半日かけてようやく辿り着いた遊園地は、ディズニーランドやUSJみたいな大規模な遊園地ではなかった。かつては多くの人が来園し、子供から大人まで楽しめる人気があったであろう場所。バブルや入場者の減少、経営不振など何らかの理由により、閉園せざる負えなくなったテーマパークに雰囲気がよく似ている。
廃墟になって、今もなお遊具やアトラクションがそのまま残されており、ノスタルジックな雰囲気、いや不気味さが漂っている。朽ちた観覧車やコーヒーカップ、メリーゴーランドがそのままが残っていて、色の劣化や錆、草木の侵食が激しいところもある。巨大なモチーフ不明のファンタジックな像が横たわる姿や巨大迷路、ボブスレーランド、動物とのふれあい広場など数々のアトラクションがその名残を残していた。
TikTokやyoutubeに廃墟を上げるような人にはたまらない場所だろう、たぶん。度胸試しだとしても絶対に乗りたくない遊具ばかりだ。が信じられないことにちっさいケモノガミたちが遊んでいた。動くんだこれ、メンテナンスしてんだろうか。どうみたって機器は壊れてるのか灯りすらついてないのに、恐ろしいことにほとんどの遊具が動いていた。
チケット売り場は無人だった。入ってみるとたくさんの小さなケモノガミたちに囲まれてしまった。
「お前誰だー?」
「女王様がいってた悪いやつじゃない?」
「誰か女王様に知らせてこい!」
「いやまて、コテモンだ!コテモンがいるぞー!」
「じゃあもしかしていいやつ?」
「でも女王様は、おっきな人間は悪いやつだっていってたよ!」
「あ、でもクンビラモンさま達にバイバイしてたのみたよ!」
「えっ、それほんとか!?」
「ヴィカラーラモン様と知り合いっぽかった!」
「じゃ、じゃあこいつらいいやつ?」
「ヴィカラーラモン様達の知り合いなら追い返したら、ドクグモンたちから守ってもらえないかもしれないぞ!?」
「私たちにはもう女王様がいるから大丈夫じゃない?」
「わかんないや......おい、お前ら何しに来たんだ?女王さまに聞いてくるから教えろ!」
わらわら聞いてくるケモノガミたちにコテモンが口を挟んだ。
「女王様ってのはなんだ?ちびっ子ども。ここ守ってるのはジジモンだろ?」
「ジジモンなら昨日女王さまにバトンタッチして隠居したぞ!」
「そーだそーだ!」
「女王さまはすごいんだぞー!石に変えちゃう力があるんだ!だからぼくたち守ってくれるんだっていってた!!」
「石?」
「そうそう!石!元にも戻せるんだ、わたしみたモン!」
得意げにいうケモノガミたちに俺はミウの不思議ちゃんな言動を間に受けてるんだなとすぐに察した。ストーカーにかわいいかわいい言われ続けたミウはかわいい女の子でいることが怖くなってしまい、わざと不思議ちゃんなキャラでいることで身を守っているのだ。いじめられるのは仕方ないって思い込んでいる節がある。
遊園地のケモノガミたちはかなり純粋で疑うことを知らないようだから、ミウにとってはかなり居心地がいい場所のようだ。
「あー......はいはい、なるほどねえ」
コテモンがこっそり耳打ちしてきた。
「ミウっつー嬢ちゃんのパートナーはシャコモンだろ?どうやらすんげえ仲良いみたいだな、丸め込むために一芝居うってるぜ旦那」
「えっ、マジで?」
「シャコモンてのはピンク色のすっげえ硬い二枚貝のデジモンでな、隠れることができるんだ」
「あー......」
俺の脳内でミウが適当な呪文を唱えたら、シャコモンが貝を閉じて石の振りをして、また呪文を唱えたらシャコモンが貝を開くのがありありと想像できた。そこまで連携取れるならたしかにかなり仲良くなってるのは間違いなさそうだ。パートナーとすでに出会ってるなら一安心である。
「つーか聞き捨てならねえことを聞いたぞ、ジジモンが引退だと?冗談じゃねえ、とうとうもうろくしやがったか、あのジジイ。クンビラモンから2日後に襲撃あるって聞いてるだろうになに引退してんだ。バカか?」
「言われてみればそうだよな......たぶんミウがいるから襲撃に会うんだからはやく出てけってなるだろうに」
「あ、もしかして、旦那以外の人間たちが迎えにくるからって引き止めてんのか?」
「そういやクンビラモンそんなこといってたな、コテモン」
「うーむ、どうするよスバルの旦那?ジジモンとミウの嬢ちゃんどっちに先話を聞くんだい?」
「そーだな、ミウが守護者になってて、ケモノガミたちがいうにはお伺いたてないといけないんだろ?なら聞いてきてもらおうぜ。許可とらねーと不審者になっちまう。先にジジモンとこいこう」
「おっしゃ、そういうことなら任しとけ。なんかミウの嬢ちゃんにスバルの旦那だってわかるもん渡そうぜ」
「んー、そうだな。じゃあこれにすっか」
「なんだいそりゃあ?」
「縁切り神社のお札だよ。みんなでお参りにいったとき買ったんだ。これみりゃ俺だってわかるはず」
「ふーん?じゃあ預からせてもらうぜい」
コテモンはお札を受け取るとケモノガミたちにそれを差し出しながら交渉をはじめた。わらわらわらと城の方にみんな消えていく。
「ジジモンの家はあっちだとよ」
指差す先には先代の守護者とは思えないほどこじんまりとした家が建っていた。
「ジジモンいるかー?じゃまするぜー」
ノックもせず乱暴にドアを開け、勝手知ったる我が家とばかりに入り込んだコテモンにつられて中を覗き込むと、さっきよりさらに小さなケモノガミたちがいた。不思議そうにこっちをみあげている。それ以上に卵がたくさんある。どうやらここはケモノガミの赤ちゃんの家みたいだ。
「誰かと思ったらコテモンかの?この子達がびっくりしとるじゃろうが、もっと静かに入らんか。まったく」
「ほらやっぱり怒られたじゃねえか、コテモン。ノックくらいしろっての。なんかすいません、お邪魔します」
「おお、ようきなすった。クンビラモンから話は聞いておるぞ、ワシはジジモンじゃ。今は引退してこの子らの世話を焼いておるしがないジジイじゃ。よろしく頼むぞい」
「え、クンビラモンから?」
「あやつの念力は随一でな、分身の速さはすごいもんがあるでのう」
「あー、なるほど」
「お茶とお菓子くらいしか出せるもんはないがゆっくりしていきなされ。腹が減ってはなんとやらというからのう」
「ありがとうございます。俺は三鷹スバルっていいます、よろしくお願いします」
ジジモンの家にお邪魔した俺たちは早速色々と話をすることにした。
ジジモンが引退を決めたのはミウとシャコモンを一眼見て後継者にふさわしいと思ったかららしい。『主』のせいでケモノガミの赤ちゃんたちを世話するデジモンがいなくなってしまい困っていたところ、ミウたちが助けてくれたとのこと。
「おいおい、守護者ってのはそんな簡単になれるもんじゃねーだろうが」
コテモンは信じられないといいだけだ。よほど軽率な対応なのだろう、苛立ちすら浮かんでいるようにみえた。
「なにをいっておる。スバルとコテモンの絆もなかなかなもんじゃが、あのことシャコモンもいい関係を築いておるぞ。ワシの目に狂いはない。あの子たちは成長したら強いぞい。きっとここを守ってくれるわい、クンビラモンたちと共にな」
「正気かよ、ジジモン。シャコモンが?ミウって子はよく知らねえが昨日の今日で北の守護者にとって変わるみてーな言い方は関心しねえな」
「ふぉっふぉっふぉ、若いのう」
たしかにコテモンの言う通り、食えない爺さんである。ミウたちが北を守護する亀のケモノガミ並みになる才能を秘めていると言い切ったも同然だ。クンビラモンたちと仲良いコテモンが怒るのも無理はない。
「時がくればきっとわかるぞい、お前さんらにもな。さてさて、他にも聞きたいことがありそうじゃな、二人とも。わかる範囲でよければ教えてやろう。女王さまの謁見はおそらく明日になるじゃろうからな」