(完結)鹿野岸奇譚(デジモンサヴァイブ)   作:アズマケイ

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シェンウーモンの試練3

ガイオウモンと共に戦場を駆ける。ムゲンドラモンの部下達は次々と撃破され、パーツは念入りにガイオウモンが破壊して回ったから回復される心配はないはずだ。逆転の芽は徹底的に潰さなければならないと俺たちは必死だった。

 

「ねえ、旦那。オレ、言ったろ。もっかい人を信じてみるのも悪くねえんじゃねえかって。タクマ達を信じてよかったろ?」

 

「そーだな、じゃねえとここで終わってたわけだから」

 

「よかったよかった。やっぱさ、スバルの旦那が思ってるよりアンタは周りに慕われてるし、気にかけてもらってんだよ。色々あったんだろうが視野搾取に陥って大事なモン取りこぼしちゃ意味ねえからな。気がつけてよかった。ほんとよかったぜ」

 

にいと笑った菊燐から放たれた竜巻がムゲンドラモンとその近くにいた配下たちを次々と中に閉じこめていく。さらに相手の動きを封じた。

 

「ありがとう、ガイオウモン。これでトドメだ!」

 

激しい砲撃の応酬でこう着状態に陥っていたウォーグレイモンがこれ幸いとばかりに跳躍した。手にしたエネルギー体が球体になり、どんどん大きさを増して行く。空を覆わんばかりの大きさになったそれをウォーグレイモンは容赦なく微動だにできないムゲンドラモン目掛けて投げつける。

 

「ガイアフォース!」

 

ムゲンドラモンの声すらかき消された。真夏の太陽が遊園地に落ちてきたんじゃないかと思うくらいの灼熱と光の暴力が大地を焼いた。焦土とかしたあたりにはムゲンドラモンのパーツひとつ残らなかった。

 

遊園地に静寂が戻ってきた。あちこちの遊具が破壊されたり倒壊したりしているが、ケモノガミたちの被害はゼロだから結果オーライだろう。

 

それを確認したガイオウモンは、エネルギーを使い果たしたのかコテモンに戻ってしまった。仲間たちの助太刀に回ってたから当然ですらある。気づいたらみんなアグモンたちに戻ってたから、疲れたのはみんな同じだったけど。

 

俺たちはふたたび城の女王の間に戻り、ジジモンに報告した。

 

「さあて、邪魔が入っちまったがそろそろいくかい?」

 

「あれ、コテモン。シェンウーモンの祠って山道の途中になかったか?」

 

「地下水道と同じよ、スバルの旦那。四聖獣様は例外なく守護する方角の最深部におわすんだ。祠からもいけるがね、近道ってのはあんのさ。まして遊園地はケモノガミ世界における転生システムの根幹をなす大切な場所だ。そこに最短で辿り着くには真下に作ればいい。だいたいあの祠は迷い込んできた人間が必ず通る場所でもあるからね、保護するには一番勝手がいいのよ」

 

「あー、なるほど」

 

「『主』の配下や眷属からの目眩しも兼ねてたんだが、その程度じゃなんの意味もなかったがね」

 

「ケモノガミ世界を破壊するならどのみち壊すもんな、遊園地」

 

「おうよ」

 

「さあ、ついてきな。こっから先はジジモンも知らねえ隠し通路だからよ」

 

俺たちは女王の間から地下深くに続く鍾乳洞への入り口に足を踏み入れることになるのだった。

 

「だからあん時のムゲンドラモンはいっつも城を破壊しようとしてたのか」

 

修練を思い出して口にする俺にコテモンはうなずいた。

 

「だろうねえ。ここに到達する頃には、ほかの四聖獣さまを食らったあとだ。最深部にいるって情報はその記憶からつつぬけのはず。下手すりゃあ十二神将たちの記憶からルートまでバレてたかもしれねえや。十二神将同士なら交流はあったからね」

 

ただひたすらに降っていった階段のその先で、俺たちの目の前に真っ黒な光を纏う巨大な亀のケモノガミと従者の少年が姿を現したのである。

 

コテモン曰く、シェンウーモンは北の方角を守護する玄武が由来のケモノガミであり、変幻自在な水技を使う。他の四聖獣と同じく伝説の存在であり、その強さは神にも匹敵すると言われている。シェンウーモンは四聖獣の中でも最長老であり、温厚な性格の持ち主である。四聖獣デジモンに共通するのは輝く4眼を持ち、12個の魂ともいうべき真っ黒な光沢がある巨大な球体を体の外に浮遊させている。

 

巨大な大木を背負った双頭蛇首の亀の姿をしている。首が二本あるのと、蛇を思わせる首をしているのは、玄武の蛇からだという。

 

真っ黒な球体は禍々しいというよりは、黒真珠の数珠のように荘厳な雰囲気を醸し出していた。鍾乳洞の真ん中で森が広がっていると錯覚しそうになるがその森から巨大な蛇が2体こちらを覗き込んでいるのだからまず間違えることはなかった。

 

「ムゲンドラモン軍の討伐、見事であった。我が配下の目を通して、汝らの活躍はしかと見届けさせてもらったぞ。コテモンのいう通り、素晴らしい子供たちだ」

 

「我々の試練はすでに終わっていますから、楽にしてください。コテモンから聞いてはいるでしょうが、ずっとあなた方の旅路を通してその決断を、覚悟を、見させていただきましたからね」

 

シェンウーモンと従者の少年は初めから戦うつもりすらなかったようで、穏やかな笑みを浮かべていた。

 

バイフーモンたちからケモノガミ世界の秩序をめぐってスーツェーモンと激しく争ったと聞いていたから心配していたのだがどうやら杞憂だったようである。

 

コテモンの上司だから人間には寛容で優しいとわかってはいても内心不安でたまらなかった俺はようやく安堵することができた。

 

「余計な心配をさせてしまったようで申し訳ありません。考える時間だけはたっぷりありましたからね......24万年以上もここにいると色々あるのです。安心してください。こんな状況になってまで私情であなた方を巻き込むわけにはいきませんから」

 

どうやらスーツェーモンたちとすんなり仲直りというわけにはいかないようだが。

 

「ふふ、取り繕うことだけは上手くなったわな」

 

「こんな大事なときに余計なこといわない、そこ。だいたい我々も身体にひきずられていつまでも童のままでいるわけにはいきません。24万年も童のままでは笑い話にもなりません。示しがつかないではありませんか」

 

俺の考えていることは漏れていたようで、従者の少年は苦笑いしている。

 

世間話はそこそこに、さっそく水無瀬教授がケモノガミ世界のこれからについて提案をし始めた。

 

「なるほど、興味深い話を聞かせてもらった」

 

シェンウーモンはそういって笑った。そして、面白い話を聞かせてやろうと口を開く。

 

ケモノガミ世界においてどうしてiPhoneの電気が減らないのか疑問に思っただろう。それは電気で全てが再現できてしまうほどにケモノガミ世界自体が現実世界と違って構成している情報量が少ないためだ。

 

つまり、ケモノガミは現実世界では構成している情報が少ないために認知の力だけではずっと存在できない。パートナーのそばにいることで自分を保つことができる。存在が希釈して存在が消滅せずにすむ。

 

それは平面の絵を描くのと遠近法を駆使した絵を描くためには書き込み量が桁違いに違うのと似ている。

 

スーツェーモンは一度ケモノガミを忘れて秩序を作り上げた人間の世界だとパートナー側から離れただけで喋れなくなるほど衰弱する。だから連れて行くってことはそういうことだ。覚悟はできているだろうなと問うだろう。それができないなら死ねと同じだと。将来的に共存にいけると思うなと主張していると教えてくれた。

 

だからシェンウーモンからすると、ネットの世界にケモノガミたちが移住することはそこまで負担をかけなくて済むだろうから画期的な方法だと思う。だが、ネットはその性質上人間と接する機会が増えるだろうから、パートナーは人間と完全に関係を断つことはまず難しくなるだろう。さらにケモノガミが現実世界にいく機会は増えるし、そのたびにパートナーと巡り合うために必死な彼らの世話をやかなくてはいけないし、人間たちもケモノガミを受け入れる受け入れないは別にして関係を前提にした社会に変化しなくてはならないだろうと。

 

「だが君たちの提案は少なくてもその時間を稼ぐことができるはずだ。ケモノガミはどうあるべきか、人間はどうあるべきか。そちらの世界で1000年前に勝手にたった4人の童でしかない我々のパートナーが決めたように君たちも決めることができる」

 

「そうですね。シェンウーモンのいうとおりです。人間もケモノガミも諦めたくないというのならそれも悪くはない。私たちはどうしてもそれができませんでした。誰も彼も救いたいとわがままになれなかった。それはひとえに頭領たる水無瀬ハルチカより弱かったからにほかなりません」

 

「責任など思う必要はない。おそかれはやかれ決断しなければ消滅か、子供を犠牲に成り立つ歪んだ世界の延命しかなかったのだから。あらたな道を決断した汝らを我々は尊重する。ただ、スーツェーモンはそうではない。現状維持はきっとできなくなる日が来ると未来の話をするだろう。そのときに人間たちがケモノガミと関わるのを復活するとしたら、また争いの日々が訪れて後悔する日がくることを危惧している。スーツェーモンは誰よりもケモノガミを想っているゆえに人間が信じきれなくなっている。だから思い出させてやってほしいのだ。人間とケモノガミの絆は、きっとまた世界をひとつにしてくれるということを」

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