ハルと合体した水無瀬ユキハは、狐の仮面を被った銀髪の長髪を二つに結い上げ、巫女の姿をしたケモノガミに進化した。プルートモンの進化の仕方だ。
クズハモンと仮面の形がよく似ているが銀色ではなく金色で、秘めている念力が桁違いとなるとクズハモンの上位互換の存在なのかもしれない。
『我が名はサクヤモン、神の意志を代行する巫女の役割を持ったケモノガミです。我が陰陽道の技をもってひれ伏しなさい』
どうやら神獣系のデジモンを使役する能力を持つらしく、腰のベルトにある4本の筒を抜き、4匹の管狐(くだぎつね)を召喚した。それぞれが異なる属性を持つようで、あちこちを浮遊する管狐は体に「火」「水」「風」「雷」を絶え間なく走らせている。
サクヤモンは管狐たちに命じて4枚のお札を取り出すとひとつにまとめて何か呪文を唱え始めた。やがて四大元素を司る管狐はひとつになり、光につつまれていく。気づいた時には一体の巨大な狐神が召喚されていた。
『さあ、宇迦之御魂(うかのみたま)よ。我が力をもって空を駆けよ。浄炎狐舞(じょうえんこぶ)よ舞え!」
サクヤモンはヌサを取り出すと、その金銀の紙を揺らしながら体育館に飛んだ。狐神から吐き出された青い炎がたちまち狐の姿になると、次々とピエモンの部下たちに襲いかかる。
「こいつはすげえや、オレたちも負けてらんねえなあインダラモン!」
「そうねえ、いくわよクレニアムモン」
「おうよ!」
あっという間にインダラモンとクレニアムモンが残りの残党を片付けていく。
『金剛界曼荼羅(こんごうかいまんだら)』
狐神から飛び降りたサクヤモンが邪気を祓う浄化結界を張る。そこに閉じ込められてしまったピエモン目掛けて狐神が豪快に炎を浴びせた。
「チャンスだ、いくぜぇ!エンド・ワルツ!死ぬまで踊り続けな!!」
クレニアムモンは魔槍クラウ・ソラスを高速回転させることで、超音速のソニックウェーブをを放つ。逃げ場がないピエモンはその衝撃波をモロに受け、巨大な剣が、道化師のような服が粉微塵になって消えていく。
「この程度で勝った気になるとは雑魚が」
不敵に笑ったピエモンが結界から忽然と姿を消した。見失ってしまったクレニアムモンは真っ先に盾を起動させてスバルを守るように展開を始める。それは寝ているタクマ達をも守る強固な盾となった。
「ゴッドブレス!」
体育館上空を埋め尽くすほどの無数の巨大な剣が現れたが、クレニアムモンの展開した盾に弾かれる。鉄壁の全方位防御だが3秒間だけしかどんな攻撃も無効化することができないため、後から後から召喚される剣の雨はクラウ・ソラスが巻き起こす竜巻によって壁に叩きつけられ、金属の騒がしい音が床に転がっていく。
『そこですね、今度は逃しません』
カーテンに隠れていたピエモンをいち早く補足したのはサクヤモンだった。狐神がピエモンに襲いかかり、青い炎を纏いながら突撃する。ピエモンが狐神を真っ二つに切り裂こうとしたが、実体がないのか剣がすり抜けてしまう。代わりにまとわりついた炎が剣先を這いながらピエモンの腕に襲いかかる。ピエモンは咄嗟に手を離す。その剣を飲み込んだ狐神は咆哮を上げながら服を燃やしていく。
「この程度で勝てると本気で思っているのか?」
胴体に噛みつかれてもピエモンは微動だにしなかった。ゲラゲラ笑いながら指を鳴らすと一瞬で炎が消えてしまう。手を振り上げるとまた巨大な剣が現れ、今度はサクヤモンがもつヌサ目掛けて攻撃し始めたのである。
「さてはて、何回切ればこの目障りな式神が維持できなくなるんだ、サクヤモンよ」
『舐めているのはそちらでは?』
「なんだと?」
『50年間断絶したとはいえ、1000年もの長きに渡り密かに伝えられてきた水無瀬家の巫女たるこの私がこの程度で負けるとでも?』
サクヤモンがヌサを持ち上げると、いつのまにかヌサが黄金色の錫杖に姿を変えていた。
『私、水無瀬ユキハは、水無瀬家の後継者と見なされたその瞬間から、降霊術や陰陽術を始めとする、あらゆる秘術を極めた者たちから教えを請いました。すべては一族と治めるこの地と民たちの安寧のためです。その果てに力を手に入れたこの私にあなたのような戦いにひたすら明け暮れる蛮族が挑むなど恥を知りなさい』
錫杖の鈴が鳴る。清らかな鈴が音を奏でるたびにサクヤモンに進化したときにみた光があふれ、体育館を満たしていく。
ピエモンが召喚していた剣やクレニアムモンたちが倒して消滅したケモノガミが残していった武器や防具が次から次と花や狐の形をした式神に変わっていく。まるで花吹雪のように舞い踊る無数の大小様々な式神がピエモン目掛けて襲いかかる。
花の嵐に少しでも触れた物質はたちまち式神に変化し、その嵐に飲まれて消えていく。それはやがて体育館のひび割れ目掛けて殺到し、『主』の眷属たちがどんどん見えなくなっていくのがわかる。あっというまに真っ黒だった窓という窓が花びらに塗りつぶされ、それが風に吹き抜けていった後には、綺麗な星空と月が見えた。
花の嵐は回避しつづけるピエモンを執拗に追いかけていた。ピエモンが剣を召喚するたびにそれすらも式神に変えられてしまう。舌打ちしたピエモンは跳躍した。
『此ノ花戦姫万象(このはなせんきばんしょう)』
無数の式神が迫る中、サクヤモンの真ん前に躍り出る。
「やはり目障りだな、水無瀬家の巫女は。消えてもらおう!」
不意にピエモンが巨大な剣ではなく、真っ白な布を取り出した。それがサクヤモンに投げられる。
「それは困るのよねぇ、ピエモン!」
割って入ったのはインダラモンだった。サクヤモンがあわてて布を弾こうとするがただの布ではないようで、インダラモンをすっぽり覆ってしまう。
「インダラモンの野郎無茶しやがって!あぶねえ、逃げなサクヤモン!」
クレニアムモンがクラウ・ソラスの突風でサクヤモンを離脱させた。風は白い布をも巻きこんでスバルたちのところに連れてきてくれた。
「インダラモンが......あれは一体......」
「めんどくせぇことになったな、ただでさえタクマ達守んなきゃいけねえのによ」
クレニアムモンによって白い布が外される。その瞬間に布は姿を消したが、そこにインダラモンの姿はない。代わりに現れたのは小さな馬の人形だった。サクヤモンはたまらず口元を抑える。インダラモンが庇ってくれなかったら今頃サクヤモンがその餌食だったのは明白だ。
「あぶねえ、あぶねえ。このまま剣でズタズタにされたら死ぬとこだった。ピエモンさえ倒しゃあ元に戻るはずだ。スバルの旦那はもってな!」
スバルはあわてて変わり果てたインダラモンの人形を受け取る。
「もっとも、倒せたことねえから希望的観測ってやつだがな。ま、頑張るしかねえや。サクヤモンのおかげで雑魚共は一掃できたからな、あとはピエモンだけだ。気張っていこうぜ」
ちら、とサクヤモンとクレニアムモンは後ろを見る。まだタクマ達は倒れたままだ。パジラモンの試練まだ終わる気配はない。スバルは心配そうにクレニアムモンを見上げている。
「なあ、ピエモンよぉ。ちょっと提案なんだが体育館はちと手狭じゃねえかい、お互いにさ。なら外でやろうや。サクヤモンの力を考えたら、そっちはかなり不利なんだぜ。そっちだって他の十二神将たちから襲撃されたかねーだろう?悪い話じゃないんじゃねーか?」
クレニアムモンの言葉にピエモンはあっさり了承して笑った。たしかに体育館にみんな生き埋めになっては意味がないと思っていたのはお互い様らしい。
「見ての通り、時間を稼いだところで24万年もの間究極の姿に至っている我に勝つなど笑止千万だとは思わないか、クレニアムモン。人形が増えるだけだ、無駄な抵抗をするよりさっさと投降したほうが利口だと思うが」
「それとこれとは話が別だぜ、やってみなけりゃわかんねえだろうよ」
ピエモンが窓の向こうに消える。クレニアムモンが振り返った。
「これで後ろ気にしながら戦わなくても済むぜ、やれやれだ。スバルの旦那はここで待ってな。そんで、タクマたちが起きたらすぐ来いって伝えてくれ、頼んだぜ」
スバルは頷くしかない。もともと時間稼ぎが目的なのだ、タクマたちの試練達成を祈るしかない。サクヤモンとクレニアムモンが姿を消す。スバルは待っていることしかできなかった。