(完結)鹿野岸奇譚(デジモンサヴァイブ)   作:アズマケイ

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バイフーモンの試練9

とうとう鋼鉄の扉が開かれた。両開きの扉がゆっくりと開かれていく。そこは薄暗く奥に広がっている空間だった。階段がひたすらに下に降っていて、その先にただただ広い空間が広がっていた。天井や側面は独特の形状をしていて鍾乳洞のようで上から下に水が落ちて波紋を描く音がするが、ライトアップされていないためどこかはわからなかった。

 

薄暗いのは真下が明るいからだと気付くのは早かった。12の巨大な球体が浮いていた。そのひとつひとつが強烈な光を放っており、円のように一定の間隔をおいて浮いていた。その球体のある奥まった空間の中央に薄紫色の模様が入った真っ白な虎が鎮座しており、咆哮するたびに球体が光を放っていた。

 

強烈な腐敗臭が一瞬立ち上るが、次の瞬間には錆びついた鉄の匂いに様変わりする。階段を降りるに従ってそれは次第に大きくなり、壁や階段の脇に『主』の配下、もしくは従者と思われるものたちの残骸が転がっていた。どれも銅像のように硬いものに変質しており、砕かれたのか破片が飛び散っている。かろうじて首や足、胴体といった原型をとどめているものたちがそれがなんだったのかを伝えていた。

 

冷たさが噴き上げてくる。鉄の錆び付いた匂いを纏う風だった。

 

「ぴいぴい!」

 

「あれ、どうしたの?マリンエンジェモン」

 

進化して話せるようになったバンチョースティングモンと違い、喋れなくなってしまったマリンエンジェモンは首の金色のリングを光らせて手を広げた。ミウの問いにマリンエンジェモンは宙を浮いたまま引き止めようとしてくる。

 

「え、マジかい。ちょっと待ちな、みんな。マリンエンジェモンが加護をかけてくれるそうだぜ、じっとしてな」

 

ガイオウモンがいうので足を止めた俺たちに金の首輪から放たれた光がつつみこんだ。

 

「なんだこれ」

 

「まあみてりゃわかるさ、先を行こうぜ。どうやら先客がいるらしい」

 

階段を降り切った俺たちを待っていたのは見上げるほど巨大な白虎だ。こいつがバイフーモンか。

 

それはデジタルワールドを守護する、四聖獣と呼ばれるデジモンの一体。 中国の伝説上の神獣である四神の1つで、西方を守護する。白は、五行説では西方の色とされる。白虎がモデルで、その名の通り白い虎の様な身体に薄紫色の模様が入っているビジュアルである。

 

というのも西の白虎は太陽の沈む西方を守る後門の守護神。睨みを利かせて邪気を遠ざけ、幸せを呼び込むとされている。中国では虎は百獣の王と伝えられ、虎が500年生き抜くと霊力を得て白虎になるとされているので、白虎は特別な神と考えられている。

 

ケモノガミ世界を守護する四聖獣の1体であり、西方を守護し鋼の属性を持つ。神話の時代より君臨し続け、他の四聖獣デジモンと同じく伝説の存在であり、その強さは神にも匹敵すると言われている。

 

また、四聖獣デジモンの中でも一番若い存在であるが、パワーは4匹の中でも最高である。その不死と絶大なパワーは、12個の魂から生みだされていると言われている。

 

壁画が正しければバイフーモンは中立的存在ではあるがチンロンモン同様、基本的には味方になるような存在ではないはずだ。

 

「我が領域を穢すのは貴様らか!我が金剛を受けてみよ」

 

ガイオウモンがいう先客とは『主』の派遣した軍勢だったようだ。

 

「チャツラモンたち大丈夫かしら?」

 

「『主』の眷属は無限湧きしやがるからな......十二神将は三体しかいねえからどうしても打ち損じが出ちまうのさ」

 

「負けたわけじゃねえよな?」

 

「大丈夫、バイフーモン様が死ななけりゃいくらでも復活できるさ。ありえたかもしれない未来みてーにまだ遊園地はまだ破壊されちゃいねーんだからよ」

 

「そっか」

 

マリンエンジェモンのかけてくれた加護の意味を俺たちは目の当たりにすることになる。口から放たれた波動に飲まれた『主』の眷属が一体残らず金属になってしまったのだ。

 

「我が眠りを妨げる愚か者よ、恥を知れ。哀れなものよな。体が錆び、朽ち果てるまで死ぬことはできぬのだから。だから解放してやろう我が鉤爪で!」

 

粉砕されていく『主』の眷属たち。『主』の霧はあっという間に四散していった。

 

なんてパワー、なんてスピード、なによりなんて大きさなんだこいつ。俺は見上げるほどの巨大に目を丸くするしかない。これが現実世界でいう1000年もの長きにわたってケモノガミ世界に君臨してきた神のひとつなのだとしたら、たしかに力になってくれるならこれほど頼もしいことはなさそうだ。

 

「マリンエンジェモン、ありがとな。下手したら挑む前に死んでたじゃねーか、俺ら」

 

「ぴぴい」

 

得意げにマリンエンジェモンは笑ってみせた。

 

「やれやれ、アイツらが打ち損じた奴なら少しは暴れがいがあるかと思いきやこれだ。つまらん」

 

鼻を鳴らすバイフーモンの傍で鎌倉時代の子供の格好をした子供が佇んでいた。

 

「水無瀬家の文献にあった通りだ......鎌倉から派遣された4人の従者......。着ていた服とよく似ている......間違いないようだね」

 

水無瀬教授の声にバイフーモンのパートナーであろう従者の少年がこちらに向いた。やはり幽霊だからか半透明だ。足があるのは意外だったけど変に透けているよりは怖くないかもしれない。

 

「あなた方は......たしか......。チャツラモンから報告はあがっています。『主』についてどうするのか判断する前に霧に襲われたようで、災難でしたね。無事でなによりです」

 

「まさかなし崩しで放り込まれた霧幻の追憶を突破するとはな。祠にいたときよりよっぽどいい顔になったではないか、チャツラモンの見立て通りだ」

 

少年はうなずいた。

 

「これほどの覚悟を決めた者と会うのは本当に初めてです。長かった、本当に長かった。今更問うのも無粋ではありますが......これより始まる試練の開始をするためにも、あなた方の決断を今一度お聞かせください」

 

俺たちはタクマをみた。タクマはうなずいた。コテモンに話を聞かされた時とは違い、みんな覚悟ができているのは明らかで、俺はタクマの紡ぐ言葉にうなずくだけでよかった。

 

「僕らは『主』をもとにもどすよ。ミユキを助けて、元の世界にかえるために。『神』とパートナーを怨念から解放してあげるために。きみたちを始まりから歪んでるこの世界から解放してあげるために」

 

「なるほど......それは最終的に門を開くということでよろしいですか?あなた方の世界に多大なご迷惑をおかけすることになりますが」

 

「あーうん、最終的にはそうなんだけどさ、ちょっと提案があるんだ」

 

「提案とは?」

 

「そのまえにケモノガミについていくつか聞きたいことがあるんだが、いいかね?」

 

「はい、私にわかることであれば是非に」

 

「ケモノガミたちが消えかかっているのは、認知が低下したから。つまり、知名度を上げればいい?」

 

「はい......廃れた信仰をいいかえるならばそうなります。不可能だとは思いますが」

 

「この世界でiPhoneのカメラを通して見えるものが増えるのは、そもそもこの世界が電子端末と親和性があるからかね?」

 

「電子端末というよりは電気と相性がいいのだと思います。時代が進むにつれて発展したもの、特にカメラは狐の窓と通じるものがあるようで。人間が見る動作が作用しているのでしょう」

 

「狐の窓?」

 

「決められた形に指を組み、その中から覗くと違うものが見える御呪いの一種だね。人間に化けた妖怪や不思議なものを見抜くことができるとも言われているよ」

 

「へー」

 

「なるほど......なら、最後にひとつ。もしその在り方が今とかなり歪められるとしても、生きられる方法があるとしたらケモノガミは耐えられるのかね?」

 

水無瀬教授の言葉に詳しく聞こうと反応したのはバイフーモンだった。

 

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