(完結)鹿野岸奇譚(デジモンサヴァイブ)   作:アズマケイ

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スーツェーモンの試練4

スバルたちが校舎に帰ってきた時には、すでに外は真っ暗だった。やけに静かだ。みんな寝てるのかと思ったが、音楽室すら明かりが消えている。いつもならタクマたちを守るために、ミユキとハルが『主』への鎮魂歌を夜通し歌ってくれているはずなのに、その歌すら聞こえてこない。

 

「ああ、それなら心配ないわよ。ミユキたちも試練に挑んでるだけだから」

 

インダラモンがいうには、スバルとコテモンが失踪したのを皮切りに、次々とパートナーデジモンたちがいなくなっていくことでタクマたちへの試練は始まるのだという。さすがにおかしいが深夜を回るとさすがに外は『主』の配下や眷属の襲撃の可能性が高まるから動けない。自然とタクマたちは中を探すようになっていく。

 

探し尽くしたスーツェーモンのいる最深部に続くはずの入り口。シェンウーモンのことを考えると建物内にある気がしてならない。しかも地下となると床の剥がせそうな場所を片っ端からさがすしかないのだ。木造校舎だから剥がせる床はたくさんあるけど、十二神将が出入りする可能性を考えたら、ある程度大きい空間がいるだろうから教室からはじまり、保健室や職員室とひとつひとつ確かめていくだろうと。

 

あとは体育館しかないという話にいずれなっていく。みんな急いでそちらに向かうだろう。夕ご飯でずっとお世話になってきた避難所用の備蓄はもう少しでなくなろうとしている。終わりはもう目前なのだと強く意識させるものだったからなおさら。

 

「いったでしょ、試練に挑む前に資格があるかどうか十二神将の奴が試すって。今まさにその真っ最中でしょうね。無防備になる人間たちを守るためにいるでしょ、あそこに」

 

指差す先にはなにか黒い穴があちこちに掘られているのがわかる。なにかいるわけではないが、なにかが潜んでいる気配がするとクレニアムモンはいう。

 

「サンティラモンっていってね、地中の移動が得意なのよ。校舎くらいの範囲なら護衛も訳ないわ」

 

「ってことは蛇のケモノガミ?」

 

「そうよ、白くて紫色の甲羅を持ってるわ」  

 

「へえ」

 

「ま、アタシがいるから通してもらえるわ、安心しなさいな」

 

インダラモンのいうとおり、穴からなにかがこちらを見ている気配こそするものの、そこからなにかが襲撃を仕掛けてくる気配はなさそうだ。

 

「『主』の眷属たちを遠ざける歌がやむ以上、それなりの配慮はするわよ。試練中だからね。こんなことでもなきゃ人間にここまで手厚い加護なんて与えないわよ」

 

インダラモンは説明こそしているがそれそのものが不慣れな行動ばかりなのか、どうも居心地が悪いようでさっきからスバルたちと目を合わせようとはしなかった。

 

スバルたちは真っ暗な校舎の唯一の光源である非常口の緑の光を頼りに玄関の下駄箱を抜け、廊下をまっすぐ進む。目指すは体育館だ。

 

「タクマ、みんな!?」

 

スバルはあわてて走り出す。

 

「おいおい、みんなぶっ倒れてんじゃねえか。大丈夫なのかよ、頭打ってねえか?」

 

クレニアムモンの言葉にインダラモンはさあ?と笑う。

 

「さすがにそこまで配慮はできないわよ、試練の担当はパジラモンだもの」

 

「あの時でてきた羊のケモノガミだっけ?なんでみんな寝てるんだ?そういう力があるとか?」

 

「そうよ。強さはもうわかり切ってるわけだから、見るなら精神面になるじゃない?」

 

インダラモン曰く、パジラモンは羊に似た姿の完全体のケモノガミ。四聖獣であるスーツェーモンの配下にして、夢の世界を支配する実力者。他の十二神将と親しむことは無く、常に冷静で自分の考えを変えない。十二神将の中でも特に秘密が多く、その実像は明かされず、別名、闇の十二神将と呼ばれている。だからインダラモンですらよく知らないらしい。

 

片時も手放さない宝弓(パオゴン)で打ち出す光の矢は、相手を気絶させる力がある。必殺技は特製の矢によって、相手を覚めない悪夢の世界に封じ込める『ヴァフニジュヴァーラ』。念の力で対抗できるのは、デーヴァの中ではクンビラモンのみ。

 

「あんとき俺たちが気絶したのパジラモンのせいなのか」

 

「そーよ、だからいったでしょそこの脳筋に。十二神将で初めて究極の姿に至ったくせにパートナーを完全体2体に制圧されるなんて恥を知りなさいってね」

 

「あー......」

 

「だからいったじゃねえか、ごめんて」

 

「ごめんで済んだらこんな世界できてないのよ」

 

「あはは......じゃあ、俺たち早く帰ってきちゃったのか。目を覚ますまで待ったほうがいいよなこれ」

 

「そう簡単なもんじゃなさそうだけどねえ」

 

「え?」

 

「スバルの旦那は下がってな、敵襲だ!」

 

べちゃ、と嫌な音が降ってくる。べちゃべちゃべちゃべちゃべちゃべちゃべちゃべちゃと絶え間なく降り注ぐその音は、瞬く間に体育館の窓という窓を真っ黒で粘着質な手形が無数に湧き出してきて塗りつぶしていった。あまりの気持ち悪い光景にさすがにスバルはだんだん顔色が悪くなっていく。

 

勾玉を手にしてから、『主』の眷属が姿を見せなくなっていたから、すっかり忘れていたのもあるだろう。

 

「あらあ、さすがに数が多いわね。さすがのサンティラモンでも捌ききれなかったかしらあ?」

 

インダラモンが殺意をなげる先には、ひたすらまどを叩き続ける無数の眷属たちにより、いち早くヒビが入ってしまった窓がある。やがて豪快に破壊された窓を突き破り、左右が白と黒で塗り分けられた仮面をつけている道化師の男が侵入してくる。そして、体育館のバスケットゴールに降り立った。

 

「ジョーカーモン!?生きてたのか!」

 

「違うね、旦那。こいつは『主』の紛れもない腹心だ」

 

次から次と様々な姿形をした眷属たちが入り込んでくるのかと思いきや、体育館に入ってこようとはしない。隊長たる『主』の腹心が率いる部隊のケモノガミたちが入ってくる。

 

「やっぱすごいわね、その勾玉」

 

「入ってこれないのか、やっぱ」

 

「そうみたいだねえ、旦那。よかったぜ、タクマたち守りながら戦うにはちと荷が重いからな」

 

クレニアムモンは笑った。

 

「ようやく見つけたぞ、勾玉を奪った人間共。我々が報復に来ると知りながら、四聖獣の試練に挑むために無防備な姿を晒すなど愚かなことを!その甘さを憎みながら悪夢から醒めないまま死ぬがいい!そしてそれは我々が『主』の復讐を叶えるためになくてはならない代物なのだ。返してもらおうか!」

 

そう叫んだのはピエモンだとクレニアムモンはスバルに教えてくれた。おそらく『主』が従えている最後の配下の部隊だろうとも。ジョーカーモンとよく似ているがその力は比較にならないほど強く、間違いなく最強クラスのケモノガミである。十二神将が24万年もの間殺し殺されの膠着状態に陥った諸悪の根源なのだと。

 

スバルはたまらず息を呑んだ。

 

「タクマの兄ちゃんたちがパジラモンの試練を終えるまで耐えるしかねえ、死ぬ気で戦えよインダラモン」

 

「言われなくてもわかってるわよ。部隊がいつもより少ないのは、外でサンティラモンが奮闘してるからだろうしね」

 

「たしかにそうだ、やるしかねえな。スバルの旦那は下がってな、あんたに死なれちゃ全てが終わっちまうからよ」

 

うなずいたスバルは後ろに下がる。倒れている仲間たちを踏まないように下をみたら、ミユキがすぐそばにいた。ここまできてミユキを拉致されでもしたら全てが終わるだろう。そう考えたスバルは、お守りがわりに勾玉をミユキの手に握らせた。これで少なくてもミユキに眷属は近づけなくなるはずだ。

 

そう思っての行動だったのだが、紫色の勾玉がふたたび光り出したものだからギョッとして固まってしまう。その光はミユキを包んでいき、タクマ達と共にパジラモンの悪夢に挑んでいるはずのハルにまで光が伝播していくではないか。

 

やがてミユキを包み込んでいった光は、ミユキではなく勾玉を見つける直前にスバルが一瞬見かけた水無瀬ユキハと思われる女の子を産み落として消えてしまう。

 

『しばしの間、身体をお借りします、我が末裔よ。我らが一族の因習に巻き込んでしまって本当にごめんなさい。実態がないわたくしは、このようにしなければこの世界に干渉することすらできぬのです』

 

水無瀬ユキハと思われる巫女の姿をした少女は、ハルに手をかざした。ハルは目を覚ます。しかし様子がおかしい。

 

『あなたのパートナーの姿もお借りします。試練の邪魔立てはさせません。だから、しばし力を貸してください』

 

水無瀬ユキハとハルが光につつまれていく。それはアオイとラブラモンの合体進化に似ていたが、あまりにも神聖な光に溢れていた。

 

『わたくしも助力いたします、彼らがパジラモンの悪夢から帰還するまで共に戦いましょう』

 

そこにはきつねの仮面を被った巫女がいた。人間にしか見えないが気配は明らかにケモノガミであり、ハルとは比べ物にならないくらいの念力を感じるとクレニアムモンは口笛を吹く。

 

「こりゃますます責任重大だぜ、インダラモン。水無瀬ユキハを前に無様な戦いはできねえや」

 

「『主』を贄に差し出した仇敵がわざわざ姿を現すとは、勾玉を破壊する手間が省けた。貴様らを殺せば人間世界に進軍する邪魔立てができる人間もケモノガミもいなくなる。さあ、死ね。そして『主』様の糧になるがいい───────」

 

ピエモンはそういって巨大な剣を抜いたのだった。

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