(完結)鹿野岸奇譚(デジモンサヴァイブ)   作:アズマケイ

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バイフーモンの試練8

ミユキの歌は『主』というよりも現世への怒りに囚われたパートナーに伝播された『神』や怨念により効果があるらしい。

 

こちらの世界のミユキはタクマを助けた時ほど気力は残っていないようで、あるいは力を使い果たしたのか、一度逃げ出したから『主』の拘束が強くなったのか、歌を歌う人形と化しているのが余計精神的にくるものがあった。

 

「......無理もねえよ、タクマたち庇って教授まで『主』の霧にのまれちまったからな......」

 

ちら、とカイトが上を見る。無数に輝く白い点のようなひかりがひとつ増えて、シナプスみたいな細い線が繋がったのをカイトたちは見たという。あれが全部『主』の霧にのまれた犠牲者たちだっていうのか、なんつー無茶苦茶な。冷や汗が流れる。

 

つーか、までってなんだよ、までって。教授以外にも犠牲者いたのか?大惨事じゃねえか。ここに来るまで一体どんな地獄だったんだよ。思わずカイトをみるものの、ミウもカイトも思い出すことすら脳が拒否するらしい。2人揃って貝のように口を閉してしまうものだから、俺たちはいまだに経緯が全くわからないでいた。

 

「心が折れちまったのか、そっかあ。やっぱ教授がハルだってわかってたんだな。それか俺が殺したせいでハルがいなくなるからか」

 

「そのいいかたはねえだろ、二度とすんな。お前はなんもしてねえだろうが」

 

「お、おう、ありがとう?」

 

「平行世界のお前はしたかもしれねーけど、お前はしてねえ。ミユキを助けたのはお前だ。それだけは忘れんな」

 

「あーうん、ごめん。なんかすげえ食いついてくんなカイト」

 

「うるせえ、スバル変なこと言うからだろうが。人の気も知らねーで」

 

「いやお前教えてくれねえじゃん」

 

「うるせえ」

 

「こればっかりはお兄ちゃんにさんせーだよ、スバルさん。ウチも聞きたくない」

 

「ミウまでいうか、よっぽどやべーんだなこの世界線。わかったよ、いわねーことにする」

 

「そうして」

 

軽口を叩くうちにだんだんカイトもミウも気分がマシになってきたのか、パートナーたちも気力が戻ってきたようだ。

 

ミユキの歌が響いている。

 

ボルトバウタモンの上半身と融合した『主』を浄化どころか門を通る前に倒さなきゃならないところまで追い詰められているらしいのはわかったので俺たちは3手にわかれることにした。

 

まずは迫り来る『主』の眷属を殲滅すること。次は弱体化させつづける歌を歌い続けるミユキを亡き者にしようとする『主』の攻撃を払い除けて、ミユキを守り続けること。最後は『主』、特に上半身だけ顕現しているボルトバウタモンを倒してしまうことだ。

 

カイト曰く、ミユキが倒れた瞬間に世界が揺れて自分たちにまで牙をむく。しかも下手をしたら気絶している間に世界が終わってしまうらしい。ムゲンドラモンたちとの戦い並みに理不尽な戦いを強いられていたのがよくわかる。そりゃいくらカイトとミウの2人でも無理だわ。なんとかミユキが歌う気力がある間に倒さないとまずそうだ。

 

とりあえず全体攻撃があるバンチョースティングモンとケルビモンが無限湧きする『主』の眷属を抑えてくれることになった。

 

ミユキは俺たちが傍にいて、やばくなったらガイオウモンが対応してくれる。ガイオウモンは遠距離攻撃もできるから、マリンエンジェモンとベルゼブモンがボルトバウタモンを攻撃することになった。これで役割分担ができるからそれぞれ目の前のことに集中できるようになって一安心だ。これならカイトたちもミユキのことが足枷になってちゃんと戦えないってことはないはずだ。

 

「やっぱ誰かいるっていいな」

 

「全然ちがうね」

 

「だろ?俺も痛感したとこ」

 

ベルゼブモンはボルトバウタモンの銃から放たれた弾丸を的確に打ち落としながら動きを固定化、マリンエンジェモンが『主』全体にダメージを与えている。打ち損じたところはガイオウモンが支援した。何回リトライしたのかは知らないがベルゼブモンもマリンエンジェモンも動きに無駄がまるでないから、俺と一緒でジリビンになっていいとこまで行くのに惜敗するパターンが多かったのかもしれない。

 

ベルゼブモンは余裕がでてきたのか、ショットガンが火を噴いた。ボルトバウタモンの手を打ち抜き、銃が宙を浮く。ガイオウモンがすかさず銃を叩ききりながら、その斬撃がさらにボルトバウタモンの体をずたずたに切り裂いていく。マリンエンジェモンが広範囲に光を放ち、追い討ちをかける。

 

ミユキの歌はなお響いている。そのうち『主』の体を回復させることにリソースを回さないといけなくなってきたのか、『主』の眷属が数を減らしていく。バンチョースティングモンたちがこちらに支援を回してくれるようになった。

 

たぶん、この世界線のカイトたちはヴァンデモンやマーメイモンからパートナーを進化させることができなかったんじゃねーかなとふと思う。ベルゼブモンとマリンエンジェモンだけでも『主』の眷属の横槍やミユキという守りながら戦わなきゃいけないやつがいなかったら、ボルトバウタモンだけならさっさと突破できそうなくらいには普通に強い。俺みたいにガイオウモンだけでムゲンドラモンたちを倒せみたいな無茶振りだったのはちがいなかった。

 

やがて。

 

ぐらぐらぐら、と世界全体が揺れ始める。ミユキの歌が聞こえなくなってしまった。振り返るととうとう力尽きたのか倒れてしまったミユキがいて、ケモノガミのように赤い粒子が体から溢れ出る。俺があわてて抱き抱えようとすると、手がすり抜けてしまった。よく見ると体が透明になっていく。そしてミユキは消えてしまった。すぐそばに真っ白なひかりが生まれて、真っ白な線がその光を捉えてしまう。『主』が開こうとしていた門は、閉じるどころかどんどん渦を巻きながら広がっていく。

 

「ミユキ......」

 

カイトとミウは首を振る。ミユキがこういう風に消えていくところも見たことがあるらしい。遺体が残るのと残らないのではなにが違うんだろうか。疑問は尽きないがカイトとミウの修練は終わったようで門はやがて『主』の精神世界をも飲み込んでしまう。俺たちの視界も白に塗りつぶされていった。

 

この様子だとみんな2人ずつにわかれて修練に望んでいるようだ。なんで俺だけぼっちなんだよ、そこは3人にしてくれよ。ぼやく俺にガイオウモンが苦笑いしている。笑うな。

 

そしたら、チャツラモンの声が聞こえてきた。

 

「仕方あるまい、バイフーモン様は特に心身共に強い者にしか会いたがらないお方なのだから」

 

「ずいぶんスパルタだなあ、オイ」

 

「心身共に強くあらねばパートナーの精神に引きずられてケモノガミは気が狂うのだ。中途半端な絆の強さなどなんの役にもたたん。ゆえに仲間の気がふれたときに介錯してやることも、まともにしてやることもできぬまま、封印することしかできぬのだから。バイフーモン様は汝らに二の舞になって欲しくはないのだ」

 

「二の舞ねえ......」

 

「ま、そのせいでこの世界は成り立ちから歪んでるってのもあるんだがねぃ。うまくいかなかったら、こうなるって見せてくれてるとこもあんだろ?チャツラモン」

 

「いかにも。ガイオウモンから再三聞いてはいるだろうが......。我らは『主』の配下や眷属は殺せるが、『主』だけはどうにもならんのだ。ケモノガミを『主』より強くすることができるのはパートナーたる人間だけなのだ。それだけはゆめゆめわすれてくれるなよ」

 

チャツラモンの言葉がやけに響いて聞こえたのだった。

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