(完結)鹿野岸奇譚(デジモンサヴァイブ)   作:アズマケイ

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チンロンモンの試練3

水無瀬教授が渦から出てくるのはそれほど時間はかからなかったように思う。現実世界とケモノガミ世界くらい時間の流れが違うのかもしれない。それだけなのに明らかに水無瀬教授の雰囲気がより覚悟を決めたようなものに変化している。俺たちの助けがいらなかったあたりさすが大人と一人で一万年以上『主』の霧から生き延びてきたパートナーの組み合わせなだけはあるのだろう。

 

だがガルルモンではなく、ガルルモンの毛皮を被った小さな恐竜みたいなケモノガミがその足元あたりに現れた。

 

「初めてワーガルルモンの先に進化したら、ガブモンになっちまった」

 

「こちらの方がいいね、私も見慣れているから」

 

「けっバカにしやがって」

 

この太々しい物言いは間違いない。ガルルモンの進化前の姿なのだろう。ガブモンてやつだろうか。みんながニコニコしているのに気づいたのか、ガブモンはバツ悪そうにそっぽ向いている。

 

「さて、そろそろチンロンモン様たちに謁見するか?」

 

「そうだね、聞きたい話もあるし」

 

俺たちは渦の先に案内された。一瞬の浮遊感ののち、やはり鍾乳洞に転移していた。最深部に続く石造の階段のその先にはバイフーモンとは違い、青い光がどんどん強くなっているのが見える。ドーム状になっている空間の中央には従者の少年がひとり俺たちを待っていた。

 

「お待ちしておりました」

 

「待ちわびたぞ、新たなる挑戦者たちよ」

 

その背後から俺たちの目の前にケモノガミ世界の東側の守護者であるチンロンモンが姿を現した。チンロンモンの周りには青色の巨大な球体が周囲に漂っている。バイフーモンと同じく12個の魂がむき出しの状態だ。

 

鹿の角と蛇の尾を持つ聖なる青龍に由来するケモノガミだけあって、その長く伸びた巨大な体は全貌がのぞめないくらい巨大だった。バチバチと龍の形をした電気が青い球体の周りを走り抜ける。

 

コテモン曰く四聖獣の中でもっとも神格化された存在。祠にあった壁画によれば神のような存在とはいえ、簡単に人間や弱者に協力をするようなものではなく、よほどの事が無い限り味方にすることはできないという。

 

チンロンモンは雷の使い手なのかもしれない。

 

水無瀬教授があらためてバイフーモンたちに提案したケモノガミ世界の未来の第三の選択肢について、チンロンモンたちにも説明する。神妙な顔をして従者の少年とチンロンモンは話に耳を傾けていた。話が終わったあと、タクマが口を開いた。

 

「初めまして、チンロンモン。ひとつ聞きたいんだけど、バイフーモンは僕たちに力をくれたんだ。でも大丈夫なのか?まさか無理させたとか」

 

「結論からいうなら問題ない。本来ならば汝らに全てを託し、十二神将と共に消滅する運命だったろうな。だが事態は思わぬ方向に向かい始めている。それを機運とみるか、危機ととるかはさておき、心配はいらぬ。力を分け与えてもチャツラモンの見送りはあったであろう?そもそも、汝らと対面する前に十二神将すら維持できぬところまで来ているだろうと我々は考えていたのだ。汝らの気にする必要はない」

 

「クンビラモンたちの予知が外れまくるってそういうこと?」

 

「そうともいうし、汝らの歩んできた道のりが切り開いた新たなる道であるともいえる。コテモンがこの世界の行末について選べと提示しただろう。あれは霧幻の追憶にて到達した未来を観測し、我々が知りえた未来である。だが汝らが提案した未来はいずれとも違い、見たからこそ選んだ未来でもある。さすがだな」

 

「あなた方の想いはたしかに受け取りました。今一度考えるべき時がきたのかもしれませんね」

 

 

「これより我が試練をはじめる。いざ参る。我が蒼雷(そうらい)を受けてみよ」

 

ドォーン、ドォーン、ドォーンという轟音がまるで艦砲射撃みたいに続き、鍾乳洞が崩落するんじゃないかと恐怖するほどの揺れがする。ガイオウモンたちの力を根こそぎさらって行くような威嚇的な衝撃が襲いくる。絶え間なく地震のように空間を揺さぶり、真二つに裂いたかと思われるほどの音を立てた。

 

間断なく電光がうねり、まるで爆撃機の絨毯爆撃のように凄まじい破裂音がとどろき、ガイオウモンたちの痛みによるうめきが聞こえた。

 

目の前が光った。間を置かずに、天井の鍾乳石がが真っ二つに引き裂かれるような一段と大きな雷鳴が轟き、地響きがした。稲妻の度にその炎は地下最深部全体までまで閃き、俺たちの周りを照らした。暗黒の空に稲光がぴりぴり裂ける。瞼の裏が焼かれて白く強烈な残像を残す。

 

さらに大きな雷が鳴り出した。大気をまっ二つに引き裂くような烈しい振動があり、赤い火箭(かせん)が竿を継ぎ足すように、ジグザグと鋭く走った。

 

ようやく目を開けられるようになった頃には、焦げ臭い匂いがあたりに充満していた。金属や肉や土やいろんなものが焼けて煙をたてていた。バイフーモンの時のように仲間たちの半数が壊滅することこそ避けられたのだが、ガイオウモン達の動きが明らかにおかしい。動けないのか裂傷を庇うようにうずくまってしまう。びりびりと小さな放電がみえた。火花が散っている。どうやら雷は麻痺状態をひき起こし、行動不能にしてしまったようだ。

 

「さあ、どれだけ立っていられるか見せてみるがいい!」

 

チンロンモンの蒼雷は、怒り狂った神の雷のように容赦がなかった。

 

「ぴいぴい!」

 

バイフーモンの一撃から学んだのか、それともバイフーモンの攻撃が強烈でチンロンモンはそれより劣るのか。物理より魔法に対する耐性があるらしいマリンエンジェモンが生き残ったおかげでガイオウモンたちの麻痺と先程の連続攻撃のダメージを全て回復してくれた。

 

「感謝するぜ、マリンエンジェモン!」

 

ガイオウモンの冷たく光る刀身は、抜けばたちまち大気中の神聖なるエネルギーを表面に集める。それは一点の曇りもない輝きとなり、焦げた煙を散見させた。そり返った奇妙な歪みを描く刃が精妙と優雅さと最大の強度を一つに結ぶ。振るうたびに斬撃が真っ赤な光となって青色の巨大な球体目掛けて飛んでいく。真っ二つに砕け散るものもあれば、軌道が外れてヒビにとどまるものもある。後者はそのヒビ目掛けて上手い具体に位置取りを確保したウォーグレイモンたちによって無理やり広げられ、次々と破壊されていく。

 

「バイフーモンとの戦いで学んだか。ならば先に回復要員を潰すべきだな」

 

チンロンモンの威圧的な視線がマリンエンジェモンに向けられる。

 

「ぴいっ!?」

 

青い球体に近づきすぎていたガイオウモンたちは間に合わない。チンロンモンは容赦なく雷撃を放つ。その刹那、マリンエンジェモンの姿が横から現れた影に横取りされ、雷はあたりの地面に直撃してまた大きな穴を開けた。

 

「オレのスピードについてこれるかな?」

 

マリンエンジェモンを乗せたまま鍾乳洞の天井を駆け回るサイボーグのようなケモノガミがそこにいた。背中にはアームがビーム状の翼を放出しながら、チンロンモンの数多の落雷をその持ち前の俊敏さで全て避ける。

 

落雷で煙が充満する鍾乳洞の中でもまるで見えているかのように合間を縫うように飛び、超至近距離から青い球体めがけて胸元のハッチをあけて巨大なミサイルを発射した。それだけでなく、体のあらゆる場所からハッチが開き、さまざまな武器が一斉に発射された。どんどん球体を破壊していく。

 

「ぴい!」

 

マリンエンジェモンがすかさず回復魔法をかけたのか、空洞のハッチというハッチに新しい弾丸が補充されてた。これならいけるかもしれない。

 

ガイオウモンたちがふたたび戦いに飛び込んでいったのだった。

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