「さて、じゃあそろそろアンタたちの試練を始めましょうか。弾かれたとはいえ免除ってわけにはいかないから」
何度目になるかわからない『主』の眷属の襲撃を全滅させたあと、インダラモンは世間話をするみたいにいうもんだからスバルたちは顔を見合わせた。
「あれ、ここで待ってるって話じゃなかったのかよ」
「念力に長けてる奴がいないと転移も楽じゃないのよねえ。だからスーツェーモン様のところまで案内が終わるの待ってるっていっただけよ」
「そうなんだ?まあ、このままだとスーツェーモンの加護得られないから、ヤバいもんな。よかったじゃんかコテモン」
「しゃーねーなあ。じゃあ、さっさと終わらせちまおうぜ、スバルの旦那」
「そーだな。で、インダラモン。俺たちはなにをすればいいんだ?」
「ちょっと探し物があるのよ。それを手伝って欲しいのよね」
「探し物?」
「そうそう。この世界に迷い込む時にアンタたち人間は、あの史跡を通ったと思うのよ。覚えてるかしら?」
「あー、はいはい、一番奥の石室で底が抜けてて落ちたんだよな。覚えてるよ」
「あら、そうなの?そんなに壁が弱くなってたのねえ。じゃあ、その行き止まりの石室にあの史跡に祠があったのは覚えてるわよね?あそこに奉納されてたのがなにか知ってるかしら?」
「え、そりゃ封印のお札とかそういうのじゃ?」
「それが違うのよね、勾玉なのよ」
「勾玉ってあのツルツルで曲がってる?」
「そうそれよ。アンタたちがこっちに来たとき、石室の底が抜けたんでしょう?だからなのね、こっちの世界に来ちゃいけないはずの、あっちの世界の祠に奉納されてたはずの勾玉がこっちの世界に来ちゃったのは。なるほどねえ」
「え、なんでダメなんだよ」
「そりゃ『主』やケモノガミが来ないように封じるための要石だからに決まってるじゃないの。だから社が壊れて、霧が溢れて、門が半端に開いたもんだからケモノガミが迷い込んでるんじゃないの」
「あー!あのネットニュースのやつ!やっぱあの祠ってそんな神聖なやつだったのか!」
「当たり前じゃないの。だからあろうことか『主』が真っ先に配下に命じて強奪しちゃったんだから。アンタらがギュウキモンに再三狙われたのは、それを見られたと思ったのよ、たぶんね」
「マジか」
「マジでか」
さすがにコテモンは知らなかったようで空いた口が塞がらない。
「あの勾玉は『主』のいる封印に関わる要石。だから封印をとくために悪用もできるのよ。そこらへんのケモノガミが壊せるほど軟弱な作りはしてないはずだから、壊されてはないはず。でもどこいったかわかんなくてね、いくら探しても見つからないから、『主』の配下のところにあるはずなのよね。なにせあの史跡の最深部に『主』は封じられてる。そこを開くには勾玉が必要ってわけ。攻め込まれちゃ困るけど壊せない。だから誰かが持ってるはずなのよ」
「めっちゃ大事な任務じゃねえか!」
「だからよ、試練にもってこいでしょう?アタシはね、まず実践を重んじるのよ。半端な強さなんてなんの役にも立たないんだから、実践あるのみじゃないの」
「取り返しにいくの手伝ってくれるかしら?」
「それは今すぐにでも取り返さないとやべーやつだな、わかった」
「そりゃいいけど、どんな勾玉なんだよ。わかんねーと探しようがねえぞ?」
「さあ?知らないわよ」
「はあ?じゃあどうやって探せってんだ?」
「だってもともとは人間の世界側の祠にあった勾玉よ?しかもアタシらが見つける前に奪われちゃったんだもの、どんなのか見たことあるわけないじゃないの」
「はあ!?じゃあどうしようもないじゃねえか!」
「いや、待ってくれコテモン。なんとかなるかも」
「え、マジで?!すげえや、旦那!」
「なあ、スーツェーモンの試練中だろうけど、さすがに水無瀬教授にメールしていいか?じゃねえとわかんねえ。たぶん父さんと古文書調査してた時になんか見つけてるはずなんだよ」
「んー、仕方ないわね。ちょっと待ってなさいよ」
しばらくして、どこからきたのか、いきなり羊によく似たケモノガミが現れて、インダラモンと話し始めた。そしてすぐ消えてしまう。クンビラモンみたいに分身ができる器用な奴とは彼のことらしい。
しばらくするとやたら長文の解説が書かれた紙が羊のケモノガミからインダラモンに渡された。
人間の言葉はさすがに読めないようで、スバルが大体の内容をかいつまんで説明することになる。内容は以下の通りだ。
聖なる白・透明の水晶に仏教の信仰・普及を願った平安時代。日本で最初に水晶に関する記述が掲載された書物は薬の本だと言われていて、平安時代に深根輔仁が書いた『 本草和名 』である。
紫色は高貴な色とされていたため、薬草と混ぜて、不老長寿の薬として微量の紫石英が服用されていた。血行が良くなり、冷え性に効いたと伝わっている。ただ、実際は、紫石英ではなく薬草の効果だと考えられ、石英の尖った部分によって胃や腸を傷つける可能性があるので真似できない。
紫色の勾玉を水無瀬ハルチカの安寧を祈り、水無瀬家の当主であった水無瀬ユキハが奉納したとされている。
「不老長寿ねえ......幽霊になるのは話が違うんじゃねーのかって話になるわな」
「皮肉なもんだねえ。人柱になる儀式のおかげで24万年たとうが四聖獣様のパートナーは誰もが正気なままお役目を果たしてんだから」
「あー、そういう意味もあんのか」
「その時に気が触れたら永遠に精神が固定されちゃうわけだからはっきり言って生き地獄よねえ」
「水無瀬ユキハは知ってたのか......?いや、知ってたら呑気にそんな勾玉渡さねえか、明らかにお守りだもんな。ハルチカはあれか、先に真実を知っちまったのか。そんでミユキを執拗に狙うあたり、姉も陰謀に加担してたと早合点して、お守りの意味を取り違えて受け取り発狂ってとこか?えぐいなあ......」
「さすがは水無瀬家の末裔ねえ、教授は。話が早くて助かるわ。こんなやつなのね」
「つーか、そんな大事なことなんで黙ってたんだよ、てめーら」
「仕方ないじゃないの。シェンウーモン様とスーツェーモン様の協定で『主』の霧が蔓延するのは許容したわけだし?あの勾玉が奪われたってことは霧をばら撒くのに必要だったってことだもの、邪魔だったんでしょ」
「挙げ句の果てに守りたいはずのケモノガミまで被害出てるわけだけど何考えてんだ、スーツェーモン様はよ」
「知らないわよ、そんなこと。アタシらが生まれた時にはすでにケモノガミ世界の秩序はそうなってたんだもの。あとから悪化したってすでにスーツェーモン様たちは動けないわけだし、アタシらは守護するエリアを回るので手一杯だし。人間がきたからって北から出たら対象外だってしてたアンタらにだけは無責任だって言われたかないわね」
「ほんと、ここって歪み切ってんだなあ。生贄がいないと霧がはれない、成り立ちから歪んでる世界だもんな。俺、どのみちこの世界を維持するのだけは嫌だって改めて思ったぜ」
「あら奇遇じゃないの、それだけはアタシも賛成よ。なにより美しくないじゃないの」
「めずらしく意見が一致したな、オレもそれには同感だぜ。胸糞悪い世界なのは事実だかんな」
「で、探しに行くってどこにだよ?配下はたくさんいるんだろ?」
「決まってるじゃないの、大将クラスに襲撃しかけるのよ。さいわい、アンタらの試練と十二神将の力でだいぶ幹部クラスは減ってるもの。配下を探せばいいわ」
「そういや、なんで配下なんだろ。普通、意識を共通してんなら、眷属に持たせりゃいいのに」
「そんなのできるわけないじゃないの、姉から持たされたお守りよ。ハルチカを巣食う怨念共には邪魔じゃないの」
インダラモンの言葉にスバルは薄寒いものを感じたのだった。