「コテモン」
「なんだい、カイトの兄ちゃん」
「アンティラモンがいってて気になってたんだけどよ。おまえってあれなのか、初めから霧幻の追憶であったこと全部知ってたのかよ」
「今更隠しても仕方ねえからいうよ。そりゃ十二神将の端くれだからね、当たり前だろい?言っちゃ悪いが監視役も兼ねてたさ。だからあん時言ったんだ、ケモノガミと人間の絆が紡ぐ無限の可能性を十二神将や四聖獣様たちに思い出させてやってくれって。アンタらならできるって確信もてたからね」
「よく断言できたな......俺たちが失敗する可能性の方が高かったんだろ?」
「他の奴らはそうだろうよ。今でこそこうやって試練が始まったから、もっともな顔してできると信じてたって手のひら返したように言う奴らばっかだが、オレ以外は立場も違うくせに揃いも揃って同じこと言いやがるからカチンと来てたのさ。絶対スバルの旦那と生き残ってやるって思ってたね、その時点でクンビラモンの予知はハズるわけだからな。いけるんじゃねーかと思ってたさ」
「そうか......信じてたんだな」
「そりゃそうだろ。『主』の配下や眷属と終わりの見えない殺し合いしながら何百回、何千回と転生繰り返してく中で、生まれて初めてシェンウーモン様の力借りずに生まれてこれたんだ。十二神将として生きてはいたが、スバルの旦那がこっち来た段階で史跡に向かって走ってたね。それにアンタはちゃんとしてたんだ、心配はしてなかったよ。実際その通りになったろ」
「......そうかよ」
「おうよ。カイトの兄ちゃん、ボルトバウタモンの世界線の話はスバルの旦那にしたくねえんだろ?なら言わねえさ」
コテモンの言葉に安心したのか、カイトは口を開いた。
「なら、知ってるよな、ボルトバウタモンがどうやって進化したのか。2体のケモノガミが一体になって進化することってあんのか」
「あるね、合体進化っていう進化の一種さ」
「暗黒進化じゃねーのかよ」
「違うね。あれは失敗したら魂が二つのままで爆発的な力を発揮するが即座に死に至る」
コテモンはそういいながら説明を始めた。
隔絶した強さをもつかどうかは別として、そもそもボルトバウタモン自体は野生でもいる。思わず目を丸くしたカイトにアルケニモンとマリンデビモンの進化先のひとつだといいきる。
もちろん、合体進化で生まれたボルトバウタモンの方が強いに決まっているが。
2体のケモノガミ同士が合体し、新たなケモノガミに生まれ変わることを合体進化という。 2体のケモノガミが合体し次の世代になること、あるいは違う世代同士が合体することをさす。どんなでも合体進化できる可能性を秘めているが、特定のケモノガミ同士のみで現れる進化先がある。 また、同じケモノガミ同士の組み合わせでも、どちらがベースになるかによって合体後の形態が変わるケースもある。
本来のボルトバウタモンは合体進化なんかしない個体しかいない。冥府に満ちる怨のデータから生まれ出た深怨なる手が、ピエモンにヴァンデモンを強制吸収させた魔を根源とする最凶最悪のデジモンだから、冥府にしか存在を許されないはずのケモノガミではある。ピエモンやヴァンデモンの自我はなく、深怨なる手に握られた意思で活動する。その意思とは世界を闇で侵食させるための光の根絶である。
あのボルトバウタモンほどの強さはないが、冥府にいるボルトバウタモンは他の強いケモノガミたちと不戦条約を交わし、魔王界という領域を構築する事で互いに牽制し合っているほどの強さがある。冥府がボルトバウタモンの本体である闇にのまれたら終わりを意味するため、この世界に冥府しか存在を許されないケモノガミたちが逃れてきている今だからこその現象ともいえた。
「そこは一緒なんだな......」
「勘違いしちゃいけねえや、一緒じゃダメなんだよ本来は。たしかにケモノガミは姿形や性格、一人称だって変わる。だがパートナーがいるケモノガミの癖に連続した自我がない時点でおかしいんだ。カイトの兄ちゃんがあのボルトバウタモンにトラウマもってんのは、ドラクモンが自殺したのに進化しやがった、しかもドラクモンの自我があるっつー矛盾からだろう?」
「......そうだな」
「『主』の眷属はそうやって数多の人間やケモノガミを霧に引き摺り込んできたのさ。取り込んだ記憶を糧に成り代わるのはお手のもんだろうよ」
「......やっぱあれは、『主』だったのか」
「そうなるねえ」
「ミユキがタクマたちを助けるために門を開いたのを利用して、捕まえてる方のミユキの力使ってピエモン送り込んで?」
「そうそう。なんだ、わかってんじゃねえかい。あのピエモンはそもそも『主』の腹心て立ち位置のケモノガミだ。それにドラクモンが合体進化してみろ、強くなるに決まってる。そもそもあれはボルトバウタモンていうのかも怪しいがね。『主』の本体たる怨念が寄生してたピエモンが弱くなってきたから、さらなる強い実体を得るために食らった果てと考えた方がよさそうだ」
「だから最終的にボルトバウタモンまで『主』に飲み込まれちまったのか」
「そういうことになるねえ」
「そうか......なら、もしドラクモンがボルトバウタモンに普通に進化するとしたら、強さはどうなる?」
「単体で進化するってことかい?」
「ああ」
「ま、ラブラモンみる限り進化ルートは修練で解禁されてるみたいだね。わかってるとは思うが、そりゃあ、ベルゼブモンとあんま変わんないだろうよ。じゃなきゃ、あん時ラブラモンでも単体で進化できるはずなのに、わざわざアオイの嬢ちゃんと融合してプルートモンに進化はしなかったはずだ」
「冥府にいるボルトバウタモンと変わらねえってことか......」
「そうなるね。あの強さは『主』を巣食う怨念が核になってるからこその強さであって、そこにアンタとドラクモンの絆が利用されて上乗せされてやがる。ただの合体進化って扱いにするにはおぞましいケモノガミだよ。あれほどの強さを求めるなら、ピエモンを取り込むのが手っ取り早いがそんな悠長なことしてたらこの世界が終わっちまう。普通の進化の場合はアンタらの絆がそれを上回る必要がある」
「......」
「アオイの嬢ちゃんはトラウマ克服してさらなる強さを手に入れた。ミウの嬢ちゃんは認められてチンロンモンから力を得た。守るべき存在が自分より強くなっちゃあ兄貴として面目丸潰れだとは思うがね、そんなに焦っちゃダメだ。急いては事を仕損じるっつーだろ?大丈夫、そもそもオレらが観測した世界ではドラクモンがヴァンデモンから進化したことなんざ一度もなかったんだからよ。カイトの兄ちゃんとドラクモンの絆は今より明日の方が深まってるのは間違いねーんだから。そこだけは間違えてねえから安心しな」
「そうか、そうだよな。間違えてねえんだから」
「そうそう。オレから言わせればあのボルトバウタモンがトラウマになるのだってすげえ成長だと思うぜ?」
「は?なんでだよ、俺たちが弱かったからあーなったんだぞ」
「違う違う、チャツラモンが省いたから知らねえのも無理ないが、そもそもスバルの旦那がこっちにくる世界線のが稀なんだよ。カイトの兄ちゃんがボルトバウタモンの力を欲して自分からドラクモンにピエモンと合体するよう強要するのが普通の流れだかんな。それと比べたら雲泥の差だろ、少なくてもカイトの兄ちゃんに非はないわけだから」
「なんでだよ、ミウが禁足地にいったのにスバルが来ないわけねえだろ」
「オレに言われてもしらねえや。こないもんは仕方ねえだろ。カイトの兄ちゃんがスバルの旦那と友達じゃない理由なんてオレが知るわけがねえや」
「スバルんちの爺さんが俺ん家の貸主なんだから知り合わねえわけが......」
「んなこと言われても困るね。言わせてもらえば、そもそもスバルの旦那と知り合うの自体が特異点なんだろ。カイトの兄ちゃんがこんだけ聞き分けよかったり、協調性があったりするんだ、なんかあったんだろうよ」
ここまで言われてカイトは背筋が寒くなった。コテモンがいうスバルと知り合わない世界の自分はどう見ても傷害事件を起こした後からなにも成長していないかつての自分にしか思えなかったからだ。引越し前のように全てがなあなあで済まされてしまい、客観的に自分がどれだけやばいやつになりかけていたのか教えてくれる人がいないまま数年過ごしたとしか思えなかった。