(完結)鹿野岸奇譚(デジモンサヴァイブ)   作:アズマケイ

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激情ルート3(鹿野岸奇譚ver)

チャツラモンに諭された言葉をかみしめながら、アオイたちが足を踏み入れたのは史跡ではなく真っ暗な世界だった。

 

明らかに史跡の広さではない。あたりはまるで宇宙のように広い広い空間だった。遠くでは星々がきらめいていそうなのにあたりは銀河系も何もない。ただ浮遊しているわけではなく、しっかりと足がついているのは平面の空間が存在しているからだろう。見ることはできないが謎のパネルが設置されているような感覚である。

 

こつこつと冷たい音がする。音がする時点で宇宙ではきっとない。息ができる時点で宇宙ではきっと無い。サキもアオイも油断することなくぐるりとあたりを見渡した。張り詰めた緊張感の中、それは姿を現した。

 

そこはチャツラモンがいうには無数の人間とケモノガミの魂が囚われ、蜘蛛の巣のように張り巡らされた場所のはずだった。その中央にある鉄の塊がケモノガミ世界の『主』、管理者がいるが『神』により侵食され、力を蓄える動力源と化しているのだと。プルートモンと融合しているのではないかとチャツラモンは予想していたが違った。それよりもっと酷いことが起きた後だった。

 

アオイたちがきた時には、すでにプルートモンによる暴力で罰が下されたあとだった。咀嚼音だけが響いていた。プルートモンの主観で悪かどうかが判断されてひとつひとつの魂が断罪され、弁明の余地もなく貪り食われていた。凄まじい暴風が吹き荒れ、プルートモンの主観では何の落ち度もなかった人間とケモノガミの魂が『主』の呪縛から解き放たれ、蜘蛛の巣は消え、真っ暗になってしまったのだ。

 

ミユキもいない。『主』もいない。諸悪の根源である『神』もその『神』を狂わせたはずのパートナーの童子の姿すら影も形もなかった。たまらずアオイたちは顔を見合わせるのだ。ずっと響いている咀嚼音は、ここにいたるまでの悲劇を連想させ、いやでもおぞましい光景を連想してしまう。

 

「......もしかしてプルートモン......ミユキちゃんごと......!?」

 

気づいてはいけない現実だった。それはこの世界のタクマたちが現実世界に帰る方法を失った瞬間だった。サキは思わず口を抑えた。声は震えていた。アオイは泣きそうになった。これがありえたかもしれない自分の末路なんて。何度見ても慣れることはない。

 

アオイたちの目の前にはプルートモンただひとりだけ。そして、プルートモンは手をかかげている。チャツラモンのように禍々しい光を放つなにかが噴き出してきていて、その向こうには彼岸花がたくさん咲いていて赤い鱗粉がまっている現実世界が見えた。どうやらプルートモンは人間とケモノガミの魂をそちらに返したらしい。

 

「まって......どこにいくの?そっちは私たちの世界よ?」

 

「も、もしかして、悪い人たちを探しにいくとか言わないよね?」

 

アオイたちの言葉は気にもとめない。プルートモンがその渦を拡大していく。どんどん広がる向こう側の世界。どうやらプルートモンは現実世界とケモノガミ世界をつなげてしまったようだ。だが本人はあまり興味がないのか先に行こうとする。あったかもしれない未来の自分とラブラモンの融合体でありながら、全く理解できないケモノガミにアオイとサキはたまらず声を掛けた。プルートモンは振り返りさえしなかった。悪人でなければ興味すらないらしい。

 

「何故邪魔をするのだ、人間よ。そしてそのパートナーたるケモノガミよ。悪は恐怖と暴力によって倒されるべきだ。ゆえに私は新たな獲物を探しにいかねばならん」

 

たまらずアオイは叫んだ。

 

「ダメよ、そんなことしたら!これ以上そんなひどいことするのはやめて!!そんなことしたら、ケモノガミが誤解されちゃうわ!私はみんなに仲良くして欲しいだけなの!!」

 

「邪魔だてするならば、容赦はしない。たとえおまえたちに何の罪もなくとも、私の前に立つことこそが罪なのだから!」

 

すさまじい殺気だったが、アオイはひくわけにはいかなかった。負けてはいけない。それはありえた未来においてアオイが歩む道が正しかったのだと認めてしまう気がしたからだ。

 

「いかないで!やめて!お願いよ!!」

 

アオイの悲鳴が響き渡る。

 

「そうよ、あなたが私たちから産まれたなら、私は止めるわ!絶対に!」

 

ラブラモンが光に包まれ、プルートモンの前に立ち塞がったのである。

 

「私の名はアヌビモン。アオイ、あなたの揺るぎなき正義が私をここまで進化させてくれたのです。感謝しますよ」

 

ラブラモンがワープ進化した。それは古代エジプトで金狼犬あるいはこの首をもつ人体で表される神で、一般に死者の神、あるいは墓地の神とみなされる者の名を模していた。『死者の書』ではイプ・ウワト(道を開く者)とよばれ、死者をオシリスの前に導くものとみなされたという。

 

チャツラモンのいうとおり、アヌビモンはケモノガミ世界の冥府を守護・監督する神人型のケモノガミだという。寿命を全うし消滅したケモノガミや、戦闘で敗北し消滅したケモノガミが最後に送られる冥府を常に監視している。冥府に送られたケモノガミが、悪しき魂であれば永遠の闇に閉じ込め、良き魂であれば再度卵へと還元する能力を持っている。 ケモノガミの生死を決められるだけの強大なパワーをもち、さらにはケモノガミ世界の裁判官の役割も持っている。

 

しかし冥府に封じ込められた悪しきケモノガミ達の中には、冥府を拠点とし、アヌビモンも手が出せないほど強大な力を持つケモノガミが存在する。それを屠るのがプルートモンの役目なのだとアオイに教えてくれた。プルートモンの罰は永劫に続く地獄そのものというスタンスなのだと。

 

冥府はケモノガミにとっての墓場や地獄のような場所であり、劣悪な環境である。悪事を働いた一部のケモノガミは生きた状態で冥府へ送られ、ヴァンデモンのような堕天使や魔王型ケモノガミとなることもある。

 

ヴァンデモンのようにホームグラウンドとして活用するケモノガミもいれば、ボルトバウタモンのように集まった怨念から生まれるケモノガミもいる。本来、寿命をむかえたケモノガミは、自らを構成する魂の情報を卵に残し生まれ変わることが許されているので、冥府にはあまり縁がないはず。危険な場所であることには変わりないので、できるだけ善行を積んで堕ちないようにしてほしい。

 

「私に進化できた理由を今一度考えてほしいのです、アオイ」

 

「ええと......アヌビモンはケモノガミを転生させてあげられるから、あの遊園地が破壊されるような事態になっても助けられる命があるってこと?」

 

「それもあります。この成り立ちから歪んだ世界では正常に機能していないこの転生という輪廻を正常にするためでもあります。すなわち、『主』に囚われた魂をあるべき姿に導くためでもあるし、それはもちろん人間の魂も含まれます」

 

「そうなの......そうなんだ......よかった」

 

「ありがとう、アオイ。そう思ってくれるあなただからこそ、私はアヌビモンに進化することができたのです。使命を真っ当にこなすために。今一度、私に力を貸してくれますか?」

 

「ええ、ええ!もちろん!私たちのしてきたことが間違ってないってわかったから、もう大丈夫よ。がんばりましょう、途中で潰えてしまった未来を一緒に連れていくために!そのためにはまずプルートモンに教えてあげなきゃいけないわ、ケモノガミも人も片方だけじゃダメなの。どちらからも手を差し伸べないとわかりあうことすらできないってこと!!」

 

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