「おかえり、カイト。いやー、転校早々派手に暴れたなあ、ちょっとは頭冷えたかよ?」
「アンタは確か、三鷹のじーさんとこの......」
「おいおい、もう忘れたのかよ。あんときめっちゃ挨拶したじゃん。三鷹スバルだよ、スバル」
「スバルがなんでここにいんだよ」
「おいこら、ナチュラルに呼び捨てすんな、小学生のくせに。俺のが2歳上だし、中学生だぞチューガクセー」
「うるせえ」
「な、いったろカイト。毎年神隠しが起きるような街だと学校も警察も自分たちの潔白証明するためにちゃんと仕事するんだ。お前だけで突っ走らなくてもいいんだよ」
「......それは、ちょっとビビったよ。あんときとは全然違うから」
「親が出てきて、学校がでてきて、警察がでてきて?俺からすれば8歳の女の子にガチ恋するおっさんのいうこと鵜呑みにして取り合わない警察も近所もお前の親も終わってるけどな。どんだけやべーとこにいたんだよ、都会怖すぎだろ。引っ越しは正解だと思うぜ。でもま、警察が仕事するってことは、うやむやになってたことも全部罪になっちゃうから気をつけねーとな」
「全然ちがうとこなのはよくわかったよ」
「次はねーぞ、気をつけろ。だいたいなあ、少年院行ったら今回みてーにすぐ帰ってこれねえぞ。しかも15になったら刑務所だから尚更だ。ロリコンは病気だ、治らねえ。犯人が刑務所から出てきてミウになんかあったとき、お前いなかったらどーなるかわかってんのか。ちっとは頭使えよな」
「......もうやめろとはいわねーんだな」
「え、やめる気ねーやつにいっても無駄じゃね?いってほしかったのか?」
「......」
「なにそんなショックな顔してんだよ」
「してねえよ」
「いっとくけど、俺が世界で一番嫌いなのは平気でいってることとやってることが矛盾するやつなんだ。甘やかして欲しかったらほかあたれ」
「甘やか......はあ!?」
「え、自覚ねえのかよ、タチ悪いなお前。無関心な親や周りに振り回されたのは同情するけど関係ねえやつにあたら散らすの甘えてるだけじゃねーか。自分で自分の機嫌ぐらいみろよな」
「......」
「一回でも暴力で解決したことあるやつは、次からナチュラルに暴力が解決の選択肢に入るしな。ぶっちゃけ反省してないだろーけど、せめてフリくらいしろよ。じゃねーと保護司のおっさんとこ行く時間、ミウから離れることになんだからさ」
「......もうしねえよ」
「えー、ほんとかあ?」
「しねえよ」
「どーだかねえ」
初めてまともに会話したときのスバルは、軽口を叩きながらも全然信じてない顔だったのをよく覚えている。なんだかんだで済まされてきた俺はそれがかなり衝撃的だっだんだろうと今ならわかる。
数年前いたところは悪質なストーカーの言うことを信じ込んだ学校、近所、母さんたちにまで遠巻きにされ、ミウは完全に孤立して危うく最悪な事態になるところだった。俺がたまたま見かけなかったらどうなってたか今でも夢に見る。ストーカーは逮捕されたが俺も少年院行きになりかねないほど暴行をしたせいで解決はしたが全てはうやむやになってしまった。
そういうもんだと思ってたから、鹿野岸に引っ越してきた時には周りの対応が全然違ったからほんとにびっくりした。転校初日、ミウが心配で下校を見に行った先で、取り囲まれたミウが同級生にからかわれていた。カッとなった俺はやりすぎてしまった。そのあとまともな大人がどうするのか俺は身をもって知ることになる。
まず傷害事件になりかけた。
真っ先に三鷹のじいさんが少年犯罪に強い弁護士のおっさんを呼んでくれた。いっぱい作文を書かされたし、あれだけ言っても何もしてくれなかった母さんたちが明らかに変わった。弁護士のおっさんたちからなんか色々いわれたらしい。ちょっとは話を聞いてくれるようになった。おかげで少年院行きは免れたけど、半年ほど学校にもいけなくなって別のとこに行かされる羽目になった。
今も月2回位保護司のおっさんと話をしないといけない。旅行する時とかいちいち許可をとらないといけない。登下校についていくのはいいけどミウの学校に許可をとらなきゃいけなくなったりした。罪はなくなったわけじゃないから勘違いするなとは再三言われてる。
普通に生活して行く上で制約を受けることもなく、普通の生活を送ることが出来てる。進学の制限もなかったけど、世間で知れ渡ってしまって周囲の眼の影響は受けてる。それは仕方ない。
三鷹のじいさんには本当にお世話になったって母さんがいってた。保護司のおっさんも弁護士のおっさんも三鷹のじいさんの教え子だって紹介してもらえたらしいし、学校と話し合って復学できたのも仲介してもらえたらしいから。
なんでそこまでしてくれるのか不思議だっだけど、たぶんこれがまともな大人ってやつなんだろうと思った。
転校初日にやらかした俺は退学こそ免れたが進学しても友達なんてできるわけもなく、三鷹のじいさんとこに住んでるスバルくらいしか相手にしてくれるやつもいなかった。その理由を口にしてくれるだけ優しいんだと思い知る羽目になる。
スバルはああいっではいたけど、面倒見がいいのかよくうちに遊びにくるようになった。
三鷹のじいさんは近くの道場の師範代もしているらしく、スバルはそこの門下生として全国大会にも出てたから、友達も多い。俺もミウも興味なかったがスバルの友達なら悪いやつじゃないんだろと思われたのか、門下生仲間の妹弟がミウと友達になってくれて一安心したのを覚えている。
そんなスバルの様子がおかしくなったのは、一年前スバルの父さんが事故死してからだ。事故の裁判が長引いてゴタゴタして一人だからと俺んちに頻繁に遊びに来るようになったスバルは明らかに元気をなくしていった。爺さんたちと暮らしてる時点でなんか訳ありなんだろうとは思ってたけど、母さんたちは教えてくれないからやべーんだろうとは思ってた。なんとか処分が下されるまで俺もかなり疲れた覚えがあるから大変だったんだろう。
あれだけ大会に出てたのに剣道が強くない学校にいったり、毎週買ってた漫画買わなくなったり、色々おかしなところは出てきたけど、やっぱ一番の変化は変に理屈っぽくなったとこだ。もともと頭はまわるし賢いやつだっだけど、あんだけ理論武装で人を殴るような言い方しないやつだった。高校生の勉強は大変だっていってだけど、普通朝から晩までぶっつづけで勉強するにしたって部屋の電気が一日中つけっぱなしなのはさすがにやべーと思う。
今はそこまで極端ではないけど、スバルの部屋の漫画やアニメ、ゲームは一年前のままでなにもかもが止まってる。一時期は空気を読んだミウがやりたいっていったり、俺が読みたいっていったやつを機械的に買ってるのが丸わかりで、俺もミウもドン引きしていた。そういう意味でいったんじゃなかったんだがそれすらスバルはわからなくなってたらしい。買ってそのまま本棚に放り込んで読んだ形跡しかないんだから、いくらなんでも怖すぎた。放置されたゲームが埃かぶってるのはいたたまれなかった。
でもスバルはその理由を絶対に口にしなかった。三鷹のじいさんもうちの母さんたちも言わないくらいやべーことに巻き込まれたんだろうとしか思えない。今でこそなんとかなったのか笑顔は戻ってきたけど、理屈っぽくなったのはかわらない。
スバルさんはやく元に戻るといいねとミウは言ってるが、俺は正直いいきるだけの自信はなかった。