「ほら、やっぱり!!お兄ちゃんはウチをダシにして、暴力ふるいたいだけじゃん!!もー、しらないっ!!」
「おい、ミウッ!」
「べーだ!!」
体育館から走り去ってしまったミウを追いかけるよりも、ついビンタをしてしまった右手を見てしまった俺は背筋に冷たいものが走って、一気に冷静になった。またやっちまったと落ち込む俺を見上げて、シャコモンがミウの様子を見てきてあげるといってくれた。
「だんだんよくなってきてんだけどなー」
「どこがだよ」
「今までだったらミウがはっきり言う前に黙らせてたと思うぜ、カイト」
「うっ......」
図星をつかれた俺はうまく言い返せなくて舌打ちするしかない。ドラクモンはにやにやしている。
『主』に憑依されたミユキを助けるための方法を知ってそうなのはジジモンだけだから話を聞きに行こうと話がまとまったのは、交渉が決裂してスバルが去ってからしばらくたったころだ。
「やっぱスバル引き止めればよかったな、行き先一緒じゃねえか」
「でもよー、カイト。スバルは『ミユキ』は殺すべきだっていってんだぜ。助けたいタクマと教授がいるんだから無理だろ。だいたいアオイたち怖がってるし」
「それでもだ、タクマだって説得してた」
「スバル気づいてたぜ、アオイたちのこと。なあ、そろそろやめようぜその話。スバルじゃなくてタクマ選んだのはお前だろ、カイト」
「わかってるよ、うるせえな」
「大丈夫だって、あいつらならなんとか生き延びるだろ。10日ぶりにあったけど元気そうだったじゃねえか」
「元気そう?どこがだよ、あれは......やべえ時のスバルだ」
嫌な予感はずっとしていた。的中していると知ったのは、遊園地に行く途中の山道。沢山のケモノガミの子供を引き連れて逃げる途中だったジジモンから、スバルたちが引きつけてくれたと聞いたときだ。俺は血の気がひいた。山道からでもわかるくらい、遊園地は『主』の霧に覆われてたからだ。
間に合わなかった。遊園地に来た時には全てが終わってた。爆心地にはなにも残ってなかったがムゲンドラモンがクレニアムモンとスバルの最期をあげつらうような真似をしたから頭に血が昇った俺の怒りに反応してドラクモンはヴァンデモンに進化した。でも、タクマが引き止めてくれなかったら、俺まで死んでたかもしれないくらい、ムゲンドラモンたちは強すぎて一時退却をする羽目になった。
スバルは死んだ。クレニアムモンも死んだ。死なないと思ってたあいつがしんだ。頭が理解を拒否して真っ白になった。
せめてミウだけでも守らなきゃならない。俺は必死だった。ミウは遊園地が見るも無惨な形で破壊され、女王さまとしたってくれたケモノガミが9割は虐殺されたこと、スバルが俺たちの知らないところで死んで『主』の霧にのまれたから死体すら残らなかった事実に打ちのめされていた。
「ウチがやだっていったから?こないでっていったから?スバルさんジジモン助けてくれたのに、ウチらひどいこといっちゃったから」
ごめんなさいごめんなさいとミウはさすがに堪えきれないのか大声で泣き出してしまう。まだ近くに敵がいるのはわかってたけど泣き止ませる方法が浮かばなくて俺はなにもいえなかった。無言でタクマたちのところまで追いつこうとしていたら、あいつが現れたんだ。
「何故だ......なぜ......私は主様に忠実に支えていたというのに、それなのにどうしてこんな仕打ちを......!」
タクマと『主』の向こうに消えたピエモンだった。生きてたのかこいつ!!ミウの手を引いて逃げようとしたら空を切る。
「ミウ!?」
「きゃあああ!」
「この野郎、ミウを放しやがれ!!」
「人間の子どもの分際で私に歯向かうなどゆるせん!!許さん、もう許さんぞぉー!!私の邪魔をしたこと、ここで後悔させてやる!!その手にはのらん!私はお前たちをささげて主様の寵愛を取り戻すのだ!お前のいうことなど誰が信じるか!デタラメだ!なにもかもがデタラメだ!!主様を冒涜する者は私が許さん!まずは邪魔なおまえたちを血祭りにあげ、巫女......貴様を主様のところへ送ってやる!!」
錯乱状態だった。なにをいっているのかまるで理解できなかった。わかったことはヴァンデモンとマーメイモンは全く歯が立たなかったことだけだ。ミユキを助けるために行ったあの祭壇では完全に手を抜いていたんだとわかる。
「何故だ......なぜ......私は主様に忠実に支えていたというのに、それなのにどうしてこんな仕打ちを......!」
支離滅裂だった。
「なんだと!?私のどこが間違っているというのだ!!そんなデタラメをいうなあ!!人間の子どもの分際で私に歯向かうなどゆるせん!!許さん、もう許さんぞぉー!!私の邪魔をしたこと、ここで後悔させてやる!!その手にはのらん!」
ピエモンは完全に錯乱状態だった。
「私はお前を連れ戻し、主様の寵愛を取り戻すのだ!お前のいうことなど誰が信じるか!デタラメだ!なにもかもがデタラメだ!!主様を冒涜する者は私が許さん!まずは邪魔なおまえたちを血祭りにあげ、巫女......貴様を主様のところへ送ってやる!!手始めにこの人間からだ!」
「なっ!?ミウをはなしやがれ!!」
「助けて欲しかったら、お前のパートナーの命とひきかえだ!」
「そんなのだめだよ、聞いちゃダメ!!絶対だめー!!」
ピエモンは絶望的なほどに強かった。ヴァンデモンもマーメイモンもとうとう力を使い果たして、ドラクモンとシャコモンにまで戻ってしまう。このまま全滅するくらいならと思ったのか、ドラクモンが前に出た。
「カイト、オメーの相棒でいられて俺は幸せだったぜ」
「ドラクモン、おまえ、まさか......おいよせ!やめろ!!」
「カイトたちが助かるなら仕方ねえ犠牲だ」
ドラクモンがピエモンの剣に貫かれて死んで、ピエモンに飲み込まれてしまう。俺の目の前で真っ黒な光を突き破って現れたボルトバウタモンが『主』の霧めがけてミウを放り投げた。
「いやあああっ!!助けてお兄ちゃん!!死にたくないー!!」
「ミウッ!!」
ミウの断末魔がひびく。『主』の霧はあっという間にミウを飲み込んでしまい、こっちにまで襲いかかってこようとした。
「カイトだけでも逃げて!!」
マーメイモンが俺の手を掴んで走り出す。次第にマーメイモンの手が薄くなっていく。
「ミウ......ごめんね、さいごまで守れなかった」
マーメイモンが完全に消えてしまった。
ミウがしんだ。スバルだけでなく、ミウまでしんだ。また守れなかった。誰のせいだ?だれが、どうして、こんなことに───────。
頭が真っ白になった俺はタクマに呼びかけられるまでなにをしていたのか覚えていなかった。気づいたら遊園地からかなり離れた森にいた。
「大丈夫ですか、カイト」
ミウを殺したはずのボルトバウタモンが平然と味方づらをして俺を心配そうにのぞきこんでいた。思わず後ろに下がる。俺の様子に気づく様子もなく、タクマたちはなにも知らないのか普通に会話している。あまりの異様さに頭が冷えた。冷えすぎて凍えそうだった。
「気づいたら進化できたのにカイトがいないので焦りましたよ」
「覚えて......ねえのか?うそだろ、お前......おまえ......」
「申し訳ありません。ミウもシャコモンも見つけられなくて......どうやら私はカイトの一番守りたいものを守れなかったようです。本当に申し訳ない。探していたら、ムゲンドラモンたちに見つかりましてね、タクマたちと先に合流しましたのでなんとか撃破しました」
「ボルトバウタモンのおかげでなんとか勝てたよ、ありがとう」
「強かったよなー、びっくりしたぜ。さすがはカイトのパートナーだよな」
わけがわからなかった。夢かと思った。でもミウはどこにもいない。ボルトバウタモンは嘘をついているようには見えなかった。こいつはなにいってんだ?タクマたちはなに普通に会話してんだ?こいつは、ボルトバウタモンは、ピエモンが、ドラクモンとミウを、それでそれでそれで───────!!
......ボルトバウタモンが俺のパートナーなら、ミウを殺したのは、ドラクモンを殺したのは、もしかして俺なのか?
「カイト!?」
「どこ行くんだよ、カイト!」
遠ざかる声に反応できる余裕はもうなかった。