「仲間割れか?」
アンティラモンが俺たちを止めた。ガルルモンが裏切り者と糾弾されながらブルーメラモンたちに追い詰められていた。
「ガルルモン!」
「水無瀬翁(おう)のパートナーか」
俺たちは止めに入った。
やはり幾度も水無瀬教授を助けていたガルルモンが『主』の配下たちから制裁を受けるのはさけられなかったのだろう。傷が深い。俺たちはあわてて手当をしてやった。ガルルモンは低くうなってこそいたがされるがままだった。即座に回復こそしたが精神的な疲労は目立つ。今までどんな目にあってきたんだろうか。
「君は、待っていてくれたのか?」
「違う、そうじゃない。この地下水道は昔から『主』の霧がでないから寝床にしていたんだ。そこにお前たちが来ただけだ」
ガルルモンはにべもなくいう。水無瀬教授の命令に逆らってさえいれば裏切り者扱いされずに済んだのにと後悔を口にこそしているが、感情はそこまでこもってない。思ってもいないことをいってるようだ。
そもそも本気で後悔してるなら、水無瀬教授の居所がわかるパートナーとしての本能を逆手に取り待ち伏せや襲撃をすればいいだけの話だ。チャンスはいくらでもあったはずだし、『主』がガルルモンを霧に食わせるのではなく、わざわざ配下に加えたのもたぶんそれを期待したからだろう。だがガルルモンはそれをしなかった。むしろ水無瀬教授を助けてきた。言葉より行動がガルルモンの本音を表しているのは明白だったが、心中複雑怪奇なガルルモンは天邪鬼な言葉ばかりが出てくるようだ。
助けてくれたからって感謝はしない。これは自業自得だと去ろうとするのを水無瀬教授は引き止めた。
「うるさい、お前はオレにどうこう言える立場じゃないはずだ!」
「だが君はかつてのように私の言葉を受け入れて、従ってくれたじゃないか!」
「あれはなぜか逆らえなかっただけだ!」
「違う、今だよ。君は私の言葉を聞き入れて立ち止まった」
「違う、これはたまたま立ち止まっただけで......お前の言葉に従ったわけじゃねえ」
「タクマくんたちとその相棒のケモノガミたちをみていて気づいたのだよ。両者は決してわかちがたい絆で結ばれている。だから私たちも例外ではない、違うかね?」
「けっ、何を言ってやがる。ほんとに今更だ、何万年待ってたと思ってやがる!そんなじじいになるまで!なんで今更来やがった!お前はオレを見捨てたんだ!」
「それが本音かい、やっと聞けたね」
「ちい。都合のいい言葉だけ拾いやがって」
「すまない、だが私たちにはおまえの力が必要なんだ、ガルルモン。姉さんを助け、この世界を救い、おまえを外に連れて行くために力を貸して欲しい」
「忘れてたくせに」
「いや、忘れていたが、約束は忘れていなかった」
「はあ?」
「君がガブモンだったとき。もっといえばヴァジラモンに連れられて遊園地で会ったときに、寝床はなんだと質問攻めにしたじゃないか」
「なにかと思えばいつの話をしてんだよ。そうだ、あの時のおまえはなんでもかんでもものを考える前に聞いてばかりいた。姉に聞けば教えてくれると信じ込んでるあまちゃんで、そのせいでオレはガルルモンに進化することすら土壇場になってからだった」
「そうだね、あのときの私はあまりにも幼かった。ガブモンは知らないことばかりだったから、教えてあげたいと思った。それが私が民俗学に興味をもつきっかけだったんだ。色々なことを勉強し、それをみんなに教える立場になった。おまえとの記憶が、約束が、私を50年間突き動かしつづけてきたんだ。ありがとう、おまえのおかげで私は今ここにいられるんだ」
「......まさか、せんせーってやつになったのか。ミユキが尊敬してるっていう」
「そうだよ」
「......その気持ち、本物だろうな?」
「わかっているんじゃないかね」
「ちっ、その気持ち、忘れんじゃねーぞ。忘れた瞬間にその頭噛みちぎってやるからな」
「もちろんだ」
「......仕方ねえな、そこまでいうなら。おまえの手伝いしてやるよ」
「本当かね、ガルルモン!」
「だが勘違いするなよ。オレはおまえを許さない。助けてもらった借りを返すだけだ、それだけだからな!」
「ああ、わかっているとも。まったく、ひねくれたものだな。いや一万年以上待たせて本当にすまなかった。ありがとう、私とまた戦ってくれることを選んでくれて」
「うるせえよ!そんなんじゃねえ、気安く触るな!」
「ははっ、そうだな。ミスリルより硬いんだったな」
「......なんで知ってんだ」
「おまえが教えてくれたんじゃないか。ガブモンが被っている毛皮はガルルモンの毛皮で、ミスリルより硬いんだとね」
「......」
「一万年も放置されりゃあ誰だっていじけて拗らせるもんさ、レナモンみてーにな。スバルの旦那たち危険に晒さないだけマシだけどよ」
「なあ、なんでなんの脈略もなく、今私を引き合いに出したんだ、コテモン?」
「だってそうだろい?スバルの旦那がいってたが、地下水道がガルルモンの寝床ってんなら確定したようなもんじゃねえか。そもそもアキハルがダムから落ちて無事だったのは、オメーが助けたんだろ、ガルルモン。こっからダムは繋がってるからな。こっちにパートナーが来た瞬間にオレらはどこにいんのか本能的にわかるのよ。再会できる前に死なれちゃ困るからな」
「そうなのか、ガルルモン」
「......うるせえよ」
それは肯定しているようなものだった。
「ガルルモンも試練に挑むということでいいのか?」
じっと水無瀬教授たちのやりとりを静観していたアンティラモンに問われた水無瀬教授は頷いた。そして、ガルルモンに俺たちの今の状況とここに至るまでの紆余曲折をかいつまんで説明する。
「わかっているとは思うが、ガルルモンと水無瀬翁(おう)はまだチンロンモン様に挑むに値する実力と覚悟を見せていない。このまま先に行かせるわけにはいかないのでな、修練に挑んでもらう」
「タクマくんたちが挑んだというあれだね」
「アキハルは私と共に挑んだのだが、それではダメなのか?」
「おまえは水無瀬ミユキのパートナーであり、水無瀬アキハルのパートナーはガルルモンだろう。それとこれとは話が別だ。悪く思うなよ、おまえたちのためを思っていっているのだから」
「誰が挑んだとか挑んでないとかわかるんだ?」
「おまえたちはバイフーモン様から加護を授かっているだろう。その息吹の有無をみればすぐわかる。たとえガルルモンが別の場所で合流できていたとしても流れは変わらない」
「そっか、そううまいこと免除はしてくれないか」
「そうだな。チンロンモン様は試練に挑む資格をもつ者たちにしか加護を与えたくないと仰せだ。無駄の極みだからな。これまで挑もうとした者がいなかったとはいわない。だがバイフーモン様に認められたお前たちには同じ轍を踏んで欲しくないのだ。これでも充分譲歩はしている。バイフーモン様のところに行けと言わないだけマシだと思え」
アンティラモンのいうことはもっともだった。
「それなら仕方ないね。少しだけ待っていてくれるかい、すぐ終わらせるよ」
「いったな、ジジイになったくせに」
ガルルモンは笑っていた。
アンティラモンが手をかざすと地下水道に風が吹き始め、不思議な光を伴いながら渦を巻く。水無瀬教授とガルルモンはその渦の向こうに姿を消したのだった。
俺たちにできることは、水無瀬教授たちを信じて待つことだけだろう。