俺たちの目の前で何度目になるかわからない雷が炸裂する。狭い鍾乳洞の中では逃げ場がなく、メタルガルルモンと名乗った教授のパートナーの助力がなければ回復の要たるマリンエンジェモンは早々に落とされていたことだろう。ヴァルドゥルモンを始めとしたスピードに優れたケモノガミたちから順に回復していき、体勢を立て直す。
今までアイテムを使わなくても数の暴力でなんとかなってきたのだが、さすがに長期戦となってきたチンロンモン戦ではそうもいってられない。溜まる一方だったアイテムを駆使して、回復が追いつかない仲間の気力を取り戻してやる。
「ガイオウモン、いけそうか?」
「大丈夫、大丈夫。まだやれるぜ、スバルの旦那。俺が一番に脱落しちまったら示しがつかねえや。みてな、オレたちの活躍をよ」
ガイオウモンが戦いに復帰していく。その姿を見送るしかない俺たちは、固唾を飲んで戦いの行方を見守っていた。
バイフーモンの試練を乗り越え、進化したら強くなる加護をかけてもらえたからか。それとも四聖獣という途方もない存在と交戦した経験が俺たちに現実を教えてくれたからか。チンロンモンの試練の最終段階に至るとバイフーモンの時とは違って、倒れた仲間はいなかった。ただ疲労が蓄積してきた仲間たちは、単純に攻撃の威力がたりなくてダメージが通らないことが増えてきた。
それもガイオウモンとベルゼブモンが一番ダメージを与えられるとわかったあたりから、流れが変わった。2体がダメージを稼ぎ、マリンエンジェモンが回復に専念する基本陣形ができあがる。それが壊れないようウォーグレイモンたちがサポートしたり、攻撃を代わりに受けたり、時にはマリンエンジェモンを回復させたりする方法をとるようになる。
きっと十二神将の配下がこの戦場にいたらまた違ったんだろう。だがここにはチンロンモンしかいない。攻撃を凌ぎさえすればまた立て直せる。それに気づいたガイオウモンたちのやる気は明らかに跳ね上がった。青い球体を全て破壊したらあの広範囲の特大の雷の乱舞は止み、ある程度範囲が狭まってダメージもだいぶ抑えられるようになった。
そこからじわじわとガイオウモンたちの攻撃が通るようになり、トドメを刺したのはベルゼブモンのショットガンだった。
がふ、とチンロンモンが血を吐いた。ぽたぽたと真っ赤な雨が降る。
鍾乳洞全体が崩壊するんじゃないかと恐怖するくらいの揺れがあたりを襲い、立っていられなくなった俺たちはたまらず地面に伏せて目を閉じた。青い光があたりを満たしていき、視界が塗りつぶされていく。揺れが収まって静寂が訪れてもなお体は揺れていると勘違いしているのかふらふらしてしまう。ガイオウモンに声をかけられておそるおそる目を開けるころには、またチンロンモンの周りに12の青い球体が浮かんでいて従者の少年が拍手しているのがみえた。
「よ、よかった......チンロンモンはちゃんと止まってくれるんだ」
タクマの言葉に思わず同意すると、チンロンモンが心外だとでもいいたげに俺たちを見下ろしてきた。
「ぬかしおるわ。何処ぞの阿呆共と一緒にしてくれるな。奴らとは違い、昔から我らは分別ついておったわ、たわけが」
「その様子だとバイフーモンはあやうく本気になりかけたのですね?従者の彼はちゃんと止められましたか?」
「あ、はい、それは大丈夫そうでした。バイフーモンは不満そうでしたけど」
「それはよかった。少しは大人になったのですね」
「未来永劫歳を取らぬお前がいうのもおかしな話だがな」
「それは言わない約束ですよ、チンロンモン」
二人のやり取りに試練は終わったんだと実感した俺たちはやっと安心することができた。チンロンモンが早速とばかりにまた回復魔法をかけてくれた。マリンエンジェモンのおかげでバイフーモンの時より満身創痍ではないが、精神的な部分まで回復してくれるあたりさすがだ。さすがに疲れたのかコテモンにまで戻ってしまった相棒に、俺はお疲れ様と声を掛けた。コテモンは笑ってかえしてきた。
「汝らの覚悟はしかと受け取ったぞ。約束どおり我が加護を授けよう。この瞬間から進化した時に汝らは状態異常にかからなくなる。『神』は厄介な呪詛を振り撒くゆえな、これがあればまともに戦えよう」
呪詛という言葉にカイトが苦い顔をする。修練で出てきたボルトバウタモンの本体だからだろうか。やっぱり怨念が『主』の本体にあたるんだろうなと改めて思った。
「あなた方のいう平安から元寇のあったころの人々の心が荒んでいた時代の怨念です。あるいは生贄にささげられた者たちの憎悪です。それから生み出される闇はきっと途方もない悪意でもって、あなた方に牙を剥くでしょう。私たちでは祓う事すら叶わなかった。その尻拭いをさせる、ほんとうに申し訳ありませんがよろしくお願いします。どうか、我が頭領の水無瀬ハルチカを助けてやってください」
シャコモンとミウに光がはしる。青い光が溶けていった。バイフーモンの光をアオイとラブラモンと受け取った時と同じだ。
「汝らには我が力の一端を貸し与えよう。汝らは性質上我が力を最も活かせると判断した。本当は我らも共に行きたいのだが、それは天変地異から世界の崩壊を招くゆえに叶わぬ願いだ。だから頭領と『神』に我らの願いを届けてくれ」
「この世界の行末について、今一度考えてみます。機会を与えてくれてありがとうございます。バイフーモンとチンロンモンから加護を授かったあなた方なら、その息吹を通してこの世界の何処にいても力をさらに分け与えることができます。だから安心してください」
「いずれ答えは出すと約束しよう」
「まだまだ先は長いですがお気をつけて」
気づいたら、俺たちは地下水道の反対側に出ていた。霧は晴れ渡り、澄み切った夕暮れがよく見えた。そこにはアンティラモンがいた。
「無事にチンロンモン様の試練を達成したようだな、おめでとう。おまえたちなら出来ると思っていた」
「ありがとう、アンティラモン」
「これからシェンウーモン様とスーツェーモン様の祠に行くのだろう。さすがに今から行くとなると夜になってしまう。焦る気持ちはわかるが連戦続きでは身が持つまい。今日は休んでいけ」
「え、あ、でもさすがに地下水道だと休めないんじゃないかな」
「心配いらぬ。そこのガブモンが勝手に私たちの住処を寝床にしていたからな、そこに行けば少しはマシな休憩ができるだろう」
「えっ、あの洞窟アンティラモンたちの拠点だったのか!?」
「やはり気づいていなかったか。『主』にバレると面倒だからおまえがいない時に休んでいたし、痕跡は残していなかったが。一歩出れば『主』の霧が出るこの地下水道で唯一の安全地帯だ、不思議に思ったことはなかったのか?」
「い、言われてみればそうかも......?いやでも壁画もなにもないから知らなかったぞ!?」
「『主』の配下に降っていたおまえに余計な情報をあたえるわけにはいかなかったからな、当然だ」
「あれ、祠は壊されたんじゃ?」
「十二神将も個性派揃いでな、収集癖がある守銭奴と同じ空間にいると休めるものも休めない。だから私とミヒラモンはそちらを拠点にしている」
「つーことは、あれかい。寝床ぶっ壊されたのはマジラモンだけ?」
「そうなるな」
「へーほーふーんそっかあ、あっはっは」
やけに上機嫌なコテモンと共に俺たちはアンティラモンたちの拠点で一夜明かすことになったのだった。