俺を呼ぶ声がするけど無視して、ひたすら走り続ける。ボルトバウタモンから一刻も早く離れたかった。
あの真っ黒な光は間違いなくロップモンが進化するときに見せた光だ。コテモンが言ってた間違った進化ってやつなんだろう。コテモンは俺が死ななきゃドラクモンは生きてるっていってたがピエモンに吸収されるまえ明らかに殺されてたはずだ。あんな言葉残して生きてるとは思えない。ああなったらどうなるんだ?遊園地で卵になれるとは思えな......。
ここまで考えて、俺は遊園地を破壊し尽くしたムゲンドラモンたちを思い出して背筋が凍った。ケモノガミの子供を虐殺し、遊具を粉微塵に変えたあいつらの目的は初めからこれだったのか?まさか『主』はそんなことまで考えてやってんのかもしかして。
だからスバルはぐだぐだしてる俺たち見限って先に遊園地に行ったのか?そして負けた?この世界のこと、ケモノガミのこと、コテモンやスバルは何回も話してくれた。考察してくれた。
なのに未だにタクマがいなくなった途端にいちいち行動に移すのが遅くなる俺たちに愛想尽かしたばっかりに?
「あの祭壇でピエモン倒せなかった俺らが悪いのか?それともあっちで倒せなくてミユキの力を頼ったタクマが悪いのか?じゃあなんだ、ピエモンに手も足も出なかった俺らが悪かったっていうのかよ!弱かった俺たちが!」
気づいたら叫んでいた。
「カイト、やっと見つけた!どうしたんだよ、なにがあったのさ」
タクマが息を切らしながら走ってきて、手を掴まれた。俺はたまらず振り払った。
「カイト?」
「なんでミユキはピエモンを俺たちの真ん前に送り込んだんだよ、タクマ!それがなけりゃミウは死ななかったんだぞ!?まさかこの場に及んで偶然だなんていうんじゃないだろうな!?」
「えっ、ピエモンが!?生きてたのあいつ!?」
「生きてたから俺たちに襲いかかってきたんだよ!意味わかんねえこと叫びながら!ミウ人質にとってドラクモンの命と引き換えだって殺して吸収して進化しやがったんだ!!なのになに味方みてーに話してんだよ!ミウ達を殺したのはボルトバウタモンだ!!」
俺の叫びはようやく追いついたサキたちにまで届いたらしく真っ青になって振り返る。そこには平然とした様子でこちらに向かって歩いてくるボルトバウタモンがいた。
「これがミユキを助けるための犠牲だっつーのか、お前ら!あんとき殺さなかったせいで起きたことだぞ全部!!教授がミユキを殺さないでくれってスバルの邪魔しやがったせいでこれかよ!!あんまりだろそれ!!やっぱりミユキのせいじゃねーか!!スバルのいってたとおり、やっぱりミユキは敵だったんじゃねーか!!タクマを信じた俺が馬鹿だったんだ。スバルといけば少なくても誰もいないところでスバルは死ななかったし、ミウも死ななかった!!ドラクモンだって自殺させなくてすんだんだ!!」
ボルトバウタモンはニヤニヤしながら近づいてくる。
「ボルトバウタモン、お前ん中にいるのは一体誰なんだ。ドラクモンはあんとき死んだ。あんな気が狂ってたピエモンでもねー。じゃあ、お前は一体」
にたあ、とボルトバウタモンの口がさけた。その中から黒い手が噴き出してきてギョッとする。コウモリみたいな羽を生やした海賊みたいな服装も骸骨も装飾品に過ぎなくて、それを人形みたいに動かしている無数の手が本体なのだと気づいたとき、ボルトバウタモンは話し始めた。さっきの記憶喪失のふりしたヴァンデモンみたいな声じゃない、なにかの声がする。
男みたいな女みたいな子供みたいな大人みたいな老人みたいないろんな声が混ざった気持ちの悪い声だった。頭が理解するのを拒否するような声だった。理解した瞬間に頭がイカれちまうとガンガン警鐘鳴らしてくるタイプの声だった。
そいつはいった。
ケモノガミ世界に今まさに満ちようとしている怨念から生まれ出たそれは新たなる実体を求めて『主』の霧に紛れ、彷徨ううちにピエモンに目をつけ、さらなる力を求めてヴァンデモンを強制的に吸収させた。ピエモンやヴァンデモンの自我はなく、その怨念の意思で活動する。その意思とは世界を闇で侵食させ、光を根絶しようとするなにかである。
言ってる意味は半分以上理解できなかったが、こいつも『主』から生まれた敵だってことははっきりした。実体がないからピエモンに取り憑いてそれだけじゃ足りないからヴァンデモンまで。
「てめえ!!」
「おっと、貴方が死ぬとせっかくの身体が弱体化するのでね。ドラクモンが悲しみますからやめてくださいね」
今度はヴァンデモンの声帯で喋りやがる。
「その口でドラクモンの名前を呼ぶんじゃねえ!!」
「カイト、危ない!」
「いいですねえ、友情。実に美しい。唯一の理解者だった親友見殺しにして選んだ友情なんですから、大切にしてくださいねえ。くれぐれも死なないように」
げらげら笑いながらボルトバウタモンは2丁の銃を手にした。
「この銃はアーラディポロっていいましてね、弾丸がなんと生きてるんですよ。放った弾丸が敵の体内に巣食い、内部からむしゃぶりついて絶命させる。なんとも私好みなカスタマイズがされてましてね。さあ、ちょっとしたゲームをしましょうか。ピエモンすらまともに倒せない貴方たちになにができるんだって話ですが、せっかくの余興なんですからせいぜい足掻いてくださいね。ルールは簡単、制限時間内に逃げられれば貴方たちの勝ち。捕まれば死んで貴方たちの負け。ね、簡単でしょう?」
銃を握る手も、ゲラゲラ笑う骸骨も、よく見ると真っ黒な手が無数に生えてきてボルトバウタモンをささえているのがみえる。そこにドラクモンの意志があるとは思えない。『主』の霧の向こうに見えたあの眷属の手によく似たおぞましいのなにかだった。
「くそっ」
俺たちは逃げるしかなかった。
ボルトバウタモンはよほど暇なのか、このまま俺たちで遊ぶのが終わったらミユキと合流して門にいくといいだした。史跡は俺たちが迷い込むきっかけになった場所だ。スバルがケモノガミ世界と現実世界をつなぐ門じゃないかっていってた場所じゃないか。何する気なんだと聞くことすら俺たちにはできない。弱すぎるからだ。
鼻歌混じりで攻撃をしてくるボルトバウタモンから必死で逃げていた俺たちは『主』の霧があまりにも広がり過ぎていることに気づいて怖くなった。
すっかり更地になった遊園地、そこまで続く舗装された道、校舎に続く山道にすら『主』の霧はたちこめていて、休憩すらとることが許されない。それを示すかのように、行くときにはまだなかったはずの、あの年がら年中咲いている彼岸花が一面に咲き誇っていた。しかも原因がよくわからないあの真っ赤なたくさんの光をただよわせていた。本来ならあの史跡の周りにしか咲いてなかった彼岸花が咲き誇る『主』の霧の中をひたすら走った。
気づいたらあたりは薄暗くなり始めていた。校舎の周りはあいかわらず『主』の眷属がでてくるような濃さにはならない。ても少し距離を離して這い出してきそうなやつらだ、油断ならなかった。俺はどうしようか迷ったがタクマたちがこぞって引き止めてきた。
「これ以上誰か死ぬのは見たくないんだ、頼むよカイト」
「カイトのこと、頼りにしてるからさ」
スバルが合流しない原因だって自覚があるらしいアオイとサキはなおのことお願いしてきて、俺は渋々頷いた。これからどうするのか。そんなこと決まってる。ミユキと合流するっていうあの史跡にいくことだ。
ドラクモンを失った俺に出来ることなんてもうない。死んだ方がボルトバウタモンが弱体化するのはわかってたができるわけねえ。なら『主』の霧や眷属から仲間を守ることくらいだろう。代わりに引き摺り込まれることくらいできるはずだ。タクマたちには言わないまま、それだけ考えていた。
そして、ミユキが門を開けた瞬間に立ち会うことになった俺たちの最後のたたかいは始まった。もっとも、ボルトバウタモンからタクマを庇って『主』の霧に飲まれた俺には関係ない話ではあるんだけどな。