俺たちがまず見せられたのは、リョウを助けられなかったせいで狂い始めた自分たちの動向だった。チャツラモン曰く、ありえたかもしれない未来の自分たちを見つめて、ありえたかもしれない自分が得た強さを目の当たりにして、色々と感じて欲しいとのこと。そして、それを超えてほしいそうだ。
タクマたちはまた別の空間に転移したようで、気づいたら俺とヴァジラモンしかいなかった。
俺の場合は、ハルたちへの対応がかなり辛辣になっていた。なにせリョウが生きていたからこそ、みんながトラウマになっている現状も踏まえてその状況について深く掘り下げることはなかった。だが、こちらの世界線の俺はその違和感に真っ先に気づいて、みんなが口を濁すために表立ってはいわなかったが最初からハルとミユキを怪しんでいた。リョウが残した遺品から境遇を察して、アルケニモンの幻覚や恐怖を理解してくれないタクマたちから孤立して発狂、おかしくなっていたことを把握。コテモンから『主』の霧の危険性について聞いていたから、ハルが逃げるよう誘導しなかった時点で敵とみなし、徹底的に見張るようになった。
水無瀬教授の境遇を知っていたから、真っ先にこいつらはだれなんだ、正体不明の怪しい奴というレッテルをはってしまい、それから疑心暗鬼が加速した。視野狭窄に陥る俺にミユキたちを助けたことがあるなんて口にしたら唯一の信頼が地に落ちるとわかっていたコテモンは悩んだ末に忠告や警告をしたのだが、ミユキが歳を取らない理由がわからないため仲間かどうか証拠を提示できず最終的に沈黙した。
俺はそんなコテモンの苦悩もしらず、ハルとミユキが怪しいから切り捨てたいとこぼしていた。正確に言うとあんまりついてきてほしくない。リョウには優しくないくせに、どっからどう見ても怪しいハルとミユキに優しいタクマたちにも不満を抱いていた。リョウを追い込んだ奴で、年齢と外見が乖離しててイマイチ実年齢がよく分からないのにと。
シュウジが死んで、暗黒進化についてコテモンが情報開示し、水無瀬教授が合流してから敵意を顕にするハルにいよいよ殺意すら湧き始めた。
ハルが水無瀬教授に八つ当たりにいくためミユキが孤立していることを知りながら、俺は見て見ぬふりをした。ハルがミユキを誘拐されたことに激怒してきたときに、見捨てておきながらそれを言わずにタクマたちにハルの正体を暴露して糾弾した。
コテモンがレナモンに向けた手厳しい言葉を何倍も濃縮して悪意でかき混ぜたような言葉を投げた。タクマたちがハルに向ける視線が明らかに変化するのを感じて俺は恐ろしい顔をして笑っていた。
コテモンがなにかを諦めたような顔をしていることにはみじんも気づかない。この世界の俺はコテモンから十二神将のことも四聖獣の祠のことも何も教えてもらってはいない。信用ならない相手を切り捨てたパートナーをコテモンが切り捨てるのは当然だ。
この時点で『主』はリョウとシュウジの記憶から現代についての知識を獲得し、さらに力を増幅したことで霧の範囲が広がった。
そして、ミユキを助けに行くかどうかで意見が真っ二つにわれてしまい、タクマたちは助けにいくことになり、俺はこの時点で仲間たちから離脱することになった。コテモンは俺の信念に基づく決断ならどんなものにでも従うと付いてきてくれたが、すでにどうあがいても絶望なのはわかっていたようだ。
『主』の力の拡大は霧の拡大を招き、四聖獣のパートナーである従者の少年の魂の消耗を加速させる。四聖獣の力を著しく低下し、この段階で十二神将はコテモンをのぞき消滅。四聖獣たちは俺たちに力を貸すに値しないと判断して傍観を決め込むことになる。
タクマたちはバイフーモンの祠があった炭鉱地下で処刑される寸前のミユキを助けるために乱入。霧があたりを満たしたとき、ミユキを助けるためにタクマとアグモンが霧に飛び込み消息不明になってしまったらしい。
ひとりになった俺はハルがタクマたちを生贄をささげるだろうと決めつけて10日間探し回り、ミユキが『主』に憑依され四聖獣たちを殺して回っているのを勘違いしたまま勝負を挑もうとする。それは奇しくもシェンウーモンの祠だった。
『主』に憑依したミユキが従える霧と無数の眷属たちが迫る中、ハルが黙っているわけもなく、乱入。ハルが『主』と交渉してタクマたちを生贄にささげる気だと死にゆくシェンウーモンから最後の情報を得たコテモンはここでヴァジラモンの先に進化することになる。
最後の十二神将としてシェンウーモンの祠を守護するため、聖域を守るため、なによりも俺と初めて出会ってから一夜明かした大切な場所を蹂躙されないために。全てを沈黙していながら、コテモンはこの世界の俺の信念を受け入れて進化した。
それは毒々しい紫とも黒ともつかない色をしたドクロの仮面を被って、全身同じ色の甲冑をかぶった巨大なケモノガミだった。鎧に触れるたびに槍や楯といった防具や武器が出現していく。
シェンウーモンを失い、十二神将の仲間をも失ったコテモンが、唯一残された俺との絆だけで進化したケモノガミはクレニアムモンと名乗った。
「スバルの旦那の友達に危害加えるってんなら話は別だ、お前には心底がっかりしたぜハルよォ。『主』に囚われたミユキが死なないかぎりおまえは死なねえんだ。なら、今ここで死んでも転生しちまう。ならそのまま霧にのまれちまった方がはやくミユキに会えるぜ、今から送ってやるよ。かかってきな」
槍を突きつけるのはハルではなく、俺とヴァジラモンだ。チャツラモンの声が聞こえてくる。
「ありえたかもしれない未来において、汝らはドクグモンの軍勢かギュウキモンに敗北することがほとんどだ。それでは今の汝らの修練にはならんゆえ、合流した未来においても必ずこの道を辿るのでな、そちらを優先させてもらった」
「なんかすげえ酷いこと言われてる気がするの気のせいか?凹むんだけど」
「気のせいだと思いねえ、現にオレらは今まで綱渡りながら円満にやってきたんだ。コイツらとは違ってな」
「ちなみに直近のクンビラモンの予知ではギュウキモンに殺されていたそうだ」
「......っつーことは......ははーん。わかったぞ。コテモン、初日に必死で俺のこと探してたのはいいが、あわてすぎて崖に突き落としやがったなこの野郎。あっやべって声、今思えばヴァジラモンじゃねえか。聞こえてたんだぞ、てめー」
「あははー、バレちゃ仕方ねえ。すまんかった。ちょっと力加減間違えちまってさあ......。ま、この世界のオレだって待ち受けるのが破滅だってわかっていながら、最後までアンタについていってんじゃねえかい。それだけスバルの旦那のことが大事だからさ。それだけは信じててほしいねえ」
「んこと疑ってるとはいってねえだろ。それは嬉しいんだよ、気にすんな」
「へへ、そりゃよかった」
「とはいえ、リョウの死にかけた話をもっと掘り下げてたら、同じ状況になってたんだろうなあ、たぶん。めっちゃ心当たりあるし。チャツラモンのいうとおり、必ず通る道ならハルとクレニアムモンが勝った方がタクマたちんとこに行けるんだろうな。ハル殺した時点でタクマたちから拒否られる未来しか見えねえけど......なんも見えてないんだろうなあ、俺」
「そういう未来もあったんだろうが、もうこねえ未来でもある。安心して戦いやしょうや。今のオレとスバルの旦那ならきっと超えられるぜ」
「違いねえな」