金属化したガイオウモン達から黒いエネルギーが噴き出してきて、プルートモンにまとわりつく。それはやがて真っ黒なオーラとなり、バイフーモンとは似て非なるものの凄まじいプレッシャーとなって周囲を威圧し始める。ガチガチと体のあちこちから裂けている口が金色に輝く鋭い歯を鳴らす。新たにまとったオーラを噛み締めるように握り拳を作ったプルートモンはうっすらと笑った。いっせいに口という口が笑い出す。両手を広げたプルートモンが宙に浮く。両手には真っ黒な光が生まれて渦を巻き始める。真っ赤なマントがばさばさとはためいた。
真っ黒な光が真っ直ぐに伸びたかと思うとプルートモンの上空に巨大な獣の口を描く。サメの化石みたいだと思った。プルートモンはそれを頭上高くまで大きくしたかと思うと11ある球体目掛けて放ったのである。
ばりばりぼりぼりとガイオウモンとベルゼブモンが2体がかりでようやく破壊できた琥珀色の球体をいとも簡単に破壊していくではないか。いや、食らっていくと言った方が正しいかもしれない。琥珀色の光がプルートモンに取り込まれ、さらに黒いオーラが強化されていく。プルートモンはもしかしたら敵を喰らえば食らうほど強くなるタイプのケモノガミなのかもしれない。
「我が同胞をよくも......落とし前はつけてもらおうか」
「おかしなことをいう。そのおかげで汝の力が我に届かんとするのだろうに。感謝してほしいくらいだぞ、冥界の王よ」
「黙れ」
プルートモンはあっという間に11の琥珀の球体を食べ尽くし、代わりに琥珀色の光がプルートモンにさらなる力を付与していく。
「ハガードクラスター」
プルートモンの胴体にある口から牙が飛び出してきて、バイフーモンめがけて噛みつこうと牙をむいた。
「この程度では我には届かぬ」
振り払われた前足にその牙は空間ごと食べてしまい、距離が一気に近づく。狩猟で使う罠のようにプルートモンの歯がくらいついた。
「毒か......やりおるわ」
バイフーモンは笑った。琥珀色の球体はバイフーモンの魂のはずだ、剥き出しということはそれだけ強いという証のはず。それを一つ残らず食いつくし、しかも状態異常をと押してしまうなんてどんだけ規格外の強さなんだプルートモン。
俺は言葉が紡げないまま、プルートモンとバイフーモンの人知を超えた激闘を見ることになったのだった。
「そこまでです、バイフーモン。これ以上暴れてはいけません。天変地異が起こりますよ、地形を変えるおつもりですか」
従者の少年に戦いをやめるよう促されたバイフーモンは不満げに彼を見る。だが少年は首を振った。
「ぬう......いいところだったというに、無粋なやつめ」
「彼らを元に戻すのが先ですよ」
「あいわかった」
ガイオウモンたちの金属化が解けた。さすがに限界だったのか、みんなコテモンたちにまで戻ってしまう。プルートモンは黒い光の先に消えて、ラブラモンとアオイが現れた。ふらついてサキたちに支えられるが、どうやら疲れているだけで外傷はないようだ。バイフーモンがいうにはしばらくすれば本調子に戻るだろうとのこと。
「地殻変動を起こす気ですか、おやめなさい」
またってなんだよ、またって。思わずバイフーモンをみた俺に、視線に気づいたのか従者の少年は苦笑いしながら教えてくれた。
四聖獣たちが地下にもぐることを選んだのは、なにも『神』を鎮めるためだけではないのだという。
かつて地上に君臨し、方位を司っていた四聖獣たちだったのだが、人間とケモノガミの世界をわけたことでケモノガミだけの世界ができた。そのときに秩序......つまりどう世界を回すのかで揉めて、覇権争いになったことがあった。
バイフーモンとチンロンモンは人間とケモノガミは互いになくてはならない存在だが、この世界の歪みはそもそも人間側が引き起こしたのだから基本的にすべてを傍観すべきと中立な立場だった。
シェンウーモンは人間ありきのケモノガミなのだから、世界を隔てたところでその事実は変わらない。だから迷い込んできた人間には積極的にかかわるべきだという立場だった。
スーツェーモンはそもそもこの世界をつくり自分たちが封印をするはめになったのは従者たちがパートナーたる頭領を討てなかったせいだ。だからパートナーといえども許せないから殺したい。それは自殺になるからできない。こんな目にケモノガミたちを会わせたくないからこの世界に人間は必要ないという立場だった。
シェンウーモンとスーツェーモンの立場は互いに許容できるものではなく、拗れに拗れて争いスレスレになった。チンロンモンは仲裁に入ったがバイフーモンは四聖獣に進化してから互いに戦ったことがなかったため戦いたくて煽った。パートナーの従者たちが止めに入らなかったら全面戦争になるところだったらしい。
その結果、ケモノガミ世界の時間軸の歪みが発生し、位相のずれが生まれた。スーツェーモンとシェンウーモンの守護方位が北と南で入れ替わるという事態が起こった。
その結果どうなったか。
ケモノガミ世界の大陸の一部が消失、余波として大地震が起こり火山が噴火、大津波で残った大陸も海にのまれ、一部が沈没。大陸が2つになってしまい、火山灰で空が覆われて氷河期が到来した。あやうくケモノガミたちを皆殺しにするところだった。あわてて本来守護すべき方位に戻ったところ、天変地異はやんだが地形は戻らなかった。遊園地に位置するところは幸い無事だったため、ケモノガミたちは卵になって復活した。
「ここでようやく私たちは、ケモノガミ世界において力があまりにも強大だと気づいて、自主的に司る方位から出なくなりました。時代をへるにつれ、地上にいられなくなり、地下に潜りつづけて今の間最深部でようやく世界は落ち着いたのです。これではケモノガミ世界の行末にかかわれないため、十二神将をつくり、彼らを派遣したわけです」
「シェンウーモンは迷い込む人間にパートナーを引き合わせるかわりに、スーツェーモンは『主』の霧が世界に蔓延るのを許容した。これが互いに譲歩できる限界だった。我はチンロンモンに怒られて2体から離された。人間たちに会う前にチンロンモンが守護する方位を通らねばならぬことになったのだ。つまらん」
バイフーモンは心底不満なようで低くうなっている。従者の少年はバイフーモンをにらんだあとため息をついた。
「恥ずかしいところをお見せして申し訳ない。あの頃は私もまだ若くて、血気盛んな子供でしかなかったのです。バイフーモンを見ていると、かつての自分を見ているようで穴があったら入りたい気分になります」
「これ以上は潜れんぞ」
「バイフーモン」
どうやら従者の少年たちも子供でしかないから、色々な人間模様があったらしい。パートナーのケモノガミも個性豊かだったとうかがえる。『神』とパートナーの頭領を慕っていたから討てなかった従者とパートナーでも関係が拗れたこともあったが、紆余曲折を経て今に落ち着いているようだった。
「なるほどねえ、だから俺はほかの十二神将は知ってても四聖獣様たちにお会いすることがなかったわけだ。北から出るなってのはそういうことかい」
「十二神将たちは今の場所に落ち着いてから作りましたからね、シェンウーモンとスーツェーモンで教えも違うものになるでしょう」
「スーツェーモンたちの立場って今も変わらないのかな?」
「お恥ずかしながら、あの時は天変地異を抑えるのに必死で、別れてそれきりなのです。この世界の行末に関われそうな人間とケモノガミが現れたら試練を与えて力を貸す。それだけは全会一致でした。ゆえに試練に挑むならばスーツェーモンも会うことを許容するでしょう」
「逆をいえば中途半端だと手加減すらしてくれねえってことか」
「そうなりますね......挑むならば最後にした方が無難かと思います。バイフーモンの試練を達成したあなた方には、必要ない助言だとは思いますが」
「そうだな、見事であった」
バイフーモンの周りに琥珀色の球体が復活した。どうやらかなり手加減されていたらしい。そのうちひとつが俺たちの前にやってくる。琥珀色の光が辺りを包み込み、コテモンたちは完全に回復した。ラブラモンとアオイは驚いたようにバイフーモンを見上げている。
「あの、なにか力があふれてくるような......なにをされたんですか?」
「我らの期待に応えてみせたからな、報酬だ。みなには進化したときに体を強化する加護を授けた。汝らには我がバイフーモンとしての力をわけあたえる。進化先に加えたゆえな、存分に振るうがいいぞ」
さすがに驚いて固まっている俺たちに、バイフーモンと従者の少年はそろそろ次の試練にいったほうがいいと笑う。またあの階段登らなきゃいけないのかとうんざりしていたのだが、チャツラモンが現れて転移魔法で坑道の出口まで送ってくれた。外に一歩でた俺たちは、『主』の霧が一切出ない風景に驚くことになる。どうやら餞別にバイフーモンたちが祓ってくれているようだ。チャツラモンに別れをつげて、俺たちは地下水道を目指して歩き出したのだった。