(完結)鹿野岸奇譚(デジモンサヴァイブ)   作:アズマケイ

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バイフーモンの試練10

水無瀬教授が話しているのはタクマとミノルに課せられた修練で目撃したケモノガミ世界の未来を前提に、より選択肢の幅を広げるための仮説をよりわかりやすくしたものらしい。

 

さすがは地方とはいえ大学で教鞭をとっている教授だけはある。いいたいことをちゃんと口にして文章にして意見にまとめるのは一種の才能なのだと俺は思い知らされていた。ミノルもタクマもそこまで考えてなかったという顔をしているのだが、水無瀬教授は淀みなく話を広げていくのだ。

 

水無瀬教授はまず『主』の封印が強くなっているにもかかわらず、『主』の霧が広がっているために向こう側の世界にケモノガミが何体か迷い込んでいると説明した。封印が強くなった理由も霧が広がる理由もネットにケモノガミの画像や動画、論文を通じて認知が劇的に広がったためだと。

 

ネットとは何だという当然すぎるツッコミが入り、そこからだいぶ脱線したものの、その辺りは俺とシュウジが説明にまわった。

 

水無瀬教授とバイフーモンの問答はかなり難しい上に専門用語がぽんぽん行き交い、古い言葉遣いもあいまって異国語みたいなもんだから、ミノルたちは早々に理解を放棄したのかなにもいわなくなっていく。カイトあたりからなんとかしてくれと無言の訴えをうけて、かろうじて話についていけているシュウジや俺、アオイが話を噛み砕いてタクマたちに教えてやった。

 

内容はだいたいこんな感じだ。

 

ケモノガミ世界は人に認知されて初めて形をつくることができる存在であるとバイフーモンはいう。その普遍的な存在が消えかかっているということは、人の中からケモノガミをはじめとした怪異が失われつつあるからである。

 

水無瀬教授がタクマたちから聞いた案とは、ケモノガミは電気と相性がいい存在であることを考えれば、その世界に移動することも可能なのではないだろうかというものだ。実際にiPhoneのネットワークを通じてその存在が認知されるだけで門が強固になったことを考えれば、いっそのことネットワークの中に居住地を移してしまえばよりダイレクトに人間から認知されることで得られるエネルギーが増加するのではないだろうか。

 

電気と相性がいいのならば、ケモノガミ世界ごと電気の中に情報を転写させ、ネットワークの存在となれば。ネットワークはまず消えることはないし、不法滞在にならないようにサーバなんかの準備は必要になるがそれは水無瀬教授が専門家に頼んでホームページをうんぬんで契約すればいい。

 

あまりにも突拍子がない話に聞こえるがタクマたちのみたありえた未来において、ケモノガミたちはそれをかけてケモノガミ世界ごと再生する道を選んだらしい。途方もない時間がかかるがケモノガミたちだけじゃなくタクマたちの力をかりればさらにはやくできるのでは。

 

もちろん、できるかどうかなんてわからないから、ケモノガミについて動画や写真で怪異としての知名度をあげる様子見をすべきだ。

 

それよりも優先すべきことが今と在り方が変わっても耐えられるかという問いだと水無瀬教授はいう。

 

そもそもケモノガミたちがネットワークを通じて信仰を得て存在を確立するということは、人間の好き勝手な好奇心に晒されて姿形が今と変容する可能性を秘めている。

 

かつて恐怖の象徴だった怪異がネットで広まり、おもちゃにされて全く違うものに変質した事例はたくさんある。美少女ならまだいい方でエロ漫画の題材になったり認知はあがったが恐怖とはかけはなれた存在に成り下がった。ネットワークを活用するということはそれを拒否する力をケモノガミは持ち合わせていない。だから、それに耐えられるかという話でもある。

 

それはネットワークで存在するために、認知の供給を確保する戦いでもある。本来、対となる人間のもうひとりの自分という定義しか持たないはずのケモノガミはその姿で存在し続けるために伝承を見に纏った。

 

しかし、凄まじい量の情報が日夜更新されて埋もれていくネットワークで存在し続けるには、より強固な器を用意しその中に怪異である己をそそぎ込む必要がある。その器の材料となるのが認知と呼ばれるエネルギーであり、精神体である彼らそのものでもある。この認知を作ることができるのは人間である。

 

ならばネットワークにある情報を身にまとえばより器は強固になるのは明らかだ。器を維持し続け、しかも枯渇しないように供給もとを確保しなければならない。認知の供給方法としては、人々の信仰を集める、他の生命体に憑依する、大量の生体エネルギーを器に変換し続ける、という方法があげられるが、ケモノガミにとって効率的なのはネットワークにある姿を形づくることだろう。

 

もっとも、それは人々の信仰、思想、様々な無意識から形成されるもの、時には伝承が好き勝手にゆがめられたものを身にまとうことを強制される。それはおそらくケモノガミ世界ににいたころとは全く異なるあり方だ。それを拒絶することは、ネットワークで生きるには四聖獣であっても死を意味するだろう。

 

俺たちがタクマたちに話し終えるのを律儀に待っていてくれたバイフーモンは、堪えていたのが耐えきれなくなったのかとうとう笑い出した。

 

「なるほど、外の世界はそこまで発展しておるのか!なかなか興味深い話を聞かせてもらったぞ。たしかにケモノガミの写真ひとつで門の封印があそこまで強固になるのはなぜかと思ったがいたのだ。この世界ができたときより人間が増えたのかとおもいきや、外の世界の人間たちがケモノガミを知ったことでここまでのエネルギーを獲るにいたったわけなのだな。実に面白い話を聞かせてもらった」

 

「ケモノガミたちの行末はやはり、きみたちにも決めて欲しいとタクマくんたちは願っているんだ。それこそ『主』をどうにかすることができたら考えてほしいとね」

 

「なるほど......だからバイフーモンに問うたのですね。ケモノガミとしての在り方が変容することに耐えられるかどうか」

 

「君たちがケモノガミ世界の現状について、これからについて、早いうちから明かしてくれたと聞いているよ。だからタクマくんたちは報いたいんだそうだ。その意思だけは汲んでやってもらえないだろうかね?」

 

「なるほど......ケモノガミの未来に新たな選択肢を、その意気やよし。『主』にその未来を見せるためにもまずは我に勝つことだな。我にも届かないならば、それはただの絵空事に過ぎぬ」

 

ピリッとひりついたものがただよいはじめた。それはバイフーモンのなにかのスイッチを入れてしまったのだと嫌でもわかる。冷や汗が浮かんだ。

 

バイフーモンがニヤリと笑う。そして、従者の少年がうなずいた。バイフーモンを取り囲んでいる琥珀色の巨大な球体がゆっくりと音もなく浮遊しはじめる。それは眩い光を放ちながら俺たちの前に立ち塞がるように回転しはじめる。

 

次の瞬間、すさまじいプレッシャーが俺たちに襲いかかってきた。バイフーモンがゆっくりと立ち上がる。一歩踏み出すだけで地響きがして、鍾乳洞全体が揺れた。琥珀色の球体は依然として輝きを増し、拍動するかのように俺たちの目を焼く。

 

バイフーモンの声が咆哮となりあたりに轟き始める。動くだけで地殻変動が起こるから地下深くに潜るしかなかったという伝説通りの存在が目の前にいるのだと、俺たちは改めて思い知らされるのだ。

 

「さあ、来い。そして証明してみせよ、おまえたちの紡ぐ未来が我らを越えられるかどうか!」

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