「スバル、ここは?」
「大丈夫か、みんな!ここは体育館だよ。おまえら、みんな十二神将のパジラモンの夢の中で試練を受けてたんだ。目を覚ましたってことは......」
「さよう、彼らは見事我が試練を突破し、スーツェーモン様に挑む資格を得たのだ。三鷹スバルもよくやった。おまえがここにいるということは、インダラモンの試練を無事に終わらせたということだろう」
いつのまにかスバルのすぐそばに羊によく似たケモノガミが立っていた。
「インダラモンはどうした、三鷹スバル」
「あ、そうだった!今それどころじゃないんだよ!はやくクレニアムモン達のところに行ってくれ、はやく!ピエモンが来てんだよ!」
どういう状況なのか説明するより先にピエモンという言葉を聞くや否やカイトとアオイ、ラブラモン達がほぼ同時に体育館を飛び出していく。遅れてサキとミウ。タクマが制止するより先に校庭に向かって走り出してしまった。
まるで親の仇の名前を今聞いたみたいな殺気がカイトに浮かんでいたのをみたスバルはしばしあっけに取られていたのだが、あわてて後を追う。
パジラモンの試練を突破した高揚感というよりはピエモンという言葉でスイッチが入ったみたいだとスバルは思ったが、事情を聞くどころではない。
「これ、インダラモンがサクヤモン庇って人形になっちゃったんだ。大丈夫だよな、死んでないよな?」
パジラモンと思われる羊のケモノガミに人形を差し出したスバルに、パジラモンはうなずいた。
「おそらく大丈夫だ。なにせいつもならば人形を破壊して、遊園地に転生する方が復帰がはやいので、人形から復帰したことはないから詳しくはわからん。だが状況が状況だ。どのみちピエモンを倒せぬようでは『主』に攻撃は届くまい。いっそのこと倒せばどうなるか
試そうではないか」
あまりにも物騒な物言いにさすがにスバルは閉口するが、24万年もの長きにわたって殺し殺されのこう着状態でいるためにはそれなりの苦労があることが透けて見えたので話を逸らした。
「スーツェーモンの試練はまだなんだよな?」
「さよう、挑む資格があると認めたにすぎぬ。だからまだ加護は与えてやれぬ。だが我らが同胞インダラモンに危害を加えた以上ただではおかぬ。加勢するゆえ安心しろ」
体育館から校庭にでると近くの穴から巨大な蛇のケモノガミが姿を現した。
「らしくもないことを......くくく」
笑いが堪えきれないのか笑い出してしまったケモノガミにパジラモンが睨みを効かせる。
「それはお互い様だろう、自分のことを棚にあげてなにを笑っているサンティラモン」
「パジラモン、インダラモンともあろう十二神将がことごとく人間共に絆されてるんだ。笑わずにいられるか。スーツェーモン様の配下の癖に」
「ピエモンの配下を半分は倒したようだが?おまえも人のこと言えるのか?」
「見ていたのか、趣味の悪いことを」
「おまえにだけは言われたくない」
軽口の応酬をしながら邪魔立てしてくるピエモンの白い布を八つ裂きにしたり、剣を薙ぎ払う十二神将たち。スバルは四聖獣の試練中だからこそ力を貸してくれているんだろうと察して安堵する。
「こんな人形になってしまうとは、インダラモンも随分と甘くなったようだ」
随分と余裕があるように見えるのは、ピエモンと戦い続けてきた経験からだろうか。
校庭ではパートナーのケモノガミたちが究極の姿に進化して戦場に飛び込んで行き、その戦いの邪魔にならない場所でタクマ達が集結していた。スバルもそこにいってくれた方が護るのも楽だからとパジラモンに促され、スバルはそちらに急いだ。
満月が校庭を照らしている。
コテモンがガイオウモンではなくクレニアムモンに進化していることから、複数のケモノガミが選べるパートナー達はコテモンを真似して効率よく戦えるよう相性的に有利なケモノガミに進化しているようだ。おかげでかなり不利だったクレニアムモンとサクヤモンは持ち直したように見える。
そんな中、いつもと戦い方が明らかに違うケモノガミがいることに気づいたスバルはカイトに声をかけた。
「なあなあ、カイト。ベルゼブモンて羽生えてたっけ?」
そう、いつもならショットガンを携えて後方支援に徹しているはずのベルゼブモンが空を飛んでいるのだ。よく見れば禍々しかった3つの赤い目は緑色になっている。漆黒の黒い翼が4枚羽ばたくたびに羽が空を舞っている。
明らかに桁違いのパワーとスピードを獲得しているようだ。
スバルに聞かれたカイトはなんだか嬉しそうだった。
「俺が精神的にも、物理的にも強くなったからな。ベルゼブモンも強くなったんだよ、当然だろ」
「パートナーの進化には精神状態が作用するってあれか。すげえじゃん。ガイオウモンはシェンウーモンからの加護で強くなったけど自力かよ」
「当たり前だろ、ミウを守らなきゃなんねえのに弱いままじゃ兄の面目丸潰れだからな」
ミウがチンロンモンから力を貸してもらって、シャコモンの進化先にチンロンモンが加わってからカイトは浮かない顔をしていた。ドラクモンも落ち込んでいたことをスバルは知っている。
今のカイトはそんな悩みから解放されたようだから、あのベルゼブモンはパジラモンの試練でみんなの窮地を脱するような活躍をしたのかもしれない。そんなパートナーへの信頼を感じる。
「同じ進化でも、邪悪に進化するか、より安定した精神状態で進化するかでここまで違う。それがケモノガミだ」
「パジラモン」
「ベルゼブモンはまさにその進化によって、不完全だった今までと違って真の姿を解放したのだ。力と精神を極限にまで高めた究極の存在となった。桁違いのパワーとスピードを発揮し、この姿になったベルゼブモンの前に、もはや敵は存在しないだろう」
たしかに今まで最速だったメタルガルルモンを凌ぐ速さでピエモンに攻撃を仕掛けている姿は圧巻の一言につきる。
右腕がブラスターと一体化しており、強烈なエネルギー波を放ち、ピエモンの繰り出す大小様々な剣を一瞬で原子レベルまで分解してしまう。ピエモンも直撃したら終わりだと悟ったのかかわす方向にシフトした。
「俺がさらなる強さを手に入れるためには、ピエモン。テメーの力が必要だ。俺たちが強くなるために今ここで死んでくれ。魂ごと取り込んでやるから逃しはしねえよ、数多の悲劇はテメーらがもたらしたんだ。今ここで精算しやがれ腐れ外道が」
ベルゼブモンが殺意に満ちている。怒涛の攻撃の理由をスバルは知らない。カイトたちがガンとして語ろうとしなかった霧幻の追憶でなにかあったんだろうとは思っていたが、同じ戦場を経験したミウたちも誰も口を挟まない。むしろもっとやれという雰囲気だ。
一体何があったんだろうと思いつつ、スバルは戦いを見守る。
サクヤモンがベルゼブモンの力を目の当たりにして、結界による足止めに切り替えた。より強固に、複雑な術式を組み込んで、数秒でもいいからと確実に動きを止めるべく錫杖を振るう。
ピエモンを執念の結界が捉えた。
「これで終わりだ」
ベルゼブモンがブラスターをピエモンに向ける。結界で微動だにできないながらもなんとか軌道をずらそうと、懸命に剣を召喚するピエモンの真後ろに魔方陣が形成される。明らかに標的の証だ。これから放たれる強烈な一撃を予感させる光の集束がはじまる。
ウォーグレイモンたちが剣をことごとく破壊していき、人形に変える脅威の攻撃を繰り出す腕をもぎとり、粉砕する。
「カオスフレア」
破壊の波動がピエモンを貫く。魂を確実に貫いた光はベルゼブモンに返っていく。
「ベルゼブモンはプルートモンとは違った意味で特別なケモノガミだ。完全体となった今、倒されたケモノガミは、例外なく転生することなく血肉となるのだ。さらばだ、ピエモン。おまえは2度と転生できまいよ、ベルゼブモンが解放しない限りな」
パジラモンの言葉にスバルたちは驚くしかないのだった。