「げっ、挟み撃ちにされたか?」
「いや、あれは......ちょっと様子をみやしょう」
「くっそー、目の前だってのになあ......」
人がいる気配がしない寂れた遊園地の真ん前でドクグモンたちの軍勢が取り囲んでいるのがみえた。草むらに隠れながら様子を伺う。
「だから帰れっていってんだチュ。貴様らのいう贄はいないチュ」
「......」
「ほら、ヴィカラーラモンもいってるでチュ。帰れでチュー!!」
チューチューいってるのは、宙に浮いている白いネズミのケモノガミだ。金色の壺みたいな胴体に四つ足。茶色い羽がついていて、緑色の杵をぶん回してドクグモンを薙ぎ払っている。隣にいるのは見上げるほどでかい体のツノが生えたイノシシみたいなケモノガミだ。ネズミのケモノガミがたくさん増えたかと思うと背中に背負っていた緑色の杵を一斉に地面に突き立ててそこから不思議な光が走る。杵同士が引き寄せられるように円形をつくりあげ、その中にドクグモンたちが閉じ込められてしまった。
「朝っぱらから襲撃ご苦労さまでチュ。てめーらの首を送り返してやるでチュ。ヴィカラーラモン!!」
ヴィカラーラモンという舌を噛みそうな名前のイノシシのケモノガミは、ネズミのケモノガミに頷くとその巨体をゆらしてドクグモンたち目がけて突進し始めた。杵を包む同じ光がヴィカラーラモンを包み込んだかと思うと、はるか上空まで飛ばした。それはドクグモンたちの真上だ。ヴィカラーラモンが咆哮する。
ずしゃあ、となにかが轢き潰される嫌な音がして、断末魔が連鎖的に木霊した。だらだらとヴィカラーラモンの真下からどろどろとした液体が流れていく。
「......すげえ、あんなにいたドクグモンたちを一撃で」
仕留め損なったドクグモンたちをネズミのケモノガミが念力で拘束し窒息させたり、杵で轢き潰したり、ぷちぷちとアリを潰すように殺していくのが見えた。
「なあ、コテモン。あいつらってもしかして、こいつらじゃねえの?北を守護する亀のケモノガミが作ったっていう......」
コテモンの寝床の祠に描かれていた壁画をiPhoneに表示させた俺は見比べてみた。ネズミとイノシシ、間違いない。あの壁画の真下に刻まれていたケモノガミ文字と同じ文字が武器や防具に刻まれている。
「あれ、にしては牛がいねえな......」
「みたいだねえ、旦那。どうする?」
「うーん......どうするもなにも敵か味方かまだわかんねえんだよな。コテモン無理だろ、進化」
「無理無理無理、ここまで追われながら山道突っ切ってきたんだぜ、スバルの旦那。背中と腹がくっつきそうだ」
「だよなあ......」
俺たちがしげみでコソコソしている間に俺たちを見失ったらしい追手もヴィカラーラモンたちに見つかって一体残らず殲滅されていた。
血の跡やドクグモンたちの体がたちまち粒子になって消えていくのがみえた。
「......彼岸花の胞子に似てんな、あれ」
「言われてみりゃそうだね、さすがはスバルの旦那だ。よく気がつくねえ、オレも鼻が高いぜ」
「お世辞はいいから、ったく調子がいいやつめ」
「本気でいってんのに素直に受け取りゃいいんだよ、旦那」
「うっせえ。ケモノガミってやっぱ消えてなくなんのか?」
「iPhoneのカメラで見てみな」
コテモンに言われてiPhoneをカメラモードに切り替える。変なノイズが走り、見えないものが見えるようになる。どうやら目に見えなくなっただけで幽霊みたいな残像は残るようだ。
「それもそのうち消えちまうがね。そんで遊園地に卵ができるのさ。手に引き摺り込まれさえしなけりゃな」
あの壁画がほんとうなら亀のケモノガミに手足代わりに作られたあのネズミとヴィカラーラモンは相当強いことになる。ドクグモンたちと対立してるらしい。
「つーか贄ってなんだよ、贄って。それってまさか俺たちのことじゃ?」
「ドクグモンたちが探してる人間のことだと思うぜ旦那。あいつら霧から湧き出す手のことを『主』って呼んで慕ってんのさ。人間が引きずり込まれりゃ一時的に霧が晴れるからな。死にたくねえからって生贄にしようとしたがるやつらもいんのよ」
「やっぱ俺たちじゃねーか、それを早く言ってくれよコテモン。俺が目をつけられてんのあきらかにそれが原因じゃねえか。えー、どうしよう。俺たち引き渡されそうで怖えな、でも対立してんならあるいは......」
「なーにをさっきからコソコソしてるんだチュ」
「ぎゃあっ!?」
慌てて振り返るとネズミのケモノガミがいつの間にか後ろにいた。
「あれま、見つかっちまったね旦那」
「なんでそんな冷静なんだよ、コテモン!?つーか笑うなよ!」
「クンビラモンの予知から逃れようったってそうはいかないでチュよ。お前らが来るのはお前らがこっちに迷い込んでくる前からお見通しでチュ」
「え、あ、そ、そうなのか......?じゃあやっぱりあの壁画にあったケモノガミって」
「おー、予知通りとはいえあの壁画が読めるとはすごいでチュね、コテモン。コテモンのパートナーにはもったいないくらいでチュ」
「うっせえやい、やらねえぞ」
「あれ、お前ら知り合いなのかよ」
「勝手にクンビラモンたちの祠を寝床にしてるのを知り合いっていうならそうだチュね」
「やっぱ神聖なとこなんじゃねーか!!」
「いやあだってねえ、霧がでねえ場所なんて今はすげえ貴重なんだから仕方ねえだろ。あっはっは」
俺は脱力するしかなかった。
「俺は三鷹スバルっていうんだ、コテモンのパートナーってやつらしい。よろしくなクンビラモン」
「こちらこそでチュ」
「あ、そうそう、俺たちみたいな人間みなかったか?」
「みてはないけど予知はしてるでチュ。小さい人間が一人、シャコモンと遊園地にいって、スバル以外のやつらが二日後に迎えに来るでチュ。そんときまた襲撃があるから気をつけるでチュよ」
「小さい人間......ミウか!」
「あー、たしかにそんな感じの名前でチュね」
「ありがとう、クンビラモン!よかった、ミウのやつ無事だったんだな。コテモン、ミウんとこ行こうぜ。たぶんアイツ、みんなをこっちに連れてきちまったことめっちゃ後悔してるはずだ」
「よっしゃ、わかったぜスバルの旦那!行こうぜ」
「あ、そうだそうだ。クンビラモンたちってあっちに帰る方法とか知ってたりしないか?」
「..................いんやあ、しらんでチュね。ドクグモンたちをナワバリから追っ払うのに忙しくて、そんな暇ないんでチュよ。考えたこともない」
「あー、なるほど。そっか、じゃあこれから見回り?」
「ま、そういうことでチュね。お互い死ななかったら、また会うこともあるでチュよ。それじゃあ、クンビラモンたちはいくでチュ」
「また会おうな、クンビラモン。俺みたいな人間に会ったら、よろしく伝えてくれ。三鷹スバルは遊園地にいるって」
「......ま、そんくらいなら伝えてやるでチュよ」
「ありがとう。じゃあな!」
クンビラモンが消えてしまう。どうやら分霊だったようだ。前を見るとヴィカラーラモンに乗った本体がゆっくりと遊園地を後にするのがみえた。俺たちはとりあえず遊園地を目指して歩き始めたのだった。
「......予知が外れたのは初めてでチュ。まさかあのドクグモンの軍勢から生き残るとはねえ。ヴィカラーラモン、今度の人間は期待できるでチュかねえ?」
「............」
「あーはいはい、まずはシェンウーモン様にご報告するのが先でチュね。わかってるでチュよ」