は完全に『主』と同一だ。なにより厄介なのが取り込んだケモノガミや人間に化けやがる。気をつけな、これからこの世界に安全地帯はねえんだからよ」
コテモンがそう宣言するのとあたりが一気に霧につつまれるのはほぼ同時だった。
「いってるそばから仕掛けてきやがったな!よく聞いてくれ、『主』の配下がいねえのは四聖獣様たちを殺して『主』の封印を完全に解くために進軍してるからだ!」
コテモンが真っ先に進化し、ヴァジラモンに進化する。パートナーたちが次々進化していく。だが霧から湧き出してきた様々な姿をした紫色の異形はあまりにも数が多い。祠の最深部にいる俺たちはどこにも逃げ場がない。
「やっぱり誘い込まれたのか!」
「しかたねえ、あんま使いたくなかったが......」
ヴァジラモンが祠にパオチェンを向けようとしたその時だ。
「天に耀くあたまの星よ」
昨日の晩聞いた歌声が聞こえてきて、俺たちは振り返った。
「姉さん?その歌は......まさか」
教授が目を見開くのが見えた。
「いにしえよりの温もりは消えず」
祠の周りに白い光が走った。
「御供のあらじこのせかい」
それは渦となって霧を吹き飛ばしていく。『主』の眷属たちの動きが明らかに鈍くなっていく。
「御霊の声音響きけり」
光はやがて俺たちを巻き込んでいく。そして一瞬の浮遊感が俺たちを襲った。
「これが水無瀬家の巫女の力か、こいつはすげえや」
「姉さん!」
「ミユキ、いけない!私たちはみんなでいくんだ。2度は無しだ!!」
水無瀬教授がとっさにミユキの手をつかんだ。ハルがレナモンに戻って2人をかかえて俺たちを取り囲む光に連れてきてくれた。どうやらミユキはあの時のようにまたアキハルたちを逃してくれようとしたのかもしれない。2度も同じ間違いはしないと水無瀬教授とレナモンがしっかりミユキの手を掴んではなさない。ミユキはしばらくして握り返すのがみえた。
俺たちは気付けば巨大な門の前にいた。四聖獣が上下左右に刻まれている。
「こいつはすげえや、四聖獣様がおわすところまで転移しやがった。十二神将が開いてくれたとはいえここまでしやがるとはね」
特殊な結界がはられているようで、ヴァジラモンがパオチェンをかざす。不思議な力が走り、ゆっくりと扉がひらき、朗々とした声で紡ぎ出す。
「運命に導かれし者たちよ、汝らの名を名乗れ。さすれば扉は開かれるであろう」
俺たちはヴァジラモンに促されて名を名乗る。大理石の通路の中を歩いていくと、突き当たりの部屋にたどり着いた。巨大な金剛の扉がある。
「汝らは運命の織りなす綾のうちに真理を学び定めの者」
高らかに角笛の音が鳴り響く。
「神性は変容するもの。それに耐え切れるか、ケモノガミよ」
何者かは話し始める。
「汝らが我らが主、西方を守護するバイフーモン様に挑む資格があるかどうか、試させてもらう」
光が走り、金剛の扉の真ん前に神社の狛犬のような十二神将が現れた。バイフーモンの壁画にあった戌のケモノガミだろうか。
「我が名はチャツラモン。本来ならばマクラモン、シンドゥーラモン共に名乗るべきなのだが『主』の眷属に守護せしエリアを襲撃されているゆえな、我しかおらぬのだ。許せ」
チャツラモンが咆哮すると扉の前に禍々しい光の渦が生まれた。
「この先は霧幻の追憶。ここではないどこかの汝らのありえた未来がこちらにまで流れ込んできておる。汝らの選択の参考となろう。ありえた未来がこちらの世界を羨望し、牙を剥くであろう。こころしてかかれ。ここを突破できぬようであればバイフーモン様に挑む資格すらないと知れ」