転機は唐突に訪れた。何度目になるかわからないピエモン戦で経験値と感情値が貯まり、そしてサキとフローラモンの絆が今までになく深まっていたからだろうか。それともちびっ子たちが進化を重ねて頼りになりはじめたから、なおさら守らなければとサキたちが決意を新たにしたからだろうか。
フローラモンが力が湧いてくると戸惑い気味にサキに告げた。なんとかなるかもしれない、と告げたパートナーにサキはお願いと祈った。そして現状を打破すべく、ようやくフローラモンがワープ進化した。
今度こそかわいいパートナーでありますようにと直接口にこそしなかったが祈りまくっていたサキの前に現れたのは巨大な森だった。あまりの大きさにケルベロモンもアオイもサキもあいた口が塞がらない。ピエモンは驚きこそしたがすぐさまケルベロモンたちを苦しめてきた長い剣を瞬間移動させて森を更地にしようと襲いかかった。
それが森......いや、文字通り森を背負ってなお全貌が見通せないほど巨大な怪鳥デジモンの逆鱗に触れた。ピエモンが点に見えるほど巨大な鳥は森の木々を粉砕されたことに激怒したのか、あたりに震撼するほどの咆哮をして岩石と豊かな土壌からなる体をもちあげ、飛んだのだ。まさに天空に浮かぶ島そのものである。
「ら、ラピュタに進化しちゃったの、もしかして......?」
「違うとは思うんだけど......どっちかっていうと鳥じゃない?」
「私の思ってた進化とちがぁう......」
あまりのスケールの大きさである。ピエモンの攻撃はその大きさの暴力の前にはダメージにすらならないようで、全く位に介していない。その巨大な怪鳥は見上げてなお全貌が分からないほどの巨体をそのままピエモンめがけて叩きつけたのだ。いっそのこと哀れな最後ですらあった。断末魔すらかきけす強烈な爆風と振動が『主』の霧すらあっという間に吹き飛ばしてしまったのである。
ここまでくるとゴジラとかウルトラマンとかの世界になりそうだが、木々を折られた怒りはまだ治らないようで、怪鳥は口からマグマの体液を巨大火炎弾として放ち、ミユキたちがいるはずの史跡まで攻撃しはじめた。
世界がはじめて揺らぐのがわかった。いやほど見たまた初めからではなかった。世界は暗転してどちらかというと強制終了みたいな流れになってしまった。
「ええと、さすがにおっきすぎない......?」
サキがおずおずと退化したフローラモンに問いかけた。
「あれは我慢出来なかっただけよ、サキ。ピエモン、ほんとひどいことばかりアオイたちにするんですもの。あれは最終手段よ、大丈夫」
「最終手段?」
「ええ、そう。あれするとエネルギー尽きちゃったら赤ちゃんにまで戻りそうだし、ケモノガミ世界の方が壊れちゃいそうだしね。もうやらないわ」
フローラモンはさっきの怪鳥がケレスモンというのだと教えてくれた。その頭部には本体となる『ケレスモンメディウム』という綺麗なお姉さんのような姿のケモノガミがいて、滅多に単独で人前に現われることはないが、信用に値するものには稀に怪鳥をつれず姿を見せることもできるという。
「次からそうして、絶対そうして。みんな潰しちゃう。というか、今みれる?ケレスモンメディウム」
「いいわよ」
「やったー!!」
サキたちの前に姿を現したケレスモンメディウムはそれはもう美人でナイスバディで背が高くて綺麗なお姉さんのケモノガミだった。両手両足が金色の武具をしているが体の至る所が植物でできていた。サキはわかりやすいくらい大喜びしている。
ここまでほんとに長かったのだ。
サキのパートナーたるフローラモンの時はかわいいのに、進化したらベジーモンという長く伸びたツタと大きく開かれた口を持つ食虫植物型のケモノガミに進化した。
ベジーモンは口から吐き出される甘い香りにつられてやってくる小型ケモノガミを、触手のような長いツタの部分で引きずり込んでしまう凶暴凶悪なケモノガミだった。なのにまともな攻撃力を持ち合わせていないため、大型のケモノガミには太刀打ちできないためにうんちをなげた。
次はブロッサモンというベジーモンから巨大な花の姿をして、身体からは何本もの触手を生やした植物型ケモノガミに進化した。ベジーモンからビジュアルはマシになったが、なかなか奇怪......いや個性的な姿になった。必殺技は触手の先に付いている小型の花を手裏剣のように飛ばす『スパイラルフラワー』。この花の花びらはどんなに硬いものでも切り裂いてしまう。
とりあえずうんちからは解放されたとサキは喜んでいた。なかなかに個性的な進化をとげるパートナーをみてきたサキの反応を知っていたアオイとラブラモンは顔を見合わせて笑うしかなかった。
世界がゆるやかに解けていく。気づけばアオイたちは最初に飛ばされた鋼鉄の扉の前にいた。真ん前にはチャツラモンがあの時のように座っている。アオイたち以外はいないようだから、まだ誰も修練を終えていないようだ。それだけでまだ遅れをとって迷惑をかけたわけではないようだとわかったアオイはほっと胸を撫で下ろした。サキはいつのまにかフローラモンに戻っているパートナーにちょっとだけ残念そうだ。
ここにはあたりまえながら小さなケモノガミたちはいない。あくまでも霧幻の追憶でだけ力を貸してくれる並行世界のケモノガミたちにすぎないのだと突きつけられたようでアオイたちは寂しくなった。
「見事であった」
ようやく修練がひとつ進んだのだとアオイたちに知らせるためにチャツラモンが現れたことで、ようやく2人とパートナーたちは素直に喜んだ。
「進化できるまで回復するがよい。汝らの活躍に期待する」
回復魔法までかけてくれたチャツラモンにアオイたちはお礼を言った。言葉に甘えてミノルからわけてもらってまだ残っていたお菓子とジュースをカバンから出して2人は休憩することにした。チャツラモンに渡してみたが遠慮された。どうやら立場が立場だからか、威厳がガタ落ちするのが嫌なようだ。
「なに、先はまだまだ長いのだ。だが焦ることはない。汝らのペースでありえた未来と向き合うがよい。それがバイフーモン様の望みでもあるのだから。どうしようもなくなった時には我もなにかしら支援はするゆえな」
アオイとラブラモンにチャツラモンは労いの言葉をかけた。ただ、サキとフローラモンをみるとちょっとだけ声のトーンを落とした。内緒話でもするかのような大きさだった。
「今回ばかりは目を瞑る。バイフーモン様には少々脚色して伝えるゆえ心配はいらぬが一応伝えておくぞ。わかっているとは思うが、あの史跡は門と『主』の封印を兼ねているのだ。破壊しないでもらえると助かる。霧が世界を満たしてしまうゆえな」
チャツラモンからわりとマジトーンで切実なダメ出しを食らったサキとフローラモンはごめんなさいと謝る羽目になったのだった。
「特に汝とラブラモンにはバイフーモン様が目をかけているゆえな、それなりの覚悟と実力を見せてみよ。かならずやそれに値するものを我らも提供することを約束しよう」
「えっ、私とラブラモン!?タクマくんたちじゃなくて!?」
「どれ、ひとつ、話をしてやろう。汝らはプルートモンをみてどう思った。恐怖したか?臆したか?それも無理はない。だが人と繋がりがある故に悍ましき姿は時として本質を失う。プルートモンは冥府の王なのだ、どれだけ大事な立場かわかろう?なぜ死んだケモノガミがすぐ卵になるかわかるか?それは冥府の王たちが転生にふさわしいか裁き、その果てに生まれ変わるに値するものが卵になるにすぎぬのだ。そのために裁きがどれだけ重要かわかろう?汝のパートナーがそれに進化する未来があるということはその可能性を汝は秘めておるのだ。それだけは信じてほしいものだな」