ハルとの戦いを見届けてからコテモンが回復するよりも、俺が歩き出すまでの気力を取り戻す方が時間がかかってしまった。おかげでコテモンはガイオウモンに進化する力を発揮できず待たせてしまった。落ち込んでいる俺にコテモンが笑いかける。
「まあまあ、さっきもいったがもうありえない未来なんだから、そう気にしなさんな。たしかにスバルの旦那はぶっちゃけ物事を拡大解釈して感情的になっちまう欠点があるがね、気づけたのは大きいと思うぜ。これから先気をつけることができるわけだからさ」
「コテモン......」
「スバルの旦那は頭の回転ははえーんだからさ、カチコチな頭だって自覚できりゃあ修正できるだろ。そうすりゃ人は変わらないんだって思い込みも打破することができるんじゃねーかな?」
「そーいうもんかな」
「そもそも、このままじゃいけないって思ってるから落ち込んでんでしょ、アンタ。大丈夫、大丈夫。アンタが思ってるよりまだまだ救いようがある人間だと思うぜ?だってまだやり直せる位置にいるんだからよ」
「......」
「そーだなあ、試しに起こった事実と自分の感情を分けて考えたらどうだい?こういう出来事があって、自分はこう感じたって整理するんだよ。そうすりゃ自分はこう感じたってとこは主観で事実じゃねえってわかるし、思い込みの予防にもなるって寸法さ。あとは複数の視点をもつためにいろんなやつに聞いてみるのがおすすめだぜ。確認することをおろそかにして自分ん中で答えを出しちまうのがそもそもよくねーんだからよ。わかんねーから人に聞く、頼るってのは一種の才能だ。勇気はいるだろうが推測が混じるより本人に確認する癖をつけた方がまだマシだぜ、旦那」
「たしかにそーかもな。それができるから、たぶんタクマはつえーんだろうし、アグモンもあんだけ安定して進化できてんだ」
「そうそうそう、なんだわかってんじゃねーかい。だからタクマの兄ちゃんのいうことはスバルの旦那も受け入れられるんだろ?対立したとき、みんながタクマの兄ちゃんに賛成したのはそれもあるんじゃねーかな。確認もしないで結論を出したり、拡大解釈し過ぎて感情的に振り回されてしんどいこと結構あったんじゃねーかい、旦那?人に聞いてみて言われてから初めて考え始めてもいいと思うぜ」
「そーだな......ありがとう、コテモン。ちょっと元気出たわ。そろそろ行くか。いつまで経っても修練が終わらないとタクマたち待たせちまうしな」
「おうよ!」
コテモンの手を借りて立ち上がった俺はそのままシェンウーモンの祠を出る。するとそのまま校舎に出た。どうやら『主』の眷属たちとハルを下したこの世界線の俺とクレニアムモンはミユキを追いかけて校舎にいったらしい。
『主』の霧から無限湧きする『主』の眷属たちの襲撃に定期的に10日間晒されつづけたみんなは、アオイを中心にいやでも成長せざるをえなかったみたいだった。クレニアムモンがミユキに攻撃しようとしたとき、水無瀬教授が止めにはいったためその隙をつかれて軍勢は逃げてしまった。結果的にその襲撃に助太刀に来た形になった俺にみんな校舎からでてきた。
ただ、明らかによくない方向に爆弾をかかえたやつらもいる。会話してみてわかったが、特にタクマがいなくなったせいでフォローしてくれる人間が誰もいなくなったのにリーダーをする羽目になったアオイが明らかに溜め込んでいるものを感じる。俺の離脱する理由寄りな立場ながら、ミウがタクマに賛成し、タクマに色々助けてもらったからと俺よりタクマを取ったカイトもまた、俺が姿を現したことで相当ぐらついていた。
タクマが消えたのにみんなが空中分解しなかったのは、どうやら『主』の霧に飲まれて消えたはずのタクマが帰ってきてくれたかららしい。ただし、たった今帰還したばかりなようだ。アグモンがガイオウモンみたいに進化できるようになっているあたりほんとにさすがだ。よく無事だったな。
どうやら俺は『主』に憑依されているミユキがこの世界を破壊して回っていること、ハルに殺されそうになって返り討ちにしたことを話したらしい。アオイたちも10日間襲撃されつづけたせいで相当参っているのか、俺の主張が正しかったかもしれないと弱音を吐いている。タクマだけがそうではなかった。
なんと、タクマは『主』の中に取り込まれたあと現実世界に一時帰還し、現状を把握してまた帰ってきたらしい。みんなどうやってと疑問符だ。
「僕はあの霧に飲まれたとき、『主』の精神世界に閉じ込められてるミユキに助けてもらったんだ。スバルのいうことは事実かもしれない。でも、僕は助けてくれたミユキを信じたいんだ。あの歌が『主』を弱体化させるのはたしかだし、門を開く力もあった。この目でたしかに見たんだよ。だから『主』がミユキに執着する理由はあるし、ミユキに憑依するってことは、『主』はそもそも実体がないんじゃないかな。ミユキにとりつけば『主』に反抗できるのは誰もいないわけだから。だから、僕はミユキを助けたいんだ。どうやったらいいか全然わからないんだけど」
クレニアムモンがハルの最期の言葉だけ告げると、そのまま去ってしまう。説得しようとしたカイトとタクマはともかく、ハルに手をかけてしまった俺たちにアオイたちが明らかに怖がっているのがわかったからだ。これからどうするのか焚き付けてからタクマたちの前から消えた。
場面は切り替わり、ミユキを追いかけて俺とクレニアムモンは遊園地を訪れたたらしい。小さなケモノガミたちを虐殺してまわり、遊具を見るも無残な形に更地にしていく『主』の配下の軍勢に遭遇した。ミユキは城があった場所に穴を見つけて入ろうとしたところでクレニアムモンと交戦状態になった。ジジモンに残りのチビたちを連れて早く逃げろといいながら、俺はクレニアムモンを追っていくのがみえた。
クレニアムモンはその配下を知っていた。
ムゲンドラモン。それがジョーカーモンがひたすら召喚していたあのレーザー砲の正体だった。
全身が100%フルメタルのケモノガミ世界において最強ともいわれるケモノガミ。数々のサイボーグ系ケモノガミのパーツを組み合わせて造られており、他のケモノガミを圧倒するほどのパワーと、桁違いの処理能力を誇る頭脳を持つが、自らの意思は持ち合わせていない純粋な機械のケモノガミのようだ。そのかわり本体中枢にある電脳核に、『主』に悪の意思が宿ったエネルギーを植えつけられており、悪意に満ちた電脳核からは無限のパワーが供給されている。
クレニアムモンがムゲンドラモンを破壊しても破壊してもムゲンドラモンの部下たちが自らパーツを捧げて死ぬため回復してくる。部下から殺していると無限キャノンが飛んでくる。回復しているとチャージが終わって無限キャノンのループに陥りジリ貧になる。
そうしているうちに『主』の霧が遊園地の跡地を完全に飲みこんでしまう。この世界の俺はここで終わってしまったみたいだった。
「クンビラモンたちと死闘の果てにようやく撃破できるようなヤツらだ、一人じゃさすがに無理だぜ旦那」
一部始終を見ていたガイオウモンがたまらず愚痴をこぼす。
「そんなにつえーんだ、あのケモノガミ」
「他の奴らと違って破壊力ある軍隊率いてる上に統率がとれてて、桁外れた強度の装甲、頭脳、無限回復するエネルギー、もうどうしようもねえからな」
「えっ、それじゃあ詰んでねーか、これ?」
「そりゃあ、ケモノガミ世界の根幹たる転生先だからな、『主』だって念入りに破壊するさ。シェンウーモン様亡き今止められるやつはいねーからな」
「どうやって勝つんだこれ」
「さあ?」
俺たちは途方にくれるしかなかった。